第十章 本当の再会
「アイビー、少しいいか」
デルフィは城にて、帰還していたアイビーを書斎へ呼び出していた。
「いかがなさいましたか?」
「昨日の卒業式で、悪女の娘と何か話してただろう、何を話した」
そういわれてアイビーは顔をしかめ、躊躇いの表情を浮かべている。
少ししてから、ゆっくりと口を開いた。
「デルフィ様が元気かどうか、それを気にされていました」
どこか誤魔化したような、あの場の雰囲気ではそぐわない会話。
しかしその言葉だけでデルフィには通じた。
(あの状況で――俺の病気を、心配したのか)
彼女が本物のリラだと思えば、その質問に何の違和感もない。
彼女は出会った頃から何も変わっていなかった、もう迷いはない、本物のリラが誰なのか。
「彼女、は、今、無事なのか」
震えてしまう声で、アイビーにそう聞くのが精いっぱいだ。
「はい、とある場所に避難されています」
「っ、よか、った、そうか…」
「……」
安堵したデルフィの声に、アイビーは少し考えたそぶりを見せて、一つの提案をした。
「絶対に口外しないと約束できるのであれば、明日、悪女の娘に会いますか?」
「――ああ、ぜひ会わせてくれっ」
次の日。
「デルフィ王子が、気付いている?」
「かも、しれません」
アイビーがイリスに昨日のデルフィとの出来事を話すと、彼女は腕を組んで考えた。
(ゲームでは、二人は中庭でデルフィが微笑んでいるリラを見て『…リラ?』と話しかけるから)
「卒業式で無実の罪を被せられている中、リラ王女って笑いました?」
(まさかこの状況で、笑えることなんてなさそうだけど)
そう疑問に思いつつもアイビーに訪ねると、目を輝かせて。
「さっすが、良くおわかりで! 俺に気付いたリラ様が、デルフィ様の病状を聞かれ、完治しているといったら、にこりと、それはそれは、女神のように微笑みまして……」
「わ、わかった、説明、ありがとう」
昨日のスズナを思い出させるような熱量に、アイビーをなんとか落ち着かせて、分析する。
「たぶん、リラ王女の笑顔が、記憶を呼び起こさせたのね」
「…デルフィ様が、笑顔で気付いた、と」
「そうね」
頷くイリスに今度は、アイビーの表情から笑顔が消えた。落ち着いたような、納得したような、感心したような、でもショックなような、複雑な表情をしている。
「さすが、デルフィ様、ですね」
その呟きにも、イリスはさまざまな感情が感じられた。
「えっと、話を、戻しますと」
気持ちを切り替えたのか、アイビーは努めて真剣に続きを話す。
「リラ様、イリス様のことを、口外しないことを条件に、面会するか伺ったところ、是非にとおっしゃっておりました」
「なるほど…」
(通常、一回信じたら、なかなか思い込みからは抜け出せないと思うのだけれど)
作者でも予想できなかった展開に、イリスは不謹慎ながらわくわくが止まらなかった。
「でしたら、私とチューリオ王子、あとリラ王女をデルフィ王子に合わせていただけませんか? 3人までなら一緒に瞬間移動できますよね?」
「はい、お任せください、卒業式の件で調査が入っておりますので、面会は午後になるかと思います」
「わかりました、調査ならモクセイを紹介しましょう」
(面白く、なってきた)
もしデルフィが味方に付くなら、マリーの思惑を完全に阻止できる。
(それに、リラとデルフィの関係も、なんとかなるかも)
そんな期待をしたが、同時に気になることが。
「アイビーは、リラ王女とデルフィ王子が再会して、元の仲になってもいいの?」
ふと聞くとアイビーは顔を真っ赤にして「なっ、なっ」とどもっている。
「わかるわよ、私の能力で」
にやりと笑ってそういうイリスに、アイビーは少し取り繕いながら。
「いえ、いいんです」
そういうとさっきの複雑な表情を浮かべた。
「俺は正直、リラ様を見ただけではわからなかったんです、こうやってイリス様に教えてもらったからわかったのであって…。
だけどデルフィ様は最初から違和感をお持ちでした、ライラとして出会ったはずなのに、リラ王女だと確信を持たれたようだったので」
一気にそこまでいうと。
「勝てないって、思いました」
と、今度は完全にあきらめたような、でもどこか嬉しそうだなとイリスは思った。
「では、私はこれで」
「ああ」
午後となり、職務室からアグロと一緒にデルフィも外に出て、一人私室へと向かった。
――コンコン
「俺だ」
私室なのにノックするのはおかしな話だが、部屋の中にはアイビーと、瞬間移動で連れてきた【客人】がいる。
「すでにいらしていますので中へ、俺はこのまま見張りをいたします」
「うむ」
「後、例のやつらは、やはりデルフィ様のおっしゃる通りでした」
「…そうか」
「ルーシュ国の能力者の方、凄いですね」
そう軽く会話を交わしてから、デルフィとアイビーが入れ替わり、中に入るとそこには1人しかいなかった。
「デ、ルフィ様」
「……リラ、王女」
「っ、気付いて、下さった、のですねっ」
嬉しさで一気に笑顔になるも、泣きそうになるリラ、そんな彼女に近づくことなく、デルフィは彼女の前に跪き、懺悔するように手を組んだ。
「ライラ嬢、卒業式では申し訳なかった」
「え、あ、はい、い、いえ」
突然のことに理解が追い付かないが、デルフィの真剣さに、リラもライラとして真剣に耳を傾ける。
「マリーと目撃者の証言だけ、鵜吞みにして、ろくに調べもせず…」
「いえ、目撃者がいるとなれば、信じてしまうのは、しょうがないかと」
「その件ですが、ルーシュ国の能力者の方にお力添えを頂き、証言者の貴族達が嘘の証言をしたと、今確認取れました」
「そう、ですか……やはりモクセイの能力は凄いですね……デルフィ様のお役に立てて光栄です」
一瞬悲しそうな顔をしたものの、モクセイの活躍を嬉しそうに讃える。
リラから発せられる優しい言葉と表情を、デルフィは眩しそうに目を細めて見つめる。
そして心に誓う。
「必ずこの事実を公表し、ライラ嬢の卒業を認め、俺と嘘の証言をしたものの卒業を取りやめ、もう一年の留年とし、マリーは退学にさせます」
「え、あ、いえ、そこまでは」
「当然の処分です、いやまだ甘い、騙したもの達も許せませんが、俺は自分が一番許せない」
(一生を共にすると誓ったのに)
「わ、私は、大丈夫ですから」
「いえ、大丈夫ではないでしょう」
「大丈夫ですって」
お互いの思いに少し言い合う形になってしまう。
「こうやって顔を合わせるのも、本来なら許されない」
「そんなことないですって、だって、私に気付いてくださったじゃないですか」
「……」
「誰から教えられた訳でもなく、私に気付いてくださったと、伺いました」
ライラとして生きてから、デルフィとの再会を諦めていた。
だけど断罪は行われたものの、こうやって、もう一度話せることになったのは、デルフィ自身がリラに気付くことが出来たからだ。
「それならば、デルフィ様の処分は私に決めさせてください!!」
「…」
「どうでしょう」
「とてもいいと思います、どうぞ、国外追放でも、財産没収でもなんなりと」
「そ、そんなことしませんよー」
覚悟がすごいデルフィに慌てるリラだったが、彼に近づきながら落ち着いて、少し遠慮がちに手を取り。
―ピッ―
「っ」
マリーが張った絆創膏を勢いよくはがす、思わずデルフィは体を震わせた。
「わっ…痛かった、ですよね? 申し訳ありません」
「いえ、謝らないでください、このくらいで、なさけない」
驚いたとは言え、これ以上情けない姿は見せたくなかった為、少し落ち込んでしまう。
「こほん、ちょっと失礼します…いたいのいたいの、飛んでいけ」
―スーッ―
デルフィの手にある怪我に向けて、呪文を唱えると、傷がきれいに消えていく。
「…リラ王女」
「ふふっ、これで罰は終わりです」
リラの能力は【怪我と疲労を回復する】もの、ただし病気は治せない。
母親の疲労や、ファムス家にお礼で作ったスープに、疲労回復の効果を乗せて渡していたりした。
ただし、いくら唱えても病気を治せないため、幼少期のデルフィには効かなかったが、かなり強い能力の持ち主だったりする。
「甘すぎます、ライラ嬢」
全く罰になっていない罰に、胸が締め付けられながら、デルフィは再度頭を下げた。
「申し訳ございませんでした、そして…ありがとう、ございます」
「ふふっ、はい」
優しい笑顔に心救われ、今は幸せすら感じている。
「リラ王女」
「は、はい、デルフィ様」
やっと思い人にその名前を呼ばれてうれしそうに笑うリラ、デルフィも彼女から視線を外すことができず。
―バ――ーン―
「うわっ」
―ドタドタッ―
「いってぇ」
「あー、びっくりしたぁ」
大きな音と同時になだれ込んできた3人、チューリオとアイビー、その上にイリスが乗っかっている。
「わわっ、ちょっと、3人、まさか覗いて…」
と言いかけたとき。
「マリーッ」
と叫びながらデルフィがリラを手で引き寄せて、かばうように両手で包み込む。
「アイビー、見張ってたはずじゃないのかっ、こいつは偽物の…」
「お、お、落ち着いてくださいデルフィ様、この方はマリーではありません」
アイビーが下敷きになりながら、大慌てでデルフィに声をかければ、イリスは颯爽と2人の上からおりて。
「さすが、敵と思えば大事なものを護るために瞬時に動く、すばらしいです」
イリスの言葉にリラが「あっ」と小さく反応した、デルフィもその声に彼女を見ると、護るためにかばったのに、いつの間にか抱きしめているような形になっていた。
指摘され二人は慌てて離れる。
「あ! や、ちがっ、も、申し訳、ございません!!」
「いえいえいえいえ、だだだ、大丈夫でしゅ、です、から」
久々に懐かしい噛み方をしたリラは顔真っ赤、必死で護ろうとしたら抱きついていたことに気付いたデルフィも顔真っ赤。
「……やばいわ、やっぱいいわ、小説とライブは違うね、できればもうちょっと見ていたかったぁ、透明化か壁になれる能力者作っておけばよかった-、はー、いいもの拝めた」
ぶつぶつ周りに聞こえない声で高速つぶやきをしたあと、デルフィとリラに手を合わせて。
「ごちそうさまでした」
と、つぶやいた。そして、表情を引き締めて。
「私はマリーの双子の姉、イリス・ゴールドです。私はマリーと違って、誰も騙していないので安心してください」
と急に真剣な顔で自己紹介する、追いつけず、チューリオとアイビーはしばらく倒れたままだった。




