~暗黒の魔女~ 三章・宴の終わり 「41.二人の行方」
オリバーと仲間たちはマチルドとアリスが行方不明になっているノーザリンに向けて旅立ちました。この旅は同時に、シャロンとの決着をつけるためのものでもあります。
オリバーと仲間たちはシャロンとの決着のため、そして行方不明になったアリスとマチルドを探すためにノーザリンへ向かっていました。
「貴重な戦力であり、何よりも大切な仲間である二人を探さないわけにはいかないからな。」
オリバーはエドゥアルトの背で表情を引き締めました。その後ろでオリバーにしがみついているローズは何やらイライラした表情をしています。ヘルガが心配そうに馬を近づけました。
「ローズ、いったいどうしたの?表情が優れないようだけど…。」
ローズはいまいましげな表情でヘルガを見た後、つぶやきました。
「アンドレアスがまったく返事をしない…。私の体から離れたわけではないのに…。」
すると、オリバーも困ったような表情を浮かべて言いました。
「アンドレアスに二人の捜索を手伝ってもらおうと思っているんだが…、どうもアンドレアスは反応してくれないんだ。」
すると、今度はイザベルが言いました。
「では…奥の手を使いましょうか?」
「奥の手?一体なんだ?」
オリバーは怪訝そうにイザベルを見ました。イザベルはいつもの笑顔のままです。
「その手を使うには、一度足を止める必要があります。」
オリバーはイザベルに任せることにしました。
「よし、急ぐ旅路だが、貴重な戦力を欠いたまま進むのも心もとない。みんな、一旦ここで休もう。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数分後、イザベルが地面に描いた円の中心にローズが立っていました。オリバーは苦笑いしています。
「…今まであまりに簡単にアンドレアスを呼び出せていたから、儀式で呼び出すなんて考えは全く浮かばなかったよ。」
「魔神の召喚で、もっと安全な方法が書かれた書物を見つけたので、ローズさんも意識を失うことはありません。」
「それは助かるよ。…さあ、アンドレアス!出てこい!」
オリバーが語気を荒げると、ややしばらくあってからもやもやしたアンドレアスの影が現れました。
「私を呼んだか。」
アンドレアスの声には覇気がありません。オリバーは不機嫌そうに言いました。
「アンドレアス、どうしてローズの呼びかけに答えないんだ。オーベルクでの戦いでシャロンに蹴散らされたことがそんなにショックなのか?」
オリバーの言葉に、アンドレアスは怒ったように言葉を返しました。
「確かに私とあろうものがたかが人間に負けるとは思ってはいなかった。だが、そのことによって私は脱力したわけではない。」
「ほう、それにしては声にやる気が感じられないぞ。」
オリバーが意地悪く言いましたが、アンドレアスは憤慨しました。
「やる気がないのではない!そなたたちと同じように、私もシャロンと戦うための訓練をしていたのだ!」
「訓練、だって?」
オリバーはすこし驚いた表情をしました。アンドレアスは声を荒げたまま何かを叫びました。
「hsihjhowdeiomxjio!」
その瞬間、空に真っ黒な雲が一瞬にして立ちこめ、彼らのすぐそばに真っ黒い雷が三発落ちてきました。ペーターやロジェは腰を抜かしてしまいましたし、馬たちも怯えて暴れ出したのでモニカはフランソワから振り落とされました。
「すげぇ…。魔力が格段に増しているな!」
レオンは興奮したように叫びました。しかし、今度はオリバーが怒りだしました。
「アンドレアス!古代語でごまかしたつもりだろうが、それは禁じられた闇の魔術じゃないか!そんなものを使うことは認めないぞ!」
しかし、アンドレアスはすましています。
「ごまかすも何も、この魔術は古代語でしか使えぬものだ。第一、あれほど強大な魔術を繰り出してくるのだ、闇の魔術の一つや二つ、使わずに勝てるとでも思っているのか。」
アンドレアスの言葉に、オリバーは少し言葉に詰まりました。
「う…、い、いや、しかし、だめなものはだめだ!」
「説得力が足りぬな。そなたも元闇の魔術師ならば、覚悟を決めた方が良いのではないのか?」
オリバーは困ったような表情を見せました。しかし、オリバーが何か言おうとする前にローズが言いました。
「いけない、アンドレアス…。先生がいけないと言ったらいけない…。闇の魔術を使うことは私が許さない…。」
ローズの言葉に、アンドレアスは不服そうな声をあげました。
「敵は強大だ。闇の魔術を使えぬ者などただの足手まといにしかならぬ。」
しかしローズはこれまでに見たことがないほど顔を真っ赤にして怒りました。
「いけないものはいけない…。闇の魔術を使わなくてもシャロンに勝てる方法はいくらでもあるはず…。そのくらいしっかりと考えて…。」
「…そなたが言うのならば従うよりほかあるまい。だがそれではそなたも足手まといとなってしまうことだろう。」
アンドレアスはまだ納得ができていないようですが、ローズに一蹴されました。
「黙って…。それと、先生や仲間を足手まとい呼ばわりすることは私が絶対に許さない…。わかったらアリスとマチルドを探してきて…。」
「ふむ…。まあよい。そなたの言葉には従わねばな。それと…、ロジェ・ルグラン。この中にロジェ・ルグランという者はいるのか?」
アンドレアスに突然名前を呼ばれ、ロジェはびくびくしながら前に進み出ました。
「ぼ、僕がロジェ・ルグランだ!」
ロジェの声は恐ろしさからか上ずっています。
「そなたが…。一つ教えてやろう。そなたの父はシリル・カリエールという。…魔神憑きだった。」
ロジェは何のことやらさっぱりわからないようですが、パトリックは眼を大きく見開きました。
「シリル・カリエールだって!?まさか魔神憑きだったとは!」
仲間たちは驚いてパトリックを見ました。アンドレアスは続けます。
「シリル・カリエールはロジェ・ルグランを母の体に宿した後、姿を消しながらもしばらくは生きていた。しかし、八年前にシャロンと戦い相討ちになったのだ。…魔神の力によってな。では私は一度去ることとしよう。」
そう言い残し、アンドレアスは姿を消しました。パトリックが叫びます。
「待つんだ、アンドレアス!もっと話を…くっ…。」
アンドレアスが消え、パトリックはがっくりと肩を落としました。
「ごめん…パトリック…。アンドレアスが戻ってきたらしっかりと叱っておく…。」
ローズが申し訳なさそうに言いました。
「いや、いいんだ…。これは私個人の問題だからね。」
パトリックは力なさげに笑って言いました。
「…どうせアンドレアスが二人の行方を調べてこねぇ限り、俺たちはここから動けねぇわけだろ?どうやらロジェの親父が何かカギを握っているらしいし、よかったら話してくれねぇか?」
レオンが言いました。オリバーも頷きます。
「そうだな。何か今後のヒントになるかもしれない。パトリック、頼む。」
みんなもパトリックの方を見ています。パトリックは一つ息をつくと話し始めました。
「二人旅をしていた時にモニカには話したことなのだけれど…。ほら、私はよく周りから『鉄血の騎士』なんて呼ばれているだろう?私自身、そんなすばらしい通り名をもらえるような働きをしているわけではないのだけれど、それでも『騎士』という称号で呼ばれている。
しかし、私は厳密には騎士ではないんだ。もちろん、騎士となることを目指していたけれどね。」
マチルドは首をかしげています。
「騎士じゃない、ってどういうことなんだ?馬に乗ってるやつが騎士じゃねぇのか?」
すると、ヘルガがマチルドに説明しました。
「それは少し違うのよ、マチルド。騎士という称号は、自身が仕えていた主人に認められて初めて名乗ることのできる称号なの。騎士になるためにはそれなりの儀式も必要なのよ。」
「へぇ、めんどくさいんだな。」
マチルドは頭をかきました。
「そう、ヘルガの言うとおりだ。私はその騎士になるための儀式をしていない。なぜなら儀式の前日に私の主人が決闘に敗れ、命を落としたからだ。」
「決闘ネ?そんな大事な儀式の前の日に決闘なんて、どうかしてるヨ。」
今度はヨウフェイが納得のいかないような顔をしています。パトリックは笑っています。
「はは、確かにそうだね。私もそう思ったよ。しかし、君たちの東方世界と違って、こっちでは決闘はとても重要なものだ。特に、騎士同士の決闘はね。逃げ出したらもう人前に出ることなんてできないどころか、下手をすれば臆病者だと理由づけられて処刑されてしまうこともあるしね。」
そこまで言うと、パトリックはまた真面目な顔に戻りました。
「さて、話を戻そう…。そう、決闘で私の主人を破ったのがシリル・カリエールなんだ。」
「ええっ?僕の父が、パトリックさんの主人を殺したんですか!?」
ロジェはびっくりしたように言いました。
「殺した、という言い方は決闘においては正しくないね。シリルは決闘に勝ったんだ。シリルは、私の主人の父から騎士の称号を与えられた。だが、私の主人とは昔から反りが合わなかったらしい。それで決闘になったんだ。」
「それにしても、驚いたよな。お前の主人であるガストン氏は国で一番の騎士と言われていた。そのガストン氏があまりにあっけなく負けたというのだから。」
オリバーが言うと、パトリックは一つ頷いた後で続けました。
「そうだね。でも、シリルが魔神憑きになっていたというのなら納得できないことはない。きっと魔神の力を使って私の主人に勝ったのだろう。」
「なるほど…。お前が騎士じゃねぇっていうのはそう言うことなのか。」
レオンが納得したように頷きました。
「結局、私の主人は死ぬ前に私にこの鎧と槍を授けることを伝えて言切れたんだ。
…それにしてもアンドレアスは気になることを言っていたね。シリルとシャロンは相討ちになった、しかも魔神の力によってとは…。」
パトリックが言うと、エミリーも続けました。
「相討ち、とは言ってもシャロンは生きているわけですから、大きな痛手を負った、ということですよね。つまり、シャロンは東方世界の魔術に精通はしているけれど、その時はまだこの辺りにいたということですね。」
「ああ、確かにそうかもしれない。それで魔神に対して強い対抗意識を燃やし、己の力を高めるために東方世界へ向かった。そして力をつけた後にチュンフェイやヨウフェイの兄を殺したり、街を襲ったりしたということなんだろう。」
オリバーが言うと、チュンフェイがガタリと立ち上がりました。顔を真っ赤にしています。そして、転がっていた木の棒を拾うと、地面に文字を書きなぐりました。
『シャロン、負けた。チュンフェイ、ヨウフェイ、関係、ない、殺された、兄さん。倒す、シャロン、絶対。怒った、チュンフェイ。』
ヨウフェイもチュンフェイと同じようなことを考えたいるようです。
「姉さんの言うとおりネ。完全にヨウフェイやヨウフェイたちの国は巻き込まれただけネ。それなのに全部を壊されたヨ。許せないネ!」
オリバーは深く頷きました。
「ああ、その通りだ。このリバー王国や、シーガルン王国だってシャロンがたまたま目をつけただけでこんなに破壊されてしまったんだ。こんなことは許されることじゃない。
壊れてしまったものは壊れてしまったものとして、これ以上この不条理が続くことを、俺たちが阻止しなければならない。」
オリバーの言葉に、仲間たちは深く頷きました。すると、ローズがピクッと震えました。
「アンドレアス…帰ってきた。」
その言葉に仲間たちは一斉にローズに注目しました。ローズが自分の肩を三回たたくと、今度は素直にアンドレアスが出てきました。
「アンドレアス…。マチルドとアリスは見つかったのか?」
オリバーがたずねました。
「この先はシャロンが強い魔力を張り巡らせていて、私もなかなか干渉することはできなかった。そのため正確な場所はわからぬ。ただし、恐らくはレバリー市街にいることだろう。急ぐのだ、二人の生体反応は徐々に弱まってきているようだ。」
「ええっ!?それは早く助け出さないと!」
ペーターが顔を真っ青にしました。
「師匠、早く出発しようよ!」
ビアンカもオリバーをせかしましたが、オリバーは脚を動かさず、アンドレアスにたずねました。
「レバリーと言っても、市街地の範囲は広い。やみくもに探していても時間がかかってしまう。アンドレアス、何か少しでもいいから具体的な場所の手掛かりはないか?」
アンドレアスは少しの間沈黙しましたが、やがて声が聞こえました。
「そう言われてみれば…そなたたちの残留思念もわずかながらに感じたような気がするな。あれは…強い意思…いや、結束力のようなものだろうか。」
アンドレアスの言葉に、オリバーはピンと来たようです。
「そうか…!ありがとう、アンドレアス!これですぐに二人を見つけられるはずだ!」
「さすがに見当をつけるのが早いようだな。礼には及ばぬ。それではまた何かあったら呼ぶのだ。」
アンドレアスはそう言うと、スッと消えました。
「先生、二人の居場所が分かったって、本当ですか?」
ハンスがオリバーに聞きました。
「ああ。俺たちの残留思念があるということは、俺たちがしばらくの間そこにとどまっていたということだ。それに、俺たちの結束力がより高まった場所と言えば…。」
オリバーの言葉に、モニカがピンと来たようです。
「私たちがレバリーで泊まっていた宿!樹海での戦いの後、確かにあそこで私たちの結束力も高まりました!」
オリバーは一つ頷くと、仲間たちに声をかけました。
「ようし、馬に乗った仲間は俺と一緒に直ちにレバリーに向かおう。イザベルとモニカも今まで通り俺たちと一緒に来るんだ。ただし、ローズは後からビアンカやレオンたちと来てくれ。」
「どうしてだ?アンドレアスの力を借りた方がいいんじゃねぇのか?」
レオンが言いましたが、オリバーは首を振りました。
「恐らくシャロンは今魔神に対して神経をとがらせているだろう。魔神憑きのローズの気配を感じたら、すぐに攻撃してくる可能性もある。今回は素早く二人を救い出したいから、それは避けたいんだ。それに、魔術師は救出隊の方に全員駆り出すんだ。後続部隊にローズを残しておけば、いざという時アンドレアスの力を借りることができる。」
「なるほどな。そういうことなら了解したぜ。」
レオンは納得したように頷きました。
「ようし、じゃあすぐに出発しよう。二人の生体反応は弱まってきているということは、あまり時間がかかると二人の命が失われるということだ。急ごう!」
オリバーはそう言うと、エドゥアルトに飛び乗りました。ペーター、パトリック、エミリー、そしてヘルガも馬に乗り、イザベルとモニカもパトリックとエミリーの背中にしっかりとつかまりました。オリバーはハンスとビアンカに声をかけました。
「ようし、じゃあレバリーで落ち合おう!」
二人も返事を返しました。
「わかったよ!頑張ってね、師匠!」
「必ず二人を救い出してください!」
二人の言葉にオリバーは頷くと、エドゥアルトをものすごい勢いで走らせました。他の仲間たちもそれに続きます。オリバーたちを見送ると、ビアンカが残った仲間たちに声をかけました。
「さあ、あたしたちもレバリーへ急ごう!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
*シャロンへの激しい怒りから、チュンフェイとヨウフェイがパワーアップしました。
アンドレアスのおかげでアリスたちの居場所の見当をつけることができました。オリバーたちはレバリーに急行します。しかし一方、オリバーはアンドレアスの言葉に心の底では葛藤しているようです。
次話ではオリバーたちが変わり果てたレバリーの街に到着します。果たしてマチルドとアリスは無事なのでしょうか…?どうぞお楽しみに!
ちなみにアンドレアスが使った闇の魔術は、たとえ今でもオリバーが闇の魔術師であったとしても到底使えないような、膨大な量の魔力を使うものです。中途半端な魔力しか持っていない魔術師が使うと、魔力をすべて失い、命を落とすこともあります。
では次話をお楽しみに!




