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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「35.シャロンの反撃」

オットー様たちはマティアスが率いる敵兵を打ち破った直後、街の中に立ち上っていた炎が黄色から緑に変わるのを目撃しました。果たしてオーベルクの中では何が起こったのでしょうか?少し時間を遡ってみましょう。

街の中で動死体と戦っているハンスは、はっきりと違和感を抱いていました。



「ハンス!大丈夫かい?手が止まっているよ!」



すぐそばに来たリリーが声をかけました。



「はい、大丈夫なんですが…。リリーさん、おかしいとは思いませんか?俺たち、さっきからずっと動死体を倒していますが、数が一向に減っている気がしません。それどころか、増えているような…。」



ハンスの言葉に、リリーも少し引っかかるところがあったようです。



「そうだね…。私も同じことを考えていたよ。どうも嫌な感じだね。」



「とにかく、今は目の前の敵を倒すことだけ考えましょうか。正直、先生がいないと俺には判断できません。」



リリーは苦笑いしました。



「ちょっとちょっと、いつまでもオリバーに頼りきっていてどうするのさ。…まあ、実際ハンスの言うとおりだけどね。とにかく、頑張るしかないようだね。」



そこへ、ペーターとチュンフェイが近寄ってきました。彼らも異変に気がついているようです。



「街の西の方では騒がしい音が聞こえているッスから、『隠れ家』の方にも敵が行っている可能性があるッスね。」



ペーターが少し不安げな表情でハンスに言いました。



「うん…。まさかこんなにたくさんの敵が街の中に来るなんてな…。ヴォルフさんがいるとはいえ、向こうには本来なら非戦闘員のラルフさんと痛みを感じることができないヨウフェイしか助っ人がいないんだ。



…リリーさん、今から戻って、『隠れ家』の方を助太刀してもらえませんか?」



ハンスの言葉にリリーは頷こうとしましたが、その前にペーターが言いました。



「いや、ここは先輩が行くッスよ。向こうの敵が動死体だったら結局一緒ッスけど、少なくとも今この場所では、武器の面だけで言えば先輩が一番不利ッス。それだったら先輩が行った方がいいッス。」



ハンスは少しだけ考えていましたが、すぐにペーターの方に向き直りました。



「うん、わかったよ、ペーター。俺が行ってくる。三人で持ちこたえて戦ってくれ。」



「任せるッスよ!先輩は先生譲りかもしれないッスけど、俺だってマティアス隊長譲りの指揮力があるッスからね!」



「ずっとサボってたやつに言われたくないよ。とにかく、行ってくる。リリーさんも、ヨウフェイもよろしくお願いします。」



「ああ、任せておきな。あの人たちを助けてやって来ておくれ。」



リリーはハンスの肩を叩いて言いました。チュンフェイも真剣な顔で頷きました。



「じゃあ、行ってきます!問題ないようだったらすぐに戻ってくるので!」



ハンスは槍をもちなおすと、『隠れ家』の方へ走って行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ハンスは街の中を猛然と走り、やがて『隠れ家』の近くにやってきました。やはり心配した通り、敵の姿が見えます。



(でも…あれは動死体じゃない。兵士…恐らくシャロンに洗脳でもされているんだろう。でも、俺もその方が有利に戦える。ペーターの意見を聞いてよかったなぁ)



「うおおおおおおっ!」



ハンスは槍を構えると、敵のど真ん中を猛然と突っ切りました。敵の中を突破すると、やはりそこではラルフとヴォルフが戦っていました。ハンスが叫びます。



「加勢に来ました!」



ヴォルフはハンスの姿を見て、嬉しそうにしました。



「ありがたい!少し前にヨウフェイが怪我しちまってな、今はクララ様に手当てしていただいている。すぐに戻ってくるとは思うがな。」



「来てくれて助かるよ、ハンスくん!僕はやっぱり非戦闘員だ!」



ラルフは悲鳴に近いような声で言いました。



「何を言ってるんですか、二人相手に戦いながら言うことじゃないですよ!もうラルフさんは立派な戦闘員ですよ!」



ハンスは言いながら突進し、ラルフと戦っていた兵士を背後から倒しました。



「ハンス!リリーはしっかりと戦っているか!?」



ヴォルフがクロスボウを撃ちながらハンスに聞きました。



「しっかりどころか、俺たちもびっくりしちゃいましたよ!リリーさんがあんなに強いなんて!」



「はは、ならよかったよ!」



「俺たちの方は動死体と戦っていました。でも、いくら倒しても動死体は増えてくるような気がするんです。」



「奇遇だね、僕たちも敵兵がどんどん増えてきているような気がするんだよ。もしかしたらシャロンが直接操っているのかもしれない、ってさっきヴォルフさんと話をしていたんだ。」



ラルフが心配そうな表情で言いました。ハンスは少し考え込みました。



「そうか、シャロンが直接…。もしそうだとしたら、先生やオットー様たちのところにはそれほどシャロンの意識は向いていない、っていうことか…。」



「あるいは、どういう形であれ、もうそちらの戦闘は終わった、ということも考えられるな。…さあ、ハンス、ラルフ、とにかく今はこのまま持ちこたえるんだ。」



ヴォルフが二人に呼びかけた時、後ろから元気な声が聞こえてきました。



「ヨウフェイを忘れては困るヨ!ヨウフェイもまた戦うネ!」



ヨウフェイが『隠れ家』の中から飛び出して来たのです。



「ヨウフェイ!傷はもう大丈夫なのか?」



ヴォルフは心配そうに言いましたが、ヨウフェイはいたって元気です。



「ヨウフェイの傷はかすり傷だったネ。だから、薬屋姉さんの魔術がかけられた傷薬であっという間に傷がふさがったネ!」



「おお、そうか。それはよかった。ようし、四人になれば心強いな。みんな、しっかりと粘ってやるんだ!」



ヴォルフは仲間たちを鼓舞し、またクロスボウを撃ちました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方、シャロンが指揮する動死体軍団を撃破したオリバーたちは、街の中心広場にやってきました。彼らの左右、つまり街の東と西側から騒ぎの音が聞こえてきます。オリバーは苦い顔をしました。



「くそっ、思った通りか…。ヴォルフの宿と『隠れ家』が攻撃されているんだろう。」



「それなら俺たちも二手に分かれた方がいいんじゃねぇのか?どっちかの片がついたら、それからもう一方を助けに行くんだ。」



レオンが提案しました。



「ああ、そうしよう。よし、俺はヴォルフの宿に向かう。ローズと、アリス、ビアンカとヘルガもついてきてくれ。レオン、あんたはイザベル、モニカ、マチルド、ロジェを連れて『隠れ家』の方に向かうんだ。」



「ようし、わかった。さあ、みんな行こうぜ!」



レオンはイザベルたちを連れ、『隠れ家』の方に走って行きました。



「さあ師匠、あたしたちもヴォルフの宿に急ごうよ!」



ビアンカがオリバーに呼びかけました。



「ああ、もちろんだ。さあ、行こう。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



オリバーたちは街中を急ぎ、ヴォルフの宿の近くに到着しました。オリバーは思わず叫びました。



「何てこった、また動死体か!面倒なもんだ!」



ペーターがオリバーに気がついたようです。



「あっ!先生!先生が助けに来てくれた!」



オリバーは戦いの真っ只中にいるペーターたちに声をかけました。



「ペーター!チュンフェイ!リリー!無事か!」



すると、リリーの大声が聞こえてきました。



「心配する暇があったら、さっさと加勢しておくれよ!」



「おっと、すまないすまない…。さあ、みんな準備はいいか?」



オリバーは後ろの仲間たちに声をかけました。ビアンカとヘルガは剣を抜き、アリスも炎の矢の準備を済ませています。



「ようし、行くぞ!」



オリバーも剣を抜くと、仲間の先頭に立って動死体に向かって行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方、レオンたちも『隠れ家』に到着しました。こちらでも敵兵の真っただ中で先ほど合流したハンスを含めた三人が戦っており、少し離れた所からヴォルフがクロスボウを撃っています。



「俺たちが到着したぞ!ヴォルフ!すぐに助けてやる!」



「おお、レオン!イザベル!助かるよ!こっちはハンスが加勢してくれたとは言え、いっぱいいっぱいなんだ!」



「わかった!みんな、大暴れしてやろうぜ!」



レオンは振り返って言うと、仲間の返答も待たずに敵兵の中に突っ込んでいきました。マチルドはあきれ顔です。



「まったく、これだからバカは困るぜ…。」



「とにかく、私たちもすぐに加勢しましょう。マチルドさんもロジェさんも頑張ってください。私たちはここから魔術で援護します。」



「あいよっ!ロジェ、行こうぜー!」



「はいっ!」



マチルドは両手に短剣を持ち、ロジェも槍を構えて敵の中に突っ込んでいきました。



「こんなに皆さんが入り乱れて戦っていては、スノーハームは使えないですね…。」



モニカが少し残念そうに言いました。



「それならばいつも通りのことをするまでです。さあ、集中しましょう、モニカさん!」



「はいっ!」



イザベルとモニカも離れた所から魔術でレオンやハンスたちを援護しました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



戻ってきたオリバーたちが加勢したことにより、ヴォルフの宿での戦いは終わりが見えてきました。



「これで最後だっ!カースアタック!」



オリバーが叫ぶと、ついに最後の動死体が消滅しました。



「ふうっ…。とりあえず、この辺りの動死体はだいたい片付いたみたいだね。」



ビアンカが荒い息のまま言いました。



「ああ、何とかな…。」



「ともかく、すぐにでも『隠れ家』の方に向かおうか。うちの人たちも心配だし、何よりもクララ様が、ね。」



リリーが心配そうに言いました。オリバーも頷きました。



「ああ、そうしよう。ようし、みんな。『隠れ家』の方へ向かうぞ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しかし、オリバーたちが『隠れ家』の方に向かおうと市街を走っていると、街の中心広場でヴォルフやレオンたちとばったり出くわしました。



「ヴォルフ!レオン!」



「オリバーか!そっちは片付いたのか?」



レオンがオリバーにたずねました。



「ああ、おびただしい数の動死体が宿に押し寄せてきていたが、何とか撃退したよ。」



「俺たちの方には洗脳された敵兵が来ていた。なかなか数が減らなくて、むしろ倒す度に増えているような感じがしていたけど、レオンやイザベルたちが来てからは一気に倒すことができたんだ。感謝しているよ、みんな!」



ヴォルフがにこやかにレオンやイザベルたちに言いました。しかし、オリバーはなぜか真っ青な顔をしています。



「ヴォ、ヴォルフ。倒す度に増えているような感じがしていた、だって?」



「ああ、そうだ。まさしく倒しても倒しても沸いてくるような感じだったな。」



「俺たちのところもそうでしたよ、先生。先生たちが来るまでは動死体はどんどん増えているような気がしていました。」



ペーターもオリバーに言いました。



「…どうしてそんな大変なことを先に言ってくれなかったんだ。これは『数増やしの術』だぞ!」



オリバーが言った瞬間、驚くべきことが起こりました。広場の地面から次々と動死体と敵兵が浮き出てきたのです。オリバーたちは完全に取り囲まれました。



「くそっ、うかつだった…。」



「せ、先生!『数増やしの術』って、いったいなんですか!?」



ハンスが大慌てでオリバーに聞きました。



「名前の通りだ。一体動死体を倒したら、二体復活する。二体倒したら四体復活する。非常に厄介なものだ。」



オリバーが悔しそうに唇を噛んだとき、空から聞きなれた声が聞こえてきました。



「さあ、追い詰めましたよ、ローゼンハイン!」



嬉々とした表情のシャロンが空の上にいました。その表情はオリバーたちを追い詰めたことを心から喜んでいるかのようです。



「シャロン…。『数増やしの術』とはなかなかあじな真似をしてくれるじゃないか。」



オリバーは悔しそうにシャロンを見上げました。



「言ったでしょう、私にたてついた代償は大きい、と。それに私はまだ負けたわけではない、と。…さあ、ここまで追い詰められ、これ以上あなた方には残された道はないはずです。いくらこの動死体や兵士たちを倒しても、『数増やしの術』でどんどん数が増えるのですから。」



オリバーは唇をかみしめました。



「…あんなことを言われているが、オリバー、どうするつもりなんだ?」



ヴォルフがオリバーにたずねました。



「もちろん、退くわけにはいかない…。直接シャロンを攻撃出来さえすれば、きっと『数増やしの術』も解けるに違いない。どれほどの代償を払うことになるかわからないが…。



よし、イザベル。黄色い炎をあげるんだ。オットー様たちに、ここへ来てはいけないとお伝えするんだ。オットー様たちにはあまりに危険すぎる。」



「わかりました。」



イザベルはそう言うと、黄色い色をした炎を打ち上げました。それを見たシャロンがおかしそうに言いました。



「まあ、そのようなことをして、オットー・フランツたちは向かって来ようが退こうが結局死ぬことになるのです。」



「…どういうことだ?」



オリバーが眼光を鋭くしてシャロンにたずねました。



「オーベルクとキンフィールドを結ぶ街道に、先ほどあなたがつくり上げたのと同じような呪いの壁を作り上げておいたのです。そこに差し掛かった途端に、オットー・フランツたちは死ぬこととなるでしょう。」



「何だって!?くそっ、面倒なことを…。」



オリバーがシャロンを睨みつけた瞬間、イザベルが何かを唱えました。その瞬間、黄色かった炎が緑色に変わりました。



「イザベル!街中は危険なのだ。そこへオットー様たちを呼び寄せるなどとは…。」



アリスが少し困惑したようにイザベルに言いましたが、イザベルは首を横に振りました。



「呪いの壁に当たれば死は免れませんが、街中で戦って勝ちさえすれば死ぬことはありません。オットー様もそのようなみじめな最期は迎えたくないはずです。それに、オットー様たちにはパトリックさんもエミリーさんも同行しているのですよ?」



アリスはハッとしました。エミリーがオットー様の護衛をしていることをすっかりと忘れてしまっていたようです。オリバーも決断しました。



「…現時点ではイザベルの判断が一番正しいだろう。ようしみんな!この状況を切り抜けるには、シャロンを直接攻撃するしか方法はないんだ。何としてもシャロンに近づき、あいつを倒すぞ!」



「おおーっ!」



仲間たちも大きな声で返事をしました。そして、包囲網を破るため、動死体や敵兵たちに次々と切りかかりました。シャロンはそれを呆れたような笑みを浮かべて眺めていました。



「どんなにがんばったところで所詮は無駄だというのに…けなげだこと。」

オリバーたちはシャロンの使った『数増やしの術』によって追い詰められてしまいました。イザベルはオットー様たちが呪いの壁の餌食となることを避けるために、あえて突撃の合図を出したのでした。



次話ではオリバーたちがシャロンに果敢に立ち向かい続けます。そうしているうちに、オットー様たちも援護に駈けつけてきてくれるようです。どうぞお楽しみに!



ちなみに『数増やしの術』はとても高度なもので、オリバーやイザベルでもまだ使うことはできません。この術を無効化する『数減らしの術』というものもあるのですが…オリバーたちが使えないのは言うまでもありません。



では次話をお楽しみに!

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