~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「34.大混戦」
オットー様率いる義勇兵に続き、オリバーたちも動死体との戦いを始めました。無数の動死体を前に、いよいよ魔術師たちの出番がやってきたようです。
モニカが動死体の群れに向かって大声で叫びました。
「スノーハーム!」
その瞬間、辺りの気温が一気に下がりました。モニカの頭上の魔力溜まりから雪の粒がものすごい勢いで動死体に飛んで行っているのです。
「すげぇ!吹雪を起こしているのか!」
初めてこの魔術を見たレオンは感動したように叫びました。吹雪にまかれた半数以上の動死体たちは凍りつき、その場で止まってしまいました。それを確認すると、モニカは吹雪を止ませました。
オリバーはその瞬間を待っていました。
「ようし、今だ!カースレイン!」
オリバーが叫ぶと、黒い光が雨のように凍り固まった動死体の上に降り注ぎました。その光を浴びた動死体は次々と破裂していきました。
オリバーは魔力の大部分を解放したため、フラフラになっていました。それを確認すると、今度はイザベルが叫びました。
「リバイバル!」
その瞬間、オリバーの体には瞬く間に魔力がよみがえってきました。一気に半数以上の動死体を失ったシャロンはさすがに真剣な表情になりました。
「氷の魔術と最上級の呪いの魔術、そして緊急回復術の連携とは…。しかし、緊急回復術は連発できるものではなく、ローゼンハインのものも、そう何度も使うことはできない…。ならば!」
シャロンは再び吹雪をおこしたモニカの方に向かって叫びました。
「『火壁』!」
すると、炎の壁が再びモニカが作り上げた吹雪の前に立ちはだかりました。モニカの作り上げた吹雪は炎の壁にぶつかり、火の勢いに溶かされ、水となって地面に溜まりました。シャロンは勝ち誇ったように笑います。
「フフフフフ…。初手を封じてしまえばもうこちらのもの。雪を自在にあやつるとは、確かに大した潜在力ですが、所詮は私の前では無力も同然。さあ、覚悟なさい!進軍せよ!」
シャロンの声に、動死体たちは一気にこちらへ進んできました。
「何てこった…。おい、オリバー!どうするんだ!」
レオンが焦ってオリバーに問いかけました。しかし、オリバーは不敵に笑っています。
「どうもこうもないさ。俺たちはただここにいればいい。」
「何を言ってるのさ、師匠!早く逃げないと危ないよ!」
ビアンカも慌てていますが、その瞬間、ヘルガが叫びました。
「ビアンカ!あれを見るのよ!」
「どうしたの、ヘルガ…ああっ!」
ビアンカも、他の仲間たちも驚きました。動死体が炎の壁によって溶かされた雪でできた水溜まりに足を踏み入れた瞬間、破裂し出したのです。シャロンもこの予想外の状況に戸惑っているようです。
「いったい何が!…そういうことですか。あの水溜まりには呪いの魔術も仕込まれて…。」
「察しが良いな、シャロン。炎の魔術でモニカの雪が溶かされることは予想済みだった。だから俺が呪いの魔術を使った時に、モニカの魔力溜まりにも呪いの魔術をかけておいたのさ。」
「私の魔力溜まりが呪いの魔術に耐えられるかどうか不安でしたが…、少し苦しいのを我慢すれば大丈夫でしたね。」
モニカも嬉しそうに言いました。オリバーは感心したように言いました。
「それは、お前の方が俺よりも強い魔力を持っているという証拠さ。」
シャロンは苦虫をかみつぶしたような表情をしています。
「ならば水溜まりを蒸発させるまで!『炎上』!」
シャロンは炎の魔術で水溜まりを蒸発させました。しかし、それからまた動死体を動かそうとしても、今度は一歩動いただけで動死体は破裂してしまいます。
「…そこには呪いの防御線を張っておいた。動死体はそれ以上は進めないはずだ。わかりやすく言ってやろう。お前の動死体はこれで完全に封じられたんだ!何だったら、この後ろに炎の壁も作り上げておいてやろうか!」
オリバーが叫ぶと、シャロンは悔しそうに表情をゆがめました。
「私の動死体が呪いの魔術に弱いことを活かして…お見事です。しかし、私の戦力はこの動死体だけではないのです。まだ私は負けてはいない!」
シャロンはそう言って姿を消しました。残った三十体ほどの動死体は指導者を失ったために自ら次々と呪いの壁にぶつかり、破裂していきました。
「…あたいら、シャロンに…勝ったんだ…。シャロンに勝った!」
マチルドが思わず嬉しそうに言いましたが、オリバーがたしなめました。
「落ち着け、マチルド。シャロンも言ったとおり、まだ俺たちはシャロンに勝ったわけじゃないんだ。あいつの一部隊を殲滅したに過ぎないんだ。今この時もオットー様やパトリックたちは敵兵と戦っているはずなんだ。」
ヘルガもハッとしました。
「そうよ、フランツ殿が…。オリバーさん、すぐにフランツ殿を助けに行かないと!」
しかし、その瞬間、街中の方で大きな物音が聞こえました。何かが壊れるような音です。
「シャロンのやつ、街中に直接、何かを送り込んできやがったな…。恐らくは万が一の時のための動死体か、兵士を西か南の入り口に潜ませてあったんだろう。オットー様のことも心配だが、パトリックとエミリーもいることだし、今は街中の仲間たちを助けに行こう!」
オリバーの言葉に仲間たちは頷き、街中へと走って行きました。
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ヴォルフの宿の前には五十体ほどの動死体が詰めかけていました。西の入り口に潜んでいたもののようです。ハンス、ペーター、チュンフェイ、そしてリリーは武器を構えて動死体と対峙しています。
「人間相手なら説得もできそうだけど、どうやらこの相手にはそんなことは通用しなさそうだね。」
リリーが苦笑いしました。
「とにかく、やつらには突きを生かす攻撃はあまり効きません。俺みたいに勢いをつけて突進するなら別ですけど…。」
ハンスがリリーに言いました。
「わかったよ、ハンス。」
「先輩、そろそろ攻撃をしかけるッスよ。」
ペーターがハンスに言います。チュンフェイも闘志をむき出しにしているようです。
「ようし、行こう!それっ!」
四人は武器を構え、一気に動死体に向かって行きました。ハンスの一撃で動死体の一体の頭が吹き飛びました。
「ようし、一丁上がり!リリーさん、大丈夫そうですか!?」
ハンスは心配そうにリリーに声をかけましたが、その心配はまったくなさそうでした。リリーはびっくりするような力で、頭の上で奇妙な形をした槍をぐるぐる回し、近寄ってくる動死体を片っ端から切り裂いているのです。
「すっ、すげぇ!」
ハンスは思わず叫んでいました。
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一方ペーターとチュンフェイはぐるりと周りを動死体に囲まれていました。
「ともかく、こいつらを突破しないと始まらないな。宿の前で落ち合おう。行くぞ!」
そう言ってペーターは動死体の中に突っ込んでいきました。ペーターは気合いを込めて動死体を斬りまくり、やがて包囲網を突破しました。
「よしっ!チュンフェイは…?」
ペーターが振り返ると、チュンフェイはまるで踊るように剣を振りまわし、華麗に包囲網を突破してきました。
「すげぇや、チュンフェイ!かっこいいぜ!」
ペーターが興奮して叫ぶと、チュンフェイは得意げな顔をしました。
「さあ、もういっちょう行こうぜ!俺たちが組んだら向かうところ敵なしだ!」
ペーターはそう言うと、チュンフェイとともに動死体の群れの中にもう一度突撃して行きました。
「あの二人、なかなかいいコンビじゃないの。」
リリーが頼もしそうにハンスに言いました。
「そうですね。でも俺たちも負けていられませんよ。さあ、頑張りましょう!」
「もちろんさ!」
ハンスとリリーも二人に負けじと次々と動死体を倒していきます。
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一方、『隠れ家』の周りにも敵兵が押し寄せていました。こちらは南側の方から入ってきた敵兵のようです。こちらも五十人ほどいて、全員が洗脳されているようです。ヴォルフ、ラルフ、そしてヨウフェイも今は『隠れ家』の外に出てきています。
「さて…。いったいどうしてここの場所が割れているのかな…?」
ヴォルフが苦笑いしながら首をかしげました。
「さあ…。ともかく、この『隠れ家』は、僕らが思っていたほど安全な場所ではなかったということですね…。」
ラルフも苦笑いしています。
「どのみち、この街には安全な場所なんてないっていうことネ。今はクララを守ることだけを考えるヨ。」
ヨウフェイはすでに敵兵に闘志をむき出しです。
「ああ、そうだな…。くらえっ!」
ヴォルフは叫び、クロスボウの引き金を引きました。ラルフによって改造されたクロスボウから三本の矢が放たれました。矢は敵兵の鎧を貫通しました。それを見た敵兵はいきり立ちました。
「みんな!ヴォルフ・ザックスはかつての同胞である我々に攻撃をした!これは許されることではない!今こそ粛清する時だ!」
「それはこちらの言葉だ。今の俺たちは王国の直属兵、お前たちは王国に剣を向ける反逆者なんだ。こちらが粛清してやるぞ!」
そう言ってヴォルフはもう一度クロスボウの引き金を引きました。それを合図に、敵兵もこちらへ向かってきました。ラルフはすぐに応戦を開始しましたが、ヨウフェイは動こうとしませんでした。
「おい、ヨウフェイ、何をしてるんだ。早く応戦を…、」
「あー、やっぱりこの数の前じゃだめネ。勝てないヨ。ヨウフェイ、降参するネ。」
「おい!ヨウフェイ!」
「ヨウフェイちゃん!何を言っているんだい!?」
ヴォルフもラルフも敵兵もあっけにとられました。ヨウフェイは両手をあげたまま敵兵の真ん中まで行きました。敵の隊長格の兵士はヨウフェイに言いました。
「よ、よし。裏切るというのなら、お前の手であの二人を始末して来い!」
「わかったネ!」
そう言ってヨウフェイは短剣をヴォルフに投げつけようとしました。ヴォルフは鬼のような形相でヨウフェイを睨みつけています。
と、ヨウフェイはニヤリと笑って短剣を持っていない方の腕を敵兵の隊長格に向けました。その瞬間、ピシッという音がしました。同時に、隊長格の兵士は倒れこみました。そしてヨウフェイはヴォルフとラルフに叫びました。
「伏せるネ!」
ヴォルフとラルフはとっさに伏せました。彼らの頭の上で、いくつものピシッという音と、兵士が倒れこむ音が聞こえます。やがてヴォルフが顔をあげると、すでにヨウフェイは短剣を両手で持って敵兵と戦っていました。
「そうか…!毒を仕込んだ暗器か!ヨウフェイの袖に仕込んである…。」
「名付けて回転毒殺術ネ!一列目の敵は全員倒したヨ!ようやくお披露目ネ!」
ヨウフェイは得意げに言いました。ラルフも感激しました。
「すごいや、ヨウフェイちゃん!」
「感心してる暇があったらとっとと手を貸すヨ!」
ヨウフェイの声に我に帰り、ラルフは突剣を構えて敵兵に立ち向かい、ヴォルフはクロスボウに矢を装填しました。
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一方、オットー様やパトリックたちはマティアス率いる敵兵と戦い続けていました。団結力や統率力ではオットー様たちの義勇兵が勝っていますが、やはりもともとが正規兵というだけあって、体力は敵兵の方が勝っています。勢力的にはオットー様たちが優勢でしたが、疲れの色も見え始めています。
「む…。いかんな。気を抜いた瞬間に命を奪われるものが増えてきた…。」
オットー様が厳しい顔をされました。その瞬間、この時を待っていたとばかり、マティアスの突撃命令が聞こえてきました。
「突撃!」
敵兵たちはものすごい勢いで突撃してきます。義勇兵たちは少しずつ押されてきました。
「くっ…。あのマティアスさえ片づければ何とでもなるのだろうが…。」
「周りをあれだけ固められていてはうかつに近寄ることは不可能です。」
エミリーも悔しそうに言いました。マティアスの周りには護衛がたくさんいるのです。
「生きていた頃のマティアスならあんな護衛など付けずとも、恐らくは無敵だったでしょう…。」
パトリックも言いました。
「だが裏を返せば、今のマティアスはそこまでの強さを持ってはいないということだ。何とかあの護衛を切り崩し、マティアスと一騎打ちと持ち込みたいところだが…。」
「一騎打ち…?しかしオットー様…。」
エミリーが心配そうにオットー様を見ましたが、オットー様は笑っておっしゃいました。
「得体も知れぬ者に魂を操られて戦わされ、マティアスもきっと無念な気持ちでいるはずだ。彼をよく知る者として、余の手で彼を葬り、束縛から解放させてやりたいのだ…。」
オットー様の言葉を聞いて、パトリックとエミリーは顔を見合わせました。そして、深く頷きました。
「オットー様、私たちが突入し、あの護衛どもを蹴散らして参ります。」
エミリーがオットー様に言いました。
「エミリー嬢…?ティボー殿も、大丈夫なのか?」
オットー様は少し心配そうですが、パトリックも言いました。
「無理をするつもりはありません。しかし、できる限りのことはしてみましょう。なにぶん私たちも、いつも組んでいる魔術師たちがいないものですからどれだけ働けるかわかりかねますが…。」
「隊列を崩すことができれば、私が炎の矢を打ち上げます。」
「わかった。ではお願いしよう。皆のもの!ティボー殿とエミリー嬢を援護せよ!」
パトリックとエミリーはオットー様の声を聞くと、一気に突撃していきました。阻止しようとする兵士は義勇兵たちが相手をします。
「一気に撹乱するんだ、エミリー!」
「わかりました!」
パトリックは槍を構え、エミリーは炎や毒の矢を放ちながらマティアスの周りの護衛兵たちの中に突っ込んでいきました。
「ひるむな!迎え討て!」
マティアスが叫びましたが、やはり護衛兵にはあの衛兵隊のような威圧感のある統一性はありません。
「思ったとおりだね。それにしてもマティアス、まさか君と一戦を交えることになるとはね!」
パトリックは少し残念そうな顔をして護衛兵たちを蹴散らしていきます。
(残念だよ…。一度だけ君と組んで戦ったが、やはりあの時の君はすばらしかった…。今の君はその足元にも及ばないだろうけどね。)
「パトリックさん!護衛の隊列は完全に乱れています!」
エミリーの声が聞こえました。
「そうだね。さあ、エミリー。炎の矢を打ち上げるんだ。」
「わかりました。」
エミリーは頷くと、炎の矢を真上に打ち上げました。
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オットー様は炎の矢が撃ちあがったのを見て笑いました。
「あなた方だけでも十分すぎるほどに戦えるではないか…。ようし、皆のもの!決着をつける時だ!マティアスを倒すぞ!余に続け!」
オットー様はものすごい勢いで馬を走らせ、義勇兵たちもその後を追いました。パトリックとエミリーはオットー様が突撃しやすいように道を開けました。オットー様は崩れた護衛兵たちを蹴散らし、一気にマティアスのところまで突っ込みました。
「マティアスー!」
オットー様はマティアスの姿を見つけ、一気に突進しました。マティアスは、こちらへ向かってくるオットー様の姿を見ると、あろうことか武器を投げ捨て、後ろを向いて逃げ出しました。
(マティアス…。いや、今のお前はマティアスではない、ただの動死体だったな。本物のマティアスが、敵に後ろなど向けるわけがない)
「マティアスー!」
オットー様は叫ぶと、逃げるマティアスに槍を突き出しました。槍はマティアスの体のど真ん中を貫き、彼は倒れこみました。
「マティアス隊長!」
「マティアス隊長がやられた!」
敵兵たちは顔を真っ青にしています。パトリックとエミリーは義勇兵たちに呼びかけました。
「みんな!オットー様がマティアスを倒した!敵はもう、ただの烏合の衆だ!」
「統制が崩れた今が勝負の時です!一気に攻勢を!」
二人の声に、義勇兵たちは沸き立ち、逆に敵兵はひるみました。戦いの行方は火を見るよりも明らかです。
(余も突撃するとしよう…)
オットー様がその場を立ち去ろうとなされた時でした。
「オットー…フランツ様。」
下の方から声が聞こえてきました。オットー様が驚いて馬の足元をみると、お腹から血を流しながら、マティアスが苦しそうに見上げているのです。オットー様は直感しました。
「マティアス…!正気に戻ったのか!すぐに余の後ろに乗れ。手当てが必要だ。」
しかし、マティアスは首を振りました。
「魂は私のものとはいえ、この肉体はただの動死体のものです。それに、私はキンフィールドでの戦いのときにすでに命は落としております…。手当てをしようと、無駄です。」
「マティアス…。」
オットー様は馬から降り、気の毒そうにマティアスの傍らにしゃがまれました。
「オットー様…。ありがとうございます。これで私もあの忌まわしきシャロンの束縛から解放されることができました…。」
「もうよい、マティアス。しゃべってはならぬ。」
マティアスは静かに笑顔を見せました。そして最期にこういいました。
「何はともあれ、最強の指導者とも言えるあなたと戦うことができたのは…光栄でした。」
そう言ったきり、マティアスは言切れ、オットー様が気づいた時にはその姿はただの茶色い塊となっていました。
「マティアスの魂が無くなり、本来の動死体の姿に戻ったか…。…余もお前と戦えて嬉しかったよ、マティアス。」
オットー様は馬の背によじ登り、残った敵兵に向かって行きました。
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その後、オットー様が率いる義勇兵は有利に戦いを進め、ほとんどすべての敵兵を倒しました。わずかに生き残った兵隊たちはほうほうの体で逃げて行きました。義勇兵たちはその兵士を追いかけようとしましたが、オットー様がそれを制しました。
「追う必要はない!あの者たちはシャロンに洗脳されているだけなのだ。恐らくはシャロンが倒されれば洗脳もとけ、自らの過ちを悔いるだろう。それよりもすぐにオーベルク市街へ引き返し、ローゼンハイン殿たちの援護をしに行こうではないか!」
「おおーっ!」
オットー様たちは向きを変え、オーベルクに戻ろうとしました。しかし、その時です。オーベルクの街の方で、黄色い色の炎が立ち上りました。
「あれは…強制撤退の合図!」
エミリーの顔が真っ青になりました。パトリックも不安そうです。
「黄色い炎が立ち上ったということは…今街に行くのはとても危険だということだ。オットー様…。」
しかし、オットー様には迷いがないようです。
「ローゼンハイン殿との取り決めだ。足手まといになるわけにもゆかぬ。余は義勇兵を率い、このままオーベルクを離れよう。ティボー殿とエミリー嬢は、ローゼンハイン殿たちのことが心配ならば戻っても一向にかまわない。」
パトリックとエミリーは小声で言葉を交わしましたが、すぐにオットー様の方を向きました。
「オリバーたちのことも心配ですが、私たちはオットー様の護衛を頼まれている身、お供いたします。」
「私もお供いたします、オットー様。」
「そうか、では行こう。キンフィールドになら、皆が休める建物も残っていよう。」
オットー様はそうおっしゃって、馬の向きを変えようとしました。しかし、その時です。義勇兵の一人が叫びました。
「あ!炎の色が変わった!」
「何だと!?」
オットー様も、パトリックもエミリーも驚いて振り返りました。先ほどまでは強制撤退を指示する黄色い炎が立ち上っていましたが、今ではその色が緑色に変わっているのです。
「緑の炎…。猛攻の合図…。」
パトリックは戸惑いながらもオットー様にたずねました。
「いかがいたしますか、オットー様。猛攻の合図が出ているとはいえ、先ほどまでは黄色でした。つまり、街の中が危険な状態であることは間違いないでしょう。ここは私とエミリーだけが戻りましょうか。」
しかし、オットー様は首を横に振りました。
「ティボー殿、余はあくまで、ローゼンハイン殿との取り決めに従うだけだ。…皆のもの!少し時間がかかってしまったが、こんどこそオーベルク市街へ引き返す!余には、あの炎はローゼンハイン殿たちの救援要請のように思えるのだ。さあ、行くぞ!」
「おおーっ!」
義勇兵たちはオットー様を先頭に、オーベルクへ引き返していきました。
オリバーたちは動死体を破り、街の中の仲間たちを助けに向かいました。一方、オットー様も敵兵を破りました。しかし、オーベルクの街に上った炎はすぐに黄色から緑に変わりました。果たして街のなかでいったい何が…?
次話では炎の真相が明かされます。オリバーたちが加勢し、街のなかでの戦いも終わりを迎えました。しかし、中心広場で落ち合った彼らの前には…?どうぞお楽しみに!
ちなみにマティアスは生前、武勇名高いオットー様と一度戦ってみたい、という感情を心のなかで抱いていました。このような形になってしまったとはいえ、マティアスの夢はかなったことになりますね。
では次話をお楽しみに!




