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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「34.大混戦」

オットー様率いる義勇兵に続き、オリバーたちも動死体との戦いを始めました。無数の動死体を前に、いよいよ魔術師たちの出番がやってきたようです。

モニカが動死体(どうしたい)()れに向かって大声で叫びました。



「スノーハーム!」



その瞬間(しゅんかん)(あた)りの気温(きおん)が一気に下がりました。モニカの頭上(ずじょう)魔力溜(まりょくだ)まりから(ゆき)(つぶ)がものすごい(いきお)いで動死体(どうしたい)に飛んで行っているのです。



「すげぇ!吹雪(ふぶき)を起こしているのか!」



初めてこの魔術(まじゅつ)を見たレオンは感動したように叫びました。吹雪(ふぶき)にまかれた半数以上の動死体(どうしたい)たちは(こお)りつき、その場で止まってしまいました。それを確認(かくにん)すると、モニカは吹雪(ふぶき)を止ませました。



オリバーはその瞬間(しゅんかん)を待っていました。



「ようし、今だ!カースレイン!」



オリバーが叫ぶと、黒い光が雨のように(こお)(かた)まった動死体(どうしたい)の上に()(そそ)ぎました。その光を()びた動死体(どうしたい)は次々と破裂(はれつ)していきました。



オリバーは魔力(まりょく)の大部分を解放(かいほう)したため、フラフラになっていました。それを確認(かくにん)すると、今度はイザベルが叫びました。



「リバイバル!」



その瞬間(しゅんかん)、オリバーの体には(またた)く間に魔力(まりょく)がよみがえってきました。一気に半数以上の動死体(どうしたい)(うしな)ったシャロンはさすがに真剣(しんけん)表情(ひょうじょう)になりました。



(こおり)魔術(まじゅつ)最上級(さいじょうきゅう)(のろ)いの魔術(まじゅつ)、そして緊急回復術きんきゅうかいふくじゅつ連携(れんけい)とは…。しかし、緊急回復術きんきゅうかいふくじゅつ連発(れんぱつ)できるものではなく、ローゼンハインのものも、そう何度も使うことはできない…。ならば!」



シャロンは(ふたた)吹雪(ふぶき)をおこしたモニカの方に向かって叫びました。



「『火壁』!」



すると、(ほのお)(かべ)(ふたた)びモニカが作り上げた吹雪(ふぶき)の前に立ちはだかりました。モニカの作り上げた吹雪(ふぶき)(ほのお)(かべ)にぶつかり、火の(いきお)いに()かされ、水となって地面に()まりました。シャロンは()(ほこ)ったように笑います。



「フフフフフ…。初手(しょて)(ふう)じてしまえばもうこちらのもの。(ゆき)自在(じざい)にあやつるとは、確かに大した潜在力(せんざいりょく)ですが、所詮(しょせn)(わたし)の前では無力(むりょく)同然(どうぜん)。さあ、覚悟(かくご)なさい!進軍(しんぐん)せよ!」



シャロンの声に、動死体(どうしたい)たちは一気にこちらへ進んできました。



「何てこった…。おい、オリバー!どうするんだ!」



レオンが(あせ)ってオリバーに問いかけました。しかし、オリバーは不敵(ふてき)に笑っています。



「どうもこうもないさ。俺たちはただここにいればいい。」



「何を言ってるのさ、師匠(ししょう)!早く逃げないと危ないよ!」



ビアンカも(あわ)てていますが、その瞬間(しゅんかん)、ヘルガが叫びました。



「ビアンカ!あれを見るのよ!」



「どうしたの、ヘルガ…ああっ!」



ビアンカも、他の仲間たちも(おどろ)きました。動死体(どうしたい)(ほのお)(かべ)によって()かされた(ゆき)でできた水溜(みずた)まりに足を()み入れた瞬間(しゅんかん)破裂(はれつ)し出したのです。シャロンもこの予想外(よそうがい)状況(じょうきょう)戸惑(とまど)っているようです。



「いったい何が!…そういうことですか。あの水溜(みずた)まりには(のろ)いの魔術(まじゅつ)仕込(しこ)まれて…。」



(さっ)しが良いな、シャロン。(ほのお)魔術(まじゅつ)でモニカの(ゆき)()かされることは予想済(よそうず)みだった。だから俺が(のろ)いの魔術(まじゅつ)を使った時に、モニカの魔力溜(まりょくだ)まりにも(のろ)いの魔術(まじゅつ)をかけておいたのさ。」



(わたし)魔力溜(まりょくだ)まりが(のろ)いの魔術(まじゅつ)()えられるかどうか不安でしたが…、少し苦しいのを我慢(がまん)すれば大丈夫でしたね。」



モニカも(うれ)しそうに言いました。オリバーは感心したように言いました。



「それは、お前の方が俺よりも強い魔力(まりょく)を持っているという証拠(しょうこ)さ。」



シャロンは苦虫(にがむし)をかみつぶしたような表情(ひょうじょう)をしています。



「ならば水溜(みずた)まりを蒸発(じょうはつ)させるまで!『炎上』!」



シャロンは(ほのお)魔術(まじゅつ)水溜(みずた)まりを蒸発(じょうはつ)させました。しかし、それからまた動死体(どうしたい)を動かそうとしても、今度は一歩動いただけで動死体(どうしたい)破裂(はれつ)してしまいます。



「…そこには(のろ)いの防御線(ぼうぎょせん)を張っておいた。動死体(どうしたい)はそれ以上は進めないはずだ。わかりやすく言ってやろう。お前の動死体(どうしたい)はこれで完全に(ふう)じられたんだ!何だったら、この後ろに(ほのお)(かべ)も作り上げておいてやろうか!」



オリバーが叫ぶと、シャロンは(くや)しそうに表情(ひょうじょう)をゆがめました。



(わたし)動死体(どうしたい)(のろ)いの魔術(まじゅつ)に弱いことを()かして…お見事です。しかし、(わたし)戦力(せんりょく)はこの動死体(どうしたい)だけではないのです。まだ(わたし)は負けてはいない!」



シャロンはそう言って姿(すがた)を消しました。残った三十体ほどの動死体(どうしたい)指導者(しどうしゃ)(うしな)ったために(みずか)ら次々と(のろ)いの(かべ)にぶつかり、破裂(はれつ)していきました。



「…あたいら、シャロンに…勝ったんだ…。シャロンに勝った!」



マチルドが思わず(うれ)しそうに言いましたが、オリバーがたしなめました。



「落ち着け、マチルド。シャロンも言ったとおり、まだ俺たちはシャロンに勝ったわけじゃないんだ。あいつの一部隊(いちぶたい)殲滅(せんめつ)したに()ぎないんだ。今この時もオットー様やパトリックたちは敵兵と戦っているはずなんだ。」



ヘルガもハッとしました。



「そうよ、フランツ殿が…。オリバーさん、すぐにフランツ殿を助けに行かないと!」



しかし、その瞬間(しゅんかん)街中(まちなか)の方で大きな物音(ものおと)が聞こえました。何かが(こわ)れるような音です。



「シャロンのやつ、街中(まちなか)直接(ちょくせつ)、何かを送り込んできやがったな…。(おそ)らくは万が一の時のための動死体(どうしたい)か、兵士を西か南の入り口に(ひそ)ませてあったんだろう。オットー様のことも心配だが、パトリックとエミリーもいることだし、今は街中(まちなか)の仲間たちを助けに行こう!」



オリバーの言葉に仲間たちは(うなず)き、街中(まちなか)へと走って行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ヴォルフの宿の前には五十体ほどの動死体(どうしたい)()めかけていました。西の入り口に(ひそ)んでいたもののようです。ハンス、ペーター、チュンフェイ、そしてリリーは武器を(かま)えて動死体(どうしたい)対峙(たいじ)しています。



「人間相手なら説得(せっとく)もできそうだけど、どうやらこの相手にはそんなことは通用(つうよう)しなさそうだね。」



リリーが苦笑いしました。



「とにかく、やつらには()きを生かす攻撃(こうげき)はあまり()きません。俺みたいに(いきお)いをつけて突進(とっしん)するなら別ですけど…。」



ハンスがリリーに言いました。



「わかったよ、ハンス。」



先輩(せんぱい)、そろそろ攻撃(こうげき)をしかけるッスよ。」



ペーターがハンスに言います。チュンフェイも闘志(とうし)をむき出しにしているようです。



「ようし、行こう!それっ!」



四人は武器を(かま)え、一気に動死体(どうしたい)に向かって行きました。ハンスの一撃(いちげき)動死体(どうしたい)の一体の頭が吹き飛びました。



「ようし、一丁上(いっちょうあ)がり!リリーさん、大丈夫そうですか!?」



ハンスは心配そうにリリーに声をかけましたが、その心配はまったくなさそうでした。リリーはびっくりするような力で、頭の上で奇妙(きみょう)な形をした(やり)をぐるぐる回し、近寄(ちかよ)ってくる動死体(どうしたい)(かた)(ぱし)から()()いているのです。



「すっ、すげぇ!」



ハンスは思わず叫んでいました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方ペーターとチュンフェイはぐるりと周りを動死体(どうしたい)(かこ)まれていました。



「ともかく、こいつらを突破(とっぱ)しないと始まらないな。宿の前で落ち合おう。行くぞ!」



そう言ってペーターは動死体(どうしたい)の中に突っ込んでいきました。ペーターは気合(きあ)いを込めて動死体(どうしたい)()りまくり、やがて包囲網(ほういもう)突破(とっぱ)しました。



「よしっ!チュンフェイは…?」



ペーターが振り返ると、チュンフェイはまるで(おど)るように(けん)を振りまわし、華麗(かれい)包囲網(ほういもう)突破(とっぱ)してきました。



「すげぇや、チュンフェイ!かっこいいぜ!」



ペーターが興奮(こうふん)して叫ぶと、チュンフェイは得意(とくい)げな顔をしました。



「さあ、もういっちょう行こうぜ!俺たちが組んだら向かうところ敵なしだ!」



ペーターはそう言うと、チュンフェイとともに動死体(どうしたい)()れの中にもう一度突撃(とつげき)して行きました。



「あの二人、なかなかいいコンビじゃないの。」



リリーが(たの)もしそうにハンスに言いました。



「そうですね。でも俺たちも負けていられませんよ。さあ、頑張りましょう!」



「もちろんさ!」



ハンスとリリーも二人に負けじと次々と動死体(どうしたい)を倒していきます。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方、『(かく)()』の周りにも敵兵が押し寄せていました。こちらは南側の方から入ってきた敵兵のようです。こちらも五十人ほどいて、全員が洗脳(せんのう)されているようです。ヴォルフ、ラルフ、そしてヨウフェイも今は『(かく)()』の外に出てきています。



「さて…。いったいどうしてここの場所が()れているのかな…?」



ヴォルフが苦笑いしながら首をかしげました。



「さあ…。ともかく、この『(かく)()』は、僕らが思っていたほど安全な場所ではなかったということですね…。」



ラルフも苦笑いしています。



「どのみち、この街には安全な場所なんてないっていうことネ。今はクララを守ることだけを考えるヨ。」



ヨウフェイはすでに敵兵に闘志(とうし)をむき出しです。



「ああ、そうだな…。くらえっ!」



ヴォルフは叫び、クロスボウの()(がね)を引きました。ラルフによって改造(かいぞう)されたクロスボウから三本の()(はな)たれました。()は敵兵の(よろい)貫通(かんつう)しました。それを見た敵兵はいきり立ちました。



「みんな!ヴォルフ・ザックスはかつての同胞(どうほう)である我々に攻撃(こうげき)をした!これは(ゆる)されることではない!今こそ粛清(しゅくせい)する時だ!」



「それはこちらの言葉だ。今の俺たちは王国の直属兵(ちょくぞくへい)、お前たちは王国に(けん)を向ける反逆者(はんぎゃくしゃ)なんだ。こちらが粛清(しゅくせい)してやるぞ!」



そう言ってヴォルフはもう一度クロスボウの()(がね)を引きました。それを合図(あいず)に、敵兵もこちらへ向かってきました。ラルフはすぐに応戦(おうせん)を開始しましたが、ヨウフェイは動こうとしませんでした。



「おい、ヨウフェイ、何をしてるんだ。早く応戦(おうせん)を…、」



「あー、やっぱりこの数の前じゃだめネ。勝てないヨ。ヨウフェイ、降参(こうさん)するネ。」



「おい!ヨウフェイ!」



「ヨウフェイちゃん!何を言っているんだい!?」



ヴォルフもラルフも敵兵もあっけにとられました。ヨウフェイは両手をあげたまま敵兵の真ん中まで行きました。敵の隊長格(たいちょうかく)の兵士はヨウフェイに言いました。



「よ、よし。裏切(うらぎ)るというのなら、お前の手であの二人を始末(しまつ)して来い!」



「わかったネ!」



そう言ってヨウフェイは短剣(たんけん)をヴォルフに投げつけようとしました。ヴォルフは(おに)のような形相(ぎょうそう)でヨウフェイを(にら)みつけています。



と、ヨウフェイはニヤリと笑って短剣(たんけん)を持っていない方の(うで)を敵兵の隊長格(たいちょうかく)に向けました。その瞬間(しゅんかん)、ピシッという音がしました。同時に、隊長格(たいちょうかく)の兵士は倒れこみました。そしてヨウフェイはヴォルフとラルフに叫びました。



()せるネ!」



ヴォルフとラルフはとっさに()せました。彼らの頭の上で、いくつものピシッという音と、兵士が倒れこむ音が聞こえます。やがてヴォルフが顔をあげると、すでにヨウフェイは短剣(たんけん)を両手で持って敵兵と戦っていました。



「そうか…!(どく)仕込(しこ)んだ暗器(あんき)か!ヨウフェイの(そで)仕込(しこ)んである…。」



名付(なづ)けて回転毒殺術かいてんどくさつじゅつネ!一列目の敵は全員倒したヨ!ようやくお披露目(ひろめ)ネ!」



ヨウフェイは得意(とくい)げに言いました。ラルフも感激(かんげき)しました。



「すごいや、ヨウフェイちゃん!」



「感心してる(ひま)があったらとっとと手を()すヨ!」



ヨウフェイの声に我に帰り、ラルフは突剣(とっけん)(かま)えて敵兵に立ち向かい、ヴォルフはクロスボウに()装填(そうてん)しました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方、オットー様やパトリックたちはマティアス(ひき)いる敵兵と戦い続けていました。団結力(だんけつりょく)統率力(とうそつりょく)ではオットー様たちの義勇兵(ぎゆうへい)(まさ)っていますが、やはりもともとが正規兵(せいきへい)というだけあって、体力は敵兵の方が(まさ)っています。勢力的(せいりょくてき)にはオットー様たちが優勢(ゆうせい)でしたが、(つか)れの色も見え始めています。



「む…。いかんな。気を抜いた瞬間(しゅんかん)に命を(うば)われるものが増えてきた…。」



オットー様が(きび)しい顔をされました。その瞬間(しゅんかん)、この時を待っていたとばかり、マティアスの突撃命令(とつげきめいれい)が聞こえてきました。



突撃(とつげき)!」



敵兵たちはものすごい(いきお)いで突撃(とつげき)してきます。義勇兵(ぎゆうへい)たちは少しずつ押されてきました。



「くっ…。あのマティアスさえ片づければ何とでもなるのだろうが…。」



「周りをあれだけ(かた)められていてはうかつに近寄ることは不可能です。」



エミリーも(くや)しそうに言いました。マティアスの周りには護衛(ごえい)がたくさんいるのです。



「生きていた頃のマティアスならあんな護衛(ごえい)など付けずとも、(おそ)らくは無敵(むてき)だったでしょう…。」



パトリックも言いました。



「だが(うら)を返せば、今のマティアスはそこまでの強さを持ってはいないということだ。何とかあの護衛(ごえい)()(くず)し、マティアスと一騎打(いっきう)ちと持ち込みたいところだが…。」



一騎打(いっきう)ち…?しかしオットー様…。」



エミリーが心配そうにオットー様を見ましたが、オットー様は笑っておっしゃいました。



得体(えたい)も知れぬ者に(たましい)(あやつ)られて戦わされ、マティアスもきっと無念(むねん)な気持ちでいるはずだ。彼をよく知る者として、()の手で彼を(ほうむ)り、束縛(そくばく)から解放(かいほう)させてやりたいのだ…。」



オットー様の言葉を聞いて、パトリックとエミリーは顔を見合わせました。そして、深く(うなず)きました。



「オットー様、(わたくし)たちが突入(とつにゅう)し、あの護衛(ごえい)どもを蹴散(けち)らして参ります。」



エミリーがオットー様に言いました。



「エミリー嬢…?ティボー殿も、大丈夫なのか?」



オットー様は少し心配そうですが、パトリックも言いました。



「無理をするつもりはありません。しかし、できる(かぎ)りのことはしてみましょう。なにぶん(わたし)たちも、いつも組んでいる魔術師(まじゅつし)たちがいないものですからどれだけ働けるかわかりかねますが…。」



隊列(たいれつ)(くず)すことができれば、(わたくし)(ほのお)()を打ち上げます。」



「わかった。ではお願いしよう。皆のもの!ティボー殿とエミリー嬢を援護(えんご)せよ!」



パトリックとエミリーはオットー様の声を聞くと、一気に突撃(とつげき)していきました。阻止(そし)しようとする兵士は義勇兵(ぎゆうへい)たちが相手をします。



「一気に撹乱(かくらん)するんだ、エミリー!」



「わかりました!」



パトリックは(やり)を構え、エミリーは(ほのお)(どく)()(はな)ちながらマティアスの周りの護衛兵(ごえいへい)たちの中に突っ込んでいきました。



「ひるむな!(むか)()て!」



マティアスが叫びましたが、やはり護衛兵(ごえいへい)にはあの衛兵隊(えいへいたい)のような威圧感(いあつかん)のある統一性(とういつせい)はありません。



「思ったとおりだね。それにしてもマティアス、まさか君と一戦(いっせん)(まじ)えることになるとはね!」



パトリックは少し残念そうな顔をして護衛兵(ごえいへい)たちを蹴散(けち)らしていきます。



(残念だよ…。一度だけ君と組んで戦ったが、やはりあの時の君はすばらしかった…。今の君はその足元にも(およ)ばないだろうけどね。)



「パトリックさん!護衛(ごうれい)隊列(たいれつ)は完全に(みだ)れています!」



エミリーの声が聞こえました。



「そうだね。さあ、エミリー。(ほのお)()を打ち上げるんだ。」



「わかりました。」



エミリーは(うなず)くと、(ほのお)()真上(まうえ)に打ち上げました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



オットー様は(ほのお)()()ちあがったのを見て笑いました。



「あなた方だけでも十分すぎるほどに戦えるではないか…。ようし、皆のもの!決着をつける時だ!マティアスを倒すぞ!()に続け!」



オットー様はものすごい(いきお)いで馬を走らせ、義勇兵(ぎゆうへい)たちもその後を追いました。パトリックとエミリーはオットー様が突撃(とつげき)しやすいように道を開けました。オットー様は(くず)れた護衛兵(ごえいへい)たちを蹴散(けち)らし、一気にマティアスのところまで突っ込みました。



「マティアスー!」



オットー様はマティアスの姿(すがた)を見つけ、一気に突進(とっしん)しました。マティアスは、こちらへ向かってくるオットー様の姿(すがた)を見ると、あろうことか武器を投げ捨て、後ろを向いて逃げ出しました。



(マティアス…。いや、今のお前はマティアスではない、ただの動死体(どうしたい)だったな。本物のマティアスが、敵に後ろなど向けるわけがない)



「マティアスー!」



オットー様は叫ぶと、逃げるマティアスに(やり)を突き出しました。(やり)はマティアスの体のど真ん中を(つらぬ)き、彼は倒れこみました。



「マティアス隊長(たいちょう)!」



「マティアス隊長(たいちょう)がやられた!」



敵兵たちは顔を真っ青にしています。パトリックとエミリーは義勇兵(ぎゆうへい)たちに呼びかけました。



「みんな!オットー様がマティアスを倒した!敵はもう、ただの烏合(うごう)(しゅう)だ!」



統制(とうせい)(くず)れた今が勝負の時です!一気に攻勢(こうせい)を!」



二人の声に、義勇兵(ぎゆうへい)たちは()き立ち、逆に敵兵はひるみました。戦いの行方(ゆくえ)は火を見るよりも明らかです。



(()突撃(とつげき)するとしよう…)



オットー様がその場を立ち去ろうとなされた時でした。



「オットー…フランツ様。」



下の方から声が聞こえてきました。オットー様が(おどろ)いて馬の足元(あしもと)をみると、お腹から血を流しながら、マティアスが苦しそうに見上げているのです。オットー様は直感(ちょっかん)しました。



「マティアス…!正気(しょうき)に戻ったのか!すぐに()の後ろに乗れ。手当(てあ)てが必要だ。」



しかし、マティアスは首を振りました。



(たましい)(わたし)のものとはいえ、この肉体(にくたい)はただの動死体(どうしたい)のものです。それに、(わたし)はキンフィールドでの戦いのときにすでに命は落としております…。手当(てあ)てをしようと、無駄(むだ)です。」



「マティアス…。」



オットー様は馬から降り、()(どく)そうにマティアスの(かたわ)らにしゃがまれました。



「オットー様…。ありがとうございます。これで(わたし)もあの()まわしきシャロンの束縛(そくばく)から解放(かいほう)されることができました…。」



「もうよい、マティアス。しゃべってはならぬ。」



マティアスは静かに笑顔を見せました。そして最期(さいご)にこういいました。



「何はともあれ、最強(さいきょう)指導者(しどうしゃ)とも言えるあなたと戦うことができたのは…光栄(こうえい)でした。」



そう言ったきり、マティアスは言切(ことき)れ、オットー様が気づいた時にはその姿(すがた)はただの茶色(ちゃいろ)(かたまり)となっていました。



「マティアスの(たましい)が無くなり、本来の動死体(どうしたい)姿(すがた)に戻ったか…。…()もお前と戦えて(うれ)しかったよ、マティアス。」



オットー様は馬の背によじ登り、残った敵兵に向かって行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



その後、オットー様が(ひき)いる義勇兵(ぎゆうへい)有利(ゆうり)に戦いを進め、ほとんどすべての敵兵を倒しました。わずかに生き残った兵隊たちはほうほうの(てい)で逃げて行きました。義勇兵(ぎゆうへい)たちはその兵士を追いかけようとしましたが、オットー様がそれを(せい)しました。



「追う必要はない!あの者たちはシャロンに洗脳(せんのう)されているだけなのだ。(おそ)らくはシャロンが倒されれば洗脳(せんのう)もとけ、(みずか)らの(あやま)ちを()いるだろう。それよりもすぐにオーベルク市街(しがい)へ引き返し、ローゼンハイン殿たちの援護(えんご)をしに行こうではないか!」



「おおーっ!」



オットー様たちは向きを変え、オーベルクに戻ろうとしました。しかし、その時です。オーベルクの街の方で、黄色(きいろ)(いろ)(ほのお)が立ち上りました。



「あれは…強制撤退(きょうせいてったい)合図(あいず)!」



エミリーの顔が真っ青になりました。パトリックも不安そうです。



黄色(きいろ)(ほのお)が立ち上ったということは…今街に行くのはとても危険だということだ。オットー様…。」



しかし、オットー様には(まよ)いがないようです。



「ローゼンハイン殿との取り決めだ。足手(あしで)まといになるわけにもゆかぬ。()義勇兵(ぎゆうへい)(ひき)い、このままオーベルクを(はな)れよう。ティボー殿とエミリー嬢は、ローゼンハイン殿たちのことが心配ならば戻っても一向(いっこう)にかまわない。」



パトリックとエミリーは小声で言葉を()わしましたが、すぐにオットー様の方を向きました。



「オリバーたちのことも心配ですが、(わたし)たちはオットー様の護衛(ごえい)(たの)まれている身、お(とも)いたします。」



(わたくし)もお(とも)いたします、オットー様。」



「そうか、では行こう。キンフィールドになら、皆が休める建物も残っていよう。」



オットー様はそうおっしゃって、馬の向きを変えようとしました。しかし、その時です。義勇兵(ぎゆうへい)の一人が叫びました。



「あ!(ほのお)の色が変わった!」



「何だと!?」



オットー様も、パトリックもエミリーも(おどろ)いて振り返りました。先ほどまでは強制撤退(きょうせいてったい)指示(しじ)する黄色(きいろ)(ほのお)が立ち上っていましたが、今ではその色が緑色(みどりいろ)に変わっているのです。



(みどり)(ほのお)…。猛攻(もうこう)合図(あいず)…。」



パトリックは戸惑(とまど)いながらもオットー様にたずねました。



「いかがいたしますか、オットー様。猛攻(もうこう)合図(あいず)が出ているとはいえ、先ほどまでは黄色(きいろ)でした。つまり、街の中が危険な状態(じょうたい)であることは間違いないでしょう。ここは(わたし)とエミリーだけが戻りましょうか。」



しかし、オットー様は首を横に振りました。



「ティボー殿、()はあくまで、ローゼンハイン殿との取り決めに(したが)うだけだ。…皆のもの!少し時間がかかってしまったが、こんどこそオーベルク市街へ引き返す!()には、あの(ほのお)はローゼンハイン殿たちの救援要請(きゅうえんようせい)のように思えるのだ。さあ、行くぞ!」



「おおーっ!」



義勇兵(ぎゆうへい)たちはオットー様を先頭に、オーベルクへ引き返していきました。

オリバーたちは動死体を破り、街の中の仲間たちを助けに向かいました。一方、オットー様も敵兵を破りました。しかし、オーベルクの街に上った炎はすぐに黄色から緑に変わりました。果たして街のなかでいったい何が…?



次話では炎の真相が明かされます。オリバーたちが加勢し、街のなかでの戦いも終わりを迎えました。しかし、中心広場で落ち合った彼らの前には…?どうぞお楽しみに!



ちなみにマティアスは生前、武勇名高いオットー様と一度戦ってみたい、という感情を心のなかで抱いていました。このような形になってしまったとはいえ、マティアスの夢はかなったことになりますね。



では次話をお楽しみに!

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