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暗黒の魔女  作者: kuma383
33/50

~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「32.開戦」

いよいよシャロンとの対決の時がやってきました。オーベルクの街中はとてもピリピリした空気に包まれています。

夕方、武装(ぶそう)した義勇兵(ぎゆうへい)128人がオーベルクの街中(まちなか)()かる橋の上に集結(しゅうけつ)しました。その集団(しゅうだん)の前に、一頭の馬が(あらわ)れました。乗っているのはもちろんオットー様です。



「皆よく聞け。間もなく日が(しず)む。その時が戦いの始まりだ。…戦いを前にして冷静(れいせい)になった者もいるだろう。少しでもこの戦いに疑問(ぎもん)(おそ)れを(いだ)いている者はいざという時、足手(あしで)まといになる。今のうちに立ち去った方がよいぞ。」



オットー様はそうおっしゃって男たちを見渡(みわた)しましたが、全員が確固(かっこ)とした表情(ひょうじょう)でオットー様を見て、誰も動こうとしませんでした。



「…さすがだ。皆は立派(りっぱ)戦士(せんし)だ。()も安心して皆を(ひき)いることができる。オーベルクの命運(めいうん)は皆にかかっているのだ。心してかかれ!」



「おおおおおおっ!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



その少し前、オリバーたちはヴォルフの宿を出発するところでした。オリバーはハンス、ペーター、ラルフ、そしてチュンフェイに声をかけました。



(たの)んだぞ。ここの宿の守備(しゅび)はお前たちに(まか)せた。何としてもここは守り通してくれ。」



「はいっ!」



ハンス、ペーター、ラルフは大きな声で返事をし、チュンフェイも(うなず)きました。その時です、遠くから何か長いものを持ってこちらへ走ってくる人の姿(すがた)が見えました。



「ん?オットー様のところからの使いかな?」



しかし、走ってきたのはリリーでした。持っていたのは奇妙(きみょう)な形をした(やり)でした。



「話は聞いたよ、オリバー。(わたし)もこの宿を守るのに力を()すよ!」



「リリー…。リリーが戦うのか?いやその前に、その武器は…?レオンの斧槍(おのやり)ともどうも(ちが)うな…。()の先にサーベルがついているのか…?」



「ああ、まあそんなとこだね。これが(わたし)得物(えもの)さ。これでもギル大臣の兵がクーデターの時にパカロン城に()めてきた時は、これを振りまわして敵を振り切って()()びたんだから。後で聞いた話では、敵兵には『鬼神(きしん)』とか呼ばれてたらしいよ。」



リリーは快活(かいかつ)そうに笑いました。オリバーは(なお)も心配そうです。



「…いいのか?ヴォルフのそばにいなくて。」



「ははは、あの人なら大丈夫さ。それに、こんなに長い武器じゃ『(かく)()』の中では戦えないよ。ヴォルフだってそこをわかってて(わたし)をここによこしたんだから。」



オリバーは苦笑いしました。



「そういうことなら仕方ないな。ようし、じゃあやっぱりラルフは『(かく)()』の守備(しゅび)に回るんだ。建物の中で少し調子(ちょうし)(くる)うかもしれないが、突剣(とっけん)なら室内(しつない)でも振りまわせるからな。」



「わっかりました!」



「いいな、ハンスとペーターとチュンフェイもしっかりと(たの)むぞ。」



オリバーの言葉に、ハンスもペーターもチュンフェイも(あらた)めて(うなず)きました。



「ようし、じゃあ今度は『(かく)()』に行こう。ヴォルフと打ち合わせをしなければならないし、クララ様ともお会いしなければな…。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



オリバーたちはひっそりとしているオーベルクの街を歩き、イザベルの薬屋(くすりや)の前にやってきました。



「さあ、地下(ちか)に降りようか。イザベル、(たの)むよ。」



「はい。」



イザベルが『(かく)()』への入り口を開けようとした時、どこからか男たちの大声が聞こえていました。



「おおおおおおっ!」



イザベルはビクッと体を(ふる)わせました。



「…橋に集まっている男たちの声だろう。オットー様が激励(げきれい)したに(ちが)いない。」



「え、ええ、そうですよね…。」



イザベルは引きつった()みを()かべて地下(ちか)への扉を開けました。



(イザベルもさすがに平常心(へいじょうしん)(たも)てないか…)



オリバーは苦笑いし、イザベルの後に続いて地下(ちか)へ降りて行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



(かく)()』ではヴォルフとクララ様がオリバーを待っていました。ヴォルフも緊張(きんちょう)しているようです。



「いよいよだな、オリバー…。」



「ああ…。ラルフとヨウフェイもここに残す。三人でクララ様をお守りしてくれ。」



「ああ、わかってる。だが、相手が街の中に()め込んでこない(かぎ)りは俺たちはここに居続(いつづ)けることにする。」



「もちろんだ。そうしてくれ。ヨウフェイも気をつけろよ。」



「じっとしているのは好きじゃないけど、クララのためネ。大丈夫ヨ。」



そう言ってヨウフェイは元気に短剣(たんけん)を振りまわしました。



「ラルフも(たの)むぞ。」



「わっかりました!僕にできる(かぎ)りのことをしてみせますよ。」



「ヴォルフも、クロスボウの準備(じゅんび)はできているか?」



「ああ、大丈夫だ。ちょっとラルフが改造(かいぞう)してくれてな、三発まで同時に発射(はっしゃ)できるようになったんだ。」



ヴォルフは得意(とくい)げに自分のクロスボウをかざしました。



広範囲(こうはんい)への射撃(しゃげき)が可能になった。ただし、味方との連携(れんけい)確実(かくじつ)にしないと相打(あいう)ちになっちまうかもな。…普段(ふだん)でも複数本(ふくすうほん)を同時に()()ることができるアリスの腕前(うでまえ)(うらや)ましいよ。」



ヴォルフが言うと、アリスも笑い返しました。



「できるように努力(どりょく)したまでだ。正直、こんなことが起こらぬ限り、()れも使う機会(きかい)はないのだがな。」



ラルフがヴォルフに注意をしました。



「少し構造(こうぞう)複雑(ふくざつ)になっているので、()()まったりしやすくなっているかもしれません。いざという時にそういうふうにならないように、十分に注意してくださいね。」



「はは、わかった。気をつけるようにするよ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



笑いながら話す仲間たちを残して、オリバーはクララ様のいらっしゃる奥の部屋に入りました。中で(すわ)っていらっしゃったクララ様も、緊張(きんちょう)されている様子です。



「ローゼンハイン殿…。ついに時がやって来たのですね…。」



「はい…。ヴォルフの他、(わたし)の仲間も二名、護衛(ごえい)に残します。ラルフとヨウフェイです。ですので、どうかご安心ください。」



「わかりました。ありがとうございます。(わたし)弱気(よわき)ではいけませんね。ともかく皆さんのご活躍(かつやく)をお(いの)りします。」



「もったいなきお言葉…。」



「ヘルガ様のこともよろしくお(ねが)いします。」



「ええ、心得(こころえ)ております。無理はさせないようにいたします。」



「くれぐれもよろしくお(ねが)いします。…オリバーさんもどうぞお気をつけください。」



オリバーは以前のヘルガに続き、クララ様まで『オリバーさん』と呼んだので、びっくりしましたが、クララ様は少しだけいたずらっぽく笑っておっしゃいました。



「…少しでも気をやわらげられるかと思って…。(おどろ)かせてしまって申し訳ありませんね。」



オリバーは苦笑いしました。



「いえ、確かに少し落ち着きました。ありがとうございます。…(おどろ)いたことも(しか)りですが…。」



「ともかく、頑張ってください。わたしはここで(いの)ることしかできませんから…。」



「わかりました。では行ってまいります。…みんな!行こう!」



「おおーっ!」



仲間たちは元気よく返事をし、『(かく)()』を後にしました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



オリバーたちは橋の上にやってきました。そこではオットー様と義勇兵(ぎゆうへい)たちが待っていました。



「おお、ローゼンハイン殿。(まい)られたか。」



「お待たせしました、オットー様。」



「なに、大したことはない。たった今、皆の結束(けっそく)を深めさせたところだ。…ところで、戦力(せんりょく)配置(はいち)だが、ローゼンハイン殿はどのようにすればよいと思う?」



オリバーはしばらく目を閉じて考えていましたが、やがて少し自信なさげに言いました。



(わたし)戦術家(せんじゅつか)ではないため、あくまで素人(しろうと)意見(いけん)となってしまいますが…。シャロンはある(しゅ)動死体(どうしたい)合成魔獣(ごうせいまじゅう)(あやつ)る、(やみ)魔術師(まじゅつし)です。(やみ)魔術(まじゅつ)にはその(もと)となる死者(ししゃ)(たましい)や、怨念(おんねん)が必要となります。」



「ほう…。ということは…。」



「ええ、シャロンは戦力(せんりょく)(ととの)えるのに墓地(ぼち)を使うと思われます。ですから、大きな墓地(ぼち)がある東側と北側に戦力(せんりょく)集中(しゅうちゅう)するのがよいのではないか、と…。」



オットー様は大きく(うなず)かれました。



「もっともな意見だ。それに(したが)うこととしよう。」



「では…(わたし)たちは街の東側に待機(たいき)します。」



オリバーが言うと、オットー様がおっしゃいました。



「いや、東側は()が守ろう。…勝手なことを言って申し訳ないのだが、東側の街道(かいどう)はパカロンに直接通じておる。



パカロンは()が生まれ育ち、これまでずっと(おさ)めてきた土地、そのパカロンの方から()めてくる敵ならば、()は何としてもこの手で撃滅(げきたい)したいのだ…。」



オットー様は申し訳なさそうに肩をすくめられましたが、オリバーは(うなず)きました。



「わかりました。では(わたし)たちは北側を守ります。パトリックとエミリーもそちらへ回します。必要に(おう)じてローズとアリスもそちらへ回すかもしれません。ともかく、東の守備(しゅび)はよろしくお願いいたします。」



「かたじけない、ローゼンハイン殿。」



オットー様はオリバーと固く握手(あくしゅ)をされました。その後、オットー様はヘルガにおっしゃいました。



「ヘルガ女王、今だけは女王としてのあなたに許可していただきたいことがございます。…この義勇兵(ぎゆうへい)たちをこの戦いの間、リバー王国の正規軍(せいきぐん)とし、(わたし)をその指揮官(しきかん)として欲しいのです。」



ヘルガは(おどろ)いてオリバーを見ました。オリバーは笑って言いました。



(わたし)からもお願いいたします、女王様。」



「もう、オリバーさん…。…わかりました。あなたのおっしゃる通りにいたしましょう。」



ヘルガはそう言って義勇兵(ぎゆうへい)たちに宣言(せんげん)しました。



「たった今よりあなた方をリバー王国の正規軍(せいきぐん)として採用(さいよう)します!指揮官(しきかん)オットー・フランツ殿の元で、敵を()(やぶ)るのです!」



義勇兵(ぎゆうへい)は一気に()き立ちました。太陽はもう半分見えなくなっています。オットー様は号令(ごうれい)をかけました。



「皆のもの!ついに決戦の時だ!オーベルクの東の平原(へいげん)(じん)(きず)くぞ!()に続け!」



「おおーっ!」



オットー様とパトリック、エミリーは馬をゆっくりと走らせ、義勇兵(ぎゆうへい)たちはその後を追いかけて行きました。後にはオリバーたちが残されました。



「…さあ、俺たちも北側へ急ごう!」



「おおーっ!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



いち早くオットー様たちが所定(しょてい)の位置に到着しました。



隊列(たいれつ)を組め!」



オットー様が号令(ごうれい)をかけると、義勇兵(ぎゆうへい)たちは素早(すばや)く三つの(たい)に分かれました。一晩(ひとばん)仕込(しこ)まれたとは思えないほどの無駄(むだ)のない統率力(とうそつりょく)です。



待機(たいき)!」



オットー様は(ふたた)号令(ごうれい)をかけ、それから(しず)む太陽を見送りました。そして太陽が完全に(しず)んだ瞬間(しゅんかん)、遠くの方から大勢(おおぜい)の人間が(ある)く音が聞こえてきました。



「…来るぞ!」



オットー様も義勇兵(ぎゆうへい)たちも身構(みがま)えました。やがてたくさんの兵士の姿(すがた)が見えてきました。オットー様はその姿(すがた)を見て苦い顔をされました。



「あれは…パカロン襲撃(しゅうげき)(さい)にナンジューマ方面に派遣(はけん)していた兵士たち…。」



「オットー様!あの兵を(ひき)いているのは!」



オットー様の横にいたパトリックが(おどろ)きを(かく)せずに叫びました。



「うむ…間違いない。あの漆黒(しっこく)(よろい)、キンフィールド城の衛兵隊長(えいへいたいちょう)、マティアス・ヌワールに間違いない…。」



「きっと…、これまであったように(たましい)を抜かれて動死体(どうしたい)にさせられているのでしょう…。」



エミリーが(くちびる)をかみしめて言いました。兵団(へいだん)はオットー様たちの目と鼻の先で止まりました。やはり、先頭に立っているのは初めのキンフィールド襲撃以来(しゅうげきいらい)行方不明(ゆくえふめい)になっていた衛兵隊長(えいへいたいちょう)、マティアスです。



オットー様がマティアスに話しかけようとした瞬間(しゅんかん)、どこからともなくシャロンが(あらわ)れました。



「あらあら…。(わたし)歯向(はむ)かう命知らずがローゼンハインの他にいるのかと思えば…、()(いぬ)のオットー・フランツではありませんか。」



義勇兵(ぎゆうへい)たちは途端(とたん)(いか)りの声をあげましたが、オットー様が手をあげてそれを(せい)しました。



「…いかにも、()()(いぬ)のオットー・フランツだ。だが…貴様(きさま)はその()(いぬ)がこうして戦いに出てくることを予想(よそう)していたのではないか?()のために、これほどまでの(おく)(もの)をしてくれるとは。」



シャロンが不敵(ふてき)に笑いました。



()(いぬ)とは言え、判断力(はんだんりょく)はさすがですのね。ええ、この衛兵隊長(えいへいたいちょう)(ひき)いるパカロン軍はあなた方が心おきなく黄泉(よみ)(くに)へ旅立つことができるようにという、(わたし)からの心からの(おく)(もの)です。」



シャロンが言った瞬間(しゅんかん)、マティアスの後ろの兵団(へいだん)不気味(ぶきみ)()たけびをあげました。オットー様がシャロンにたずねました。



「…一つだけ答えてくれ。この兵士たちに、意思(いし)はあるのか?」



「ええ、もちろん。マティアス・ヌワールはもう死んでいますが、他の兵士たちは生きています。(わたし)(じゅつ)をかけ、自分の意思(いし)であなた方を攻撃(こうげき)するようにしています。意思(いし)のない奴隷(どれい)など、面白くありませんもの。」



「そうか、それならむしろ好都合(こうつごう)だ。」



オットー様は不敵(ふてき)に笑い、義勇兵(ぎゆうへい)たちに宣言(せんげん)されました。



「皆よく聞け!敵は自分の意思(いし)を持って攻撃(こうげき)してくる。つまりそれは、正規軍(せいきぐん)のわれらに、リバー王国そのものに反旗(はんき)(ひるがえ)した謀反人(むほんにん)どもの集団(しゅうだん)ということになる!国を転覆(てんぷく)しようと(くわだ)てるものどもに容赦(ようしゃ)は不必要だ!完全に殲滅(せんめつ)せよ!」



「おおおおおおっ!」



義勇兵(ぎゆうへい)たちは()き立ちました。



突撃(とつげき)だ!()に続け!」



オットー様の号令(ごうれい)に、義勇兵(ぎゆうへい)たちは一気に突撃(とつげき)しました。シャロンはその様子を見てフッと笑うと、姿(すがた)を消しました。

ついに戦いの幕が開きました。オットー様の率いる義勇兵は、動死体化しているマティアスの率いる敵兵との交戦を開始しました。



次話ではオリバーと仲間たちがシャロンが直々に指揮をする動死体軍団と戦います。今回はいつもとは逆で、オリバーがシャロンを挑発するようですが…?どうぞお楽しみに!



ちなみにリリーが以前ヴォルフを探しに行った時に槍をもって来なかったのは、重いものを持ってついて行くとオリバーたちの足手まといになると考えたためです。仲のいいビアンカでもリリーが戦うところを直接見たことはありませんが、実際のリリーはとても強く、オリバーたちの仲間になっても堂々と戦えるほどの腕前です。



では次話をお楽しみに!

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