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暗黒の魔女  作者: kuma383
29/50

~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「28.魔神・アンドレアス」

どういうわけかは謎ですが、ローズの体に危険な存在である魔神がとりついてしまいました。しかし、イザベルが古い書物の中から、魔神と対話する方法を見つけたようです。

イザベルの言葉に、仲間たちは一斉(いっせい)にイザベルに注目(ちゅうもく)しました。オリバーは()()んでイザベルにたずねました。



「ま、魔神(ましん)対話(たいわ)できるだって!?」



「ビアンカさんの実家(じっか)書庫(しょこ)から持ってきてもらった本に書いてありました。早速(さっそく)(ため)してみようと思います。」



そう言ってイザベルは(ゆか)に何かの模様(もよう)(えが)き始めました。



「むー…、どうしてあたしの家の書庫(しょこ)にはこんな本まで眠っているんだろう…?」



首をかしげたビアンカに、オリバーが笑顔で声をかけました。



「ビアンカの実家(じっか)書庫(しょこ)は、本当にものすごい種類の蔵書(ぞうしょ)があるようだな。由緒(ゆいしょ)ある古い家系(かけい)なんだし、もしかしたら傍系(ぼうけい)魔術師(まじゅつし)もいたんじゃないのか?…とにかく、おかげでローズを救う方法が見つかるかもしれない。感謝(かんしゃ)するよ。」



「えへへ、そう言われると(うれ)しいな。」



オリバーたちが話している間にイザベルは本に書かれている図を正確(せいかく)(ゆか)に書きました。ロジェが近づくと、イザベルは(あわ)てて押しとどめました。



「いけません!今この線の中には強力な魔力(まりょく)が閉じ込められています。魔力(まりょく)を持たない人がこの中に入るとどうなってしまうか想像(そうぞう)もつきません。」



「え、あ、はい!すみません…。」



ロジェは顔を真っ青にして後ろに下がりました。それからしばらくイザベルは線を(えが)き続けていましたが、やがて書き終えました。その瞬間(しゅんかん)(えが)かれた線が青白く光り始めました。



「さあ、ローズさん。中心にある円の真ん中に立ってください。」



ローズは少しおびえたような表情をしていましたが、やがて意を(けっ)したように線の内側(うちがわ)に足を()み入れました。ローズは一瞬(いっしゅん)よろめきましたが、それでも円の中心にたどり着きました。



「いいですね、いきますよ。」



イザベルの呼び掛けに、ローズは青ざめた顔で(うなず)きました。イザベルは神経(しんけい)集中(しゅうちゅう)させていましたが、やがて高らかに叫びました。



魔神(ましん)()でよ!」



その瞬間(しゅんかん)、ローズが円の中で力なく倒れこみました。(たましい)()い取られたかのようです。ハンスとペーターが思わず()けだしそうになりましたが、さっきのイザベルとロジェのやり取りを思い出し、足を止めました。



ローズの体からはまるで(けむり)のような何かモヤモヤしたものが出てきました。そしてそれは間もなくうすぼんやりと人の形にまとまりました。オリバーは緊張(きんちょう)した様子で話しかけました。



「お前は、魔神(ましん)か。」



すると、低い威厳(いげん)のある男の声が聞こえてきました。



「いかにも。(わたし)魔神(ましん)だ。名はアンドレアスという。」



オリバーは勇気(ゆうき)を出して魔神(ましん)にたずねました。



「どうしてローズにとりついたんだ?そのわけを教えてくれ。」



「これは以前に(わたし)がとりついた者の(ねが)いだ。(わたし)はそれをかなえている。」



「以前にとりついていた者だって?」



レオンが(おどろ)いたように声をあげました。



「以前とりついていたのはどんな人間だったんですか?」



イザベルがたずねると、魔神(ましん)からは(おどろ)くべき答えが帰ってきました。



「あの屋敷(やしき)住人(じゅうにん)だ。名はガブリエル・ミニエーといった。」



オリバーは目を丸くしました。



「何だって?ミニエー家の人間が…。そのガブリエル・ミニエーという人はローズとはどのような関係なんだ?」



「知らん。この者がローズという名前だというのも初めて知った。」



「じゃあ、ガブリエル・ミニエーはお前に何を(ねが)ったんだ?」



「あの絵画(かいが)(うら)(かく)通路(つうろ)を初めて通った者を生涯(しょうがい)にわたって守護(しゅご)せよ、との(ねが)い、ガブリエルの二つ目の(ねが)いだった。あの男はあの屋敷(やしき)設計者(せっけいしゃ)だった。あの(かく)通路(つうろ)を通るのは最後の手段(しゅだん)だ。



だが、あの男は(わたし)最期(さいご)(ねが)い、三つ目の(ねが)いを(こと)づける前に、謀略(ぼうりゃく)によって命を落としてしまった。(わたし)でもこの一族(いちぞく)(おそ)った不幸(ふこう)はあまりにむごいように思う。」



仲間たちはアンドレアスが言っているのはギル大臣によるミニエー家()りのことなのだと理解(りかい)しました。アンドレアスは心底(しんそこ)残念(ざんねん)そうな声でつけたしました。



(わたし)が命を(うば)う前に命を落としてしまうとは…何とも残念な(かぎ)りだ。」



アンドレアスの言葉に、モニカがかみつきました。



「ちょ、ちょっと!それって結局はあなた自身、人の命を(うば)うことを楽しみにしているということじゃないですか!」



「当然だろう。たった三つとはいえ、(わたし)のような高貴(こうき)存在(そんざい)である魔神(ましん)が人間なぞの(ねが)いをかなえなければならないのだ。そのくらいの楽しみがあってもいいだろう。」



モニカはギラギラした目でアンドレアスを(にら)んでいます。



「…だがそなたたちに都合(つごう)よく解釈(かいしゃく)するとすると、魔神(ましん)という存在(そんざい)は間違いなく(ねが)いをかなえる存在(そんざい)だ。さらに、今回のことを(わたし)(ねが)ったのはガブリエルだ。つまり、(わたし)はその(ねが)いをかなえなければならない。」



「つまり、ローズに危害(きがい)(くわ)えることはいっさいしない、というわけか…。」



「そうだ。私自身(わたしじしん)尊厳(そんげん)(きず)つくことにはなるが、魔神(ましん)という存在(そんざい)尊厳(そんげん)(きず)つけることにはならないため、(わたし)も特に問題は感じていない。



…さて、そろそろこの者の体に戻るとしよう。その者の魔力(まりょく)()()てようとしている。」



オリバーが辺りを見渡(みわた)すと、イザベルがフラフラになりながら立っていました。今の間、ずっと魔力(まりょく)を送り続けていたのです。



「今後はこのような大掛(おおが)かりな儀式(ぎしき)を開かずとも、そなたたちの(もと)めに(おう)じて姿(すがた)(あらわ)すこととしよう。(わたし)を呼びたい時はこの者の左肩(ひだりかた)を三度叩け。ではごきげんよう。」



アンドレアスはそう言ってスッと姿(すがた)を消しました。それと同時に線から光が(うしな)われ、ローズがスッと立ち上がりました。



「ローズ!大丈夫!?」



ヘルガがローズに()()りました。オリバーが(あわ)てて押しとどめようとしましたが、ヘルガが線の内側に足を()み入れても何も起こりませんでした。他の仲間たちもローズの元に駆け寄りました。



「先生…。(わたし)は死ぬの…?先生たちに悪いことが起こるの…?」



ローズは(あきら)めたような顔でたずねました。しかし、オリバーは笑顔を見せて言いました。



「安心しろ、ローズ。魔神(ましん)危害(きがい)(くわ)えない。お前にも、俺たちにもだ。」



オリバーはローズに今あったことを話しました。ローズは少しだけ安心したようにホッと息をつきました。



「ガブリエル・ミニエーは(わたし)大伯父(おおおじ)祖父(そふ)の兄…。|両親と同じか、あるいはそれ以上に(わたし)のことを大事にしてくれた…。あの(かく)通路(つうろ)のことを教えてくれたのも、ヘルガと引き合わせてくれたのもガブリエル伯父様(おじさま)…。」



オリバーがヘルガの方を見ると、ヘルガは微笑(ほほえ)んで(うなず)きました。



「ガブリエル伯父様(おじさま)がしたことならば、(わたし)は信じる…。」



そう言ってローズは自分の左肩をポンポンポンと三度叩きました。途端(とたん)に、白いモヤモヤしたアンドレアスが(あらわ)われました。オリバーたちはギョッとしましたが、ローズはアンドレアスに言いました。



「アンドレアス…。これからよろしく…。(わたし)はローズ・ミニエー…。ガブリエル・ミニエーは(わたし)大伯父(おおおじ)…。」



「そうか、ではよろしく(たの)む。」



(わたし)は多分あなたをこき使う…。覚悟(かくご)して…。まずはテーブルにみんなが食べる分のお皿を用意して…。」



「いいだろう。」



アンドレアスはどこか(うれ)しそうな声で言うと、またスッと消えました。そして気づいた時にはテーブルには人数分のお皿が(なら)んでいました。



晩御飯(ばんごはん)の用意…みんな手伝って…。」



ローズはそう言って厨房(ちゅうぼう)の方に歩いて行きました。その後ろ姿はどこか(うれ)しそうでした。(あわ)ててハンスとペーター、アリスがその後を追って行きました。



「何はともあれ、ローズはある意味、自分の家族にとても(ちか)しい存在(そんざい)(つね)に一緒にいられるようになったんだ。(うれ)しいんだろうね。」



パトリックが言うと、オリバーは無言(むごん)でうなずきました。その表情にはどこか安心したようなものさえありました。



「それでも…(わたし)魔神(ましん)がとりついていることには反対です。今更(いまさら)どうしようもできないということはもちろんわかっていますけど…。」



モニカは不満(ふまん)そうです。



「どうしてそう思うんだ?アンドレアスだってローズにも俺たちにも危害(きがい)(くわ)えねぇって言ってたじゃねぇか。」



レオンが怪訝(けげん)そうに言いましたが、モニカの剣幕(けんまく)に気おされてしまいました。



「レオンさん!魔神(ましん)が口にしていたのを覚えているでしょう!魔神(ましん)は自分こそが高貴(こうき)存在(そんざい)で、人間は下等(かとう)なものとしか認識(にんしき)していないんです!人の命を(うば)うことを生きがいとしている、むしろ、そのために生まれてきたような存在(そんざい)なんです!」



「わ、わかったわかった!わかったからそんなに大きな声を出すなよ。」



レオンは思わず肩をすくめました。パトリックはそれを見て苦笑いしました。



「まあまあ、モニカ。落ち着くんだ。彼はただ(たん)に前の主人(しゅじん)(ねが)いをかなえているだけだ。ローズ自身も納得(なっとく)しているんだし、とりたてて(さわ)ぐほどのことでもないと思うけどな。」



「パトリックさんまで…。イザベルさん!あなたなら…、」



「…モニカさん、何でもかんでも(うたが)ってはいけません。(わたし)も最近、そのことを(まな)びました。(わたし)もとりあえずはあの魔神(ましん)は安全だと思います。ただ、あの魔神(ましん)のことはもっとよく理解(りかい)しなければなりません。もっと接触(せっしょく)(こころ)みましょう。」



そう言ってイザベルはローズたちが消えた厨房(ちゅうぼう)へと消えて行きました。



「そんな、イザベルさんまで…。」



モニカはひどく落胆(らくたん)したようです。パトリックとレオンはそれを見て苦笑いしました。



「パトリックさん、馬たちに(えさ)をやってこようと思うのですが、一緒に来ますか?」



エミリーがパトリックに声をかけました。



「ああ、いいね。行こうか。」



パトリックは立ち上がりました。するとレオンが口をとがらせました。



「おいおい、パトリック。俺とチェスをする予定だったろう?せっかく夕食までの()き時間があるんだ、やろうぜ。」



「はは、悪いね。最近フランソワにかまってやれていないから、へそを曲げられているかもしれない。モニカ、(わたし)()わりにレオンとチェスをしてくれ。」



「ええ?何だよ、お前じゃないのかよ。何だかつまらないなぁ…。」



「はは、安心するんだ。モニカには(わたし)がみっちりとチェスを教え込んだ。相手にとって不足はないはずだよ。」



そう言ってパトリックはエミリーとともに宿を出て行きました。モニカは(ふく)れっ(つら)をしています。



「もう、誰にも(わたし)の心配をわかってもらえないし、パトリックさんはエミリーさんにとられるし!もう頭に来た!レオンさん!そこに座って下さい!完膚(かんぷ)なきまでに(たた)きのめしてやります!」



「お、おう…。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



夕食の席は(にぎ)やかでした。ただ一人、レオンだけはチェスで完全にモニカにやり込められ、(たましい)が抜けたようになっていました。



「お姉さま、ヘルガさん、先ほどパトリックさんと相談(そうだん)したのですが…、明日は四人で()りに()きませぬか?馬たちも久しぶりに外を走りたそうにしておりました。」



エミリーが言うと、アリスもヘルガも(うれ)しそうにしました。なぜかロジェも(うれ)しさを(かく)せないようです。



「ええ、いいわ。森の中を走るのなんて、(わたし)、初めて。楽しみだわ。」



「うむ、()れもたまにカトリーヌに乗って走り回りたいと思っていたところだ。…ちなみに言っておくが、ロジェ。()りに行くのは訓練(くんれん)の後だ。それまでは今まで通り()れらがみっちり訓練(くんれん)をする。覚悟(かくご)をしておけ。」



ロジェは絶望(ぜつぼう)に打ちひしがれたような表情をしました。ラルフが(なぐさ)めるように肩をポンと叩きました。



「ラルフも最近はあたしたちと試合(しあい)ができるくらいにまでになったんだよ。」



ビアンカが自分のことのように胸を張りました。オリバーも(うれ)しそうです。



「すごいじゃないか、ラルフ。」



「みなさんの指導(しどう)素晴(すば)らしいからですよ。」



ラルフは謙遜(けんそん)しましたが、それでも()みがこぼれてくるのは(かく)せないようです。一方でペーターはひどく落ち込んだ表情をしています。



「あー…、ペーター、ラルフと試合(しあい)やって負けたんだよね…。」



ビアンカが()(どく)そうに、しかしどこか楽しそうに言いました。



「オマエはいつも油断(ゆだん)しすぎネ。普段(ふだん)から(なま)けていたから自業自得(じごうじとく)ネ。油断大敵(ゆだんたいてき)ネ。」



ヨウフェイが(むずか)しい言葉を使ったので、オリバーはびっくりしました。



「ヨウフェイ、ずいぶんと(むずか)しい言葉を知ってるな。」



「クララに教えてもらったヨ!クララはいい先生ネ!」



ヨウフェイは無邪気(むじゃき)に言いました。横でチュンフェイも微笑(ほほえ)んでいます。



「ああ、そう言えば二人とも文字を習っているんだったな。そういうことは場合によって新しい(わざ)を覚えることよりも重要(じゅうよう)だったりするからな。これからもがんばれよ。」



「もちろんネ!」



ヨウフェイは元気いっぱいに返事をしました。それからオリバーは仲間たちに声をかけました。



「さあ、そろそろ夜も(おそ)い。もう寝るとしよう。アリスたちも明日になったら()りをするんならなおさらだ。今日もいろいろなことがあったからな、みんな疲れただろう。ゆっくり休むんだ。明日に(そな)えよう。」



オリバーの言葉に、仲間たちは次々と立ち上がりました。イザベルは薬屋(くすりや)に戻るようです。



「ほら、レオン、立つんだ。ほら、言っただろう?モニカには(わたし)がチェスを指導(しどう)した、と。」



「立てって、ペーター。明日の訓練(くんれん)で頑張ろうよ。ラルフさんだって真剣(しんけん)だったんだから、そりゃあ油断(ゆだん)したらやられるって。」



パトリックとハンスがそれぞれレオンとペーターを引っ張り上げて立たせました。オリバーはその様子を苦笑いしながら見ていました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



人物紹介


~アンドレアス~

・「魔神(ましん)

年齢不詳(ねんれいふしょう)数千歳(すうせんさい)と思われる。

人外(じんがい)の力で戦う。

・一人称は「(わたし)

・ローズにとりついた魔神(ましん)。ローズの大伯父(おおおじ)、ガブリエル・ミニエーの二つ目の(ねが)いによって、ローズを守護(しゅご)することとなった。基本的(きほんてき)には他の魔神(ましん)と変わらず、魔神(ましん)高貴(こうき)存在(そんざい)で、人間の命を(うば)うことも楽しみの一つと考えているが、人間とかかわりを持つことも(きら)いではない。実は少しいたずら好き。ガブリエルのことは一人の人間としてはとても気に入っていたので、その一族であるローズにもかなり好感(こうかん)を持っている様子。

ローズにとりついた魔神アンドレアスは、ローズに危害を加える存在ではなく、逆にローズを守ってくれる存在だということがわかりました。オリバーたちも嬉しそうなローズを見て、ひとまず安心したようです。ただ、一人ほど状況に溶け込めない仲間もいるようですが…。



次話ではいよいよ訓練も大詰めとなります。仲間たちの技術も格段に上がり、ついにモニカの新しい魔術も完成するようです。どうぞお楽しみに!



ちなみに大げさな儀式を開かずとも召喚することができるのに、アンドレアスが出てこなかった理由は、少しいたずら心が芽生え、イザベルが正確に召喚用の図を書けるかどうか試してみたいと思ったためです。



では次話をお楽しみに!

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