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暗黒の魔女  作者: kuma383
28/50

~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「27.見えざる手」

今日もオリバーと仲間たちはシャロンと戦うための訓練を続けています。しかし、ローズの魔術は思った以上にうまくいかず、本人もオリバーも少しイライラしてきているようです。

ミニエー家のお屋敷(やしき)では、今日も言い(あらそ)う声が聞こえてきます。



「だから、何度も言っているように魔力(まりょく)消耗(しょうもう)した状態(じょうたい)魔術(まじゅつ)訓練(くんれん)を続けることは危険なんだ。どうしてわかってくれないかな…。」



オリバーは心底残念(しんそこざんねん)そうな表情をしました。しかし、今日はローズも負けじと食い下がります。



「先生たちは特訓(とっくん)している時にイザベルに回復術(かいふくじゅつ)をかけてもらっている…。でも(わたし)はかけてもらえない…。こんなことは不公平(ふこうへい)…。」



「それも説明しただろう?イザベルの今やっている緊急回復術きんきゅうかいふくじゅつ連発(れんぱつ)できないんだ。魔力(まりょく)大量(たいりょう)消費(しょうひ)しちまうからな。同時に俺やモニカはお前よりもはるかに多い魔力(まりょく)を体に(たくわ)えている。魔力(まりょく)消費(しょうひ)するサイクルはお前よりもずっと長いんだ。お前にたいしてイザベルが緊急回復術きんきゅうかいふくじゅつを使うとなるとイザベルは必要以上の魔力(まりょく)消費(しょうひ)してしまい、(ぎゃく)にイザベルが危険な状態(じょうたい)になってしまうんだ。」



オリバーの言葉には何とか納得(なっとく)してほしいという願望(がんぼう)が込められていましたが、その願いは(かな)わなかったようです。



(わたし)だってみんなのためになるように頑張りたい…。魔力(まりょく)が戻るまでただじっと待つだけなんて我慢(がまん)できない…。」



「だから、魔力(まりょく)消費(しょうひ)してしまった場合、今のお前にはじっと休んでいることが一番早い、」



「もう、いい…。今の先生には(たよ)りたくない…。過保護(かほご)…。」



ローズはプイッとそっぽを向くと部屋を飛び出しました。



「おい、待て、ローズ!」



オリバーは(あわ)ててローズを追いましたが、廊下(ろうか)の角を曲がった途端(とたん)見失(みうしな)ってしまいました。



「どうしたんですか!」



(さわ)ぎを聞きつけて別の部屋からイザベルとモニカが飛び出してきました。(こおり)魔術(まじゅつ)が少し失敗したらしく、二人の(かみ)の毛は少し(こお)りついていて、(くちびる)も真っ青でした。オリバーはそれと同じくらい青い顔をして言いました。



「ああ、二人とも。実はローズが…、」



オリバーは平常心(へいじょうしん)を失ったようにさっきのことを話しました。イザベルとモニカは初めのうち(あせ)った表情で話を聞いていましたが、やがて安心したような表情に戻りました。



「心配はありません、オリバーさん。ちょっと平常心(へいじょうしん)を失ってしまっただけです。その時も、今も。そして、オリバーさんもローズさんも。」



イザベルはオリバーを落ち着かせるように言いましたが、オリバーはまだ混乱(こんらん)しているようです。



「だがローズはこの角を曲がった瞬間(しゅんかん)姿(すがた)を消したんだ。もしかしたらシャロンに連れ去られたり…、」



「オリバーさん、このお屋敷(やしき)魔術(まじゅつ)による防護線(ぼうごせん)幾重(いくえ)にも()(めぐ)らせています。(わたし)魔術(まじゅつ)がどこまでシャロンに通用(つうよう)するかわかりませんが、少なくともローズさんをこのお屋敷(やしき)から消し去るようなまねは絶対にさせませんよ。」



外に出てしまった場合は保証(ほしょう)できない、とイザベルは言いかけましたが、オリバーを安心させるために彼女はただ胸を張りました。



「あ、ほら、オリバーさん。この絵の(うら)(かく)通路(つうろ)になっていますよ。きっとローズさんはこれを使ったんですよ。小さい頃に住んでいたわけですから、こういったものの存在を知っていたんだと思いますよ。」



モニカも安心させるように言いました。オリバーはようやく気持ちが落ち着いてきたようです。



「少なくとも(わたし)はしばらくしたらローズさんは間違いなくここに戻ってくると思いますよ。さあ、(わたし)たちもそれまで訓練(くんれん)を続けましょう。オリバーさん、モニカさんの魔力線(まりょくせん)上達(じょうたつ)ぶりを見てください。ついにお部屋の中くらいの広さなら魔力線(まりょくせん)を張ることができるようになったんですよ。」



イザベルとモニカはオリバーを引っ張って部屋の中に戻って行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方ローズは、モニカが見つけた通りの(かく)通路(つうろ)を通って外に出ていました。そのままローズは走り続け、森の奥の方にやってきました。そして手頃(てごろ)な木の()(かぶ)を見つけるとそこに腰掛(こしか)けました。



ローズはしばらくの間、疲れと(いか)りで、肩で(あら)い息をしていましたが、だんだんと呼吸(こきゅう)(ととの)ってくるとだんだん心細くなってきました。そして、あまりに突然飛び出してきたせいで短剣(たんけん)をお屋敷(やしき)()(わす)れてきてしまったことに気がつきました。



心細さがより一層(いっそう)増すと同時に、ローズの心の中には少しずつ後悔(こうかい)も生まれてきました。ローズはのろのろと立ち上がると、ゆっくりとお屋敷(やしき)へ今来た道を歩き始めました。



しかし、ローズが何歩も歩かないうちに、低いうなり声が聞こえてきました。ローズがサッと顔をあげると、(おおかみ)のような魔獣(まじゅう)がローズににらみを()かせていました。しかしローズはまったくひるまず、魔獣(まじゅう)にピッと指を向けました。



「カースアタック…!」



しかし、何も起こりません。自分に魔力(まりょく)がまったく残っていないのだということが分かった瞬間(しゅんかん)、初めてローズは恐怖(きょうふ)で表情をこわばらせました。



「ポイズンラース…!ファイアーストーム…!」



ローズは知っている限りの魔術(まじゅつ)(とな)え続けました。魔獣(まじゅう)は今にも飛びかからんばかりに身構(みがま)えています。



「フィクセイション…あっ…。」



ついに魔獣(まじゅう)が飛びかかってきました。ローズは観念(かんねん)し、目をギュッと閉じました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



数秒後、ローズは自分がまだ目を閉じたまま立っていることに(おどろ)くと同時に、背中に奇妙(きみょう)感覚(かんかく)があることに気づき、(おそ)(おそ)る目を開けました。



目の前で、なぜか自分を(おそ)ったはずの魔獣(まじゅう)がもだえ苦しんでいます。まるで首を()められているかのようです。



と、ローズは自分の背中にある感覚(かんかく)は、そこから見えない腕のようなものが()えているのではないかと思いました。ローズは魔獣(まじゅう)(くわ)える力をより強くするように(ねん)じました。すると(あん)(じょう)魔獣(まじゅう)はいっそう苦しみました。やがて魔獣(まじゅう)息絶(いきた)えました。



ローズは今度は見えない手が高いところにある木の実を取るように(ねん)じました。すると、(まばた)きをする間もなくローズの手元に果物が(とど)けられました。ローズは(おこ)って飛び出してきたこともすっかり(わす)れ、早くこのことを伝えようとお屋敷(やしき)に向かって走り出しました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ローズがお屋敷(やしき)に戻ると、玄関(げんかん)のところで待っていたオリバーが申し訳なさそうに言いました。



「ローズ!さっきは本当にすまなかった。俺ももう少ししっかりとお前の気持ちを理解(りかい)して、」



「そのことはもう大丈夫…。それよりも先生に見てもらいたいものがある…。イザベルにもモニカにも…。すぐに魔獣(まじゅう)召喚(しょうかん)してほしい…。」



オリバーは少し面喰(めんくら)ったようでしたが、(だま)ってうなずくとローズを連れて中に入って行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



部屋の中ではモニカが(こおり)(かべ)を完成させていたところでした。



「イザベル、モニカ、ローズが何か見てほしいものがあるそうだ。ちょっといいかな?」



オリバーの言葉に、イザベルとモニカが近寄ってきました。オリバーはローズに(うなが)されるままに魔獣(まじゅう)召喚(しょうかん)しました。



「フィクセイション!…さあ、ローズ。動きを止めたぞ。」



ローズは(うなず)くと、また背中の見えない手に魔獣(まじゅう)()(ころ)すように強く(ねん)じました。すると先ほどと同じように魔獣(まじゅう)は苦しみ出しました。そしてしばらくするとぱったりと動かなくなりました。



次にローズは部屋の(はし)の方にあった小さな小瓶(こびん)を手元に持ってくるように(ねん)じました。果たして小瓶(こびん)は、すぐさまローズの手元に(おさ)まりました。ローズは小瓶(こびん)を手にしたままオリバーたちの方を振り返りました。



モニカは感激(かんげき)したような目でローズを見ていましたが、一方でオリバーとイザベルは真っ青な顔をしています。ローズは直感的(ちょっかんてき)に、モニカの反応(はんのう)が間違いで、オリバーたちの反応(はんのう)が正しいのだと(さと)りました。



「先生…、イザベル…、これはいったいどういうことなの…?」



オリバーはローズからの問いに答えず、(ぎゃく)(ふる)えながらローズに質問(しつもん)しました。



「ローズ…、お前、いつから『魔神憑(ましんつ)き』になったんだ…?」



魔神憑(ましんつ)き…魔神憑(ましんつ)き!?」



モニカがおびえたような声を出しました。



(わたし)はてっきり言葉を(はっ)しなくても魔術(まじゅつ)ができるようになったのかと思っていたのに!」



「ええ、無言術(むごんじゅつ)ならばどれほどよかったことでしょう…。まさか魔神憑(ましんつ)きとは…。」



「さっきから何を言っているのかわからない…。魔神(ましん)なんとかが何なのか(わたし)にはわからない…。」



ローズが少しイライラしたように言いました。



「…すまない、ローズ。だが俺たちも今のお前の状況(じょうきょう)について(くわ)しく知る必要があるみたいだ。とりあえず、屋敷(やしき)を出てからのことを(くわ)しく教えてくれ。」



ローズはお屋敷(やしき)を飛び出してからのことを事細(ことこま)かにオリバーに話しました。



「ううん…。今までローズが魔神憑(ましんつ)きでなかったことを考えると、その途中(とちゅう)のどこかで魔神(ましん)にとりつかれたか…。」



オリバーは弱った顔で考え込むような顔をしました。ローズは少しイライラした口調(くちょう)で言いました。



「先生…、さっきから言っている魔神憑(ましんつ)きというものが(わたし)にはわからない…。」



「ああ、魔神憑(ましんつ)きとは、まあその名の通りに魔神(ましん)にとりつかれた人間のことを言う。一般的に魔神(ましん)はとりついた人間の願いを三つ(かな)えると、命を(うば)うとされているんだ。」



その言葉を聞いた瞬間(しゅんかん)、ローズは顔を真っ青にしました。しかし、すぐに不思議そうな表情をしました。



「先生…。(わたし)はもう四つお願いを(かな)えてもらった…。」



「なっ、何だって?」



オリバーはローズの言葉に(おどろ)きました。



魔獣(まじゅう)(おそ)われた時に一回…、果物(くだもの)を取ってもらう時に一回…、召喚(しょうかん)した魔獣(まじゅう)を倒す時に一回…、小瓶(こびん)を持ってきてもらう時に一回…。」



オリバーは(おそ)ろしげにローズをまじまじと見ましたが、ローズの身に何も起こっていないことを確認(かくにん)すると、不思議そうに首をかしげました。



「確かに…、そもそも魔神(ましん)素直(すなお)にとりついたものの言うことを聞くとも思えない…。だがローズに魔神(ましん)()いていることは間違いないようだな…。」



オリバーは(おそ)(おそ)るといった様子でローズをながめました。ローズはさらに不機嫌(ふきげん)そうです。



「どうやら魔神(ましん)について(くわ)しく調(しら)べる必要がありそうですね。今日はもう帰りましょう。そして魔神(まじゅう)に関する記述(きじゅつ)研究(けんきゅう)しましょう。」



イザベルの提案(ていあん)にオリバーは賛成(さんせい)し、四人はオーベルクの宿屋に帰ることになりました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



宿に帰るとオリバーとイザベルは部屋にこもり切ってさまざまな書物(しょもつ)を読みあさりました。それに(くわ)え、夕方になって帰ってきたビアンカに(たの)み、実家(じっか)書庫(しょこ)にあった参考(さんこう)になりそうな書物(しょもつ)をたくさん持ってきてもらっていました。



ローズはというと、むっつりと()(だま)ったまま宿の一階にポツンと座っています。オリバーたちとは違い、魔術(まじゅつ)を使わない仲間たちはローズに感心(かんしん)しているようです。



「すごいぜ、ローズ!モニカから聞いたけど、何かお前、すごいんだってな!」



マチルドがニヤニヤしながら言いました。



「そんな魔神(ましん)なんとかになれるなんて、(たい)した(やつ)だぜ!」



レオンも興奮(こうふん)しています。



「皆さん!これは危険な状況(じょうきょう)なんですよ!ローズさんは魔神(ましん)に命を(うば)われる可能性もあるんです!魔神(ましん)魔術師(まじゅつし)の間では信用できないものの筆頭(ひっとう)として(あつか)われてきているんですよ!」



モニカがぶんぶん手を振りまわしながら(おこ)ったように言いました。



「そうは言っても、ローズはすでに四度、魔神(ましん)とやらに願いをかなえてもらっているのだ。この時点で本来ならば考えられぬことがおこっているのだろう?では大丈夫なのではないか?」



「アリスさん!そんな悠長(ゆうちょう)なことを言って…パトリックさん!パトリックさんも何か言ってあげてください!」



「いや、(わたし)人外(じんがい)の力を自在(じざい)(あやつ)ることができるローズには敬意(けいい)(はら)いたいと思うよ。こんなことは(わたし)たちには無理だろうからね。」



「もう、パトリックさん!」



すると、二階からオリバーが疲れた顔で降りてきました。



「はぁ…。どうしようもないよ。記述(きじゅつ)によれば、『魔神(ましん)はとりついた対象(たいしょう)が命を落とすまで(はな)れることはない』だとさ…。普段(ふだん)なら魔神(ましん)は三つ願いをかなえた瞬間(しゅんかん)に命を(うば)うから、こんなことは全く想定外(そうていがい)だし、どうしたらいいのかもさっぱりわからん…。」



「そ、そんな!」



モニカは絶望(ぜつぼう)したようにうなだれました。



「それではローズさんがいつも命を(うば)われる危険と(とな)り合わせだということではないですか!」



ローズはただうつむいています。すると、バタバタと音を立ててイザベルとビアンカが階段を駆け下りてきました。



「オリバーさん!ローズさん!興味深(きょうみぶか)記述(きじゅつ)を見つけました!魔神(ましん)対話(たいわ)する方法です!」

訓練を続けていたオリバーたちですが、突然思いもよらない事件に見舞われたようです。果たしてこれはシャロンのワナなのでしょうか、それとも…。



次話ではオリバーたちがローズにとりついた魔神と対話することに成功します。はたして魔神がローズにとりついた理由とは…?どうぞお楽しみに!



ちなみにモニカも言っていた通り、魔神という存在は魔術師の間では忌み嫌われている存在です。魔術師たちは、魔神は高慢で信用ならないと考えており、逆に魔神は、魔術師たちをただの人間と変わらない下等な存在と認識しているのが一般的です。



では次話をお楽しみに!

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