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暗黒の魔女  作者: kuma383
27/50

~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「26.ただひたすらに」

オリバーたちはシャロンに対抗するための訓練を続けていました。彼らがいつも疲れてもどってくるので、オットー様は心配そうです。

オリバーたちが訓練(くんれん)を始めて五日が()ちました。オットー様は毎日(つか)れた表情で『(かく)()』に帰ってくるイザベルとハンスたちを見てたいそう心配されました。



「大丈夫か、訓練(くんれん)は相当に(きび)しいようだな。」



「はい…、レオンさんもビアンカも(きび)しくて…。」



ハンスがため息まじりに言いました。



「イザベル嬢も疲れがたまっているように見える…。イザベル嬢はどこにいるのだ?」



(おそ)らくはクララ様のところです。」



「ああ、なるほど…。」



「クララ様がヨウフェイたちに文字を教えることに協力(きょうりょく)して下さるということを聞いて、ペーターも喜んでいました。チュンフェイもヨウフェイも少しずつ文字を覚えているようです。」



「そうか、それは本当によかった…。」



オットー様はかすかに笑い、それから(はげ)しく()きこみました。



「オットー様?大丈夫ですか?」



ハンスが心配そうに言いましたが、オットー様は笑っておっしゃいました。



「心配は無用だ。環境(かんきょう)が変わり、少し体調(たいちょう)(くず)しただけだ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



チュンフェイにはペーターが、ヨウフェイにはイザベルとクララ様が二人がかりで文字を教えていました。



「…これが『お腹がすいた』、これが『疲れた』、これが『眠い』っていう意味。覚えた?」



ペーターがチュンフェイに聞くと、チュンフェイはペンをとり、ペーターが書いた文字をじっくり見ながらゆっくりと書き、自分と文字を交互(こうご)に指差しました。



「『疲れた、眠い』…。いや、まだ始まったばかりだからね?」



ペーターが困ったように言うと、チュンフェイは不機嫌(ふきげん)そうにしました。それを見てイザベルは思わず笑ってしまいました。クララ様はヨウフェイが書いた字をご(らん)になっています。



「そうそう、上手ね…。あなたはとても良い字を書くわ、ヨウフェイ。」



()められたネ!ヨウフェイ(うれ)しいヨ!」



イザベルが困ったようにたしなめました。



「ヨウフェイさん、クララ様に失礼(しつれい)ですよ。言葉をお(つつし)みなさい。」



しかし、クララ様は気になさっていないようです。



「いいのよ、イザベル。気にしないで。(わたし)も楽しいの。(むすめ)ができたみたいね。ともかく、文字を覚えるにはただひたすら手を動かすことが大切なのよ。この調子(ちょうし)で続けなさい。」



クララ様はそうおっしゃって熱心(ねっしん)に文字を書き続けるヨウフェイを見て目を細められました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



戦闘訓練(せんとうくんれん)は今日も続けられています。今日も試合(しあい)が行われている横でロジェはアリスとエミリーに(きた)えられています。



「むー…、(きた)えられているって言うかさ…、もう一方的に(いた)めつけられてるだけに見えなくもないよね…。」



ビアンカが(まゆ)をひそめて言いました。その瞬間(しゅんかん)もロジェはエミリーに吹っ飛ばされました。



「あたい、なんだかロジェの方が()(どく)になってきたぜ…。」



マチルドでさえも(あわれ)みの目を向けています。ラルフはもう目も当てられないようです。



「ああ、ロジェくんが紙くずのように…。」



「あの程度、どうということはない。それに見るのだ。ロジェも初めよりよい動きをするようになったではないか。」



ラルフの横でアリスが満足(まんぞく)げに(うなず)きました。



「それにしたって(きびし)しすぎますよ!パトリックさんやレオンさんは何も言わないんですか?」



ラルフが(いの)るような目で、猛烈(もうれつ)(いきお)いで試合(しあい)をしているパトリックとレオンを見ながらたずねました。



「レオンはハンスとペーターの指導(しどう)に集中できるから助かるとか言ってたし、パトリックは実際に効果(こうか)が出ているんならそれはそれでありだ、ってよ…。」



マチルドがため息をつきながら言いました。それを見てアリスが笑いました。



「まあ、そう()めるでない。()れらがこのように(きび)しく指導(しどう)しているのは何もいたずらにあやつを(いた)めつけたいからではないのだ。そこは理解(りかい)してもらいたいものだ。」



ロジェがまたエミリーに突き飛ばされました。エミリーはやれやれとため息をつくと、言いました。



相変(あいか)わらずのへっぴり(ごし)ね。このようなことが続くようなら、間違いなく一ヶ月後に死ぬと思うよ。…とにかくもう少ししたらお姉さまが相手をしてくれることでしょう。それまで休んで待っていなさい。」



ロジェはその言葉を聞いて真っ青な顔になりました。しかし呼吸(こきゅう)が上がり、言葉を(はっ)することができないようです。エミリーはクルリとロジェに背を向けると、アリスの元へ戻ってきました。エミリーがフッと()らした一言に、ラルフたちは表情が(こお)りつきました。



「ふう…。すっきりしました。」



「よく頑張ったな、エミリー。あやつも徐々(じょじょ)に動きが素早(すばや)くなってきた。これもひとえに()れらの訓練(くんれん)成果(せいか)だろう。今後もただひたすら頑張るのだ。」



「はいっ、お姉さま。」



ビアンカが大げさに顔をしかめて言いました。



「むー…。ここにローズがいないだけまだましなのかな…?」



「確かに…。ローズだったら間違いなくロジェを殺しにかかってたぜ?」



マチルドも大げさに目を見開きました。



「まあ、ローズも今なかなか大変らしいけどね…。」



「ああ、イザベルさん、魔術(まじゅつ)を教える時はとても(きび)しくなるらしいですもんね…。」



ラルフが苦笑いしましたが、ビアンカは首を振りました。



「いやさ、どうも(きび)しいのはイザベルだけじゃないんらしいんだよね…。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ミニエー家の一室(いっしつ)、オリバーの大声が(ひび)いていました。



「また失敗だ!集中(しゅうちゅう)できていないようだな、ローズ!」



「ごめんなさい…。」



しゅんとするローズを見て、オリバーはため息をつきました。



「お前はもとが魔術師(まじゅつし)じゃないから魔力(まりょく)消費(しょうひ)が俺たちよりも(はげ)しいんだ。同時に回復(かいふく)にも時間がかかる。だからこそ短い間に覚えてほしいんだ。少なくともゼロの状態(じょうたい)から魔術(まじゅつ)を覚えた一年半前よりはずっとやりやすいはずなんだがな…。」



「ごめんなさい…。もう一度やらせてほしい…。」



ローズは立ち上がりましたが、オリバーが押しとどめました。



「だめだ。魔力(まりょく)消耗(しょうもう)した状態(じょうたい)で無理に魔力(まりょく)を使うのは危険だ。もう少し休め。」



オリバーの言葉に、ローズは少し不満(ふまん)そうにしました。



「先生もイザベルもモニカも疲れていても魔術(まじゅつ)を使っている…。(わたし)も…。」



「だめだ。俺たちだって緊急(きんきゅう)の時にしか使わないからな。モニカが魔力(まりょく)を使い果たした時に気を(うしな)ったのを見ているはずだろう?」



「今だって緊急事態(きんきゅうじたい)…。一ヶ月後にシャロンが(おそ)ってくる…。」



不満顔(ふまんがお)でこぼすローズに、オリバーも少しイライラしているようです。



「ずいぶんと今日のお前は()っかかってくるな。だが、だめだと言ったらだめだ。それでしばらく魔術(まじゅつ)を使えないようになったら元も子もないだろう。今はじっとして体力と魔力(まりょく)回復(かいふく)するのを待て。」



ローズはまだ不満(ふまん)そうでしたが、それ以上、反論(はんろん)することはしませんでした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方モニカはオリジナルの魔術(まじゅつ)のため頑張っていました。しかし、第一段階の防護(ぼうご)魔力線(まりょくせん)を張るところでつまづいているようです。イザベルはそれをただ座って見ています。



「さあ、頑張ってください、モニカさん。」



イザベルがモニカを(はげ)まします。しかし魔力(まりょく)をどんどん使ってしまい、モニカはまた座り込んでしまいました。



「リバイバル!」



イザベルが叫ぶと、モニカは急に力が()いてくる感覚(かんかく)がしました。足もともふらつかず、しっかりと立ち上がることができました。



「さあ、これでまたできるはずです。今のはとてもいい感じでしたよ。」



笑顔のイザベルに、モニカは少し機嫌(きげん)(そこ)ねたように言いました。



「イザベルさん!そんなにかまってもらわなくても(わたし)は大丈夫です!そんなことよりも、イザベルさん自身の訓練(くんれん)をした方が絶対にいいはずです!」



イザベルはモニカの剣幕(けんまく)(おどろ)いたようですが、その後で困ったような笑顔を見せました。



「お気を悪くしてしまったようですね。しかし、これが(わたし)特訓(とっくん)なんです。」



「えっ?」



モニカが目を丸くすると、イザベルが話しだしました。



「今、(わたし)がかけた魔術(まじゅつ)消耗(しょうもう)した魔力(まりょく)や体力を完全に復活(ふっかつ)させる魔術(まじゅつ)です。しかし、同時に(わたし)も一度に魔力(まりょく)の半分近くを消費(しょうひ)してしまいます。ですからこれは、誰かが大きなダメージを受けた時の緊急用(きんきゅうよう)です。そのためにできるだけ体力や魔力(まりょく)消費(しょうひ)しないように、ここにじっと座っていたわけです。」



イザベルの話を聞いてモニカは申し訳なさそうに肩をすくめました。



「ごめんなさい、イザベルさん。何も知らないで勝手なことを言ってしまって…。」



しかしイザベルは首を横に振りました。



「いえ、どうぞお気になさらずに。(わたし)も説明していませんでしたからね。さあ、これでしばらくはまた続けて魔力線(まりょくせん)特訓(とっくん)をすることができるはずです。



正直、魔力線(まりょくせん)を張ることよりも魔力(まりょく)を体外に取り出したり、それを自在(じざい)(あやつ)ったりすることの方がはるかに困難(こんなん)です。当然、(わたし)もまだそんなことはできませんし、オリバーさんにもきっとできないでしょう。ですが、まずは魔力線(まりょくせん)を張るという(かべ)()()えなければその先の展望(てんぼう)はいっさい開けません。さあ、ただひたすらに頑張ってください。」



「はいっ!」



モニカは元気に返事をし、魔力線(まりょくせん)特訓(とっくん)専念(せんねん)しました。イザベルは笑顔でそれを見つめ続けていました。

厳しい訓練はまだまだ続くようです。そしてイザベルは緊急回復術を習得することができたようです。それにしても、ロジェが報われる日は来るのでしょうか…?



次話では魔術の訓練の仕方をめぐってオリバーとローズが口論になり、ローズは怒ってお屋敷を飛び出してしまいます。しかし、気持ちが落ち着いてきてお屋敷に戻ろうとしたローズの身に、何かの異変が訪れるようですが…どうぞお楽しみに!



ちなみに訓練時の武器組は、試合をするとき以外はだいたいレオンはハンスとペーターの相手をし、パトリックは半ば強引にチュンフェイの相手をさせられています。それぞれになかなか大変なことなので、二人ともロジェにかまっている余裕などないのです。かわいそうに…。



では次話をお楽しみに!

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