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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「25.訓練再び」

新しくヘルガが仲間に加わったオリバーたちは、一ヶ月後に迫ったシャロンとの対決のため、訓練を再開します。まずはミニエー家のお屋敷にいるオリバーたちから見てみましょう。

オリバー、イザベル、モニカ、そしてローズは以前に訓練(くんれん)に使ったミニエー家のお屋敷(やしき)に来ていました。



「さて、訓練(くんれん)を始めたいわけだが…、何から始めよう…?」



オリバーが少し困ったように首をかしげました。すると、モニカが言いました。



「オリバーさん、少し考えたんですけど…。シャロンは(わたし)たちのことをいろいろ調べてから(おそ)ってきているように感じます。例えばオリバーさんの過去(かこ)だったり、例えばチュンフェイさんがオリバーさんに良い感情(かんじょう)(いだ)いていなかったことだったり…。



だから、新しいことを始めるべきだと思います。例えば今までに使っていなかった魔術(まじゅつ)であったり…。あ、だから、今までに教えあってきた自分の専門外(せんもんがい)魔術(まじゅつ)(きわ)めることも一つの手だと思います。」



オリバーは(おどろ)いたように目を丸くしました。



「なるほど…。いい考えだな。最近のモニカは本当に(たよ)りになるよ。」



モニカは(うれ)しそうに顔を赤らめたので、ローズは少しだけムスッとしました。イザベルが続けました。



「ローズさんに魔術(まじゅつ)を覚えてもらうことも重要ですね…。ではこうしましょう。一日ずつ交代で一人、ローズさんに魔術(まじゅつ)を教えます。残りの二人はそれぞれ自分が覚えたい魔術(まじゅつ)を覚えるんです。どうですか?」



「うん、それでいいと思う。ローズはどうだ?」



オリバーからの問いかけに、ローズは(あわ)ててコクンと(うなず)きました。



「ようし、決まりだ。」



「では今日は(わたし)がローズさんに教えましょう。初歩(しょほ)(どく)魔術(まじゅつ)はもう使いこなせているようなので、一段階(いちだんかい)だけ上級(じょうきゅう)の『ポイズンブレス』を教えましょう。この魔術(まじゅつ)対象(たいしょう)の周りの空気を(どく)()たすものですが、風向きによっては(どく)が自分の方に流れてくる可能性があるので、正確(せいかく)観察力(かんさつりょく)がなければ(むずか)しいものです。魔術(まじゅつ)そのものは簡単なものなので、さっそく始めましょう。」



イザベルはローズを連れて別の部屋に入って行きました。



「オリバーさんはどんな魔術(まじゅつ)を覚えるつもりなんですか?」



モニカが聞くと、オリバーが答えました。



「ああ、昨日たまたま文献(ぶんけん)を読んでいて発見したものなんだが…、なかなか強力なものを見つけた。魔術(まじゅつ)の名前は『ブラッドアロー』だ。」



()()…。やっぱり(のろ)いの魔術(まじゅつ)ですか?」



「そうだ。だが威力(いりょく)絶大(ぜつだい)なようだ。通常(つうじょう)動死体(どうしたい)にさえもそこそこのダメージを(あた)えられるらしい…。早速(さっそく)やってみよう。」



オリバーはそう言って、魔獣(まじゅつ)召喚(しょうかん)し、動きを止めました。



「ようし、行くぞ。」



オリバーが呪文(じゅもん)(とな)える直前(ちょくぜん)、モニカはオリバーの顔が少し(ゆが)んだことに気づきました。



「ブラッドアロー!」



すると、どす黒い赤い色、まるで血のような色の光が魔獣(まじゅう)に向かって飛びました。魔獣(まじゅう)は苦しそうに鳴き声をあげましたが、しかしそれでもそこに立っていました。



「くっ、やっぱりこれだけでは威力(いりょく)が足りないか…。」



オリバーはそう言ったかと思うと(けん)を引き抜き、自分の腕に深く突き刺しました。傷口(きずぐち)から血がとめどなく出てきます。モニカは顔を真っ青にしました。



「お、オリバーさん!いったい何を!」



しかしオリバーは(いた)みに顔をゆがめながらも叫びました。



「ブラッドアロー!」



すると、先ほどのような不気味(ぶきみ)な色の光が、さっきよりもずっと強い(いきお)いで魔獣(まじゅう)に向かって飛びました。魔獣(まじゅう)は叫び声をあげる間もなく絶命(ぜつめい)しました。



「はぁ、はぁ…。モニカ、回復術(かいふくじゅつ)を…。」



「は、はい!リカバリー!」



モニカが(とな)えると、オリバーの傷口(きずぐち)はきれいにふさがりました。オリバーは苦笑いして言いました。



回復術(かいふくじゅつ)もうまくなったじゃないか。…今見てわかった通り、この魔術(まじゅつ)は使う者が血を流していなければ使えないものだ。その量が多ければ多いほど威力(いりょく)が大きくなる…。初めは口の中を()んでみたんだが、それでは全然、威力(いりょく)が足りないみたいだったよ…。」



「危険、ですね…。」



「ああ。でも(ぎゃく)に、自分自身がとても危険な状況(じょうきょう)になった時には強力な(じゅつ)になる。まあ、完全な反撃用(はんげきよう)魔術(まじゅつ)だな。」



オリバーはそう言うと、椅子(いす)に座りました。



「でもたったこれだけの回数で成功して良かったよ。少し休んだらあとはしばらく(どく)(こおり)魔術(まじゅつ)を練習することにしようかな。…モニカはどういう魔術(まじゅつ)を覚えるつもりなんだ?」



モニカは緊張(きんちょう)したような表情を見せました。



(わたし)(わたし)オリジナルのものをつくりだしてみたいと思います。この前、樹海(じゅかい)(ほのお)を食い止めるのに使った(こおり)(かべ)応用(おうよう)してみようと思います。」



「ほう、(くわ)しくきかせてくれよ。」



「はい。魔力線(まりょくせん)というものは自分の魔力(まりょく)を体の外にそのまま出したものらしいんです。ですから、訓練次第(くんれんしだい)では魔力(まりょく)(せん)(まく)のような感じではなく、(かたまり)として取り出すことも可能なようです。」



「なるほど、初耳(はつみみ)だな…。それで、どうするんだ?」



「自分自身から取り出した魔力(まりょく)ですから、それを自在(じざい)(あやつ)ることも可能です。(わたし)(かたまり)として取り出した魔力(まりょく)に前のように(こおり)魔術(まじゅつ)をかけ、それを敵に対して自在(じざい)にぶつけるようにしたいと思います。」



「なるほど…。それはおもしろいな。」



弱点(じゃくてん)(ほのお)魔術(まじゅつ)をかけられたら一気に()けてしまうことですが…時間稼(じかんかせ)ぎにはもってこいだと思います。まずは魔力(まりょく)を体の外にとりだすこと、というよりも、まずは魔力線(まりょくせん)を張ることから練習しようと思います。ですから時間がかかってしまうかもしれませんが…。」



応援(おうえん)しているよ。お(たが)いに頑張ろう。」



「はい、がんばりましょう!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



その(となり)の部屋では…、



「モニカ…。パトリックがいるのに…ぜいたく…。」



「はいはい、ローズさん!もう一度やり直しです!まったく、(わたし)(どく)耐性(たいせい)がなければ(わたし)はとっくにこの()とお別れをしています。」



「ごめん…、がんばる…。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方、他の仲間たちは短剣(たんけん)を使うマチルドたちも(ふく)めて一緒に森の中で訓練(くんれん)をすることになりました。同じ武器同士で戦うのではなく、すべての武器を使って試合(しあい)をしています。もっとも、弓矢(ゆみや)を使うわけにはいかないので、アリスとエミリーに関しては短剣(たんけん)を使っています。



()れらは訓練後(くんれんご)()りをするからな、弓矢(ゆみや)の練習はその時でも十分にできるのだ。」



「ようっし、次はパトリックとヘルガで試合(しあい)をして!みんな、二人からは参考(さんこう)になることがたくさんあると思うからね。」



ビアンカは元気に、しかし少しだけ(くや)しそうに言いました。仲間たちは()を作り、パトリックとヘルガはその中心で(けん)(かま)えました。チュンフェイはどこかバカにしたような目でヘルガを見ています。



「何だよ、チュンフェイ。パトリックと勝負できるのは自分だけ、とでも言いたそうだな。」



レオンが笑うと、チュンフェイは得意げに鼻を鳴らしました。



「まったく、お前だって一度もパトリックに勝てたことがねぇじゃねぇか。おあいこじゃねぇかよ。」



レオンの言葉にチュンフェイはジロリとレオンを(にら)みました。



「ようい、はじめ!」



ビアンカの号令(ごうれい)で、パトリックとヘルガは礼儀正(れいぎただ)しく一礼(いちれい)すると、突然(とつぜん)試合(しあい)を始めました。二人の(けん)さばきは(おどろ)くほど速く、剣先(けんさき)残像(ざんぞう)が見えるほどです。チュンフェイでさえもあんぐりと口を開けています。パトリックもヘルガも、顔を真っ赤にして戦い続けています。しかし、何分たっても決着はつきませんでした。ビアンカが(ふたた)号令(ごうれい)をかけました。



「やめ!引き分け!」



パトリックもヘルガも(あら)い息をしながら、また丁寧(ていねい)にお辞儀(じぎ)をしました。



「ふう、(おどろ)いたね。前に見た時もすばらしい(けん)さばきだと思ったけれど、いざ戦ってみると(あらた)めてそのすばらしさを実感(じっかん)できた…。貴重(きちょう)体験(たいけん)だったよ。」



(わたし)もとっても()経験(けいけん)をさせてもらったわ。ありがとう、パトリックさん。」



すると、チュンフェイが(おこ)ったように()の真ん中に(おど)り出ました。パトリックに対して失望(しつぼう)した、とでも言いたそうな表情をしています。パトリックもそれを(さと)ったようです。



「チュンフェイ、(わたし)は別に相手がヘルガだから手を抜いたとか、そう言ったことは一切(いっさい)していないよ。そんなことをするのはヘルガにも失礼(しつれい)だしね。」



「さすが、パトリックさんは紳士的(しんしてき)だなぁ。」



「モニカがいなくて残念だぜ…。」



ハンスとマチルドがニヤニヤしながら言いました。しかしチュンフェイはまったく気にすることなく、今度は(するど)い目でヘルガに(にら)みをきかせました。



「…姉さん、戦いたがってるヨ。勝負してくれるネ?」



ヨウフェイがヘルガに(たの)むと、ヘルガはにっこり笑いました。



「ええ、いいわ。さあ、チュンフェイ、勝負しましょう。」



ヘルガの言葉に、チュンフェイは号令(ごうれい)をかける間もなくものすごい(いきお)いで突進(とっしん)しました。しかしヘルガは落ち着いてチュンフェイの攻撃(こうげき)()けると、一気に反撃(はんげき)に出た、かに見えました。しかしヘルガはサッと身を低くすると、チュンフェイの足を払い、(ころ)ばせました。チュンフェイはころころと(ころ)がり、(けん)も落としてしまいました。



(わたし)の勝ちね。ごめんなさいね、とても疲れていたからこんな戦い方しかできなくて…。また(あらた)めて万全(ばんぜん)な時に勝負しましょう。」



ヘルガはそう言うと、木陰(こかげ)に座りました。



「何だかずるい戦い方だなぁ…。あんなの訓練用(くんれんよう)(けん)じゃないとできないじゃないか。」



ペーターが少し不満(ふまん)げに言いました。しかしレオンはそんなペーターにあきれ顔です。



「何を言っているんだ。お前はろくに見ていなかったんだろうが、ヘルガは的確(てきかく)に足の(けん)(ねら)って攻撃(こうげき)している。訓練用(くんれんよう)どころか、本物の(けん)であれをやられたら場合によっては二度と立ち上がれなくなるぞ。きっとヘルガは相手の動きを(ふう)じることに()けているんだ。あれは敵に回したくねぇな…。」



レオンは感心したように(うなず)きました。ペーターは心配そうにチュンフェイに近寄り、手を差しだしました。



「チュンフェイ、大丈夫か?」



チュンフェイは(うら)めしげにペーターを見ていましたが、やがてペーターの手を借りて立ち上がりました。



「さあさあ、次はハンスとレオンの試合(しあい)だから、二人ともどいたどいた!」



ビアンカにせかされ、二人は広場の(すみ)に追いやられました。チュンフェイはすぐにヨウフェイの元に歩いて行きました。すると入れ替わりにアリスとエミリーが歩み寄ってきました。



「本当にチュンフェイのことが気にかかるのだな、ペーター。」



「ほっ、ほっといてよ…。」



ペーターは顔を真っ赤にしてうつむきました。



「まあまあ、そんなに冷たく(あつか)わないでよ。いい話を持ってきたよ。」



エミリーの言葉にペーターはサッと顔をあげました。



「いい話って?」



アリスが説明しました。



「聞けば、チュンフェイとヨウフェイは()れらの言葉は話せるが、文字は読めぬのだという。だが話すことができぬチュンフェイが文字を覚えたらどうなるのだ?」



「なるほど…!チュンフェイと筆談(ひつだん)でもっといろいろ言葉を()わせる!」



ペーターの目がキラキラと(かがや)きました。



「ヨウフェイは文字を覚えたがっていたよ。きっとヨウフェイが(おそ)わればチュンフェイも一緒に覚えたがると思う。これは一つ考えてみる必要性(ひつようせい)があるかもね。」



「うん、わかったよ!」



ペーターはサッと立ち上がるとチュンフェイたちの方へ走って行きました。アリスとエミリーは苦笑いしました。



「考えるも何も、即決(そっけつ)ではないか…。」



「ペーターらしいですね。」



「うむ、まったくだ…。しかしそれにしても、ロジェの阿呆(あほう)はどこへ行ったのだ?どうも姿(すがた)が見えぬのだが…。」



アリスが少し不機嫌(ふきげん)そうに言うと、エミリーは小馬鹿(こばか)にしたように言いました。



「まあ、戦力(せんりょく)としてはいようがいまいが変わりはありませんからね。」



「ひ、ひどいなぁ…。」



二人の後ろから泣き出しそうな声が聞こえました。二人はその声の方にさめたような顔を向けました。



「…何だ、いたのか。」



「みんな必死に訓練(くんれん)しているのに(おく)れてくるとは…いい度胸(どきょう)だね。」



「あはは、僕が悪いんですよ。僕がロジェくんのために訓練用(くんれんよう)(やり)をつくってあげていましたからね。」



ロジェと一緒に来たラルフが頭をかきながら言いました。



「ふむ、そうなのか…。ご苦労だな、ラルフ。」



アリスはラルフに笑いかけました。ロジェは何やらふるえているようです。



「さっきから僕に対する態度(たいど)だけ冷たすぎる…!頭に来た!ぼ、僕と勝負してください!」



ロジェはラルフから(やり)をひったくると、アリスたちの方に向けました。それを見てアリスは鼻で笑いました。



「ふむ、いいだろう。戦いの基本(きほん)も知らぬ者に負けるわけにはゆかぬな。ようし、貴様(きさま)が一度でも()れに勝つことができたなら、少しは貴様(きさま)に対する態度(たいど)(あらた)めてやろう。では行くぞ!」



アリスは訓練用(くんれんよう)短剣(たんけん)を手に、ロジェに向かって突進(とっしん)しました。(またた)きをする間もなくロジェは(やり)を取り落とし、地面に(ころ)がりました。アリスはまるで楽しむような目でロジェを見ています。



「レオンはペーターやハンスの訓練(くんれん)にも(いそが)しいようだからな、この際、()れとエミリーで徹底的(てっていてき)貴様(きさま)(きた)えてやる。さあ、立つのだ!」



ラルフは引きつった笑顔でアリスを見ていましたが、(となり)のエミリーも邪悪(じゃあく)な笑みを浮かべてロジェを見ているのを確認すると、その笑顔さえも消えてしまいました。

オリバーたちは訓練を再開しました。さっそくオリバーは危険なものではあるとはいえ、強力な反撃魔術を身に付けたようです。



次話では訓練が続きます。アリスとエミリーによるロジェの訓練は過酷なものになっているようです。また、イザベルも新しい魔術を覚えたようです。どうぞお楽しみに!



ちなみに以前の描写でもありましたが、チュンフェイは『無言の呪い』をかけられているとはいえ、オリバーたちの言葉はしっかりと理解しています。ですから文字を覚えると、ペーターの言った通り意思の疎通もいくらかスムーズになるのです。



では次話をお楽しみに!

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