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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「24.ヘルガ・ディートリヒ」

パカロンがシャロンの手によって陥落したことにより、オットー様たちはオーベルクの『隠れ家』に身をひそめることになりました。そして、ヘルガ女王様がオリバーたちとともに戦いたいと志願してきました。

ヴォルフの宿、呆然(ぼうぜん)とする仲間たちの前で、オリバーは話を終えました。



「と、いうわけなんだ。」



「何ぃーっ!?」



レオンが()頓狂(とんきょう)な声をあげました。



「女王様が俺たちと一緒に戦うなんて…、しかも、最前線(さいぜんせん)でなんて…、あまりに危険すぎる!俺は反対だ!」



しかし、女王様は(ねつ)のこもった声でおっしゃいました。



(わたし)はみなさんが頑張ってこの国のために戦ってくださっているのに、私自身(わたしじしん)はただじっとしていなければならないということが我慢(がまん)ならないのです。ですから私自身(わたしじしん)(けん)を取り、ともに戦いたい、と…。」



「オットー様は何とおっしゃっていたんですか?」



ラルフがオリバーにたずねました。



「オットー様は初めは猛反対(もうはんたい)されたらしいんだが、女王様の熱意(ねつい)に打たれ、(みと)められたらしい。だから判断(はんだん)を下すのは俺たちなんだ。」



「いざという時のために、幼少(ようしょう)の頃より武器の訓練(くんれん)()かさず行ってきました。(けん)弓矢(ゆみや)も、人並(ひとな)み以上に(あつか)える自信はございますわ。」



女王様はそうおっしゃって、キラキラとした突剣(とっけん)を抜きました。レオンは女王様のあまりのやる気に唖然(あぜん)としてしまいました。



「だが…、俺たちでもシャロンが(つく)りだした魔獣(まじゅう)と戦うのには一苦労するんだ。生半可(なまはんか)なやる気だけではどうにも…。」



「あら、ブーランジェ殿。先ほども申しましたように、(わたし)幼少(ようしょう)の頃より(けん)弓矢(ゆみや)訓練(くんれん)を続けてきましたわ。その腕はフランツ殿のお墨付(すみつ)きなのですよ?信用できないようでしたら、一つお手合わせ願いたいのですが?」



女王様の不敵(ふてき)な笑みに、レオンは思わず後ずさりしてしまいました。



「いえ、あの、その。自分には(おそ)れ多くてとても…。」



「…ねえ、師匠(ししょう)。勝ち負けとか別にどうでもいいから、あたしにやらせてよ。女王様と試合(しあい)をさせていただけるなんて、こんな光栄(こうえい)なことはないからね!」



ビアンカが目をキラキラさせてオリバーに言いました。オリバーはビアンカの意思(いし)とは裏腹(うらはら)ではありますが、彼女の実力をもってすれば女王様の決意(けつい)()らぐのではないかと考えました。



「わかった、ビアンカ。女王様、このビアンカと試合(しあい)をしていただけますでしょうか?それが終わってから判断(はんだん)したいと思うのですが…。」



「ええ、かまいません。楽しみですわ。」



女王様はにっこり笑っておっしゃいました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



さて、ビアンカと女王様は訓練用(くんれんよう)(けん)(かま)えました。



「女王様もビアンカも突剣使(とっけんつか)いだ。より正確な判断(はんだん)ができそうだね。」



パトリックがそっとオリバーに耳打(みみう)ちしました。オリバーは(うなず)き、そして号令(ごうれい)をかけました。



試合開始(しあいかいし)!」



オリバーの声と同時に、ビアンカは一気に(けん)(かま)えて女王様に向かって行きました。しかし、女王様はぎりぎりまでビアンカを引き付けると、ビアンカの(けん)想像(そうぞう)以上の手さばきで払いのけました。



「うひゃあっ!」



ビアンカはいきなり体勢(たいせい)(くず)され、もんどりうって(ゆか)に倒れこみました。しかし、ビアンカもこれまで何度も戦いをくぐりぬけてきた実力があります。すぐに飛び起きると、向かってきた女王様の一撃(いちげき)をヒラリとかわした、かのように見えました。



「うわあわっ!」



女王様はビアンカの行動を読んでいたかのようにビアンカの足元をすくいました。ビアンカは予想外(よそうがい)のことに、ころころ(ころ)がってレオンの足元でようやく止まりました。レオンもオロオロしています。



「お、おい、ビアンカ。お前、いくら女王様相手だからって手を抜き過ぎじゃないのか?」



「むー!違うんだよ!あたしが本気を出していないんじゃなくて、女王様が本気を出す(すき)(あた)えてくれないんだよ!」



その後も女王様はビアンカを圧倒(あっとう)し続けました。オリバーが試合を止めるように指示した時にはもうビアンカは肩で息をしながら(ゆか)(ころ)がっていました。



「はぁ…。無理…。絶対…、勝てない…。」



一方で女王様は余裕(よゆう)たっぷりです。



「どうです?考えていただけました?」



オリバーはびっくりした表情のままでしたが、ハッと我に帰り、パトリックにたずねました。



「…どう思った、パトリック。」



(おどろ)いたなぁ…。一流(いちりゅう)剣士(けんし)レベルだよ、女王様は。(わたし)だって勝てるかどうかわからない。」



「まあ、ご謙遜(けんそん)を。」



女王様は笑っていますが、パトリックも度肝(どぎも)を抜かれたままのようです。他の仲間たちも女王様の実力に圧倒(あっとう)されたようです。オリバーは決断(けつだん)しました。



「…わかりました、女王様。(わたし)たちとともに、シャロンと戦いましょう。これからどうかよろしくお願いいたします。」



女王様は心から(うれ)しそうになさっています。



「ありがとうございます、オリバーさん。…もう仲間に入れていただいたのですから、(わたし)のことはヘルガ、と呼んでくださいね。」



「そ、そんな!(おそ)れ多くて、」



「いいのです。他の皆さんも、(わたし)のことはヘルガと呼んでください。…それでも呼びにくいのだとしたら、これはシャロンを倒すまでに女王として(わたし)が出す最後の命令です。わたしのことはヘルガと呼んでください。」



あまりのことに仲間たちも唖然(あぜん)としています。オリバーは意を決して言いました。



「…わかったよ、ヘルガ。これから力を合わせて頑張ろう!」



オリバーの言葉に、ヘルガは本当に(うれ)しそうにしました。



「部屋はどこでもかまいません。誰と一緒でもかまいませんわ。」



「じゃあアリスたちの部屋に入ってもらうことにしよう。アリス、エミリー。ヘルガを案内(あんない)するんだ。」



アリスとエミリーはしばらく口を開けていましたが、やがてハッと(われ)に帰り、ヘルガを二階へと連れて行きました。



「女王様…ヘルガさんがあれほどの(けん)の使い手だったなんて…本当に(おどろ)いたなぁ…。」



ロジェがつぶやきました。



「…ローズ、お前はあまり(おどろ)いていないようだったな。」



オリバーに言われると、ローズは(うなず)きました。



「女王…ヘルガのおてんばは今に始まったことじゃない…。お勉強の時間は逃げ出していつも(けん)弓矢(ゆみや)の練習ばかりしていた…。」



ローズは昔を(なつ)かしむように言いました。



「何はともあれ、心強い仲間がまた一人(くわ)わったことは(うれ)しいね。…(わたし)たちの方が()れるまでには相当な時間がかかりそうだけれど。」



パトリックの言葉に、仲間たちは思わず苦笑いしました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



翌日、オリバーはオットー様たちのお見舞(みま)いに行きました。イザベルの介抱(かいほう)もあって、二人ともたいそう元気そうに見えました。オットー様はヘルガがオリバーたちの仲間になったことを知ると、ため息まじりの笑みを浮かべました。



「確かに、ヘルガ女王は昔からおてんばなお方だった。()やアズナヴール殿はヘルガ女王が十歳の時から教育係(きょういくがかり)を引き継いだのだが…いつも野を駆けまわっておられたような気がする。



…あなたには大変な気苦労(きぐろう)をかけることにはなると思うのだが、ヘルガ女王は目的もなしに行動されることは絶対にないお方だ。このたびのことも、相当に思うところがおありになられたようなのだ。どうかよろしく(たの)みたい。」



オットー様はそう言ってから(せき)をなさいました。オットー様の言葉にオリバーはうなずくよりほかありませんでした。



「クララのところにも行ってやってほしい。クララも怪我(けが)をしたのでな。」



「はい、わかりました。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



クララ様にはイザベルとリリーが()()っていました。クララ様はオリバーを見て笑顔を見せられましたが、すぐに真剣(しんけん)な表情に戻りました。オリバーがそれを(さっ)しました。



「いかがなされましたか、クララ様。」



「ローゼンハイン殿…。一つお見せしたいものがございます。」



そう言ってクララ様は何か紙きれのようなものをオリバーに渡しました。オリバーは見た瞬間(しゅんかん)、ハッとしました。そこにはチュンフェイたちの国の文字が(えが)かれていたのです。



「パカロンが陥落(かんらく)した夜、夜空に緑色の(ほのお)がこのような模様(もよう)(えが)いていました。見たこともないものでしたが、何やら文字のように見えたので模写(もしゃ)したのですが…。」



「ありがとうございます、クララ様。(わたし)どもの仲間の一人がこの文字を()()くことができると思います。これはシャロンの次の行動を読む手掛(てが)かりとなりそうです。」



「それはよかった…。(わたし)たちもシャロンには(いきどお)りを感じております。どうかよろしくお願いいたします。」



「わかりました、クララ様。」



「ヘルガ女王様のこともよろしくお願いいたします。…そちらの二人はまだ許容(きょよう)しがたいようですけれどね。」



オリバーが後ろを振り返ると、イザベルとリリーが不満(ふまん)を押し殺しているような顔をしていました。オリバーは苦笑いして言いました。



「…まあ、気持ちはわかるよ、二人とも。」



「オリバーさんがいいと判断(はんだん)し、決定したことですから(わたし)(さか)らうつもりはありません。しかし、やはり危険が(ともな)うので…。」



イザベルは困ったような笑顔を見せています。



(わたし)はそれでも反対だよ。危険すぎる。前に(きず)ついて血まみれになっているハンスを見てるからね…。それを考えると、ああ、(おそ)ろしい!」



リリーは大げさに身震(みぶる)いして言いました。



「ともかく、早くこの紙をヨウフェイに見せないとな。…リリー、イザベルたちを連れて行っても大丈夫かな?」



「ああ、いいよ。(わたし)もヴォルフもいるからね。心配しないで。」



「わかったよ。イザベル、宿に行こう。ハンス、ペーター、行くぞ!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



イザベルたちとは違い、ハンスとペーターはヘルガが仲間になったことで興奮(こうふん)しているようです。



「すごいなぁ!女王様が仲間になるなんて!」



「ビアンカがころころ(ころ)がる姿、見てみたかったッスね!」



「お二人とも、お静かに。そんなことを大きな声で話してはいけません。」



イザベルが少し気分を(がい)したような表情で二人をたしなめました。



「あ…、すみません。」



二人は肩をすくめました。



「お二人は事の重大さを理解(りかい)できていないようですね…。特にペーターさん、あなたは一年以上も衛兵(えいへい)として王室(おうしつ)に関わり続けて来たんでしょう?今の()かれようは感心(かんしん)できませんね。」



「はい、すみません…。」



その後もイザベルは二人をガミガミと(しか)り続けました。オリバーはだんだん二人がかわいそうになってきました。



「オリバーさんも何か言ってください。」



「まあまあ、イザベル。少し大目に見てやろうじゃないか。この二人くらいの年だと、そりゃあうかれもするさ。」



イザベルは(めずら)しく(きび)しい表情を見せました。



「オリバーさん…。少し悠長(ゆうちょう)すぎますよ。(わたし)は今回のことに関しては先ほど言ったとおり、納得(なっとく)はしています。しかし、否定的(ひていてき)な気持ちも強いということを理解(りかい)してください。」



強い口調(くちょう)のイザベルに、オリバーは思わず肩をすくめました。



「ああ…、わかってるよ。でも…、」



そこまで言って口ごもってしまったオリバーを見てイザベルは困ったような笑顔を浮かべ、小さくフッと息をつきました。



「…しかし、(わたし)もいつまでもカリカリしていては何も始まりませんね。皆さんが納得(なっとく)しているのに、(わたし)だけ協調性(きょうちょうせい)(みだ)すようなことを言っているわけにもいきません。今後は気をつけます。」



「いや、イザベルが気にすることじゃないさ。とにかく今は、早く戻ってこの紙をヨウフェイに見せよう。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



紙を見せられたヨウフェイは少し困ったような表情をしました。



「だいたいは解読(かいどく)できたネ。でも、一か所読めないところがあるヨ。」



「その他のところには何て書いてあるんだ?」



「『これはほんの余興(よきょう)、一ヶ月後、次は』…この次が読めないヨ。」



「ヨウフェイたちの文字には一つ一つに意味があるんだろう?」



レオンが言いましたが、ヨウフェイは首を横に振りました。



「だめネ。この文字は組み合わせても意味が全く通じないネ。オー、ビェン・ル・クー…。」



ヨウフェイは頭を(かか)えながらつぶやきました。すると、ラルフが何かに気づいたようです。



「ねぇ、ヨウフェイちゃん。今のをつなげて読んでみて?」



「わかったヨ。オー・ビェン・ル・クー、オービェンルクー、オービェンルクー…。」



すると、モニカがハッと息をのみました。



「オーベルク!シャロンはきっと一ヶ月後にオーベルクを(おそ)うと言っているんですよ!」



オリバーの顔に緊張(きんちょう)が走りました。



「ヨウフェイ、もしその文字が『オーベルク』と読むとしたら、文章(ぶんしょう)はちゃんと通じるんだろうな?」



「そうネ。『これはほんの余興(よきょう)、一ヶ月後、次はオーベルク』…。というふうになるネ!」



「また余裕(よゆう)を見せてきやがって…気にくわねぇぜ!」



レオンが荒々(あらあら)しく声をあげました。



「しかし、何はともあれ、次のシャロンの襲撃(しゅうげき)までには一ヶ月の猶予(ゆうよ)があるんだ。(わたし)たちはその間に、以前のように訓練(くんれん)をして(わざ)(みが)いておくべきだと思う。」



パトリックが言いました。



「ああ、そうだな。よし、明日からまたそれぞれ訓練(くんれん)再開(さいかい)することにしよう。ヘルガも実戦形式(じっせんけいしき)訓練(くんれん)()(かえ)して経験(けいけん)()んでいかなければならないしな。よし、明日からに(そな)えて、みんな今日は早めに休むんだ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



人物紹介


~ヘルガ・ディートリヒ~

・「女王様(じょおうさま)

・22歳

突剣(とっけん)で戦う。弓矢(ゆみや)(あつか)える。

・一人称は「(わたし)

・リバー王国の女王様。ローズとは(おさな)いころに遊んだ仲。一年半前まではギル大臣の手によってキンフィールドの(とう)牢獄(ろうごく)幽閉(ゆうへい)されていた。意外と行動的(こうどうてき)で、定期的(ていきてき)武術(ぶじゅつ)訓練(くんれん)もしているし、馬に乗って駆け回るのも大好き。そのため(けん)の腕も弓矢(ゆみや)の腕もかなり上。オリバーたちがリバー王国のために一生懸命(いっしょうけんめい)になって戦っている姿に心を打たれ、自分も国のために役立ちたいと考えるようになった。とても(しん)の強い女性。

強い意志と、素晴らしい剣の腕前をくんで、オリバーはヘルガを仲間に引き入れることに決めました。そしてクララ様によって、シャロンの次の攻撃予告ももたらされました。



次話ではシャロンの襲撃に備え、オリバーたちは訓練を再開します。オリバーは新しい魔術を習得するようですが…?どうぞお楽しみに!



ちなみにヘルガはローズとよく遊んでいた、7~8歳のころからすでに剣の訓練をしていました。教育係がオットー様やレバリー城主のアルベール様になった10歳ころからは本格的に剣術などを学んでいました。



では次話をお楽しみに!

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