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暗黒の魔女  作者: kuma383
23/50

~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「22.善の証」

オリバーたちは北の樹海でシャロンと対峙しました。今回は戦うことはありませんでしたが、それでもオリバーは完全に精神的に打ちのめされ、パトリックもあまり元気がないようです。

夜遅(よるおそ)く、オリバーたちはレバリーに到着しました。彼らは何日か前に()まった宿をたずねました。ハンスが主人に声をかけました。



「すみません。こんな夜遅(よるおそ)くなってしまって申し訳ないんですけど、部屋は()いていますか?」



すると主人が(おどろ)いたように言いました。



「あなたはオリバー・ローゼンハイン様たちでは…。ええ、今日はどのお部屋も空室(くうしつ)です。樹海(じゅかい)火事(かじ)ということで、ほとんどの旅人がこの街道(かいどう)

けてしまうようになってしまって…。」



「そうなんですか…。じゃあ、一泊でお願いします。」



ハンスは手続きを()ませると、オリバーたちのところに戻ってきました。



「さあ、部屋に行きましょう。今日はゆっくり休まないと…。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



パトリックは背負っていたモニカをそっとベッドに降ろしました。



「すまないね…、女性たちの部屋に長居(ながい)するのは非常(ひじょう)によくないのだろうけど、せめてモニカが目を覚ますまではここにいさせてくれないだろうか?」



パトリックが申し訳なさそうに言うと、ビアンカが笑って言いました。



「いいよいいよ、気にしないで!パトリックはペーターやレオンと違って紳士(しんし)だからね。誰も心配なんかしてないよ。何だったら朝までいてもいいよ?」



ビアンカが冗談(じょうだん)まじりに言いましたが、パトリックは元気なさげに微笑(ほほえ)むだけです。ビアンカは心配そうです。



「むー…、こんなにパトリックが落ち込むなんて…。」



「しょうがないって。パトリックだって疲れてるんだろ?」



マチルドが言いました。



「そんな言葉だけで片付(かたづ)けるんじゃねぇよ…。イザベルも言ってたけど、膨大(ぼうだい)魔力(まりょく)を持っていたモニカがそれをほとんど使い果たしたんだ、目を覚ますまでには相当な時間がかかるかもしれねぇんだろ?ずっと一緒に旅をしていたパートナーがそうなっちゃあ、気分も落ち込むってもんだ。」



「…レオン、何でいるの?」



ビアンカが白い目をレオンに向けました。



「え…?的確(てきかく)なこと言ったつもりなのに、その反応(はんのう)…?いや、パトリックが元気ねぇから()()ってやろうかと…。」



「よくまぁ女の子の部屋にぬけしゃあしゃあと…。また窓からつるしてあげようか?」



「う、うるせぇ!だいたいお(めぇ)、さっきひでぇこと言っていたな?俺のことが紳士(しんし)じゃねぇって!?」



「あんたが紳士(しんし)だったらパトリックはもう聖人(せいじん)だね。一生追いつけないでしょ。」



「何だって!?ちくしょう、いい気になりやがって!やるか!?」



「望むところだねっ!」



ビアンカとレオンは取っ組み合いを始めました。マチルドがパトリックの肩をポンポン叩いて言いました。



「気にすんなよ。二人ともお前が元気出るようにああやってるんだぜ?…いいぞービアンカ!やれやれ!」



(にぎ)やかな三人の様子を見て、パトリックは少しだけ表情を(ゆる)めました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一方、別の部屋ではベッドに横たわっているチュンフェイをヨウフェイ、ハンス、ペーター、イザベル、ラルフが囲んでいました。イザベルがチュンフェイの顔を(のぞ)き込みました。



「…だんだん顔色も良くなってきました。もうしばらくしたら目を覚ますのではないでしょうか?」



イザベルがみんなを安心させるように言いました。



「…感謝(かんしゃ)するヨ。」



ヨウフェイが少し(しず)んだ声で言いました。



「元気出せよ、ヨウフェイ。」



ハンスがヨウフェイを(はげ)ましました。



「大丈夫ネ、ヨウフェイは平気ヨ。…心配なのは姉さんネ。シャロンに(あやつ)られていたということを知ったらもう収拾(しゅうしゅう)がつかなくなりそうネ。」



「しかし、事実をしっかりと話すことが大切です。(きび)しい言葉にはなってしまいますが、チュンフェイさんの心の弱さを(ねら)ってシャロンは(あやつ)りの魔術(まじゅつ)をかけてきたんですからね。」



「イザベルさん!そんなこと言って、イザベルさんだって魔術(まじゅつ)をかけられたら(あやつ)られて先生を(おそ)ったりしたかもしれないじゃないですか!そんな言い方って!」



ペーターの言葉にイザベルはびっくりしました。そしてすぐに申し訳なさそうに言いました。



「…ごめんなさい、ペーターさんの言うとおりですね。(わたし)でもどうなるかはわかりません。お気を悪くしてしまったようなら(あやま)ります。」



しかしヨウフェイは首を横に振りました。



「大丈夫、気にしていないヨ。それが事実には変わりないネ。」



「で、でも、」



ペーターは(なお)も何か言いたそうな顔をしていましたが、ラルフがそれを(せい)しました。



「まあまあ、納得(なっとく)しているんだからいいじゃないか。でも実際、本人には事実をちゃんと正しく伝えるべきだと思うよ。君が言ったとおり、誰でもあんな風になる可能性はあるんだ。(うら)を返せば、これは全員に関係する問題だからね。」



ペーターはしぶしぶ納得(なっとく)したようです。ヨウフェイが怪訝(けげん)そうにペーターを見て言いました。



「…オマエ、姉さんに気があるネ?」



「ブッ!お、おい!何を言ってるんだ!」



「なるほど…。やけにチュンフェイの肩を持つと思ったら…。」



ハンスはニヤニヤしながらペーターの顔を(のぞ)き込みました。



「バ、バカにしないでくださいッスよ、先輩(せんぱい)!もう頭に来た、俺は外に出てくるッス!もしかしたらシャロンが(おそ)ってくるかもしれないから、外で警備(けいび)するッス!」



ペーターはバタバタと音を立てて部屋を出て行きました。



「…わかりやすいやつネ。」



図星(ずぼし)だったようだね。」



ヨウフェイとラルフが笑いました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



そして最後の部屋では…、



「信じられない…。オリバーさんが悪い人だっただなんて…。」



ロジェが(だま)りこくって座っているオリバーのそばで言いました。心配そうにオリバーに()()っていたローズ、アリス、エミリーがギロリとロジェを(にら)みました。



「すごい人だと思っていたのに…、そんな虐殺行為(ぎゃくさつこうい)をしていたなんて…。」



「ロジェ、ちょっと(だま)って。」



エミリーがイライラしたように言いました。



「悪い意味ですごい人だったなんて…。」



貴様(きさま)、エミリーの言ったことが聞こえなかったのか?(だま)れと言っているだろう。」



アリスも心底(しんそこ)不機嫌(ふきげん)そうです。



「他の人たちもよくあんな事実を知って(だま)ってついてこれるよなぁ…。」



ついに辛抱(しんぼう)できなくなったローズが短剣(たんけん)を引き抜いてロジェの首筋(くびすじ)につきたてました。



「これ以上(だま)らないと血の雨が降る…。」



その瞬間、ロジェは顔を真っ青にして口をつぐみました。



「ローズ…、やめろ…。」



オリバーがポツリとつぶやきました。



「でも、先生…。」



「いいんだ。ロジェの言うとおり、俺は極悪人(ごくあくにん)だ。お前たちも俺のことが信用できなくなったら、」



言葉を続けようとするオリバーを、アリスが強引(ごういん)(さえぎ)りました。



「お前もいい加減(かげん)にするのだ、オリバー。ビアンカの言葉を(わす)れたのか。()れらは全員お前の過去(かこ)はすべて受け入れているのだ。…いや、ほとんど全員、だな。」



そう言ってアリスは再びロジェを(にら)みつけました。ロジェはローズに短剣(たんけん)を突き付けられたままで、ぶるぶる(ふる)えています。



「…臆病者(おくびょうもの)。」



エミリーがロジェに白い目を向けて言いました。



「ともかく、だ、オリバー。たとえこれからどうなろうと、たとえこれからお前の過去がどう(あば)かれようと、()れはお前が来るなと言おうとついて行く。何があろうともな。」



アリスは確固(かっこ)とした表情で言いました。



「アリス…。」



「お姉さまったら…。でも(わたくし)もちゃんとついて行きますよ。オリバーさんが(わたくし)たち仲間を信頼(しんらい)しているのと同じように、あるいはそれ以上に(わたくし)たちはオリバーさんを信頼(しんらい)しきっているのです。シャロンを倒すまでは(わたくし)たちはオリバーさんの手足も同然(どうぜん)です。切り離そうとしても切り離すことはできないのです。」



エミリーもしっかりとオリバーを見つめて言いました。



「…ありがとう、二人とも。(うれ)しいよ。だが…、俺の過去(かこ)を知って間違いなくロジェは俺に不信感(ふしんかん)(いだ)いている。それは(まぎ)れもない事実だ…。



ロジェ、ここはお前の自由にしてくれて一向(いっこう)にかまわない。仲間を抜けるのもありだ。…ローズ、もういい加減(かげん)にロジェを(はな)してやれ。」



ローズは何か言いたそうでしたが、(だま)ってロジェを解放(かいほう)しました。ロジェはまだ青い顔をしていましたが、やがて小さな声で言いました。



一晩(ひとばん)…もう一度考えさせて下さい。僕は先に自分の部屋に戻っています。」



ロジェはそう言い残し、オリバーたちの部屋を出て行きました。



「自分から連れて行けってねだったくせに…。(あま)すぎる…。」



ローズはまだ(いか)りが(おさ)まらないようです。



「そう言うなよ。ロジェに俺自身の過去(かこ)を語らなかった俺にも原因(げんいん)はある。」



「何を言っているのだ。お前はいつもそのようにすべてを背負(せお)い込む傾向(けいこう)がある。自分自身を追い込んでどうするのだ。」



アリスは(あき)れたように言いました。



「オリバーさんは今、リバー王国のためにと一生懸命(いっしょうけんめい)(はたら)いているのです。その行為(こうい)否定(ひてい)することは誰にもできはしません。」



エミリーも熱く言いました。



「先生が悪い人だったのはあくまで昔の話…。今の先生はいい人…。じゃないと今こんなことはしていない…。」



ローズが言った途端(とたん)、誰かが部屋の扉を開けて入ってきました。



「そうですよ、オリバーさん、心配しないでください…。」



パトリックとビアンカに(ささ)えられたモニカでした。



「オリバーさんの腕には真っ黒な(きず)があります。前に(わたし)をかばってローズさんの攻撃(こうげき)を受け止めてくれた時のものです。もしオリバーさんが悪人(あくにん)だったらあの時も(わたし)をかばったりしなかったはずです。」



「その話をされると(わたし)が気まずい…。」



ローズは(うら)みっぽくモニカに言いましたが、オリバーの方を振り返ると笑顔を見せました。



「その腕の(きず)は、君の(ぜん)(あかし)なんだ。(ほこ)らしく思ってもいいと思うよ。」



パトリックも言いました。オリバーはようやく気持ちが落ち着いてきたようです。



「みんな…。ありがとう。うん、ようやく安心できたし、少し元気も出てきた。とにかく今はシャロンと戦い続けなければならない。俺がこんなに元気をなくしていたんじゃみんなもやりにくいもんな。俺はまた頑張るよ。」



「それでこそ師匠(ししょう)だねっ!」



ビアンカも満足(まんぞく)そうに(うなず)きました。



「とにかく、オリバーの問題も解決(かいけつ)したようだし、モニカも目を覚ますことができたようだ。もう夜も(おそ)い。各自部屋に戻ってゆっくりと休むことにしようではないか。」



アリスの提案(ていあん)に、仲間たちは(うなず)きました。そしてそれぞれおやすみを言って自分の部屋に帰って行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



翌日、オーベルクに帰るためにオリバーたちは宿の外に出ました。まずはチュンフェイがおずおずとオリバーの前に進み出ました。



「どうしたんだ、チュンフェイ。」



チュンフェイはぶっきらぼうにグイッと頭を下げました。そして強引(ごういん)にオリバーの手を(つか)むと、ブンブンと振りまわしました。オリバーがそれが握手(あくしゅ)だと気づいたのはややしばらくしてからでした。



「もう、チュンフェイはやっぱり素直(すなお)じゃないなぁ。」



ビアンカが笑って言いました。それからロジェが仲間たちの真ん中にやってきました。この時は多くの仲間たちがロジェを(つめ)たい目で見ていました。



「…一晩考えてみました。でも、何だかんだ言ってもギル大臣の悪政(あくせい)からリバー王国を解放(かいほう)してくださったのはオリバーさんです。今もリバー王国のために戦ってくださっているのはオリバーさんです。だから…、僕は今後もオリバーさんについて行きたいと思います。」



オリバーは笑うと、自分から手を差しだしました。しかし、ロジェはムッとしたように、しかしどもりながら(やり)(かま)えて続けました。



「た、ただし、もしもオリバーさんが何か悪いことを考えていたら、ぼ、僕が、この、や、(やり)で、オリバーさんを、殺して、その、」



オリバーは(おどろ)いたようにロジェを見ていましたが、先ほどと同じように笑って言いました。



「ああ、そうしてくれ。それならば俺も変なことはできないからな。」



仲間たちもぶるぶる(ふる)えながらオリバーに(やり)(かま)えているロジェの様子を見て思わず笑い出しました。レオンはニヤニヤしながら言いました。



威勢(いせい)のいいこったな、ロジェ。だがそんなへっぴり(ごし)じゃ、オリバーの寝込(ねこ)みを(おそ)ったって到底(とうてい)勝てねぇよ。」



一方、ローズはロジェに敵意(てきい)をむき出しです。ローズは短剣(たんけん)を引き抜くと、オリバーをかばうように立ち、言いました。



「もし先生を(おそ)うようなことがあったら…、(わたし)がどんな手段(しゅだん)を使ってでも止める…。」



「や、やってみればいいです!僕はどんなことがあっても!」



二人は火花をバチバチと()らせました。オリバーも仲間たちも、その様子を見て大笑いしました。



「じゃああたいはロジェに加勢(かせい)するぜ!何だか面白そうだからな!」



マチルドが笑い(ころ)げて言いました。



「え、いや、ぼ、僕は、」



「二対一では()が悪いだろう。()れはローズに加勢(かせい)するぞ。」



アリスがローズの肩に手を置きました。



「だから、僕は、」



ローズは(おこ)ったようにアリスの手を(はら)いのけました。



「アリス…。(わたし)真剣(しんけん)…。」



「何を言っているのだ。()れも真剣(しんけん)だ。そしてオリバーを守り通した後に、()れらも決着(けっちゃく)をつけるのだ。」



「う、う、ううーっ、僕を無視(むし)するなぁーっ!」



ロジェが泣き出しそうな顔をしています。



「…何はともあれ、みんなまた一つにまとまってくれてよかったよ。さあ、もうオーベルクに帰ろう。」



オリバーの言葉に、仲間たちは大騒(おおさわ)ぎしながらレバリーを後にしました。

何とかオリバーも元気を取り戻し、仲間たちも元の結束を一応取り戻せたようです。



次話では、オーベルクに戻ろうとするオリバーたちですが、途中でなぜか人通りが少なくなっていることに気づきます。道端の農夫に話を聞くと、なんと、パカロンが陥落したというのですが…?どうぞお楽しみに!



ちなみに今回の火事で北の樹海の7分の1ほどが燃えてしまいました。しかし、オリバーたちが文字通り魔力を絞って炎の進行を食い止めたため、炎にまかれた村は一つもありませんでした。



では次話をお楽しみに!

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