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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「16.名前の意味」

オリバーたちは訓練から疲れてヴォルフの宿に帰ってきました。しかし、中ではまだ短剣組の訓練が続いているようです。

その日、オリバーたちは訓練(くんれん)を終え、ヴォルフの宿に帰ってきました。夕食をみんなで食べるという約束をしていたので、イザベルとビアンカも一緒です。



「おや?中ではまだやっているみたいだね。」



パトリックが言いました。建物の中からドタバタと大きな音がしています。



「どれ、こっそり(のぞ)いてやれ。」



レオンは窓から中をうかがいました。ちょうどマチルドとアリスが試合を終えたところのようです。



「ふう…。今のはどうであった?」



「いいぜー、アリス。体重移動(たいじゅういどう)も上手くなったから、動きがより素早くなったな。」



「これでオリバーにも()めてもらえるかもしれぬ。それに…、まだまだエミリーに負けるわけにはゆかぬからな。」



奥ではエミリーとヨウフェイがローズが見守る中、試合をしていました。二人ともものすごい速さで攻撃(こうげき)したり、回避(かいひ)したりしています。



「エミリーは本当に覚えるのが早かったぜ。」



「ヨウフェイもな。お前たちの教え方がそれだけ上手かったというわけだ。…誰だ!」



突然アリスが叫び、訓練用(くんれんよう)短剣(たんけん)を投げました。短剣(たんけん)一直線(いっちょくせん)に飛んで行き、(まど)から(のぞ)いていたレオンの頭に命中(めいちゅう)しました。



「ぎゃあああっ!」



レオンはその場に倒れ、悶絶(もんぜつ)しました。オリバーはやれやれといった表情を()かべ、宿の中に入って行きました。



「…ただいま。」



「うむ、オリバーか。今しがたそこの窓で何者かが(のぞ)いていたようなのだが…。」



「ははは…。」



オリバーは困ったように笑いました。



「うおぅ!?レオンが怪我(けが)してるぜ?ははあ、(のぞ)いてたのはあいつだな?」



「ふむ、感心(かんしん)せぬな。普通に見ればよいものを、わざわざ盗人(ぬすっと)のような真似(まね)をして(のぞ)くとは…。」



マチルドはニヤニヤと笑い、アリスはあからさまに嫌悪感(けんおかん)をあらわにしています。レオンは目を(うる)ませながら抗議(こうぎ)します。



「だとしても、確認してからやれよ…。おー痛ぇ…。」



「…エミリーとヨウフェイもかなり戦い方を身につけたようだな。」



オリバーの言葉に、エミリーとチュンフェイも嬉しそうにしました。



「ありがとうございます、オリバーさん。」



老師(ラオシー)の教え方が上手だからヨ。」



オリバーと目が合ったローズは()ずかしそうに顔を赤らめました。。



(えら)いぞ、ローズ。」



オリバーはそう言ってローズの頭を()でました。



「っ!…先生はいつも子ども(あつか)い…。」



「おっと、すまんすまん。」



ローズはプクッと(ほほ)(ふく)らませましたが、顔は真っ赤になっていました。アリスは少しうらやましそうです。



「へっへーん、ローズ、(うれ)しいんだ。」



ビアンカがからかいました。



「違う…。」



「でも不満そうにしてる割にはおとなしくしてたよねー?」



「うるさい…。」



ローズは顔を真っ赤にしたまま二階へ()け上がって行ってしまいました。



「あ、ローズ?…怒っちまったのかな?」



朴念仁野郎(ぼくねんじんやろう)…。」



「ん?何?」



「何でもねぇよ…。」



マチルドは完全にあきれ顔です。そこへヴォルフが顔を出しました。



「よう、オリバー。帰ってきたのか。」



「ああ、ヴォルフ。いい(にお)いがしているな。」



「いいキノコを仕入れてきたからな。今日の晩飯(ばんめし)期待(きたい)してくれていいぜ。」



「おお、それは楽しみだな。」



「もう少し時間がかかるから、休んでいろよ。」



「ああ、そうするよ。」



「よし、パトリック!昨日のチェスの続きだ!」



レオンがパトリックに声をかけました。



「あれ、()りずにまだやるんですか?レオンさん、まだ一度もパトリックさんに勝ててないですよね。」



ペーターがからかうように言いましたが、レオンは不敵(ふてき)に笑って言いました。



「ふっふっ、それがな、昨日ついに一勝を()げたんだ!」



「えええっ!?」



「まあ、パトリックさんが眠気(ねむけ)のあまり動かす(こま)を間違えただけなんだけどね…。」



エミリーが笑って言いました。



「いや、とはいえ(わたし)油断(ゆだん)()んだ結果だよ。こうではいけないね。いいかい、ペーター。覚えておくんだ。どんなに弱い、吹けば飛ぶような相手でも、油断(ゆだん)すれば負けることがあるからね。」



「そうそう!パトリックはいいことを…あれ?」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



オリバーは夕食ができるまでの間、部屋に戻って本を読んでいました。



「ほう…。」



そこへ、扉を開けてハンスが入ってきました。



「失礼します。先生、そろそろ夕食の準備(じゅんび)が出来ますよ。」



「ああ、わかった。すぐ行く。」



「あれ?何の本ですか?」



「ああ、ビアンカに借りた本だ。ここにシャロンが真似(まね)たと言うヤオミンの記述(きじゅつ)が書いてある。」



「へえっ、見せてくださいよ。…あれ?何だこれ。何だか見たこともない文字が文章の横に書いてありますね。」



「ああ…。東方世界(とうほうせかい)の文字のようなんだ。横に俺たちの言語(げんご)の文字が書いてあるから読めるが…。それに興味深(きょうみぶか)い事がわかったんだ。どうやらこの文字、文字そのものが意味を持っているようなんだ。」



「どういうことですか?」



「例えばこの『山』という文字があるだろう?俺たちは山という言葉を『Berg』と表記(ひょうき)するが、東方世界(とうほうせかい)ではこの一文字で『(やま)』を表すようだ。ほら、この文字の形、どこか山に似ているだろう?」



「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!いろんな物を一つの文字で表していたんじゃ、文字がいくつあっても足りないじゃないですか!」



「そうだよな…。とにかく、チュンフェイとヨウフェイならこの本をすらすらと読めるのかもしれないな。夕食の後に見せてみるか…。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



キノコをふんだんに使った夕食に舌鼓(したつづみ)を打ったあと、オリバーは本をヨウフェイたちに見せてみました。



「…オマエ、こんなものも満足に読めないネ?これなんか小さな子どもに読み聞かせるような文章(ぶんしょう)ヨ?」



「しょうがないだろう?こんな文字なんか初めて見たんだから。」



ハンスが口をとがらせました。



「それにしても、文字一つ一つが意味を持っているなんて、面白いね。」



モニカが興味深(きょうみぶか)そうに言いました。



「ヨウフェイたちからすれば、オマエらの文字の方が不思議ネ。それっぽっちの文字でよくたくさんの言葉を表せるものネ。」



「この字、形がなんかかっこいいな。どういう意味なんだ?」



レオンが言いましたが、ヨウフェイは笑いを必死(ひっし)でこらえています。



「…それは『変』ネ。」



「うっ…。」



「じゃあよう、ヨウフェイたちの名前もこの文字で書けるのか?」



マチルドがたずねました。



「当然ネ。…これが姉さんの名前、これがヨウフェイの名前ヨ。」



ヨウフェイは紙に文字を書きました。



「うむ…、美しい文字の形だな。」



アリスが感心(かんしん)したように言いました。オリバーも続けます。



「確か…この文字の左側は木を意味するんだったよな?ということは、二人の名前は植物に由来(ゆらい)しているのか?」



「そうネ。姉さん(椿妃)は『カメリア・プリンセス』ってところネ。ヨウフェイ(柚妃)の『柚』という植物はこの辺りにはないヨ。まあ、『オレンジ・プリンセス』っていうところネ。」



「あははっ、かわいい名前なんだね。」



「そう思うネ?姉さんもヨウフェイもとっても気に入っているヨ!」



モニカの言葉に、ヨウフェイはとても(うれ)しそうにしました。



「『カメリア・プリンセス』ね…。似合っている名前だな、チュンフェイ。」



チュンフェイはオリバーに名前を()められてとても(うれ)しそうな表情を浮かべました。いつものように(あわ)てて顔をしかめることもしません。



(心を開いてくれているようだな…)



「じゃあ俺たちの名前も書ける?」



ペーターがたずねましたが、ヨウフェイは首を振りました。



「無理ネ。ヨウフェイたちの国の人しかこの字では書けないヨ。」



「そうなんだ…残念だな。」



「もっと二人の国のこと、聞きたいなぁ。ローレンツさんじゃないけど、少し興味(きょうみ)が出てきたかも。」



エミリーが目を(かがや)かせています。



「いろんなものが俺たちの発想(はっそう)(なな)め上をいってますよね。」



ハンスも興味深(きょうみぶか)そうです。



「そうだ、僕の親方(おやかた)火薬(かやく)というものの研究(けんきゅう)のために東方世界(とうほうせかい)に旅立ったんだけど、火薬(かやく)って具体的(ぐたいてき)にどういったものなんだい?」



ラルフがヨウフェイに質問しました。



「便利だけど、とっても危ないものネ。簡単に人間をバラバラにできるヨ。」



「まるで魔術(まじゅつ)みたいだなぁ!」



マチルドが大げさに驚いた顔をつくって見せました。



爆発(ばくはつ)を起こすんだよね、確か。」



「そうネ。武器としては強いけど気をつけないと自分も巻き込まれるネ。」



「一歩間違えば大惨事(だいさんじ)なんですね…。」



みんなヨウフェイの話に興味津々(きょうみしんしん)です。しかし、その()の中にチュンフェイは(くわ)われていませんでした。オリバーは少し心配になったのでヨウフェイの周りの()から抜け出し、チュンフェイに話し掛けました。



「二人の名前にあんな素晴らしい意味が込められているとは思わなかったよ。本当に自分の名前を気に入っているようだな。」



チュンフェイは(ほこ)らしそうに胸を張りました。



「ハハハ、得意げだな。それにしても、戦いのときのお前の強さには本当に(おどろ)かされたよ。いつもペーターをコテンパンにしているらしいな。俺の育て方が(あま)い、って最近よくビアンカに言われるよ。」



チュンフェイは威張(いば)ったようにオリバーを見ました。



「何だ何だ、()れた途端(とたん)に急に態度(たいど)が大きくなったな。ハハッ、チュンフェイもなかなか面白いやつだな。…話を戻すが、お前のその武術(ぶじゅつ)独学(どくがく)で身につけたような代物(しろもの)ではないと思うんだが…。やっぱり武勇(ぶゆう)()けていたというお前たちの兄さんに習ったのか?」



チュンフェイは今までで一番得意げな顔をしました。



「ハハハッ、自慢(じまん)の兄さんだったんだな。でも本当に素晴らしい男だったんだろうな。こんな華奢(きゃしゃ)な女の子にあんな大きな(けん)を使いこなせるよう指導(しどう)したんだからな。俺も会ってみたかったよ。」



チュンフェイはニヤニヤ笑っています。



「おいおい、何だよ。俺じゃ到底(とうてい)お前たちの兄さんには(かな)わない、とでも言いたそうだな。なかなか言うようになったじゃないか、お前も。」



「それで、兄さんいつも朝早くから姉さんの布団(ふとん)(あら)ってたヨ。『チュンフェイはいつも夢見(ゆめみ)が悪いみたいだ』っていうのが朝の口ぐせだったネ。…いやああああっ!(ゆる)して姉さん!」



いつの間にかオリバーの目の前から消えていたチュンフェイが、顔を真っ赤にしてヨウフェイを倒し、()()き回していました。オリバーはその様子を見て大笑いしました。



「ハハハッ、二人とも本当に俺たちに馴染(なじ)んだなぁ。」



「だから言っただろう?時間をかけて(せっ)してあげれば、心は自然と開けてくるもんさ。」



リリーも笑って言いました。



「ああ、まったくだ。リリーの言うとおりだったよ。」

ともに過ごす時間が長くなってきたことで、ようやくチュンフェイも心を開いてくれたようです。これが今後も続いてくれるといいのですが…。



次話では最後まで呪いの魔術の習得に苦労していたイザベルがようやく使いこなせるようになります。その方法とは…?そして、ノーザリンに魔獣の群れが出現したという情報が届き、オリバーたちは魔獣討伐の旅に出ることになります。どうぞお楽しみに!



ちなみに感覚がないヨウフェイですが、だからこそ体勢を崩されて倒れたりするとびっくりして余計に混乱します。



では次話をお楽しみに!

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