~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「14.ミニエー家のお屋敷」
「痛み分け」という形でシャロンとの初めての対決を終えたオリバーたちはオーベルクに帰ってきました。彼らは今後の方針ついて話し合うようです。
オリバーたちは久し振りにオーベルクに帰ってきました。
「荷物を置いたら私のお店に来てください。これからのことを話し合わなければなりません。」
イザベルが言いました。
「ああ、そうだな。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
すぐにオリバーたちはイザベルの薬屋にやってきました。そして誰もいないことを確認すると、床板をはがして地下の『隠れ家』に下りていきました。中ではイザベルとビアンカが待っていました。
「うん、みんなそろったみたいだね。」
「ヴォルフさんとリリーさんもいらっしゃったんですね。」
「しばらくはまたお前たちと一緒に過ごすことになるんだ。俺たちも話は聞いておかなければな。」
ヴォルフが笑って言いました。
「…よし、まずは今後の方針からだが…。参考までに何か意見のあるやつはいるか?」
オリバーが仲間を見渡しました。
「あくまで私個人としての意見だけれど…。」
パトリックが口を開きました。
「シャロン自身も言っていたけれど、シャロンも今回のことで多くの戦力を失ったからね、しばらくは動けないだろう。それなら私たちも、以前言っていたように互いに教えあって経験を積んで、力を蓄えておくべきだと思うよ。」
すると、今度はマチルドが言いました。
「でもよう、逆に今のシャロンに戦力は残ってないわけだろ?今のうちに居場所を見つけて倒すのが手っ取り早いんじゃないのか?」
今度はオリバーが言いました。
「いや、シャロンほどの魔術師ならばその隠れ場所を探すのさえ困難だろうし、迂闊に近寄るのも危険な気がする。だいたい、シャロン一人の力だって侮れたもんじゃないだろう。そういう意味では俺はパトリックの意見に賛成なんだが…。
ただ、今回の依頼主はペーターだ。俺はペーターの意思に従おうと思う。みんなはそれでいいか?」
反対する仲間は誰もいません。
「…というわけだ、ペーター。お前の判断を仰ごう。」
ペーターは少し考えていたようでしたが、やがて口を開きました。
「俺もパトリックさんの意見に賛成です。まずは俺たち自身の腕も向上させておかないと…。慎重すぎると言われるかもしれませんが…。」
「いや、賢明な判断だと思う。…チュンフェイとヨウフェイは恐らくマチルドと同じ意見だろうが、ここはひとつ我慢してくれ。」
ヨウフェイは苦笑いして言いました。
「仕方ないネ。悔しいけど、シャロンは一筋縄では倒せない相手ネ。それに…どうせならヨウフェイたち自身の手で倒したいネ。それにはまだまだ力不足ヨ。」
チュンフェイは相変わらずムスッとした表情をしていましたが、決定に反対するような仕草は見せませんでした。
「…よし、決まりだな。じゃあ具体的に訓練の計画を立てよう。まずはいくつかのグループに分けなくてはならないな。魔術組みは俺とイザベルとモニカでいいとして、だ…。
まず槍を使うハンスとレオンはそのままだ。次は剣だが…、確かラルフにはビアンカが教えてくれるんだったな。ラルフに関しては完全にビアンカに任せることとする。」
「ほいよー。よろしくね、ラルフ。」
ビアンカが明るく言いました。
「ペーターとチュンフェイはいきなり実践に入ってもいい。そのあたりはそれぞれに任せるからな。そしてパトリックは様子を見て槍と剣の両方に入ってやってくれ。お前はどちらの扱いも上手いからな。レオンも剣は扱えるようだから、そこのところはパトリックとうまくやりくりをしてくれ。
次に短剣だが…、これに関してはまだヨウフェイも習いたてだし、アリスとエミリーだって経験がない。ローズとマチルドでうまく分担して教えてやるんだ。」
「合点だ!」
マチルドも元気いっぱいに答えました。
「あとは訓練場所の確保だが…。」
「短剣くらいなら俺の宿でも広さは問題ないだろう?」
ヴォルフが言いました。
「ああ、そうだな。じゃあ短剣組はヴォルフの宿で訓練をしてくれ。剣と槍に関しては、お互いに近くでやった方がいいだろうな…。」
「それならば、以前私の家があった森の辺りはどうでしょうか?森の中に点々と開けた空き地もありますし…。」
イザベルが提案しました。
「うん、悪くないな。パトリックは場所がわかるだろう?みんなを案内してやってくれ。」
「わかったよ。」
「さて…残るは魔術か…。好ましい場所としては、広い建物の中だな…。街の中を歩いて適当な場所を探してみるとするか…。」
オリバーが言うと、ローズが遠慮がちに言いました。
「先生…。ちょうどいい場所、知ってる…。」
「え?そうなのか?…確かにローズも、オーベルクでの生活は長かったからな。じゃあ、そこへ案内してくれるか?」
ローズはコクンと頷きました。
「じゃあ私たちは早速場所を移動しようか。」
パトリックが声をかけました。
「そうだね。短剣のグループ以外は日が沈んだらこの店に集合することにしよっか。」
「ああ、それがいいな。」
ビアンカの提案にオリバーも賛成しました。
「あたいらも移動しよう。みんな、行こうぜー。ローズはあとからちゃんと来いよー?」
マチルドが張り切って『隠れ家』を出て行きました。
「あっ、待つネ、バカ!」
ヨウフェイは慌ててマチルドに声をかけましたが、マチルドはもうそこにいませんでした。
「張り切ってる…。」
ローズはおかしそうな表情を見せました。
「しょうがないネ。でもヨウフェイ、ラオシー以外から習う気はないヨ!」
ヨウフェイがローズを見て言いました。
「はは、せっかく張り切っているのに、あれを放っておくのもかわいそうな話だな。エミリー、吾れらはマチルドから習うとしよう。」
「はいっ、お姉さま。」
アリスとエミリーはヨウフェイを連れてマチルドを追いかけて行きました。それを見送ると、オリバーはローズに声をかけました。
「…さて、ローズ。案内してくれ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ローズはオリバーたち三人を連れて街の中を歩きました。
「少しずつ活気を取り戻しているようですね。」
「ええ。人通りも増えてきたみたいです。」
モニカに言われ、イザベルも安心したような笑顔を見せました。
「それにしても…おーい!まだ歩くのか、ローズ!」
ローズはコクンと頷いてどんどん歩いていきます。
「まあ、確かに街の真ん中で魔術の訓練なんかしたら、大騒ぎになるだろうからな。」
オリバーは苦笑いしました。その時…、
「あっ、ローゼンハイン様!もうオーベルクに戻られたんですか?」
オリバーは突然後ろから声をかけられて驚きました。
「んっ!?ああ、ロジェか。そのローゼンハイン様、って言うの、何だか仰々しいから勘弁してくれないかな。オリバーでいいよ。」
以前に何度か会った、市の物売り青年ロジェでした。
「そんな、畏れ多くて…。今からどこかへお出かけですか?」
「ああ、うん、ちょっとな。」
「僕もついて行っていいですか?今日は品物がすぐに売れちゃって暇なんですよ。」
「…まあ、ロジェは俺たちのことはよく知ってるわけだし、いいか。」
「でも…、ヴォルフさんのことがありますよ?」
モニカは少し警戒しているようです。
「では、ちょっといいですか?」
イザベルはロジェと向かい合うと何かを唱えました。
「何も…起こりませんね。」
モニカは首をかしげました。
「安心してください、オリバーさん、モニカさん。彼は本物ですよ。この魔術は偽物にしか効果がありませんからね。」
「そ、そうか。ちなみに、もしロジェが偽物だったらどうなっていたんだ?」
「存在する価値なし、ということで毒が充満し、血を吐いて命を落としていたでしょう。まあ、相手がシャロンレベルの魔術師だったらきっとそれほどの効果はなかったと思いますが。」
イザベルがすまして言ったので、オリバーは顔をこわばらせました。
「サラリと笑顔で恐いこと言うんじゃないよ…。それじゃあロジェ、ついてきてもいいぞ。」
オリバーはそう言うと、少し前のほうで心なしか道草をくっているオリバーを見て不機嫌そうにしているローズの方へ歩いていきました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やがて彼らは街を抜け、森の方にやってきました。
「ローズさん、本当にこんな所に大きな建物なんかあるんですか?もう歩き疲れちゃいましたよ…。」
モニカはもうへとへとです。ローズは黙って歩いていましたが、やがて足を止めました。
「ここ…。」
「ここって…何もありませんよ?」
そこは道の両側に草木が鬱蒼と生い茂っている場所でした。ローズはモニカの言葉を聞くと、黙って木の枝をかき分けて茂みの中に入って行きました。
「おっかしいなぁ…。昔、ここに何かがあった気がするんだけど…。」
ロジェは首をかしげました。
「とにかくローズについて行くしかないよ。」
オリバーはそう言って茂みの中へ入って行きました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やがて茂みが終わり、オリバーたちは開けた場所に着きました。
「これは…すごいな。」
「貴族の大邸宅の跡、といった感じでしょうか…。」
オリバーとイザベルは思わず目を見張りました。オリバーたちの前にはとても大きなお屋敷がありました。ただ、壁のところどころが壊れていたり、大きな穴があいていたりします。
「あっ!思い出した!ここはミニエー家のお屋敷だ!」
ロジェの大声に、モニカはびっくりしました。
「ええっ!?み、ミニエー家!?」
「まさか、ミニエー家を知らないんですか?ついこの前までオーベルクを実質的に治めていた貴族ですよ。ギル大臣たちに滅ぼされてしまいましたが…。」
「いえ、知らないというより、むしろ知りすぎているといった方がいいかもしれませんね…。」
イザベルも驚いたようです。
「…ローズ、ここはお前の家か。」
ローズはコクンと頷きました。
「もともと壊れそうだから、どんなに使っても平気…。もうマチルドたちのところへ戻る…。」
そう言ってローズは茂みの中に消えていきました。
「…いい思い出も悪い思い出もいっぱい詰まっていますから、長居はしたくなかったのかもしれませんね…。」
ローズを見送ってイザベルが言いました。
「ああ…。だが確かに、ここは魔術の訓練にはもってこいだ。早速中に入ってみるとしよう。…ロジェ、毎回茂みをかき分けてここに入ってくるのも面倒だ。草や木を刈っておいてくれないか?」
「はい!…あれ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お屋敷の中は荒れ果てていました。ただ、ところどころに残っている調度品の数々はどれも大変立派な物です。
「ローズさんはもともとここで何も不自由のない生活をしていたんですね…。」
「それをたった六歳の時にオーベルクの路上に追いやられたわけだ…。そりゃあ人を信じられなくもなるな。」
オリバーとイザベルは少し悲しそうに言いました。
「オリバーさん、イザベルさん、これを見てください!」
モニカが一枚の大きな絵を指差していました。
「これは…外国で流行しているという写実絵画だな。ミニエー家の人々の絵か?まるで動き出しそうな絵だな。」
「この人は…見たことがあります。恐らくはミニエー家最後の当主…ローズさんのお父上でしょう。」
「と、すると、この一番小さいのがローズだな。はは、面影があるな。兄弟の陰に隠れて、この頃から内気だったんだな。」
「こんな平和な時間を勝手な思惑で壊されてしまったんですから…ローズさんの恨みって、実際に私たちが見ていた以上のものだったんでしょうね。」
「それに耐えられるのがローズさんの強いところです。」
オリバーたちは急にしんみりとしてしまいました。
「…とにかく、魔術の訓練はこの大広間で行なうこととしよう。今日のところは明日以降の方針を話し合う、ということにとどめておくとするか…。」
「そうですね。今日はそんなに時間があるわけでもありませんし…。」
「私も賛成です。」
「よし。ではまず訓練する魔術の順序だが…。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日が傾き始めた頃、オリバーたちは綿密な打ち合わせを終え、お屋敷から出てきました。ロジェが全身から汗を出して座っていました。
「おっ、道が出来てる。ロジェ、ありがとう。ご苦労さん。」
オリバーはロジェに感謝しました。
「いえ…、これくらい、大したことないですよ…。」
「お疲れさまです。このお薬をあげます。お家に帰ったら飲んでくださいね。よく疲れが取れますから。」
イザベルが薬箱から包みを取り出しました。
「あっ、ありがとうございます。」
「さて、明日からはハードな訓練が続く。今日はもう帰ってゆっくり休もう。」
オリバーが言うと、ロジェがオリバーに頼みました。
「あの、僕も時々見に来てもいいですか?本物の魔術なんて近くで見たことがないので…。」
「そうか、この前もエドゥアルトたちを安全な場所に連れて行ってもらっていたもんな。うん、いいだろう。ただし、思わぬ事故に巻き込まれるかもしれないぞ?」
そう言ってオリバーはモニカの顔を覗き込みました。
「そ、そんな!オリバーさん!私は真剣なんです!もう暴発なんて!」
「はははは…。」
「うふふふ…。」
オリバーとイザベルが笑ったため、モニカはムスッと黙りこんでしまいました。
オリバーと仲間たちはシャロンとの対決に備え、それぞれ力を蓄えるために訓練を始めることを決めました。今後の彼らの技術の向上に期待しましょう。
次話ではオリバーたちがひたすら訓練を続けます。オリバーたちは専門外の魔術を身につけようと努力するようですが…?どうぞお楽しみに!
ちなみにミニエー家のお屋敷は三階建てで、大小30近くも部屋があるとても大きな豪邸です。過去のギル大臣によるミニエー家狩り以来、完全に荒れ果ててしまいましたが、当時の面影はまだ相当残っています。
では次話をお楽しみに!




