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暗黒の魔女  作者: kuma383
15/50

~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「14.ミニエー家のお屋敷」

「痛み分け」という形でシャロンとの初めての対決を終えたオリバーたちはオーベルクに帰ってきました。彼らは今後の方針ついて話し合うようです。

オリバーたちは久し振りにオーベルクに帰ってきました。



「荷物を置いたら(わたし)のお店に来てください。これからのことを話し合わなければなりません。」



イザベルが言いました。



「ああ、そうだな。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



すぐにオリバーたちはイザベルの薬屋(くすりや)にやってきました。そして誰もいないことを確認(かくにん)すると、床板(ゆかいた)をはがして地下の『(かく)()』に下りていきました。中ではイザベルとビアンカが待っていました。



「うん、みんなそろったみたいだね。」



「ヴォルフさんとリリーさんもいらっしゃったんですね。」



「しばらくはまたお前たちと一緒に過ごすことになるんだ。俺たちも話は聞いておかなければな。」



ヴォルフが笑って言いました。



「…よし、まずは今後の方針(ほうしん)からだが…。参考(さんこう)までに何か意見のあるやつはいるか?」



オリバーが仲間を見渡(みわた)しました。



「あくまで(わたし)個人としての意見だけれど…。」



パトリックが口を開きました。



「シャロン自身も言っていたけれど、シャロンも今回のことで多くの戦力(せんりょく)(うしな)ったからね、しばらくは動けないだろう。それなら(わたし)たちも、以前言っていたように(たが)いに教えあって経験(けいけん)を積んで、力を(たくわ)えておくべきだと思うよ。」



すると、今度はマチルドが言いました。



「でもよう、(ぎゃく)に今のシャロンに戦力は残ってないわけだろ?今のうちに居場所(いばしょ)を見つけて倒すのが手っ取り早いんじゃないのか?」



今度はオリバーが言いました。



「いや、シャロンほどの魔術師(まじゅつし)ならばその(かく)れ場所を探すのさえ困難(こんなん)だろうし、迂闊(うかつ)に近寄るのも危険な気がする。だいたい、シャロン一人の力だって(あなど)れたもんじゃないだろう。そういう意味では俺はパトリックの意見に賛成(さんせい)なんだが…。



ただ、今回の依頼主(いらいぬし)はペーターだ。俺はペーターの意思に(したが)おうと思う。みんなはそれでいいか?」



反対する仲間は誰もいません。



「…というわけだ、ペーター。お前の判断を(あお)ごう。」



ペーターは少し考えていたようでしたが、やがて口を開きました。



「俺もパトリックさんの意見に賛成です。まずは俺たち自身の腕も向上(こうじょう)させておかないと…。慎重(しんちょう)すぎると言われるかもしれませんが…。」



「いや、賢明(けんめい)判断(はんだん)だと思う。…チュンフェイとヨウフェイは(おそ)らくマチルドと同じ意見だろうが、ここはひとつ我慢(がまん)してくれ。」



ヨウフェイは苦笑いして言いました。



「仕方ないネ。(くや)しいけど、シャロンは一筋縄(ひとすじなわ)では倒せない相手ネ。それに…どうせならヨウフェイたち自身の手で倒したいネ。それにはまだまだ力不足ヨ。」



チュンフェイは相変わらずムスッとした表情をしていましたが、決定に反対するような仕草(しぐさ)は見せませんでした。



「…よし、決まりだな。じゃあ具体的(ぐたいてき)訓練(くんれん)の計画を立てよう。まずはいくつかのグループに分けなくてはならないな。魔術組(まじゅつぐ)みは俺とイザベルとモニカでいいとして、だ…。



まず(やり)を使うハンスとレオンはそのままだ。次は(けん)だが…、確かラルフにはビアンカが教えてくれるんだったな。ラルフに(かん)しては完全にビアンカに任せることとする。」



「ほいよー。よろしくね、ラルフ。」



ビアンカが明るく言いました。



「ペーターとチュンフェイはいきなり実践(じっせん)に入ってもいい。そのあたりはそれぞれに任せるからな。そしてパトリックは様子を見て(やり)(けん)の両方に入ってやってくれ。お前はどちらの(あつか)いも上手いからな。レオンも(けん)(あつか)えるようだから、そこのところはパトリックとうまくやりくりをしてくれ。



次に短剣(たんけん)だが…、これに関してはまだヨウフェイも習いたてだし、アリスとエミリーだって経験(けいけん)がない。ローズとマチルドでうまく分担(ぶんたん)して教えてやるんだ。」



合点(がってん)だ!」



マチルドも元気いっぱいに答えました。



「あとは訓練場所(くんれんばしょ)確保(かくほ)だが…。」



短剣(たんけん)くらいなら俺の宿でも広さは問題ないだろう?」



ヴォルフが言いました。



「ああ、そうだな。じゃあ短剣組(たんけんぐみ)はヴォルフの宿で訓練(くんれん)をしてくれ。(けん)(やり)に関しては、お(たが)いに近くでやった方がいいだろうな…。」



「それならば、以前(わたし)の家があった森の辺りはどうでしょうか?森の中に点々(てんてん)(ひら)けた()()もありますし…。」



イザベルが提案(ていあん)しました。



「うん、悪くないな。パトリックは場所がわかるだろう?みんなを案内してやってくれ。」



「わかったよ。」



「さて…残るは魔術(まじゅつ)か…。(この)ましい場所としては、広い建物の中だな…。街の中を歩いて適当(てきとう)な場所を探してみるとするか…。」



オリバーが言うと、ローズが遠慮(えんりょ)がちに言いました。



「先生…。ちょうどいい場所、知ってる…。」



「え?そうなのか?…確かにローズも、オーベルクでの生活は長かったからな。じゃあ、そこへ案内してくれるか?」



ローズはコクンと(うなず)きました。



「じゃあ(わたし)たちは早速(さっそく)場所を移動しようか。」



パトリックが声をかけました。



「そうだね。短剣(たんけん)のグループ以外は日が(しず)んだらこの店に集合することにしよっか。」



「ああ、それがいいな。」



ビアンカの提案(ていあん)にオリバーも賛成しました。



「あたいらも移動しよう。みんな、行こうぜー。ローズはあとからちゃんと来いよー?」



マチルドが張り切って『(かく)()』を出て行きました。



「あっ、待つネ、バカ!」



ヨウフェイは(あわ)ててマチルドに声をかけましたが、マチルドはもうそこにいませんでした。



「張り切ってる…。」



ローズはおかしそうな表情を見せました。



「しょうがないネ。でもヨウフェイ、ラオシー以外から習う気はないヨ!」



ヨウフェイがローズを見て言いました。



「はは、せっかく張り切っているのに、あれを(ほう)っておくのもかわいそうな話だな。エミリー、()れらはマチルドから習うとしよう。」



「はいっ、お姉さま。」



アリスとエミリーはヨウフェイを連れてマチルドを追いかけて行きました。それを見送ると、オリバーはローズに声をかけました。



「…さて、ローズ。案内してくれ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ローズはオリバーたち三人を連れて街の中を歩きました。



「少しずつ活気(かっき)を取り戻しているようですね。」



「ええ。人通りも増えてきたみたいです。」



モニカに言われ、イザベルも安心したような笑顔を見せました。



「それにしても…おーい!まだ歩くのか、ローズ!」



ローズはコクンと(うなず)いてどんどん歩いていきます。



「まあ、確かに街の真ん中で魔術(まじゅつ)訓練(くんれん)なんかしたら、大騒(おおさわ)ぎになるだろうからな。」



オリバーは苦笑いしました。その時…、



「あっ、ローゼンハイン様!もうオーベルクに戻られたんですか?」



オリバーは突然後ろから声をかけられて(おどろ)きました。



「んっ!?ああ、ロジェか。そのローゼンハイン様、って言うの、何だか仰々(ぎょうぎょう)しいから勘弁(かんべん)してくれないかな。オリバーでいいよ。」



以前に何度か会った、(いち)物売(ものう)青年(せいねん)ロジェでした。



「そんな、(おそ)れ多くて…。今からどこかへお出かけですか?」



「ああ、うん、ちょっとな。」



「僕もついて行っていいですか?今日は品物(しなもの)がすぐに売れちゃって(ひま)なんですよ。」



「…まあ、ロジェは俺たちのことはよく知ってるわけだし、いいか。」



「でも…、ヴォルフさんのことがありますよ?」



モニカは少し警戒(けいかい)しているようです。



「では、ちょっといいですか?」



イザベルはロジェと向かい合うと何かを(とな)えました。



「何も…起こりませんね。」



モニカは首をかしげました。



「安心してください、オリバーさん、モニカさん。彼は本物ですよ。この魔術(まじゅつ)偽物(にせもの)にしか効果(こうか)がありませんからね。」



「そ、そうか。ちなみに、もしロジェが偽物(にせもの)だったらどうなっていたんだ?」



「存在する価値(かち)なし、ということで(どく)充満(じゅうまん)し、()()いて命を落としていたでしょう。まあ、相手がシャロンレベルの魔術師(まじゅつし)だったらきっとそれほどの効果(こうか)はなかったと思いますが。」



イザベルがすまして言ったので、オリバーは顔をこわばらせました。



「サラリと笑顔で(こわ)いこと言うんじゃないよ…。それじゃあロジェ、ついてきてもいいぞ。」



オリバーはそう言うと、少し前のほうで心なしか道草(みちくさ)をくっているオリバーを見て不機嫌(ふきげん)そうにしているローズの方へ歩いていきました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



やがて彼らは街を抜け、森の方にやってきました。



「ローズさん、本当にこんな所に大きな建物なんかあるんですか?もう歩き疲れちゃいましたよ…。」



モニカはもうへとへとです。ローズは(だま)って歩いていましたが、やがて足を止めました。



「ここ…。」



「ここって…何もありませんよ?」



そこは道の両側に草木が鬱蒼(うっそう)()(しげ)っている場所でした。ローズはモニカの言葉を聞くと、(だま)って木の枝をかき分けて(しげ)みの中に入って行きました。



「おっかしいなぁ…。昔、ここに何かがあった気がするんだけど…。」



ロジェは首をかしげました。



「とにかくローズについて行くしかないよ。」



オリバーはそう言って(しげ)みの中へ入って行きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



やがて(しげ)みが終わり、オリバーたちは(ひら)けた場所に着きました。



「これは…すごいな。」



貴族(きぞく)大邸宅(だいていたく)(あと)、といった感じでしょうか…。」



オリバーとイザベルは思わず目を見張(みは)りました。オリバーたちの前にはとても大きなお屋敷(やしき)がありました。ただ、(かべ)のところどころが(こわ)れていたり、大きな穴があいていたりします。



「あっ!思い出した!ここはミニエー家のお屋敷(やしき)だ!」



ロジェの大声に、モニカはびっくりしました。



「ええっ!?み、ミニエー家!?」



「まさか、ミニエー家を知らないんですか?ついこの前までオーベルクを実質的(じっしつてき)(おさ)めていた貴族(きぞく)ですよ。ギル大臣たちに(ほろ)ぼされてしまいましたが…。」



「いえ、知らないというより、むしろ知りすぎているといった方がいいかもしれませんね…。」



イザベルも(おどろ)いたようです。



「…ローズ、ここはお前の家か。」



ローズはコクンと(うなず)きました。



「もともと(こわ)れそうだから、どんなに使っても平気…。もうマチルドたちのところへ戻る…。」



そう言ってローズは(しげ)みの中に消えていきました。



「…いい思い出も悪い思い出もいっぱい()まっていますから、長居(ながい)はしたくなかったのかもしれませんね…。」



ローズを見送ってイザベルが言いました。



「ああ…。だが確かに、ここは魔術(まじゅつ)訓練(くんれん)にはもってこいだ。早速中に入ってみるとしよう。…ロジェ、毎回(しげ)みをかき分けてここに入ってくるのも面倒(めんどう)だ。草や木を()っておいてくれないか?」



「はい!…あれ?」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



屋敷(やしき)の中は()()てていました。ただ、ところどころに残っている調度品(ちょうどひん)の数々はどれも大変立派(りっぱ)な物です。



「ローズさんはもともとここで何も不自由のない生活をしていたんですね…。」



「それをたった六歳の時にオーベルクの路上(ろじょう)に追いやられたわけだ…。そりゃあ人を信じられなくもなるな。」



オリバーとイザベルは少し悲しそうに言いました。



「オリバーさん、イザベルさん、これを見てください!」



モニカが一枚の大きな絵を指差していました。



「これは…外国で流行(りゅうこう)しているという写実絵画(しゃじつかいが)だな。ミニエー家の人々の絵か?まるで動き出しそうな絵だな。」



「この人は…見たことがあります。(おそ)らくはミニエー家最後の当主(とうしゅ)…ローズさんのお父上でしょう。」



「と、すると、この一番小さいのがローズだな。はは、面影(おもかげ)があるな。兄弟の(かげ)(かく)れて、この頃から内気(うちき)だったんだな。」



「こんな平和な時間を勝手な思惑(おもわく)(こわ)されてしまったんですから…ローズさんの(うら)みって、実際に(わたし)たちが見ていた以上のものだったんでしょうね。」



「それに()えられるのがローズさんの強いところです。」



オリバーたちは急にしんみりとしてしまいました。



「…とにかく、魔術(まじゅつ)訓練(くんれん)はこの大広間(おおひろま)で行なうこととしよう。今日のところは明日以降の方針(ほうしん)を話し合う、ということにとどめておくとするか…。」



「そうですね。今日はそんなに時間があるわけでもありませんし…。」



(わたし)も賛成です。」



「よし。ではまず訓練(くんれん)する魔術(まじゅつ)順序(じゅんじょ)だが…。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



日が(かたむ)き始めた頃、オリバーたちは綿密(めんみつ)な打ち合わせを終え、お屋敷(やしき)から出てきました。ロジェが全身から(あせ)を出して座っていました。



「おっ、道が出来てる。ロジェ、ありがとう。ご苦労さん。」



オリバーはロジェに感謝(かんしゃ)しました。



「いえ…、これくらい、大したことないですよ…。」



「お疲れさまです。このお薬をあげます。お家に帰ったら飲んでくださいね。よく疲れが取れますから。」



イザベルが薬箱(くすりばこ)から(つつ)みを取り出しました。



「あっ、ありがとうございます。」



「さて、明日からはハードな訓練(くんれん)が続く。今日はもう帰ってゆっくり休もう。」



オリバーが言うと、ロジェがオリバーに(たの)みました。



「あの、僕も時々見に来てもいいですか?本物の魔術(まじゅつ)なんて近くで見たことがないので…。」



「そうか、この前もエドゥアルトたちを安全な場所に連れて行ってもらっていたもんな。うん、いいだろう。ただし、思わぬ事故(じこ)に巻き込まれるかもしれないぞ?」



そう言ってオリバーはモニカの顔を(のぞ)き込みました。



「そ、そんな!オリバーさん!(わたし)真剣(しんけん)なんです!もう暴発(ぼうはつ)なんて!」



「はははは…。」



「うふふふ…。」



オリバーとイザベルが笑ったため、モニカはムスッと(だま)りこんでしまいました。

オリバーと仲間たちはシャロンとの対決に備え、それぞれ力を蓄えるために訓練を始めることを決めました。今後の彼らの技術の向上に期待しましょう。



次話ではオリバーたちがひたすら訓練を続けます。オリバーたちは専門外の魔術を身につけようと努力するようですが…?どうぞお楽しみに!



ちなみにミニエー家のお屋敷は三階建てで、大小30近くも部屋があるとても大きな豪邸です。過去のギル大臣によるミニエー家狩り以来、完全に荒れ果ててしまいましたが、当時の面影はまだ相当残っています。



では次話をお楽しみに!

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