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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「13.死神」

オリバーたちはヴォルフを探すため、リリーを伴いダナラスフォルスに帰ってきました。街はひっそりとしています。

オリバー一行は神殿都市(しんでんとし)、ダナラスフォルスに帰ってきました。相変(あいか)わらず廃墟(はいきょ)のような様相(ようそう)(てい)しています。



「話には聞いていたけど…ここまでひどいとはね。」



リリーが顔をしかめて言いました。ヴォルフは指示を出しました。



「ハンス、マチルド、ヨウフェイ、神殿(しんでん)の様子を(さぐ)ってきてくれ。」



「わかりました。」



三人は辺りを警戒(けいかい)しながら神殿(しんでん)へ向けて走っていきました。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



やがて三人が帰ってきました。



神殿(しんでん)はもぬけの(から)だぜ?人っ子一人いない。」



「そうか、わかった。いずれここに戻ってくるはずだ。俺たちは先に神殿(しんでん)に入って待機(たいき)するぞ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



神殿(しんでん)の中はひっそりと静まり返っていました。アリスとエミリーが門の上の見張(みは)(だい)にたちました。



「何かあったらすぐに(しら)せてくれ。」



「うむ、わかった。任せておけ。」



オリバーは(あらた)めて神殿(しんでん)を見わたしました。大理石(だいりせき)(かべ)や大きな彫刻(ちょうこく)などが(くず)れ、あちこちに散乱(さんらん)しています。



(ひどい状況(じょうきょう)だ…)



オリバーが顔をしかめると、ローズが声をかけてきました。



「先生…。」



「ん?ローズか。どうした?」



「イザベルが呼んでる…。」



「イザベルが?よし、わかった。案内してくれ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



イザベルは神殿(しんでん)(おく)まった所にいました。しゃがみ込んで何やら見ています。



「どうしたんだ、イザベル。」



「オリバーさん、ここを見てください。」



イザベルが地面を指差しました。辺りには黒い()みがたくさんついています。



「さらに、ここのたいまつにはつい最近火が(とも)された形跡(けいせき)があります。…(わたし)が思うに、これは儀式(ぎしき)(あと)ではないかと・・・。」



儀式(ぎしき)魔術師(まじゅつし)のか?」



「ええ。黒い()みから判断(はんだん)して、(おそ)らく動死体関連(どうしたいかんれん)儀式(ぎしき)ではないか、と…。」



「だとしたら、シャロンがこの近くにいる可能性も高い、というわけだな。」



「ええ、そうです。」



その時、エミリーの大声が聞こえました。



「皆さん!大変です!早く来てください!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みんなが見張(みは)(だい)の下に()けつけました。



「どうしたんだ!」



レオンが問いかけると、アリスが困惑(こんわく)したような表情を見せました。



予想外(よそうがい)のことが起こってしまったようだ…。神殿(しんでん)の周りを動死体(どうしたい)がぐるりと囲んでいる。」



「何だって!?」



(おそ)らくは街の中に息を(ひそ)めていたのでしょう。」



エミリーも苦い顔をしています。オリバーは見張(みは)り台によじ登り、神殿(しんでん)の周りを見回してみました。



「くそっ、迂闊(うかつ)だった…。」



イザベルもつぶやきました。



「やはり、あの儀式(ぎしき)(あと)動死体(どうしたい)を増やすためのもの…。」



「あーっはっはっはっはっ!」



その時、大きな笑い声が聞こえました。



「あれは、ヴォルフ!?」



「そんな、どうしてあんなところに!?」



ヴォルフが(ちゅう)に浮いてオリバーたちを見下ろしていました。



「だから忠告(ちゅうこく)しただろう、オリバー!ここにお前たちの用事はない、とな!今まで数多くの動死体(どうしたい)を倒してきたお前たちとはいえ、これほどの数の動死体(どうしたい)の前には手も足も出ないだろう!」



「くそっ…。」



オリバーは(くや)しそうに(くちびる)()みました。その時、リリーがポツリとつぶやきました。



「違う…。あれはヴォルフじゃない…。」



「そりゃそうでしょ!あんな悪魔(あくま)に食われたヴォルフなんて、もうヴォルフじゃないよ!」



ビアンカが叫びましたが、リリーは首を横に振りました。



「違うの!そういうことじゃない。何か、こう、根本的(こんぽんてき)に…。」



「リリーの言ういうことは…正しいぞ…。」



突然後ろから声がしました。そして声の(ぬし)を見たオリバーたちは(おどろ)きました。



「そ、そんな!どうしてお前が!?」



「は、は、は、久し振りだな、オリバー…。」



そこにはボロボロで(きず)だらけになっているもう一人のヴォルフがいたのでした。



「一体どうして!?じゃあ、あっちのヴォルフさんは…?」



ペーターの言葉にオリバーはハッと顔を上げると、(ちゅう)()いたヴォルフに向かって叫びました。



「クヴァール!」



あまりのオリバーの行動の早さに空に()かんだヴォルフは()けきれず、空中でくるくると回転していました。そして回転が止まった時、今度はヨウフェイが叫びました。



「あれは!シャロンだヨ!」



「ええーっ!?」



空中に浮かんでいたのは奇妙(きみょう)衣装(いしょう)を身にまとった魔女(まじょ)です。シャロンは苦しそうな表情を()かべていましたが、やがてしゃべりだしました。



「…あなたがまだ生きていたとは(おどろ)きました、ヴォルフ・ザックス。完全に(いき)()を止めたと思っていたものを…。」



「は、は、死んでも死にきれず、(よみが)ってきたんだ…。」



ヴォルフは倒れそうになりながらも不敵(ふてき)に笑いました。オリバーがシャロンに問いかけました。



「お前が、シャロンか。」



「ええ、そうですよ。…おや、リャン・チャンの二人の妹もいるようですね。わざわざ(わたし)を追ってここまで来ましたか。結構(けっこう)なことです…。」



チュンフェイとヨウフェイはグッとこぶしを(にぎ)りました。



「どっ、どうしてこんなことをするんだ!」



ペーターが困惑(こんわく)しながらもシャロンに叫びました。



「こんなこと?いったいどのことの話をしているのですか?」



「…そうだな、ではこのリバー王国とシーガルン王国に動死体(どうしたい)仕向(しむ)けた理由は何だ?」



ペーターとは対照的(たいしょう)にオリバーは冷静(れいせい)です。シャロンは不敵(ふてき)に笑いました。



「誰でも一度は夢に見るものではありませんか?世界を全て自分のものにする、ということを。でも多くの人はそれを実行しようとしない。ですから(わたし)がこうして実行しているわけです。別に理由があってこの国を選んだわけではありませんよ?何となく目にとまったためです。別に選ばなくとも、どうせそのうちに全て(わたし)のものとなるわけですから。」



「自分の(よく)()たすために破壊(はかい)を続けている、ということか。」



「あらあら、よく言うじゃありませんか。破壊(はかい)創造(そうぞう)表裏一体(ひょうりいったい)だって。もちろん破壊(はかい)した後に創造(そうぞう)もするつもりですよ。(わたし)主体(しゅたい)とした世界をね。



…さあ、リバー王国を悪の大臣の手から救った偉大(いだい)魔術師(まじゅつし)オリバー・ローゼンハイン。(わたし)正体(しょうたい)(あば)くことには成功したわけですが、依然(いぜん)としてあなた方をとりまく状況は変わっていません。この窮地(きゅうち)をどう(だっ)するおつもりですか?」



「このたくさんの動死体(どうしたい)どものことか?…いや、こいつらは動死体(どうしたい)ではなかったな。合成魔獣(ごうせいまじゅう)、と言ったほうが正しいか。」



「さすが、お(さっ)しがいいのですね。確かにこれは動死体(どうしたい)ではありません。むしろ、動死体(どうしたい)を作るためのものです。」



「どういうことだ?」



「これらに体を()われたものは、同時に(たましい)をも()われてしまいます。その(たましい)を取り出し、人間にそっくりな動死体(どうしたい)を作り出すのです。」



「そうか、それがあの兵隊たちか…。」



「…ヴォルフ・ザックスもわざわざ(わたし)が手にかけるのではなく、これらに()わせておけばよかったのですが…考えの(あま)さが出てしまいましたね。ですが、これらはたまにはまったく役に立たない(たましい)()ってきてしまうのです。」



そう言ってシャロンは空中(くうちゅう)に一体の合成魔獣(ごうせいまじゅう)を持ってきました。



「そういうのはね、こうやって処分(しょぶん)するんですよ。『憎殺』!」



すると合成魔獣(ごうせいまじゅう)破裂(はれつ)して消えました。



「ヨウフェイ、あれはお前の国の言葉か?」



オリバーがサッとヨウフェイの方を見てたずねました。



「そうヨ。『(にく)(ころ)す』っていう意味ネ。」



(にく)(ころ)す…あっ!イザベル!今すぐ強力な防御(ぼうぎょ)魔力線(まりょくせん)をこの神殿(しんでん)に張ってくれ!今すぐだ!」



「は、はいっ!」



イザベルが何かを(とな)えました。その瞬間、イザベルは力なく地面に座り込んでしまいました。



「…で、できました…。」



「よしっ!行くぞ!カースレイーン!」



オリバーは指を真上(まうえ)に向け、叫びました。すると黒い光が雨のように合成魔獣(ごうせいまじゅう)の上に()(そそ)ぎました。次々と合成魔獣(ごうせいまじゅう)破裂(はれつ)していきます。神殿(しんでん)の上に()(そそ)ぐ光はイザベルが張った魔力線(まりょくせん)によって(ふせ)がれます。やがて、神殿(しんでん)を取り囲む合成魔獣(ごうせいまじゅう)は一体もいなくなりました。オリバーもイザベルと同様に魔力(まりょく)を一気に解放(かいほう)したため、その場に倒れこんでしまいました。



「…お見事。よく見抜(みぬ)きましたね。ですが、今のあなたには反撃(はんげき)する余力(よりょく)も残っていません。



…まあ、ここでとどめを刺すのは面白くありませんから見逃(みのが)してあげましょう。(わたし)もこれだけの戦力を(うしな)ったのは重大な損失(そんしつ)です。今回は(いた)()けということにしましょう。それではまた。」



シャロンはそう言い残すと、スウッと消えました。



「まだまだ余裕(よゆう)というわけだね…。」



パトリックがため息をつきながら言いました。



「気に食わねぇな!まるでわざわざ()(うち)を明かしてきたようなもんじゃねぇか!」



レオンはやりきれない(いか)りを(おさ)えられないようです。



「あれだけの動死体(どうしたい)を一度に(あやつ)るなんて…本当の意味で『死神(しにがみ)』です。」



ラルフは(おそ)れ入ったというような表情で言いました。



「先生!イザベルさん!大丈夫ですか!?」



ハンスがオリバーたちのところに駆け寄りました。



「少し…休ませてくれないか…。」



(わたし)も…申し訳ありません…。」



「無理をしてはならぬ。恐らくシャロンもすぐには戻っては()ぬだろう。二人とも体力が戻るまで動いてはならぬ。」



アリスがいたわるように声をかけました。



「それにしてもヴォルフ、一体何があったっていうの?」



ビアンカがヴォルフにたずねました。



「お前たちに宿を明け渡した後、パカロン城へ戻るときにシャロンに(おそ)われたんだ…。何とか死なずにはすんだが、この有様(ありさま)だ…。



ナンジューマで俺の偽物(にせもの)が現れた、っていう話を聞いて、ここに(ひそ)んでいればきっとお前たちがくるだろうと思って(かく)れていたんだ…。」



「とにかく、あんたが生きていてくれてよかったよ。」



リリーがホッとしたように言いました。無事だったことだけではなく、国を混乱(こんらん)させていたのがヴォルフの偽物(にせもの)だったということにも安心したようです。



「すまないな、リリー…。」



「ヴォルフさん、今から回復術(かいふくじゅつ)をかけますね…。」



イザベルがフラフラしながら立ち上がり、ヴォルフに近寄りました。



「でもイザベルさん!こんなに消耗(しょうもう)しているのにまた魔術(まじゅつ)を使うなんて、危険ですよ?」



モニカが言いましたが、イザベルは無理を通しました。



「そんなことは言っていられません。…リカバリー!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



やがてオリバーとイザベルの体力少しだけが戻ってきました。オリバーは立ち上がりました。



「先生…まだいけない…。フラフラ…。」



ローズが心配そうにオリバーのマントをつかんでいます。



「そうも言ってはいられないさ…。イザベルだって、無理をしてヴォルフに回復術(かいふくじゅつ)をかけてくれたんだ。エドゥアルトに乗りさえすればもう動ける。



…エミリー、イザベルをアンヌに乗せてやってくれ。アリスもヴォルフをカトリーヌに乗せてやってくれないか?」



「うむ、わかった。さあヴォルフ、乗るのだ。」



「わかりました。イザベルさん、どうぞ。」



イザベルとヴォルフが馬に乗ったのを確認(かくにん)すると、オリバーもエドゥアルトに乗りました。



「よし、パカロンに戻ろう。女王様に報告(ほうこく)だ…。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



数日後、パカロンに到着したオリバーたちはヘルガ女王様やオットー様に報告(ほうこく)をしました。



「そうでしたか…。心得(こころえ)ましたわ。」



女王様は表情を固くして(うなず)かれました。



「ヴォルフも無事でよかった。…だがまだ以前のようにパカロン城の仕事が出来るわけでもあるまい。(きず)()えるまで、オーベルクに帰って養生(ようじょう)するがよい。リリーも()()ってやるがよいぞ。」



オットー様がヴォルフとリリーにおっしゃいました。



「はっ、ありがとうございます。」



「とにかく、魔術師(まじゅつし)シャロンは人の心につけ込んできます。皆様もどうか用心をなさってください。」



「ご忠告(ちゅうこく)、ありがとうございます。」



「それでは(わたし)たちはもう一度オーベルクに戻って待機(たいき)をすることにいたします。」



「わかった。何かあったらすぐに言うのだぞ。」



心得(こころえ)ております。では失礼いたします。」



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人物紹介


~ヴォルフ・ザックス~

・「忠臣(ちゅうしん)

・37歳。

・一人称は「(おれ)

・オットー様の家臣(かしん)。一年半前はオーベルクで宿屋をやっており、そこにオリバーたちが滞在(やどや)していた。クロスボウの使い手。かつての古傷(ふるきず)影響(えいきょう)で、(けん)(やり)で戦うことはできない。シャロンによって命を(ねら)われたが、九死に一生を得る。オットー様への忠誠心(ちゅうせいしん)は自分が一番強いと自負(じふ)しており、オットー様もその通りだと思っている。ただ、リリーには(しり)の下に()かれ気味(ぎみ)



~リリー・ザックス~

・「侍女長(じじょちょう)

・39歳。

・一人称は「(わたし)

・パカロン城の侍女長(じじょちょう)。ヴォルフの妻。料理だけはどうしてもできないため、管轄外(かんかつがい)。ビアンカとも仲がいい。一年半前はヴォルフとともにオーベルクで宿屋をやっていた。世話好きで、誰からも好かれる。ヴォルフに対しては強い発言権(はつげんけん)を持っているが、基本的には献身的(けんしんてき)(ささ)えている。護身術(ごしんじゅつ)もある程度身につけているため、武器の(あつか)いは人並(ひとな)み以上。



*シャロンについては後に紹介(しょうかい)します。

ついにこのお話の黒幕、魔術師シャロンが姿を現しました。シャロンはオリバーたちがこれまでに出会ったことのないような脅威として立ちはだかり続けます。



次話ではオリバーたちがオーベルクに帰り、今後シャロンと対決する時のために仲間同士で訓練を積むことを決定します。どうぞお楽しみに!



ちなみにダナラスフォルスからパカロンに戻るまでの三日間の旅の間中ずっと、ヴォルフはリリーに説教され続けていました。オリバーがかばおうとすると、とばっちりをくらってオリバーも最後の一日はずっと説教されっぱなしでした。



では次話をお楽しみに!

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