~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「13.死神」
オリバーたちはヴォルフを探すため、リリーを伴いダナラスフォルスに帰ってきました。街はひっそりとしています。
オリバー一行は神殿都市、ダナラスフォルスに帰ってきました。相変わらず廃墟のような様相を呈しています。
「話には聞いていたけど…ここまでひどいとはね。」
リリーが顔をしかめて言いました。ヴォルフは指示を出しました。
「ハンス、マチルド、ヨウフェイ、神殿の様子を探ってきてくれ。」
「わかりました。」
三人は辺りを警戒しながら神殿へ向けて走っていきました。
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やがて三人が帰ってきました。
「神殿はもぬけの殻だぜ?人っ子一人いない。」
「そうか、わかった。いずれここに戻ってくるはずだ。俺たちは先に神殿に入って待機するぞ。」
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神殿の中はひっそりと静まり返っていました。アリスとエミリーが門の上の見張り台にたちました。
「何かあったらすぐに報せてくれ。」
「うむ、わかった。任せておけ。」
オリバーは改めて神殿を見わたしました。大理石の壁や大きな彫刻などが崩れ、あちこちに散乱しています。
(ひどい状況だ…)
オリバーが顔をしかめると、ローズが声をかけてきました。
「先生…。」
「ん?ローズか。どうした?」
「イザベルが呼んでる…。」
「イザベルが?よし、わかった。案内してくれ。」
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イザベルは神殿の奥まった所にいました。しゃがみ込んで何やら見ています。
「どうしたんだ、イザベル。」
「オリバーさん、ここを見てください。」
イザベルが地面を指差しました。辺りには黒い染みがたくさんついています。
「さらに、ここのたいまつにはつい最近火が灯された形跡があります。…私が思うに、これは儀式の跡ではないかと・・・。」
「儀式…魔術師のか?」
「ええ。黒い染みから判断して、恐らく動死体関連の儀式ではないか、と…。」
「だとしたら、シャロンがこの近くにいる可能性も高い、というわけだな。」
「ええ、そうです。」
その時、エミリーの大声が聞こえました。
「皆さん!大変です!早く来てください!」
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みんなが見張り台の下に駆けつけました。
「どうしたんだ!」
レオンが問いかけると、アリスが困惑したような表情を見せました。
「予想外のことが起こってしまったようだ…。神殿の周りを動死体がぐるりと囲んでいる。」
「何だって!?」
「恐らくは街の中に息を潜めていたのでしょう。」
エミリーも苦い顔をしています。オリバーは見張り台によじ登り、神殿の周りを見回してみました。
「くそっ、迂闊だった…。」
イザベルもつぶやきました。
「やはり、あの儀式の跡は動死体を増やすためのもの…。」
「あーっはっはっはっはっ!」
その時、大きな笑い声が聞こえました。
「あれは、ヴォルフ!?」
「そんな、どうしてあんなところに!?」
ヴォルフが宙に浮いてオリバーたちを見下ろしていました。
「だから忠告しただろう、オリバー!ここにお前たちの用事はない、とな!今まで数多くの動死体を倒してきたお前たちとはいえ、これほどの数の動死体の前には手も足も出ないだろう!」
「くそっ…。」
オリバーは悔しそうに唇を噛みました。その時、リリーがポツリとつぶやきました。
「違う…。あれはヴォルフじゃない…。」
「そりゃそうでしょ!あんな悪魔に食われたヴォルフなんて、もうヴォルフじゃないよ!」
ビアンカが叫びましたが、リリーは首を横に振りました。
「違うの!そういうことじゃない。何か、こう、根本的に…。」
「リリーの言ういうことは…正しいぞ…。」
突然後ろから声がしました。そして声の主を見たオリバーたちは驚きました。
「そ、そんな!どうしてお前が!?」
「は、は、は、久し振りだな、オリバー…。」
そこにはボロボロで傷だらけになっているもう一人のヴォルフがいたのでした。
「一体どうして!?じゃあ、あっちのヴォルフさんは…?」
ペーターの言葉にオリバーはハッと顔を上げると、宙に浮いたヴォルフに向かって叫びました。
「クヴァール!」
あまりのオリバーの行動の早さに空に浮かんだヴォルフは避けきれず、空中でくるくると回転していました。そして回転が止まった時、今度はヨウフェイが叫びました。
「あれは!シャロンだヨ!」
「ええーっ!?」
空中に浮かんでいたのは奇妙な衣装を身にまとった魔女です。シャロンは苦しそうな表情を浮かべていましたが、やがてしゃべりだしました。
「…あなたがまだ生きていたとは驚きました、ヴォルフ・ザックス。完全に息の根を止めたと思っていたものを…。」
「は、は、死んでも死にきれず、甦ってきたんだ…。」
ヴォルフは倒れそうになりながらも不敵に笑いました。オリバーがシャロンに問いかけました。
「お前が、シャロンか。」
「ええ、そうですよ。…おや、リャン・チャンの二人の妹もいるようですね。わざわざ私を追ってここまで来ましたか。結構なことです…。」
チュンフェイとヨウフェイはグッとこぶしを握りました。
「どっ、どうしてこんなことをするんだ!」
ペーターが困惑しながらもシャロンに叫びました。
「こんなこと?いったいどのことの話をしているのですか?」
「…そうだな、ではこのリバー王国とシーガルン王国に動死体を仕向けた理由は何だ?」
ペーターとは対照的にオリバーは冷静です。シャロンは不敵に笑いました。
「誰でも一度は夢に見るものではありませんか?世界を全て自分のものにする、ということを。でも多くの人はそれを実行しようとしない。ですから私がこうして実行しているわけです。別に理由があってこの国を選んだわけではありませんよ?何となく目にとまったためです。別に選ばなくとも、どうせそのうちに全て私のものとなるわけですから。」
「自分の欲を満たすために破壊を続けている、ということか。」
「あらあら、よく言うじゃありませんか。破壊と創造は表裏一体だって。もちろん破壊した後に創造もするつもりですよ。私を主体とした世界をね。
…さあ、リバー王国を悪の大臣の手から救った偉大な魔術師オリバー・ローゼンハイン。私の正体を暴くことには成功したわけですが、依然としてあなた方をとりまく状況は変わっていません。この窮地をどう脱するおつもりですか?」
「このたくさんの動死体どものことか?…いや、こいつらは動死体ではなかったな。合成魔獣、と言ったほうが正しいか。」
「さすが、お察しがいいのですね。確かにこれは動死体ではありません。むしろ、動死体を作るためのものです。」
「どういうことだ?」
「これらに体を喰われたものは、同時に魂をも喰われてしまいます。その魂を取り出し、人間にそっくりな動死体を作り出すのです。」
「そうか、それがあの兵隊たちか…。」
「…ヴォルフ・ザックスもわざわざ私が手にかけるのではなく、これらに喰わせておけばよかったのですが…考えの甘さが出てしまいましたね。ですが、これらはたまにはまったく役に立たない魂も喰ってきてしまうのです。」
そう言ってシャロンは空中に一体の合成魔獣を持ってきました。
「そういうのはね、こうやって処分するんですよ。『憎殺』!」
すると合成魔獣は破裂して消えました。
「ヨウフェイ、あれはお前の国の言葉か?」
オリバーがサッとヨウフェイの方を見てたずねました。
「そうヨ。『憎み殺す』っていう意味ネ。」
「憎み殺す…あっ!イザベル!今すぐ強力な防御の魔力線をこの神殿に張ってくれ!今すぐだ!」
「は、はいっ!」
イザベルが何かを唱えました。その瞬間、イザベルは力なく地面に座り込んでしまいました。
「…で、できました…。」
「よしっ!行くぞ!カースレイーン!」
オリバーは指を真上に向け、叫びました。すると黒い光が雨のように合成魔獣の上に降り注ぎました。次々と合成魔獣は破裂していきます。神殿の上に降り注ぐ光はイザベルが張った魔力線によって防がれます。やがて、神殿を取り囲む合成魔獣は一体もいなくなりました。オリバーもイザベルと同様に魔力を一気に解放したため、その場に倒れこんでしまいました。
「…お見事。よく見抜きましたね。ですが、今のあなたには反撃する余力も残っていません。
…まあ、ここでとどめを刺すのは面白くありませんから見逃してあげましょう。私もこれだけの戦力を失ったのは重大な損失です。今回は痛み分けということにしましょう。それではまた。」
シャロンはそう言い残すと、スウッと消えました。
「まだまだ余裕というわけだね…。」
パトリックがため息をつきながら言いました。
「気に食わねぇな!まるでわざわざ手の内を明かしてきたようなもんじゃねぇか!」
レオンはやりきれない怒りを抑えられないようです。
「あれだけの動死体を一度に操るなんて…本当の意味で『死神』です。」
ラルフは恐れ入ったというような表情で言いました。
「先生!イザベルさん!大丈夫ですか!?」
ハンスがオリバーたちのところに駆け寄りました。
「少し…休ませてくれないか…。」
「私も…申し訳ありません…。」
「無理をしてはならぬ。恐らくシャロンもすぐには戻っては来ぬだろう。二人とも体力が戻るまで動いてはならぬ。」
アリスがいたわるように声をかけました。
「それにしてもヴォルフ、一体何があったっていうの?」
ビアンカがヴォルフにたずねました。
「お前たちに宿を明け渡した後、パカロン城へ戻るときにシャロンに襲われたんだ…。何とか死なずにはすんだが、この有様だ…。
ナンジューマで俺の偽物が現れた、っていう話を聞いて、ここに潜んでいればきっとお前たちがくるだろうと思って隠れていたんだ…。」
「とにかく、あんたが生きていてくれてよかったよ。」
リリーがホッとしたように言いました。無事だったことだけではなく、国を混乱させていたのがヴォルフの偽物だったということにも安心したようです。
「すまないな、リリー…。」
「ヴォルフさん、今から回復術をかけますね…。」
イザベルがフラフラしながら立ち上がり、ヴォルフに近寄りました。
「でもイザベルさん!こんなに消耗しているのにまた魔術を使うなんて、危険ですよ?」
モニカが言いましたが、イザベルは無理を通しました。
「そんなことは言っていられません。…リカバリー!」
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やがてオリバーとイザベルの体力少しだけが戻ってきました。オリバーは立ち上がりました。
「先生…まだいけない…。フラフラ…。」
ローズが心配そうにオリバーのマントをつかんでいます。
「そうも言ってはいられないさ…。イザベルだって、無理をしてヴォルフに回復術をかけてくれたんだ。エドゥアルトに乗りさえすればもう動ける。
…エミリー、イザベルをアンヌに乗せてやってくれ。アリスもヴォルフをカトリーヌに乗せてやってくれないか?」
「うむ、わかった。さあヴォルフ、乗るのだ。」
「わかりました。イザベルさん、どうぞ。」
イザベルとヴォルフが馬に乗ったのを確認すると、オリバーもエドゥアルトに乗りました。
「よし、パカロンに戻ろう。女王様に報告だ…。」
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数日後、パカロンに到着したオリバーたちはヘルガ女王様やオットー様に報告をしました。
「そうでしたか…。心得ましたわ。」
女王様は表情を固くして頷かれました。
「ヴォルフも無事でよかった。…だがまだ以前のようにパカロン城の仕事が出来るわけでもあるまい。傷が癒えるまで、オーベルクに帰って養生するがよい。リリーも付き添ってやるがよいぞ。」
オットー様がヴォルフとリリーにおっしゃいました。
「はっ、ありがとうございます。」
「とにかく、魔術師シャロンは人の心につけ込んできます。皆様もどうか用心をなさってください。」
「ご忠告、ありがとうございます。」
「それでは私たちはもう一度オーベルクに戻って待機をすることにいたします。」
「わかった。何かあったらすぐに言うのだぞ。」
「心得ております。では失礼いたします。」
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人物紹介
~ヴォルフ・ザックス~
・「忠臣」
・37歳。
・一人称は「俺」
・オットー様の家臣。一年半前はオーベルクで宿屋をやっており、そこにオリバーたちが滞在していた。クロスボウの使い手。かつての古傷の影響で、剣や槍で戦うことはできない。シャロンによって命を狙われたが、九死に一生を得る。オットー様への忠誠心は自分が一番強いと自負しており、オットー様もその通りだと思っている。ただ、リリーには尻の下に敷かれ気味。
~リリー・ザックス~
・「侍女長」
・39歳。
・一人称は「私」
・パカロン城の侍女長。ヴォルフの妻。料理だけはどうしてもできないため、管轄外。ビアンカとも仲がいい。一年半前はヴォルフとともにオーベルクで宿屋をやっていた。世話好きで、誰からも好かれる。ヴォルフに対しては強い発言権を持っているが、基本的には献身的に支えている。護身術もある程度身につけているため、武器の扱いは人並み以上。
*シャロンについては後に紹介します。
ついにこのお話の黒幕、魔術師シャロンが姿を現しました。シャロンはオリバーたちがこれまでに出会ったことのないような脅威として立ちはだかり続けます。
次話ではオリバーたちがオーベルクに帰り、今後シャロンと対決する時のために仲間同士で訓練を積むことを決定します。どうぞお楽しみに!
ちなみにダナラスフォルスからパカロンに戻るまでの三日間の旅の間中ずっと、ヴォルフはリリーに説教され続けていました。オリバーがかばおうとすると、とばっちりをくらってオリバーも最後の一日はずっと説教されっぱなしでした。
では次話をお楽しみに!




