~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「12.ヴォルフへの疑惑」
ダナラスフォルスの神殿でヴォルフとひと悶着あったオリバーたちは、ことの真相を確かめるべく、パカロンに戻り女王様たちに直接お話しを聞くことにしました。三日間かけてようやくオリバーたちはパカロンに到着しました。
オリバーたちは三日間旅を続け、パカロンへ到着しました。ハンスがオリバーに話しかけました。
「途中で一度も動死体に遭わなかったのは幸いでしたね。」
「ああ。」
オリバーはダナラスフォルスでの一件以来、そっけない返答しかしません。ビアンカが膨れてイザベルにこぼします。
「別に、依頼主はペーターなんだから、あんなバカヴォルフなんかの言うことなんか無視してナンジューマに残ってもよかったとは思うけどね。」
「とは言っても王家からの言葉ともあれば、従わずにはいられないでしょう。」
「まあ、それはそうだけどさ…。」
その時、マチルドが背伸びをして言いました。
「あれ?城の門のところに人だかりが出来ているぜ?」
「というより、門に通じる大通の沿道に人がたくさん集まっていますね。」
ラルフも言いました。すると、愛馬の上からアリスとエミリーが驚いたように言いました。
「む…?あれは…今、城に入って行くのはオットー様ではないか?」
「その後ろは…ヘルガ女王様です!」
ハンスとペーターも戸惑いを隠せないようです。
「そんな…。じゃあ、オットー様たちはパカロン城にいなかったということ?」
「いったいどういうことなんでしょうか、先生?」
オリバーは黙っていましたが、そのまま歩き出しました。オリバーはつかつかとお城の門番のもとに歩み寄り、名乗りました。
「オリバー・ローゼンハインだ。ヘルガ女王様に謁見をお願いしたい。」
「え?ローゼンハイン様?どうして…。」
門番は不思議そうな顔をしましたが、オリバーたちを中に案内してくれました。
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大広間にヘルガ女王様、オットー様、そしてシーガルン国王のセザール様がいらっしゃいました。オットー様はオリバーたちを見て嬉しそうになさいました。
「ローゼンハイン殿たちか。ちょうど良かった。今トリポートの視察から帰ったところだ。トリポートもようやく以前の活気を取り戻しつつあるようだ…。」
「それにしても、お早いのですわね。もうナンジューマでの問題をご解決なさったのですか?」
女王様は笑顔でおっしゃいました。
(やはり女王様たちは知らないのか…)
ややしばらくの沈黙の後、オリバーが口を開きました。
「どうかご無礼をお許しください。…本日ここへ全員で参上したのはお聞きしたいことがあったためです、女王様。」
「まあ、どうしたのですか?」
オリバーはダナラスフォルスでヴォルフに言われたことを話しました。ヘルガ女王様とオットー様は大変驚かれたようです。
「…私たちはその指示を出してはおりません。何しろたった今七日間の視察から帰ってきたところですからね。」
「シャルパンティエ殿、あなたは何かご存知か?」
オットー様がセザール様にたずねられました。するとセザール様は少しバツの悪そうな顔をされました。
「まさかこんな騒ぎになるとは…。ローゼンハイン殿、すまない。彼にナンジューマ地方へ行く許可を出したのはこの私だ。」
「何ですって?」
「彼が私に言ってきたのだ。ローゼンハイン殿たちの手助けをしたい、と。城に残っていたのは私一人。あなたの力になるのなら問題はない、と思い、許可を出したのだが…。」
「困りますな、シャルパンティエ殿。ヴォルフ・ザックスは余の直属の家来だ。」
オットー様は不満顔です。
「すまない、フランツ殿。」
「ですが、その主人の許可もなく勝手に出て行ったヴォルフにも問題はありますわね。」
女王様も少し気分を害されたような表情でおっしゃいました。セザール様は申し訳なさそうにしながらも首をかしげられました。
「しかし…疑問が一つだけある…。ローゼンハイン殿、彼は数百人もの王国兵を連れていた、とおっしゃったな?」
「はい。」
「だがこの城を出てゆくとき、彼は兵など連れ出してはいないのだ。ここに残った王国兵の数もまったく変わっていない・・・。フランツ殿、彼には直属の兵がいるのか?」
「いや、そのようなものはいない。第一、この度のことで王国兵は二割程度しか生き残らなかったのだ。百人単位での出撃など、すぐにわかってしまう。」
その瞬間、オリバーは顔面蒼白になりました。
「しまった、そういうことだったのか…。」
「どうしたのだ、ローゼンハイン殿。」
「私たちがダナラスフォルスで遭遇したシーガルン王国軍のように、ヴォルフも洗脳されている可能性があります。道理で最近、ヴォルフの言動がおかしかったはずだ…。恐らくは何度もあちこちの調査に向かった時に襲われた可能性も…。」
「そんな…。恐ろしい…。」
女王様は思わず両手で口元を覆いました。
「大変失礼をいたしました。私たちはすぐにナンジューマに戻り、ヴォルフを止めてまいります!」
「すまない、ローゼンハイン殿。余の方からもお願いしたい。ヴォルフは余の大切な家臣だ。」
「はっ、ではこれにて失礼いたします。」
オリバーたちは急いで大広間を後にしました。
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彼らが中庭に出たとき、誰かが飛び出してきました。
「オリバー!うちの人が大変なんだって!?」
「リリーじゃないか。」
リリーが走ってお城の中から出てきたのです。
「私もどうも最近変だと思ってたんだよ…。オリバー、私も連れて行ってくれないかい?」
「だが危険だぞ?ナンジューマには動死体がうようよしている。」
「そんなことは承知の上さ!早く行ってあのバカ亭主を止めないと!」
「…よし、わかった。じゃあエドゥアルトに乗るんだ。」
「ありがとう。あんたは優しいね。」
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オリバーたちはもときた道を引き返しました。
「ヴォルフさんを洗脳するなんて、シャロンって言うやつは随分と頭がいいんだな…。」
ハンスが困ったようにヨウフェイに言いました。
「そうヨ。あいつはヨウフェイたちを追いつめるために周りの人からどんどん殺していって精神的にヨウフェイたちを追いつめたヨ。」
「そもそも、どうしてヨウフェイたちはシャロンに狙われたんだ?」
「兄さんがシャロンの仲間と戦って殺したことが原因ネ。兄さん、有名な戦士だったヨ。それで街を燃やしつくそうとしたシャロンの仲間を倒したネ。それでシャロンに恨まれたヨ。」
「逆恨み、ってやつか…。」
横からペーターも話に入ってきました。
「でも、もしヴォルフさんを洗脳したことが俺たちを追いつめるためだというんなら…、シャロンは俺たちを標的にした、ってことだよな。」
「…ヨウフェイたちが巻き込んでしまったネ?」
ヨウフェイは少し申し訳なさそうに肩をすくめました。しかし、マチルドが元気に励ましました。
「何言ってるんだよ。どっちにしろあたいたちだってシャロンを倒さなきゃならないんだ。まとめてやっつけちまえばいいって。」
「…バカにしてはいいこというネ。」
「あーっ、こいつ!せっかく人が励ましてやったっていうのに!」
そんなやり取りをエドゥアルトの上から見ていたリリーが笑ってオリバーに言いました。
「面白い仲間が増えたんだね。」
「ああ。だが姉の方がちょっとした問題を抱えていてな…。何もしゃべれなくなる魔術をかけられているらしい。まだ俺たちのことを信用しきれていないみたいだし…。」
「そんなの問題にならないよ。時間をかけてお互い理解できればいいんじゃないかい?」
「そう…そうだな。」
リリーの言葉に、少しオリバーの気持ちも楽になったようです。すると、ペーターが話しかけてきました。
「でも先生、洗脳されているとは言え、ヴォルフさんに武器を向けることは…。」
「洗脳の度合いによるが…、もしかしたら尋問の魔術をかければ何とかなるかもしれない。本人には相当な苦痛を与えることにはなるが…。」
オリバーは心配そうにリリーに言いましたが、リリーは笑っています。
「そんなこと気にしないでいいよ。あんたたちに散々迷惑をかけてるんだからね、そのくらいの罰は受けてもらわないと。」
「そ、そうか…。」
サラリと言ってのけるリリーを見て、オリバーは引きつった笑いを浮かべました。すると、アリスが遠くに何かを見つけたようです。
「む…?オリバー、あれを見るのだ。煙が立っているな。」
「…本当だ。アリスはよく目が利くな。」
「森の中で育ったから近くにしか目が届かないとでも思っていたか?残念だな、吾れらはよく木に登り遠くを眺めていたからな。」
アリスはオリバーに褒められ、誇らしげな表情を浮かべました。
「…それより、偵察をする必要があるのではないですか?」
エミリーが提案しました。
「ああ、そうだな。ハンス、マチルド、また頼んでいいか?」
「合点だ!その代わり、何か美味いもの食わせろよ!」
「ヨウフェイも行くネ!今度から偵察にはヨウフェイも連れて行くネ!」
「ああ、わかった。用心しろよ。」
「では行ってきます。」
ヨウフェイを含めた三人は煙の立っている方向へ走っていきました。
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すぐにヨウフェイが帰ってきました。
「大変だヨ!兵隊が村を襲っているヨ!」
「何だって!?」
「今二人が兵隊と話してるネ。でもあの二人じゃ心もとないネ。オマエも行くヨ。」
「わかった。パトリック、みんなをまとめて連れてきてくれ。俺は先に行ってハンスたちと合流する。」
「わかったよ。」
「私も一緒に行くよ。兵隊のことなら、王宮勤めの私なら少しわかるかもしれないからね。」
リリーが言いました。
「わかった。エドゥアルト!行くぞ!」
オリバーはエドゥアルトにまたがると、全速力で走らせました。エドゥアルトはオリバーとリリーを乗せ、風のように走りました。
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オリバーが村に到着すると、ハンスとマチルドが兵隊と口論をしていました。
「この村の背後の山に動死体が潜んでいるという情報が入ったのだ。火を放つのが一番よい方法だ。」
「じゃあ残っていた村人を殺したのはなぜだ!」
ハンスが語気を荒くしています。
「煙にまかれて苦しむのも酷な話だ。どうせ助からないのなら、我々が手を下してやった方が早いだろう?」
兵士の言葉に、マチルドは呆れかえったようです。
「見下げ果てたやつらだな。」
「マチルドの言うとおりだな。」
「先生!リリーさんも!」
「あんたたち、これは誰に命令されたんだい?」
リリーが険しい表情で兵士たちに言いました。
「これは侍女長、リリー・ザックス様。命令を下したのはあなた様のご主人、ヴォルフ・ザックス隊長殿であります。」
「あの人がこんなふざけた命令をね…ん?ちょっと待って…?」
「どうしたんだ、リリー?」
次の瞬間、リリーの顔が真っ青になりました。
「あんたは確かキンフィールド警備隊長のシュタインじゃないか!」
「キンフィールド警備隊長?どうしてそんなやつがこんなところにいるんだ?」
「問題はそこじゃないよ!シュタインはキンフィールドが襲撃された時に死んだはずなんだよ!それなのに…、どういうことなんだい?」
「それはこういうことですよ!」
兵士は突然マチルドに切りかかりました。
「うわっ!」
マチルドは素早く反応して避けましたが、腕を少し切られたようです。
「くそっ、戦うぞ!」
ハンスが槍を手に猛然と突撃していきます。マチルドも腕をかばいながらも短剣を構えて敵に向かっていきます。
「カースアタック!」
オリバーも魔術で二人を援護します。
「今、加勢するよ!」
駆けつけたパトリックたちも応戦します。
「情けないけど、こうなったら私は見ていることしかできないね。…あれ、あんたも戦わないのかい?」
リリーが横にいたヨウフェイに聞きました。
「まだ戦えないネ。でももう少しで戦えるようになるヨ。ヨウフェイも早く姉さんみたいに立派に戦いたいネ。」
「姉さん…ああ、あれかい。」
チュンフェイが大太刀を振るって敵兵と戦っています。
「ところでオリバーが言っていたけど、あんたの姉さんオリバーたちのことを信用しきれていないんだって?そこのところ、妹の立場から見てどうなんだい?」
ヨウフェイは笑って言いました。
「アイツが心配しているほどのことでもないネ。姉さんは照れ屋ネ。確かにまだ疑っているところはあるみたいだけど、最初に比べたらずっと心を許しているヨ。まず、アイツらを見る目が変わってきているネ。」
「そうかい、じゃあ安心だね。」
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やがて戦いは終わりました。イザベルが傷ついた仲間の手当てをしています。
「相手はある種の動死体です。傷ついたまま戦うのは危険ですよ、マチルドさん。」
「そんなこと言ったってよぅ…。」
「まったく、動死体だと思ったやつが動死体じゃなくて、人間だと思ったやつが動死体なんて…、わけがわからねぇぜ…。」
レオンが弱ったように言いました。
「でもさ、相手が動死体だったってことはさ…。」
ビアンカが沈んだ表情で言うと、オリバーも続けました。
「…ああ、そうだ…。
リリー、冷静に聞いてほしいんだ。あの兵士がキンフィールドが襲われたときに死んだ兵士だ、ということは、これまでの一連の動きは背後にいる魔術師が兵士を洗脳して操っているのではなく、死者そのものに何らかの手を加えて操っている可能性も出てくる。つまり…、」
「うちの亭主も死んでいる可能性がある、ってことだね。」
「残念だが…。もちろん、まだ確証があるわけじゃないがな。」
「…こんなことになった時点である程度の諦めはついてるよ。まずは本物か偽物かわからないうちの亭主を探すしかないよ。」
「ああ、そうだな。」
パカロンに戻ったオリバーたちは、ヴォルフがとても危険な状態になっていることを悟りました。動死体との戦いを終え、彼らの焦りはより一層なものとなってしまっています。
次話ではダナラスフォルスに戻ったオリバーたちに、ヴォルフが立ちはだかります。しかし、リリーはヴォルフに何か違和感を感じているようですが…?そして、ついに今回のお話の黒幕が登場します。どうぞお楽しみに!
ちなみにリリーは今回戦いに参加はしていませんが、オットー様やクララ様を護るために一通りの武術は身につけています。得意な武器は先に刀のような刃がついた槍です。なぎなたのようなものを想像していただけるといいかと思います。
では次話をお楽しみに!




