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97 第5章第16話 狙いは何?

 ―― カッキーン ヒューー ――


 打球は、ワンバウンドでセカンドの右を抜けて、ライト前ヒットになった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【場面はちょっとだけ戻る】



 2回裏に珠子(たまこ)がベンチを出ようとしたとき……。


「タマ子ちゃん、ちょっといいかい?」

「あ、はい、何ですか? 多澤(おおさわ)さん」


「初球は、打たせるから、『たまご』のツッパリボールで投げておくれ」

「え? 打たせるんですか?」


「理由は、後で教える。……おい、セカンドの形山! 初球はお前のところに飛ぶけど、無理して取るなよ! いいか!」

「は、はい……でも、どうして、ワザとヒットにするんですか?」


「詳しくは後だ! 今は、時間がない。急いで守備につくぞ!」


 キャッチャーの多澤は、それだけを言うと、自分のポジションに走った。






「(4番の栗草(くりくさ)だ。こいつなら、バットスウィングが正確だから、逆に読みやすいんだよな。……ここだよ、タマ子ちゃん!)」


「(えっとツッパリボールの『たまご』よね。あんまり力を入れないように……と! じゃ、行くわよ……)」



 “ピッチャー北白山(きたしらやま)、いつものモーションから、……投げた!”


 ―― カッキーン ヒューーゴロゴロ…… ――


 “打ったー、栗草! ワンバウンドでセカンドの右を抜けた~! ライト前ヒットだ!”



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【場面は、珠子がヒットを打たれた直後から】




 “今のボールはどうでした? 岩木さん”

 “あれは、フォークボールやったけど、さっきより落ちとるな~……ただ、栗草やから空振りやなく、なんとかボールに合わせることができたんだ。それも、早めに落ちるのが見えたからやと思うんやけど……”


 “おや? 岩木(いわき)さん、この投球はミスだったんですか?”

 “う~ん……投球がミスかどうかは分からんな。でも、いつものセカンド形山(かたやま)だったら飛びついてキャッチできそうな気がするんやけどなあ~”






 同じように新城(しんじょう)監督が、心配そうに徹子に尋ねた。


「テッちゃん? 大丈夫なの? 打たれちゃったよ……」

「ああ、監督。たぶん、大丈夫だと思います。さっき、多澤さんとタマ子は、打合せしてましたから。2回裏の守備につく前だったので、詳しい理由は後でって多澤さんが言ってましたけど、……きっとタマ子のためですよ」


 徹子(てつこ)には、多澤の心配が分かっているようだった。


「詳しくは、この回が終わったら多澤さんが説明してくれると思いますけど、次のバッターからは、またいつものようになると思いますよ」

「本当かい? テッちゃん。僕は、とっても心配だなあ~」


「ダメですよ、新城監督。そんな心配そうな顔しないでください。ほら、あそこで、テレビカメラも狙ってますよ。監督が心配したら、タマ子の調子が悪いんじゃないかって思われちゃいますよ。ふふふ……」


 徹子は、笑みを浮かべたままグラウンドに目をやっていた。傍から見たら、徹子の方がよっぽど落ち着いているように見えたかもしれない。

 新城監督は、徹子に指摘されたことを考えながら、慌てて表情を改めて、自分の席に戻り、いつもの笑顔で珠子を目で追っていた。



 “ノーアウト、ランナー1塁です。ひょっとして、栗草は盗塁もあるんじゃないでしょうかね”

 “そうやね、彼は1塁に出たら、3回に1回は盗塁を決めとるよな”


 “おっと、ピッチャー北白山は、次のバッターには、セットポジションで投げます。ランナーを伺っていますね~……あ! 牽制球(けんせいきゅう)を投げました”


『―― セーフ ――』



 “実に、スムースな牽制ですね”

 “モーションも幾分、早くなってとるな~……クイックも使えるんや。ランナーは、迂闊にリードをとれんな。下手したら刺されるで”




「(次のバッター、初球はこれだ!)」

「(え? そんなところに投げていいんですか?……ま、多澤さんのサインだから、間違いがないわね!)」



 “さあ、次のバッターは海山(うみやま)です。ピッチャーセットポジションから……第1球投げました。あ! 1塁ランナーが走った! いや、ボールも大きく外角に外れてる!”

 “しかも、速い球や! 多澤が待ってましたとばかりに、キャッチしとるわ!”


 “ランナー走った! 盗塁です。キャッチャーも、ボールをセカンドに投げた!”


 ―― ビューーン ――

 ―― ズザザザザ― ――

 ―― バシッ! ――




(つづく)


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