96 第5章第15話 理論に感心
「おいおい、タマちゃん? 変化球も投げられるようになったのかい?」
ベンチに戻ると新城監督は、嬉しそうに聞いてきた。
「はい! 監督。あたし、魔球を投げられるんですよ! 今のは、ツッパリボールです!」
「魔球? ツッパリボール?」
新城監督の目が点になりかけたとき、横にいた徹子が慌てて説明を始めた。
「えっと……タマ子は、変化球のことを『魔球』って呼ぶんですよ。今投げたのは、フォークボールです」
「あ、ああ~、そうなんだ。……でも、あんまり落ちなかったよね。失敗だったの?」
新城監督は、ちょっと不安そうに尋ねた。すると、今度は多澤が、笑いながら言った。
「あははは、まあ、失敗かもしれませんな。でも、監督、よく考えてくださいよ。ぎりぎりまでストレートに見えるボールが、直前でちょっと軌道を変えてご覧なさい。一流のバッターだったらどうなると思いますか?」
「う~ん、そうだな~。ボールの軌道を計算して狙ってバットを振ってくるはずだから、直前でボールが少し落ちたら、打ち損じになるんじゃないかな」
「そうですよ。ボールの上っ面をひっぱたくことになるんです。すると……さっきみたいなボテボテのゴロになるんですよ」
「え? じゃあ、始めからボテボテのゴロを打たせる計算の上で、あのボールを投げたのかい?」
「はい、その通りですよ」
多澤は、まるで自分の手柄のように嬉しそうに話した。
「なるほど~……そうなんですね。う~ん、すごいボールじゃないですか!」
横で聞いていた珠子が、腕を組みながら感心して大きく頷いていた。
―― パカッーン ――
「イッターー!」
「何言ってんのよ、タマ子! あんたが、感心してどうするの! あんたが投げたボールじゃない!」
まるで他人ごとのように感心する珠子の頭を軽く叩いてから、徹子は笑いをこらえながらツッコミを入れていた。
「えっと……タマちゃんとテッちゃんは、漫才をやってるみたいだね。……とっても面白いよ!」
2人の会話が面白いのか、珠子の投げるボールが面白いのかは言わずに、新城監督は笑顔で元の席に戻っていった。
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“2回の表が終わりました。7番のレフト今河にホームランが出て、ファイアースに1点が加わり、2対0となりましたね”
“フォーグスのピッチャー下沢も調子は悪くないんやけど、甘い球を今河は見逃さんちゅうことやったわ”
“そうですね。ファイアースのピッチャー北白山は、1回裏を4球で乗り切りましたから、こっちも調子がいいんじゃないでしょうか?”
“まあ、新人ピッチャーやから、どこまでもつかは分からんけど、たま~にいるんだよね。棚からぼた餅みたいにノーヒットノーランを決めるのがね。でも、最初にそんなことしてみいや、その後マウンドに上がる時のプレッシャーちゅうたら、半端やないで! 余計な緊張をせなあかんようになるんや。少ない球数でいくのはとってもええことや。でもな、ほどほどがええねん! 北白山、ちょっと心配やな……”
“さあ、2回裏、フォーグスの攻撃です。ファイアースのピッチャーは、北白山。第1球投げました……”
―― カッキーン ヒューー ――
“1、2塁間を抜けた……ライト前ヒットです! 打たれましたね、岩木さん”
“なんや……あっさり、打たれたなあ~……。(俺の心配し過ぎだったかな?) ん? なんや? 北白山、笑っとるで? 打たれたちゅうのに、なんか余裕やな~……”
(つづく)




