95 第5章第14話 快調な出だし
“ピッチャー北白山は、2人目のバッター周西に向かいます。サインを確認しています。岩木さん、今回はきっちりサイン交換をしているようですね”
“そうやね……オープン戦のときもサインは見ていたようだったけど、あっさりしたものやったな。すぐに頷いとったけど、今回はとても慎重や”
「(さあ、タマ子ちゃん、こいつは足が速いからな。絶対に塁には出せんぞ! 慎重にな。これのあたりに頼むぞ!)」
多澤は、サインでジャイロボールの『リンゴ』で、ストライクゾーンギリギリの高めを要求した。
「(分かったわ! 高めね。えっと……バッターの胸の辺りね。よし、ロックオン!)」
珠子は頷き、大きく振りかぶって投げた。
―― グシャッ! ――
“当たった! そして、バットが折れて……ボ、ボールは……おーっと、これはセンターの浅いところに落ちて……”
『―― アウト ――』
“いや~これも外野フライになりましたね。でも、今度は、バットが折れましたね”
“ん~折れとらんよ。……見てみなさい。バットは割れとるんや。ひょっとして、ピッチャーの北白山は、力加減を覚えたんとちゃうやろか?”
“力加減ですか? 普通のピッチャーはみんなそうしているんじゃないでしょうか?”
“でもな、オープン戦のときは、ほとんどのバッターのバットは折っていたんだよ。それが、どのくらいの力ならバットは折れずに、ボールが飛ぶのを抑えられるかという加減をしながら投げれるようになったんやな。……この短期間に、そこまで成長したんや。なんて、伸びしろがある子なんやろな”
「こら! タマ子ちゃん。今のは、少しリンゴの搾り汁がタレっとだぞ」
「えへへへ、すいません。ちょっと、頑張っちゃった、ペロッ」
「ま、『周西は、塁に出しちゃいかん』なんて、俺が変なこと言ったからな」
多澤は、すぐにマウンドに行って、もう一度力加減について確認をした。
“さあ、2アウトで、ランナーなしです。3番バッターは、ホームランも予想される柳山です。昨年は、29本でしたが、ここ5年間はすべて30本以上打ってますからね”
“そうやね、特に、ストレートに強いんや。北白山は、未だストレートしか投げてないから絶好の機会なんやないかな”
「(さて、こいつは、ホームラン狙いだな。……じゃあ、これを試してみるか?)」
多澤は、サインを出した。珠子は頷き、ワインドアップモーションに入る。そして、……。
“北白山、モーションは同じです! 今、投げました。……”
―― カッキーン ――
“ゴロです。……ボテボテのショートゴロです。今、ショートの氷田がボールを捕って1塁へ……”
『―― アウト ――』
“初めて前にボールが転がりましたが、あっさりショートゴロでアウトになりました”
“打ち損じたんやね。……お、このVTRでみると、ボールが少し落ちてるんやないか? これ、フォークボールやわ!”
“ホントですね。気がつきませんでした。モーションも一緒でしたし、ボールの軌跡も同じように見えました。私は、てっきりストレートだと思いましたよ。スコアボードの表示も『ストレート』に……。あ! 今、訂正されました。『フォーク』です。今のボールは、フォークボールでした”
“ほお~変化球も投げられるちゅうことなんやね~”
「ナイスピッチ!」
「いいよ~タマ子ちゃん!」
「どんどん、打たせてね。どんなボールだって捕っちゃうからね!」
ベンチへ引き上げる選手たちは、みんなねぎらいの声を珠子にかけながら追い越していった。
“1回の裏が終わりました。北海道ミルクファイアース、相手の九州おくらフォーグスを三者凡退に打ち取りました。1対0で、ファイアースのリードです”
(つづく)




