92 第5章第11話 タマ子の応援
“みなさん、こんにちは。今日は、ここ、九州クマモンパークから、『九州おくらフォーグス 対 北海道ミルクファイアース』の第1戦、今年のペナントレース開幕戦をお届けいたします。実況は田中、解説は元ファイアースのエースピッチャーだった岩木さんで、お送りします”
“どうも! まいど、岩木です!”
“放送は、CSチャンネルGYORAで、お送りします。どうぞ最後までお楽しみください。さて、岩木さん、今年のファイアースの開幕戦は、昨年の日本一に輝いたフォーグスが相手ですね”
“そうやね、フォーグスはここ2年パ・リーグで優勝した上、日本一にも2年連続でなっておるんや。チームメンバーもほとんど入れ替わりはないようなので、まさに絶好調なんとちゃうかな”
“そうですね。フォーグス、今日の先発は昨年の日本一の優勝ピッチャーであり、勝ち数もリーグ1位で15勝の下沢です。対するファイアースは、なんと新人の北白山なんですよ!”
“ほっほ~ここに持ってきたんやね。オープン戦では、最初の方で少しリリーフとして投げてたけど、ここんとこさっぱり姿を見いへんかったので、故障でもしたのかと思ってたんやけどな……”
“資料によりますと、この北白山は、今までまったく野球の経験がないということでしたが……”
“それにしてもや、オープン戦での様子を見るかぎり、どえらい秘密兵器やと思うんや。ひょっとして、ここ数週間で、えらい変わり方をしてるかもしれへんよ”
『―― プレイボール ――』
「よーし、みんなガンガンいけ~! タマ子ちゃんが見てるぞ! 最初から全力出せよ~」
1回表は、ビジターのファイアースが攻撃を行う。ベンチでは、森元ヘッドコーチが、先頭を切って大きな声で選手にはっぱをかけていた。
「「「おおおおおーー!」」」
“おや、ファイアースのベンチ、とても盛り上がっていますね~。まだ、始まったばかりだというのに、これはどうしたことでしょうか?”
“たぶん、あれやないかな?……ほら、ベンチの真ん前で声を上げてる選手が……”
「ガンバレ! ガンバレ! 六十畑さ~ん!! お願い、塁に出て~!!」
“あの選手は、北白山ですね。なんか、こうやって見るとベンチのマスコットガールみたいに見えるんですが……”
“そやな……つられて、他のみんなもよう声が出てるなあ~”
「(よし! なんとしても出塁するぜ!)」
“ピッチャー下沢、サインに頷き、第1球、投げましたー!”
―― コツン! ――
“おっと、初球からバントです。あ、でも、これは自分も生きようという、セーフティです。ボールは、見事スピードが落ちて、サード線ギリギリのところを転がります……サード、全力で前に走って、ボールを取った。そして、1塁へ……セーフです!”
“1球で決めよったな! あんなギリギリラインに転がすなんて、しかもボールの勢いは殺してたな。さすがや!”
「「「 わああああー!」」」
「お願い! 氷野さ~ん! 打って~!!!」
“1塁ランナー六十畑です。ここは、送ってくるでしょうか?”
“いや、きっと、その前に……”
“下沢、2番氷野に第1球、投げました~。あ!”
―― サササアアア~ ――
―― ズッパン ――
“おっと、1球目から、盗塁だ! さすが、足の六十畑、さっそく走って来ましたね。しかも、バッターは、ストライクなのに見逃した!”
“あれは、ワザとやね。打つなら、ランナーが2塁にいた方がええからな……”
「(ふっ、タマ子ちゃん、見ててね! 次は、打ちますよ!)」
「お願い! 氷野さ~ん! 大きいの打って~!!!打て~、打て~、氷、野、さ~ん!」
「(うん! 任せてね!)」
―― カーン ――
“打ったー氷野。ボールは、セカンドに転がった……取った、セカンド、ちょっとサードを見てからファーストに投げた!”
『―― アウト ――』
「くっそ~……ホームランを狙ったのに!」
“ランナー六十畑はサードへ! 打ったバッター氷野は、アウトです”
“理想やな。2番バッターで、ランナーをサードまで進めたんや!”
「いいぞ~……氷野! ナイス、進塁打だ!」
悔しがる氷野だったが、ベンチのみんなは手を叩いて氷野の進塁打を褒めた。
“1アウト、ランナー3塁になりました。これは、ファイアース、得点のチャンスです!”
「ガンバレ! ガンバレ! 喜代宮さ~ん! 打ってくださ~い!!!」
ベンチで、珠子が中心になり大声で応援を送っているとき、徹子のそばに新城監督が近寄ってきた
「ねえ~テツっちゃん? 大丈夫かな? こんなにベンチで騒いでいて……」
「え? 監督。何のことですか?」
「あ、いや~タマちゃんだよ。こんなに大声を張り上げてたら、疲れるんじゃないかな?」
「あはははは……大丈夫ですよ。準備運動をしてないタマ子にとっては、ちょうどいい運動になるんですから!」
「え? 準備運動をしてないの?」
「はい、いつものことです。まあ、簡単なランニングと肩回しぐらいはやってますけど、いつもぶっつけ本番なんですよ!」
「ホント?」
新城監督は、驚いて再び珠子を見た。普通のピッチャーなら、試合が始まる前に結構な準備運動をしてうっすら汗をかくくらいになっているのだけど、珠子にはそんな様子はまったく見られなかった。
ただ、思いっきり応援しながら、その右手はグルグルと振り回されていて、そばにいるキャッチャーの多澤がバシバシと叩かれていたのだ。ただ、多澤はベンチの中でもプロテクターを着けているので痛くはないようなのだが、時々、珠子の拳はミットで受けるようにしていたのだった。
(つづく)




