09 第1章第8話 痛いボール
「痛ったあーー!」
徹子は、ボールを受けたミットをそのまま脱ぎ捨て、真っ赤な顔で、手をこすり合わせていた。
「大丈夫かい? テッちゃん?」
「え、ええ……でも、どうして? どうして、こんなに痛いの? ボールは、そんなにスピードは出ていなかったと思うんですけど……」
「ちょっと待ってね、今、確かめてみるから……」
新城監督がそう言うと、少し離れたところにセットしてあったスピードガンを見に行った。
「……えっと、スピードは…………平均135キロかな」
「初速と終速は?」
「ああ、……初速が135キロで、……終速も135キロだね」
「あり得ないわ! 初速と終速が同じなんて! それに、あの球の重さは、どう考えても160キロ級のボールよ」
新城監督は、スピードガンからメモリーカードを取り出して持ってきた。
「詳しいことは、このメモリーカードを読み取れば分かると思うけど、どうもボールの軌跡にヒントがあるようだな。……それにね……おーい、タマちゃん、もういいからこっちに来てくれるかな?」
「はーい!」
元気に手を振った珠子は、笑顔でホームベースのところまで駆けてきた。そして、徹子の手を見て、ちょっと心配そうな顔をした。
「やっぱり、痛かったですよね~……。ごめんなさい」
「あ、いや、……ちょっと痛かったけど、大丈夫よ。……でも、私はあなたのボールをこれ以上受けるのは勘弁してほしいわね」
「あははは、テッちゃんったら、心配しなくても大丈夫だよ。キャッチャーはね、親分に頼むからさ。それより、タマちゃん、ちょっとこれをもう一回持ってもらっていいかな?」
そう言うと、新城監督は徹子のミットからボールを取り出し、珠子に渡した。
「持てばいいんですか?」
「あ、投げるつもりでね」
「はい…………こうですか?」
「え? タマ子さん、ボールをそう持って投げたの?」
「やっぱり、そうなんだね。この間のトライアウトの時も思ったんだ。手首が動いていないと思ったんだよ」
「ええ? あたし、ボールの持ち方、間違ってますか? うわああ~どうしよう。だから、あたしの投げたボールはいつも『重たい』とか『痛い』とか、怒られていたんですね」
珠子は、慌ててボールを握っている手を開いて掌とボールを見比べていた。
「あ、ごめんごめん。タマちゃんは、なにも間違っていないよ。大丈夫だから。……それにね、ボールの正しい持ち方なんてのはないんだよ。飛んで欲しい方向によって、持ち方はいろいろなんだからね」
「グスン……そうですか? ホント?」
「まあ、そのへんは、あとでゆっくりテッちゃんが教えてくれるからさ。ホント、気にしなくていいからね」
泣きそうになっている珠子を慰めた新城監督は、なぜか嬉しそうに目を細めていた。
(つづく)




