10 第1章第9話 球速の秘密
「ちょっとこれを見てくれ!」
先ほどの控室とは別の会議室に戻った3人は、大きなモニターの前に並んで座った。そして、新城監督がスピードガンから引き抜いたデータカードをコンピュータに差し込んで、何やらキーボードを操作した。
画面に映ったのは、珠子が投げたボールの軌跡を分かりやすく蛍光ラインで示したものだった。
「これは……。う~ん……、だからなのね……」
徹子は、画面に見入りながら少し難しい顔をした。
「お、さすがテッちゃんだ。このラインの意味が分かったようだね」
「新城監督、このラインだと……やっぱりボールの回転は……」
「そう、間違いなく、ジャイロ回転だと思う!」
2人の会話を聞きながら、珠子はまったく意味が分からず、キョロキョロしていた。
「あの~……あたしの投げ方は、やっぱりおかしいんでしょうか?」
「ああ、はは、ごめんね、タマちゃん。いや、タマちゃんのボールの投げ方は、とっても凄いんだよ。普通の野球の選手は、こんな投げ方はできないんだ。だから、威張ってもいいんだよ!」
「へ? そ、そうなんですか? あたしは、その投げ方しかできないんですけど……。小さい頃から家の手伝いをしてる時も、いろんなものを投げてきたんです」
「そういえば、タマ子さんの家は農家だって言ってたわよね。いったい、農家って、何を投げるの?」
「えっと、あたしのお手伝いは、主にお米を育てる時のちょっとしたことなんです。お米の種を苗床に撒いたり、田んぼに落ちてる石ころを田んぼの外に投げたり、刈り取った稲の束を天日で干すのに稲架の上まで投げたり、籾摺りが終わったお米の袋をトラックに荷台に投げたりぐらいかな……」
「えっと、タマ子さん? 私には、よく分からないことばかりなんだけど……お米の袋って、どのくらいの重さがあるの?」
「ああ、出荷する時のお米の1俵ですから、60キログラムですよ」
「え? 60キロの米袋をトラックの荷台に投げ上げるの?」
「はい……。うちのお父さんなんかは、2俵いっぺんに投げるんですが、あたしはまだまだ1俵ずつしか出来なくて。えへっ」
「そうか……タマちゃんの体力というか、その筋力は、そういうところで身についたんだね」
「えっと、新城監督? そのことが、ボールの投げ方と何が関係あるんですか?」
「それはね……」
「あ、待ってください、新城監督。それは、私が説明します」
「そうだね……。これから、テッちゃんには、いろいろと苦労をかけると思うけど、よろしく頼むよ」
「はい。……タマ子さん、詳しくはそのうちにゆっくり説明するけど、タマ子さんの投げるボールは、ジャイロボールと言って回転の軸が進行方向に向いてるの。つまり、ボールは前に進みながらドリル回転をしているのよ。だから、ジャイロボールは、スピードがあまり落ちないと言われているわ。それに、タマ子さんのボールの速度は135キロぐらいなので、減速量も少ないの。だから、タマ子さんの投げるボールは、初速も終速も変わらないのよ」
「う~ん、あたしの投げ方が変わっているので、スピードが落ちにくいということでいいですか?」
「まあ、そうね。でもね、普通の人はこういうボールの投げ方はできないの。できたとしても、癖がなく軽いのですぐに打たれてしまうのよ。あっという間に、ホームランになると思うわ」
「え? そうなんですか?」
「だって、あれを見て!」
モニターに映った蛍光ラインで示されたボールの軌跡ラインは、真っすぐに珠子の手と、キャッチャーミットを構える徹子の手を結んでいた。山なりでもなく、左右のズレもなく、直線で結ばれていたのだ。
(つづく)




