89 第5章第8話 魔球の秘密?
珠子、徹子、多澤の3人は、とりあえずファイアースのTシャツとタオルを買った。あ、いや、もらった。
そして、小上がりのあるラーメン店に入った。ラーメン店だけでもこのキタシロファームには、3軒あった。
ちなみに、パンフレットによると、食事を提供できる常設のお店が、ラーメン店の他に8軒ある。ハンバーガーやホットドックなどを提供できる売店は、10軒から15軒あるそうだ。これは、場合によって増減するので、常設というわけではないというが、キタシロファームの中では、どこへ行っても食事ができるようだ。
「ここは、いいぞ~。ちょうど小上がりになっていて、部屋も仕切られている。話をするにはもってこいだろ?」
「そうね……とりあえず、私は……この肉厚チャーシューの濃厚味噌ラーメン、ゆで卵のトッピングでお願い!」
「お! テツ子は、ボリューム満点を選ぶか……じゃあ、俺は……あっさり味噌ラーメンの野菜トッピングマシマシで!」
「あら、多澤さん、健康に気を使っているの?」
「そりゃ、お前、今年はきっとシーズンずっと働き通しになるんだぞ、夏場にバテないためには今から気を使うのが大事なんだよ!」
「じゃあ、あたしも……醤油チャーシューラーメンの餃子トッピングでお願いします!」
「え? タマ子、それで気を使っているの?」
「はい……おかしいですか? ラーメンだけじゃなく、餃子にも気を使って一緒に食べるんです。餃子さんが、売れ残ったらかわいそうじゃないですか!」
「えっと……タマ子ちゃん? 気の使い方が違うような気もするが……ま、いいっか!」
注文を取っていたお姉さんが、「ぷっ」と笑ったような気がするが、この3人は誰も気づかなかった。
注文したラーメンが来るまで、3人は先ほど徹子が投げたボールについて、思い出していた。
「テツ子さんは、また、何か魔球を投げたんですか? 絶対、あたしがはじいちゃったボールは、魔球ですよね!」
「ふふふ……タマ子、あれはね、私の直球なの。ベストなストレートよ。魔球なんかじゃないわ」
「え? でも、最初に投げたストレートとは全然違うと思うんですけど……」
珠子がキャッチャーをやり、真っすぐに向かってきたと思ったボールを上手くキャッチできずにはじいてしまったのは、変化球だからだと思ったのだ。基本的に珠子は、変化するボールをすべて魔球だと思っているのである。
「まあ、確かに魔球かもしれんな、あはははは」
多澤は笑った。そして、続けた。
「テツ子の投げたボールは、すべて直球だ。変化球じゃない。握り方も、最初に見せたフォーシームってやつだ。この握りで投げると、ボールの1回転で、縫い目が4回空気を切るんだ。ボールの回転が安定するうえに、バックスピンがかかるから、ボールが浮き上がってくるように見えるんだ」
「そっか……だから、あたしがミットに納めようと思っても、ボールはミットの上の方にズレるんだ!…………え? でも、最初のボールは取れましたよ! あれもフォーシームの握り方で投げたんですよね!」
「ふふふ……タマ子、そうよ。すべて、フォーシームの握り方で投げたわ。…………ただね、タマ子が取れなかったボールはね、手首のスナップを効かせたのよ」
「手首のスナップ? ……えっと、投げる前にお酒を飲んだんですか?」
珠子は、真面目に聞いた。
「ぷっ……スナックじゃないわよ! スナップ!!」
「ああ~テツ子、タマ子ちゃんにスナップって言っても通じないと思うぞ」
「あ、そっか~…………ねえ、タマ子? あなたの家は農家だったわよね。もち米も作ってるでしょ」
「はい、食べる分だけですけど、大晦日には自分たちでお餅をつくんですよ!」
「やっぱりそうよね。……もちろん、つくのは機械じゃないわよね?」
「はい! 家族や働いている人たちで集まって、臼と杵でつくんですよ。もちろん、あたしもやります!」
「そう、じゃあ、あい取りとかもやったことはあるわよね!」
「はい、あい取りは、あたしとお母ちゃんで交代してやります。なんせ、全部で、100臼ぐらいはお餅つきますからね。交代しないと、お母ちゃんが疲れちゃうんで……」
「おいおい、タマ子ちゃんの家は、お餅屋さんかい? そんなにたくさんのお餅をつくなんて、誰が食べるんだよ」
「え? 多澤さん、うちで働いている人たちに、お正月に食べる分を配るんですけど、あっという間になくなるんですよ。あ、今年の大みそかには、多澤さんとテツ子さんにもあげますね!……でも、テツ子さん? そのスナップと餅つきって、何か関係あるんですか?」
「ふふふ、大ありよ、タマ子! きっと、あなたは、知らないだけで、すっごいスナップの効いたボールが投げられるはずよ!」
(つづく)




