↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/119

87 第5章第6話 珠子にとっては謎のボール

「えっと……タマ子? あのね、ツッパリっていうのは、お相撲の技じゃなくて……ああ~もう、どうでもいいわ! タマ子の投げるボールは、『ツッパリボール』よ! 覚えるのはそれだけでいいわ! 名前の由来なんかは、どうでもいいから! ね、分かった!」

「は、はい!……(なんか、テツ子さん、ご機嫌斜(きげんなな)めね……あたしの魔球に嫉妬してるのかしら? ……まさかね、テツ子さんなんか、もっといっぱい魔球を投げられるのになあ~)」


 珠子(たまこ)は、もう変化球をすべて魔球だと思っているようだった。


「あ、えっとだな……タマ子ちゃんのツッパリボールは、特殊なんだ。モーションも、ボールの軌跡も、まったくジャイロボールと同じだから、バッターにはその変化を見極める時間はないんだよ」

「投げられるボールが2種類に増えたタマ子には、武器が一つ増えたってことね」


「いや、1つどころじゃないぞ! タマ子ちゃんは、サインも交換できるようになったんだ。つまり、多様なコースの投げ分けができるんだ。バッターは、一か八かの勘だけじゃ、絶対にバットをボールに当ててヒットになんかできっこないさ!」




「……………」




 多澤(おおさわ)は、もうこれで珠子は万全だとでも言うように、嬉しそうに話しているが、なぜか徹子(てつこ)は、黙ってじっと何かを考えているようだった。




「あの~テツ子さん? ……お腹……空きました?」

「え? お腹?」


 急に徹子はそんなことを言われて、驚いて顔を上げて、珠子を見た。


「えっと……もう、お昼……過ぎました。だから、テツ子さんはお腹減ったのかなあ~と思って……」



「あははははははは…………」



 一瞬の沈黙はあったが、多澤は急に大きな声で笑った。



「そう言われれば、そうだな。……テツ子、大体練習の内容は決まったんだ。この辺で休憩にしようか? お前が黙りこくると、タマ子ちゃんも腹が減るんじゃないか?」

「もう、私はタマ子と違って、そんなにがっついたりはしないわよ! 朝ごはんだって、しっかり食べてきてるから平気なの! ……それより、タマ子には、もう一球……いえ、もう一種類の魔球を覚えてもらうわよ!」


 徹子は、そう言うと自らピッチャーマウンドに上がり、ボールの握り方を珠子と多澤に示した。


「これが、フォーシームっていう握り方よ」


 徹子は、人差し指と中指をボールの縫い目に直角に当てた。親指は、2本の指の延長上の真下に置いた。


「これが、一番ボールのスピードが出る握り方よ。いい? これから、私が投げるから、タマ子がキャッチャーとして受けなさい!」

「え? あたしが、キャッチャーをやるんですか? 無理ですよ~、今まで一度もやったことがないのに!」


「大丈夫よ、私のボールはそんなにスピードも出ないし、あなたみたいに重くもないわ。そんなに怖いなら、多澤さんにちょっとプロテクターを借りればいいわ!」



 一応、珠子は、すべてのプロテクターを多澤に付けてもらい、キャッチャーとして準備万端になった。



「じゃあ、いくわよ……。最初は、私の普通のストレートよ!」


 ―― シュッ バシッ ――


 珠子にとっては、速いと感じるボールだったが、なんとか目で追うことができた。真っすぐに自分に向かって迫ってくるボールに対して、ただ黙って自分のミットを構えていたら、ボールはそこに吸い込まれてくれた。

 きちんとキャッチできたことで、珠子は嬉しくなり、思わず立ち上がって叫んだ!


「やったー! いいボールです! テツ子さん、もう一球、お願いします!」


「ふふ……言ったわね。じゃあ、今度はこれよ!」



 ―― ビュッ ビョン~ ――


「あ!」


 ボールは、ミットをはじいて珠子の後ろの方へ飛んでしまった。


「ご、ごめんなさい! もう、一回お願いします!」


 焦った珠子は、ボールを拾ってテツ子に返した。そして、再び、しゃがんでミットを前に構えた。


 ―― ビュッ ビョン~ ――


 ボールは、また、珠子のミットをはじいた。


「(おっかしいなあ~。ボールは、魔球じゃないから、真っすぐに向かってきてるんだけど……)」



 すると、横で見ていた多澤が、大声で叫んだ。


「分かったぞ! テツ子! お前、とんでもないことをタマ子ちゃんに教えようって言うんだな!」

「ふふふ……さすが、多澤さんね。そうよ、絶対にタマ子には、この投げ方を覚えてもらうわ! そうすれば、鬼に金棒よ! だれも、タマ子のボールは打てなくなるわ!」


「そうと決まれば、腹ごしらえに行くぞ! ロッカールームで着替えて来い!」


 多澤は、先頭になって昼食をとるために、旭山ドーム球場の食堂に向かった。もちろん、徹子も珠子も、遅れないように追いかけていった。3人とも、ロッカールームでユニフォームを脱いで普段着に着替えた。そして、ショッピングモールのようになっている球場の中で食堂を探し始めたのだった。




(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。