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86 第5章第5話 魔球2号?

「いいか、テツ子。タマ子ちゃんは、ジャイロボールを投げるのに、手首のスナップは利かせないんだ」

「ええ、分かってるわ。だから、その分は回転方向の力に使われるのよね」


「その通りだ。あのジャイロ回転は、まあ、手首のスナップをする代わりの動きによるものだと思っていいんだ」

「正確な動きのメカニズムは分からないけど……これが、タマ子の特徴ってことよね」


 3人は、珠子(たまこ)のいるマウンドに集まって話をしているのだが、珠子はなんとなく自分が褒められているような気がして、へらへらと笑っていた。ただ、どうして自分が褒められているかは、さっぱり分からなかったのである。


「ところがだ、タマ子ちゃんは、新しい握り方を覚えたが、手首の投げ方は変えられなかったんだ」

「そうよね、投げ方までは教えていないもの……」


「そこだよ! そこ! だから、タマ子ちゃんの『ジャイロボール』と『ツッパリボール』は、ほとんど軌道が同じなんだ。ただ、『ツッパリボール』は手元に来てから、ボール1個ぶんだけお辞儀をするんだな。だから、バッターはストレートだと思ってバットを振るから、ボールはバットの下を通ってしまって空振りになるんだ」


 多澤(おおさわ)は、身振りを交えながら大袈裟にボールの握り方やボールの軌道を示しながら、ちょっと自慢気に説明をした。

 すると、慌てて珠子は、質問をしてきた。


「あ、ああ……えっと、多澤さん、あたしは、運動系の部活はやってないんですよ! 小学校でも中学校でも、まして高校生になってからだって、そんなツッパリをするような所には行ってません。友だちにだって、ツッパリをするような人はいませんからね!」

「ん?……あ、あ~『ツッパリ』っていうのは、タマ子ちゃんが投げたボールの名前だよ」


「え? ボールの名前ですか? ひょっとして、あたし、また魔球とか投げました?」

「あははははは……魔球か? まあ、魔球といってもいいかもな……」


「ちょっと……多澤さん! 勝手に名前なんて付けないでよ! タマ子の投げたフォークボールが、どうして『ツッパリボール』なの?」

「そりゃ、お前……。普通のフォークなら、ちゃんと落ちるだろ。でもよ、タマ子ちゃんのボールは、こうやって……ピョコッ……って、頭だけちょっと下げてお辞儀するんだよ。普通のフォークが頭をしっかり下げる挨拶なら、タマ子ちゃんのフォークはちょこっとしか頭を下げない挨拶なんだよ。まるで、粋がるツッパリの挨拶みたいだろ!」


 多澤は、どうも自分の命名センスが気に入ったみたいで、とても上機嫌だった。


「まったく……(歳をとった人の考えは、分からないわね)……まあ、このボールを投げるのはタマ子なんだからね。……どうするの? ボールの名前は、これでいいの?」


 多澤の命名センスに戸惑いを見せる徹子(てつこ)だったが、決定は珠子に委ねることにしたのだった。



「はい! ツッパリボールでいいです! やった~魔球の2号ですね!」



 満面の笑顔で、フォークの握りをしたボールを見つめながら、珠子は嬉しそうだった。そして、改めて、徹子と多澤に質問した。


「ところで、どうしてあたしの投げるボールが、お相撲さんの技と同じ名前になるんですか? やっぱり、バッターをうっちゃったりするからですか?」


「「 え? 」」


 徹子と多澤は、話が食い違っていることに驚き、自ら土俵を割ってしまった。




(つづく)


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