85 第5章第4話 魔球誕生?
「お、タマ子ちゃん、大きな手をしてるな~。前から少しは大きいなあとは思ってたんだけど、楽々フォークの握り方ができるじゃないか。掌だけじゃなく指も長いんだね~」
「えへへへ……自慢じゃないですけど、オニギリなら3つはいっぺんに持って食べられますよ!」
「そう、前に私はそれを聞いたの。だから、フォークボールが投げられるんじゃないかと思って、握り方を練習するように言ったのよ! 論より証拠よ、さっそく投げてみて。私がバッターをやるわ!」
旭山ドーム球場に隣接している室内練習場で、珠子はマウンドに上がり、キャッチャーは多澤、バッターは徹子という陣形がすぐにできた。
「それじゃ、テツ子さん、行きますよ~」
珠子はそう言うと、ボールの握りを自分の目で確かめてから、ボールを握った右手を左手のグローブの中に入れ、大きく振りかぶった。
多澤は、ミットをストライクコースのど真ん中に構えた。
―― シューーッ! スー ――
―― ブン! ――
―― バシュッ! ――
「空振り、ストライーク!」
多澤が、大きな声で告げた。
「ねえ、タマ子……。今のが私の教えてた握り方で投げたの?」
「はい! そうですよ、テツ子さん!」
「……………………」
「おや? テツ子、どうした? 何か不満があるのか?」
「あ、いいえ……でも、落差が小さいような気がして。私が教えたのは、カックンって落ちるフォークなんです。一般に、幽霊フォークとか言われる奴ですよ。その落差にバッターは驚いて上手くバットが振れなくなるはずなんです」
徹子は、不満げに言った。掌が大きくて指の長い珠子なら、絶対に落差のあるフォークが投げられると思っていたのだ。
「ふ~ん…………テツ子、もう一回打ってみろ」
多澤はそう言って、今度は珠子にサインを出した。
頷いた珠子は、振りかぶって同じようにボールを投げた。
―― バシュッ! ――
「今のは、ボールよね。しかも、ジャイロボールじゃない?」
「お、テツ子、分かったか!」
「そりゃ、手元にきても落ちなかったもの」
「ということは、手元に来るまでは分からなかったということだな?」
「まあ、そうね。……だって、タマ子のモーションは、フォークと同じよね。たぶん、ボールの握り方しか変えてないのよね」
「じゃあ、次、いくぞ!」
多澤は、そう言うとまたサインを出して、タマ子に投げさせた。
――バシュッ!――
「何よ! これも高めのボールじゃない!」
「よし、次だ!」
多澤は、サインを出して4球目を投げさせた。
――ブン!――
――バシュッ!――
「どうだ? 分かったか? テツ子」
「…………」
「ん? さすがのテツ子でも分からないか?」
「……今のは……確か、ストレートのど真ん中……に見えたわ。さっきよりも低かったし、ボールのスピードも2球目3球目と変わらないように見えたの。……え? でも、空振り……じゃあ、今のはフォークボールなの? ストレートじゃないの?」
「あはははは……さすがのテツ子も、騙されたか! あははははは……タマ子ちゃん、いけるぞ! このフォークボールは、魔球になれるぞ!」
珠子と徹子は、多澤の大きな笑い声を聞きながら、何がそんなにすごいのか、さっぱり分からず、ただポカンと口を開けているだけだった。
(つづく)




