79 第4章第8話 家族団欒?
「姉ちゃん、肩慣らしにキャッチボールでもしようよ!」
「いいわよ。3人で三角形を作ればいいわね」
そう言うと、珠子と弟たち2人は、マウンドを作ってもらった畑に広がってキャッチボールを始めた。
そこは、去年はジャガイモを植えた畑だったが、秋のうちに一度耕し、綺麗に整地された場所だった。ここも、今朝、母親がマウンドを作るついでに、タイヤショベルで転圧してくれたのだ。適度に土が押されて固まった畑は、グラウンドのようになっていた。
「お~もうやってるのかい?」
日も高くなり、3月にしては暖かい日だった。風もなく、絶好の野球日和といってもいいかもしれない。畑にやってきたのは、父親だけではなかった。
「どうお? マウンドの出来は?」
「うん、お母ちゃん、最高だよ! 旭山ドーム球場のマウンドにも負けないよ!」
嬉しそうにマウンドでジャンプしながら、珠子は手を振った。
「タマ子ちゃーーん! 見にきたよ~」
「プロ野球選手の投げるボールってやつを見せておくれ~」
「おれたちも、プロ野球はよく見るんだぜ。今年は、球場へも応援に行くからな!」
いつの間にか、畑の周りには従業員の人たちがいっぱい見に来ていた。ちょうど午前中の作業もひと段落したのか、作業着で長靴のままの人が多かった。それでも、みんな手ぬぐいで汗をぬぐいながら、マウンドに立つ珠子に声援を送った。
「姉ちゃん、俺がバッターをやるから、今日はいつものバットが折れるぐらいの剛速球を頼むよ!」
兄の達也は、いっぱしのバッター用のプロテクターをはめてバッターボックスに入った。しかも、いつも使っている金属バットではなく、珠子のバットをへし折る投球を試したくて、ワザと木製バットを持ち出したのだ。
これも母親が作ったバッターボックスで、ちゃんと白線で描かれていた。もちろん、ホームベースもそこにはあった。
「姉ちゃん、しっかり投げてくれよ! 俺だって、高校に入ってからはキャッチャーでレギュラーなんだぜ!」
「え? いつの間に、そんなことになってたのよ! あたし、あんたたちが野球をやってるなんて全然知らなかったのよ!」
「だってな、俺たちが試合だって言っても、姉ちゃんはまったく野球に興味がないから、いつも上の空だったじゃないか」
「そうそう、いつも用事があるとか言って、一度も応援に来たことがないんだもんな」
「え? え? そうだっけ? ……あははははは、ごめんよ、双子の弟たちよ!」
珠子といえば、卒業後は家を継ぐということで、部活にも入らず、放課後はいつも家の仕事を手伝っていたのだ。もちろん、家では弟たちの話題も出ていたが、まったく野球に興味のなかった珠子にとっては、野球部の話など頭に入らなかった。
★双子の弟たちは本気
「じゃ、いくわよ!」
珠子は、畑のマウンドの上で、大きく振りかぶって、腕を振った。ボールは、真っすぐに弟、和也のミットを目がけて突き進んだ。
―― バキッ! ――
―― ビューー ――
「わお! 折れたぜ! バットが! ……痛ってえ~な!」
バットを振った弟の達也は、グリップ部分だけになったバットを放り投げ、ジンジンとしびれる手をさすりながら、姉の珠子の方を眺めていた。
珠子は、いとも簡単にフライで上がったボールを受け取ると、マウンドを駆け下りて飛んできたバットの先端部分を避けた。
―― わあああああああ ――
同時に、見物人たちからも大きな拍手が沸き上がった。
その後、バッターが弟の和也に交代したが、やっぱりバットは折れて、ボールはフライとなって珠子にキャッチされた。その後、弟たちは交代しながら何度も珠子の投げるボールを打とうと頑張った。けれど、いずれのボールもバットをへし折り、まともなヒットは打てなかった。
「……あ~あ、手持ちのバットが全部折れてしまったぜ。姉ちゃん、どうしてくれるんだよ!」
「何言ってんの? 打ちたいって言ったのはあなたたちでしょ?」
「でもよ……こんなに強え~ボールを投げるとは思わなかったんだよ。……なあ、姉ちゃん、契約金もらったんだろ? 俺たちに新しいバットを買ってくれよ~」
「契約金? え? 何、それ?」
珠子は、お金のことにも興味がないようだった。
(つづく)




