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72 第4章第1話 久しぶりの実家

 その日、珠子(たまこ)は早々に球場を引き上げ、実家へ帰ったのである。明日から、卒業式の日を含めて3日間のお休みをもらった珠子は、久しぶりに実家で過ごすことになった。


「ただいま! お父ちゃん、お母ちゃん」

「お! タマ子、元気か? 活躍は見てるぞ!」


 玄関で迎えた父親は、いきなり珠子の活躍を褒め出した。珠子にしたら、まだ試合に出ているといってもオープン戦で、出番はほんの少しだけだったので、何を褒められているのかさっぱり分からなかった。


「え? 活躍って……お父ちゃんは、何を言ってるの?」

「うふふふ……タマ子ったら、お父ちゃんはね、ぜ~んぶ見てるのよ、ほらっ、あれでね!」


 母親も嬉しそうに、そう言って、茶の間のスクリーンを指さした。



 珠子の家は農家である。旭川市に隣接する鷹巣町で稲作を中心に各種野菜の栽培と牛の飼育を営んでいる。米や野菜の作付け面積は約500ヘクタール、肉牛と乳牛で約500頭を飼育し、小規模ながら敷地内には、チーズ、バター、ヨーグルトなどの加工工場もある。

 珠子の父親は、『小さな農家だよ』と、よく他人には言うが、経営規模はそれなりの大きさなのである。しかも、農作業などはすべて会社化して、たくさんの従業員を雇って行われていたのだ。


 ただし、小さい頃から家の手伝いをよくしていた珠子は、父親の口癖を信じ、これが普通の農家だと思っていた。



「え? 何? この大きなテレビは?」


 茶の間には、500インチのスクリーンがあり、天井からプロジェクターのレンズが飛び出していた。珠子が実家にいた先月までは、そんなものはなく、せいぜい120インチのテレビがあるくらいだった。


「お父ちゃんったら、タマ子の活躍が見たいからって、この間買ってきちゃったのよ」

「え? でも、これで、テレビとか見れるの?」


「なあに、テレビだって、ビデオだって、ネット動画だって見れるさ! それにな、CSのファイアース専門チャンネルも契約したから、いつでもタマ子に会えるんだよ!」

「(そういえば……この間の紅白戦やオープン戦も中継やってたわよね)えっと、じゃあ、あたしが投げた試合や……昨日のホームランとかも見たの?」


「あったりまえだろ! 昨日は、みんなと一緒に見たぞ! 凄かったなあ~、5打席連続ホームランだったな!」

「もう、お父ちゃんだけじゃなく、仕事をしてるみんなも集めて大変だったのよ。まだ、雪が残ってるから、ハウスの中の仕事だけだからよかったけど、この調子だと今年は仕事にならないかもね……ふふふふふ」


 口では文句を言ってるような感じの母親だったが、嬉しそうに微笑んでいる様子はみんなに伝わっているようだった。


「あ、そうそう……明日の卒業式には、わたしが車で送っていってあげるからね。朝は、7時出発でいい?」

「あ、ええ……大丈夫よ(……卒業式は、9時からだけど、8時には教室集合だって言ってたはず)」


 珠子は、日常はバス通学だったが、行事の時でバスの運行時間とズレがある時は、いつも母親に車で送ってもらっていたのだった。


「タマ子、明日は朝から準備があるだろ? 今日は早く寝るんだ。卒業のお祝いは、明日の晩に思いっきり準備してるからな!」


 嬉しそうに父親は、そう言うと夕方のハウス見回りに家を出て行った。少しずつ日が長くなってきた季節だったが、明日から3月とはいえ、まだここ北海道では夕方の5時を過ぎれば、辺りはうす暗くなってくるのであった。




(つづく)


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― 新着の感想 ―
おぉ〜、それなりの規模の農家ですね〜。 (・∀・)
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