70 第3章第30話 連続ホームラン
“さあ、8回裏の北海道ミルクファイアースの攻撃です。2アウトですが、ここで、今日5回目の北白山がバッターボックスに入ります”
“まいったね、全打席ホームランとは! ここも、打つんやで、きっと!”
“北白山選手の何がいいんでしょうか? 解説の岩木さんなら分かるんじゃないですか?”
“そうやな……今回はオープン戦やから、相手も全力ちゅうわけやないとは思うんや。その証拠に、ピッチャーはその都度違っておったわ”
“そうですね、スワリーズは2回ごとにピッチャーを入れ替えて試しているような感じでしたね”
“せやけど、北白山はどのピッチャーからもホームランを打ちよったわ! まったく、大したもんだ。……ワテが言えるのは、北白山はすべての変化球の軌跡を知っとるちゅうことやね。ぎりぎりまでボールは見てるんやけど、どうしても最後は予測してバットを振らにゃならん。まあ、北白山の打撃フォームは、バットを振るというより、当てにいくゆうた方がええと思うんやけどな。それにしても、予測がピッタリ当たってるちゅうことやねん。ひょっとして、ピッチャーのボールの握りでも見えるんとちゃうか?”
“まさか……岩木さん。いくら、目が良くても、バッターボックスから見えるものなんですか?”
“……う~ん、全部じゃないんやけど、投げ方によっては見える選手も確かにおったな。ただ、直球かフォークかぐらいの区別やったけどな。今みたいに、ツーシームやとか、フォーシームなんて細かな違いは、まったくわからんのとちゃうかな?”
“あ、ピッチャーが、投球モーションに入りました。このピッチャーは、アンダースローです。たぶん、北白山選手にとっては、初めてのモーションなんじゃないでしょうか?”
「(へえ~……なんか、真横からボールが飛んでくるみたいな感じね……)」
―― バシュッ ――
―― ストラーイク! ――
「(直球なんだけど、なんか横からくると変化球みたいな感じね……)」
“おーっと、北白山選手、ボールを見送りました。しかし、ストライクです”
“こりゃ、球筋を見てるんとちゃうかな?”
“第2球目、投げました……ストライク! です。これは、少し浮き上がったように見えたんですが……”
“これは、アンダースローのピッチャー特有の軌道ですな。どうしても、ボールを放すリリース点がオーバースローのピッチャーより低いんや。そして、手の軌道は下から上に向けて振る感じが多いので、ボールが浮いてくるように見えるんやな。これは変化球やないんや”
ここで、ベンチにいる徹子が、珠子に向かって大声で叫んだ。
「タマ子! そのボールは変化球じゃないの! アンダーだから、下から上の軌道になってるだけ。わかった? それは、ストレートよ! ちょっと軌道が普通とは逆なだけよ!」
「(……そっか、練習のときはストレートでも投げる方向によっては左右に動いたけど、それが上下に変わっただけなのね)」
珠子は、ベンチの徹子に向かって、軽く頷き、バッターボックスに入り直した。
「(え? ベンチからの指示が丸聞こえじゃん! ふん、俺のボールがストレートだから、打てるってことか? いいじゃねぇか、このホップボール、打てるもんなら打ってみろ!)……エイッ!」
スワリーズのピッチャーは、意地でも自分の持ち球のストレート、それも地面スレスレからストライクゾーンに浮き上がるボールで勝負を挑んできた。
―― カッキーン! ――
“打ったー! ホームラン! センターバックスクリーンに当たる特大ホームランです! やりました、5打席連続ホームランです!”
“やっぱり、大振りはしてないんや。軽く当てただけみたいやったわ。……こりゃ、ペナントレースが始まったら、ただじゃすまんのやないかな……”
その後は、バッターもアウトになって8回裏を終了。9回表、スワリーズの攻撃は三者凡退に終わって試合終了となった。12対0で、北海道ミルクファイアースが勝った。
“それにしても、今日のファイアースは、昨日と全然違いましたね。選手一人一人が違った攻撃を仕掛けてきたような気がするんですが?”
“そうやな。みんな自分の得意なことを極めようとしてる感じがしたわ。ヒットを打つだけやなく、バントだったり、盗塁だったり、だから打線が繋がったような気がするわ。まあ、そのうち5点は北白山が一人で取ったんやけどな、あはははは……”
笑い声を上げる解説の岩木は、今年のファイアースの野球が面白くなるような予感がしていたのだった。
(つづく)




