67 第3章第27話 タマ子の試練?
“今日は、オープン戦、スワリーズとの2試合目です。ファイアースにとって、セ・リーグのチームと試合をするのは、肩慣らしのような感じなんでしょうかね、岩木さん?”
“まあ、全力は出さずとも、いろんな戦略を試してみる機会やと捉える監督さんも多いと思うんや。特に今年の新城監督は、ちょっといつもと違う雰囲気を醸し出してるさかいに、何を企んでるか、見当もつかんわ”
“えっと……今日の打順もそういう意味があるんでしょうかね? 先日、ピッチャーとしてリリーフだった北白山を、今日は1番DHで起用してますよ!”
“お! 北白山は、二刀流やったんか?”
“あ、いえ、今日は、ピッチャーはやらないようです。あくまで、バッターに専念するということでしょうか?”
“まあ、ピッチャーやりながらのバッターは、大変なんや。以前、大谷ちゅう二刀流の選手がおったことは、誰もが知っとるやろ。その後、我も我もと、ピッチャーとバッターを掛け持ちしてこなそうとした選手は大勢いたんやけど、どれも今一つやったしな”
“確かにそうですね。……おっと、今日は埼玉くれよんスワリーズも新田を1番DHに持ってきましたね”
“こりゃ、今日は『ファイアースの北白山』と『スワリーズの新田』の対決になるんやないか? ちょっと、楽しみやね”
“さあ、試合が始まります。1回表は、スワリーズの攻撃です。今、新田がゆっくりとバッターボックスに入りました。対するは、ファイアースのベテランピッチャー、小鳥遊です。35歳を過ぎても未だにイケメンです。スラッと高い身長から投げ下ろすストレートも威力がありますが、決め球のカーブは打ってもバットの芯を外されて勢いが殺されてしまいます。さあ、DHの新田は、どのように対応するのでしょうか”
『プレイ!』
審判の手が上がった。
「(ふっ、こいつは長打力がない代わりに、内野の頭を超えるようなポテンヒットが得意だったな……)」
ピッチャーの小鳥遊は、キャッチャーのサインに何度か首を振って頷くと、両手を真っすぐ上に持ち上げ、投球の動作に入った。高い身長を、より高く見せるワインドアップモーションだった。
「よし! こい!」
―― バシュッ! ―― 『ストライーク』
小鳥遊のストレートが決まった。
キャッチャーのミットはまったく動かなかったが、バッターの新田も、ピクリとも動かなかった。ただ、ボールの軌跡を最後まで目で追っていただけだった。
「(不気味だな、こいつ……ちょっと揺さぶってやるか)」
キャッチャーの田木矢は、外角に外れるカーブを要求した。
―― バシュッ ―― 『ボール』
やはり、新田はピクリとも動かなかった。
「(こいつに、ボールは通用しないな……じゃあ、これで、どうだ!)」
小鳥遊は、キャッチャーのサインに頷き、3球目を投げた。ボールは、少し内角よりだが、さっきとは違いしっかりストライクコースを進んできた。
「(よし! ここで、曲がれ!)」
キャッチャーの田木矢が要求したのは、ストライクコースからボールゾーンへ外れていくボールだった。
―― コツン ――
「あ!」
ところが、新田はボールが変化する前に、バットをボールに当てた。見ると、バッターボックスの最もピッチャー寄りのところに立ち、体を前に伸ばしながらバットを振ったのだった。
ボールは、ちょうどショートの頭の上を超えポトンと落ちた。もちろん、ショートの形山はすぐにボールに追いつきファーストに投げたが、間に合わなかった。
“さすがですね、新田は。あの小鳥遊からヒットを打つんですから”
“そうやな。あれは、まぐれのポテンヒットやないわ。狙って打ってるな……”
その後、2番は送りバントでランナー新田を2塁まですすめたが、その後のバッターはみな三振をとられて、1回表は0点で終わった。
“いよいよ次は北海道ミルクファイアースの攻撃ですね。1番は、あのピッチャー、北白山です。楽しみですね~、岩木さん”
“そうやな……おや? なんか、バッターボックスに入る前から困ってるんやないか?”
“あ、今、皆厳コーチが出てきて、一緒に何か始めましたよ……”
「あははは……す、すみません、テツ子さん。……なかなかうまくできなくて……」
「まったく、あんたは、もう~……確かに、夕べはボールの握り方しか教えなかったけどね……昨日はどうしてたのよ?」
「えへへへ、昨日は多澤さんが……」
「もう! そうやって甘やかすから……フン(*  ̄︿ ̄)」
徹子は、審判に頭を下げてタイムを取り、バッターボックス前にしゃがみこんでいる珠子を一生懸命に手伝ったのだった。
(つづく)




