66 第3章第26話 タマ子ちゃんの成果は?
「タマ子ちゃん、だいたい変化球の軌道は分かったかな?」
「はい、多澤さん。それに、テツ子さんの手元を離れる時のボールのスピードによって、大まかな変化の仕方みたいなものも分かるようになりました!」
「おお! タマ子ちゃんは、やっぱり優秀だな。いいかい、変化球というのは、ボールに余分な回転を加えたり、逆に回転を制御したりすることで生じるボールの軌跡の変化だ。それだけ、変化を加える投げ方をすれば、ボールのスピードだって変わってくる。それにな、下手なピッチャーは、変化球によって微妙にモーションが変わってくることもあるんだ」
「はい、確かにテツ子さんの投げるカーブのときは、いつもより手首を強く回しているような気がしました」
「え! タマ子ったら、そんな細かなところに気がついたの?」
「えっと……カーブは手首なんですけど、フォークのときは肘がすこし伸びてたし、スライダーのときは中指に力が入っていました」
「え? え? 中指まで見えたの? タマ子、いったいどんな目をしてるのよ!」
「えへへへ、あたし、目はいい方なんですよ。視力検査の輪っかの離れ具合だって、ミリ単位で分かるんですよね」
珠子は、満面の笑顔で自慢した。多澤は、少し呆れた顔をして、ちょっとだけ説明を付け加えた。
「あのな~それだけ目が良かったら、できるだけピッチャーがボールを投げる時の握りかたを見るんだ。そしたら、ある程度の変化の仕方が分かるからな」
「でも、多澤さん、どうしてもバットを振ろうと思ったら、ボールの軌跡は予測で判断しないと間に合わないんですよね。ぎりぎりまでボールを見てれば、軌跡は分かるんですが、それからバットを振ったら、絶対に振り遅れるんです」
「う~ん……普通はそうだな。しかしだ、あのスワリーズの新田を思い出せ! やつは、思いっきりバットは振ってないんだ。そう……軽く、ボールの来るところにバットを持っていくような感じだな」
「タマ子! 変えなさい! あなたのバットの振り方! 思いっきり振るんじゃなくて、ギリギリまでボールのコースを見て、ボールを引き付けて、そこに軽くバットを持っていくの! 振るんじゃなく、当てるのよ!」
「…………。はい! やってみます! テツ子さん、今度は、無作為に変化球を投げてください。コースを見極めて、ボールにバットを当ててみます!」
「タマ子ちゃん、バットは、手だけで操るんじゃないぞ! 高さを合わせるのは膝だ! 膝の曲げ伸ばしでもバットの高さは変わるんだ。それに、テツ子の手元を見て、ある程度コースを予測しながらボールを見るといい!」
珠子は、多澤と徹子にアドバイスをもらい、いよいよ変化球に対応するバッティングを試すことになった。
「(じゃあ、最初はこれだ……)」
多澤は、サインを出した。徹子は、頷いてからセットポジションに入り、ゆっくり腕を振り出した。
「(タマ子、これは、打てるかしら……)」
徹子の手を離れたボールは、真っすぐに珠子に向かって来るように見えた。
「(大丈夫、これは……曲がる!)……えいっ!」
―― カン! ――
「おお! おいおい……。(じゃあ、これなら、どうだ?)」
すぐに、多澤は、2球目のサインを出した。
「(まったく、タマ子ったら……これなら、どう?)……えい!」
徹子の手を離れたボールは、ストライクゾーンのど真ん中へ向かって飛んで来た。
「(うん……これも……)……えいっ!」
―― カン! ――
「おお~…………なるほどな……そういうことか! まったく、新城監督のやつは、どこまでお見通しなんだ?」
その後、徹子はほとんどの変化球を投げたが、どれも結果は同じだった。しばらく、この練習を続けたが、これ以上は疲れるだけだという多澤の意見で練習を切り上げ、明日に備えることにしたのだった。
「…………ふふふ、タマ子、今晩はお部屋でみっちり、変化球の握り方を見せてあげるわ。一夜漬けだけど、明日のテストのためヨ。今晩は寝かせないわよ!」
「ひえぇぇぇ~……助けてくださいよ~多澤さん~」
「あはははは……俺は変化球を投げられないからな、そこはテツ子に見せてもらうしかないよな、ははははは……」
徹子と多澤は、なぜかとても嬉しそうに珠子を見ていたが、珠子本人は青くなっていたのだった。
(つづく)




