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64 第3章第24話 どうして?

 徹子(てつこ)は、気を取り直して、珠子(たまこ)に目をつぶらないように注意した。バットは早く振り出すとしても、ボールからは最後まで目を離さないようにしなさいと言い聞かせた。


「じゃあ、もう一回、同じコースでボールを投げるから、しっかり最後まで見てバットを振りなさいよ!」

「はい! 分かりました、テツ子コーチ!」


 珠子は、笑顔で元気に返事をしてバッターボックスに立った。



「(まったくあの子ったら! ホント、注意して見てないと何をやらかすか分からないわね)……よし、いくわよ!」


 徹子は、自分に言い聞かせるように小さく呟いて、セットポジションから投球動作に入った。


「(目をつぶっていたなんてな……まるで、初めて野球をやる小学生みたいじゃないか)……さあ、今度こそ打ってみろ!」


 多澤(おおさわ)も、小さな声で期待を込めた。


「(そっか……見ながら打っていいんだ! じゃあ、絶対打てるんじゃないかな?)……うん!」


 珠子は、気楽な気持ちでバットを構えた。




 ―― ビューン ――

 ―― カッキーーーーン! ――



 バットに当たったボールは、軽くセンターの壁を越えた。ここは室内練習場なので客席はないが、センターの端には背の高さくらいのフェンスがあり、その奥は用具置き場になっている。

 ボールは、その用具置き場も超えて、室内練習場の奥の壁まで飛んでいった。


「やったー! 当たった! 当たった! これって、ホームランって言うんですか?」


 珠子は、バッターボックスで飛び跳ねて喜んだ。すると、キャッチャーの多澤が、すかさず言った。


「タマ子ちゃん、さあ、次のボールが来るぜ!」



 多澤は、しゃがんでミットを構えた下からサインを出した。マウンド上で覗き込んでいた徹子は、軽く頷き、セットポジションから次のボールを投げた。


「(よし、来た! これも……)……えい!」


 ―― ブン ――

 ―― バシッ ――


「あれ?」

「おや、どうした? タマ子ちゃん……はははは。次も行くぞ……」


 徹子は、サインに頷いて次のボールを投げた。


「(よし、今度こそ!)……えい!」


 ―― ブン ――

 ―― バシッ ――


「え? 当たらない?」



 その後、50球ほど徹子はボールを投げたが、珠子は1球もバットに当てることはできなかった。



「ウェ~エエン……グスン、ズズ……どうしてですか? どうして、全然当たらないんですか? グスン……ちゃんと、目は開けてましたよ! それに、ズズッ……最後までボールは見てたんです。ウェエエン……コースだって、ちゃんとテツ子さんの手を離れたボールを見て、予測したんですよ~! グスン……教えてくださいよ~、ズズッ……どうしてバットに当たらないんですか!」


 珠子は、半泣きになって多澤と徹子に気持ちをぶちまけた。それを見て、徹子は、――ふっ――と息を吐いて言った。


「ようやく、教えてって言ったわね……」

「ぐすっ、……え?」


「タマ子ちゃん、このまま一人で頑張ってしまうんじゃないかと思ったぜ」


 多澤も、キャッチャーマスクを外して笑顔で珠子に声をかけた。


「え? え? ……」


 少しこぼれた涙をユニフォームの袖で拭きながら、珠子は自分に近寄ってくる2人の笑顔を見つめていた。




(つづく)


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― 新着の感想 ―
打てなかったし、これからスイングの基本を教わる流れですかね〜。 (*´ω`*)
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