62 第3章第22話 あれ?当たらない?
「えっと……DHって、何ですか?」
珠子は、キョトンとした顔で徹子や多澤の方を覗き込んだ。
「あははは……そっか、そっか……タマ子ちゃんにはDHって何なのかを教えなきゃならないのか。……ま、いいや。それじゃあ、みんなでまた屋内練習場に行こうか」
「あ! また、貸し切りで練習するんですね!」
「嬉しそうじゃない、タマ子」
「だって、また、新しいことを習えるんですよ! そんな嬉しいことってないじゃないですか!」
呆れた徹子に対して、嬉しそうにスキップしている珠子だった。そんな2人の様子を見ながら多澤は、本当におかしくて笑いが止まらなかった。
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この間と同じように、3人の他には誰もいない屋内練習場のグラウンドで、練習は始まった。
「じゃあ、まずDHの説明だが……テツ子、また、頼んでいいか?」
「ええ、分かってます。……タマ子、よく聞くのよ! DH制というのは、ピッチャーの代わりに打者専門の選手がバッターボックスに立つということなの」
「そういえば、今まであたしはピッチャーだけで、打ったことはありませんでしたね」
「そうね。ピッチャーの負担軽減をするために、昔、大リーグで考案されたの。今じゃ、日本でもセ・パ両リーグで採用されてるし、高校野球とかでもDH制が採用されるようになったわ」
「そっか、ピッチャーは、投げることに専念できるから楽なんだ……。でもね、あたし、あのバットでボールを――ボカン――って打って飛ばすのが楽しそうだなあ~って思って見てたの。絶対に、ホームランとか打ったら気持ちいいわよね」
それを聞いて、多澤がまた笑い出した。
「あはははは……そりゃ、ホームランを打てたら気持ちいいかもしれないけど、大抵のバッターは空振りや当たり損ねでアウトになるんだよ。打率が3割になれば、すごいバッターだって言われるくらいなんだぜ!」
「そっか……じゃあ、7割は打てないことが多いってことなんだ」
「1人の打者に限ってみると、1打席でヒットを打てる確率は約25%だ。ホームランだと2~4%ぐらいしかないんだ。ヒットに比べると10分の1ってところだな」
「ええ! そんなに少ないんだ!」
「そうさ、1本もホームランを打てずに引退していく選手だって結構いるんだ。だから、そんなホームランなんて高望みしないで、頑張っていこうや!」
そう言うと、多澤は徹子にピッチャーを頼み、珠子をバッターボックスに立たせた。
「よし、テツ子、ストレートど真ん中に投げてくれるか?」
「え? ど真ん中でいいの?」
「まあ、最初はホームランでも打ってもらって、気分をよくしてもらおうや!」
「タマ子ちゃん、おもいっきり振ってみて!」
多澤は、キャッチャーミットを2、3度叩いてから、ゆっくりしゃがんでど真ん中に構えた。
徹子の方は、少し準備運動をしてから、ノーワインドアップモーションで、腕を小さく回してボールを投げた。右腕からスナップを効かせて放たれたボールは、テツ子の指から離れると勢いよく多澤のミットめがけて進んだ。
スピードにして120キロ前後というところだろう。ボールの回転も普通で、球筋もはっきりしてる。いたって普通のストレートだった。
―― ブン! ――
―― バシッ ――
「え?」
珠子が驚いた。
「ええ?」
徹子もびっくりした。
「おお?」
多澤は、びっくりして立ち上がった。
(つづく)




