60 第3章第20話 俺も、僕も……
“いや~岩木さん、今日の試合はどうでしたか?”
“なんか、あっけなかったな~。まさか、ファイアースが完封を食らうなんてな~”
“確かにそうですね。まあ、どちらのチームもピッチャーの肩慣らしということで、長くて4イニング、まあ、だいたいは1イニングごとの交代でしたが、3対0でスワリーズの勝ちでした。スワリーズは、1回、4回、7回に、新田のヒットを挟んでちょうど1点ずつ取りました”
“いや~実に上手いバッティングやったわ。1回は、ポテンヒットで自らがランナーになり、後続が送りバントで繋いで1点。4回は、これまたライト前に落ちるフライやったな。7回なんか、ランナーをサードに置いてバントかと思いきや、上手いことサードの頭を超えるヒットやったしな。ランナーがサードやから、スクイズを警戒してサードは前進守備やったんや。そやから、遠くまで飛ばさなくてもサードの頭さえ超えればいいというヒットやったもんな”
“さすが新田選手ですね。安打製造機と言われる実力は、まだまだ健在ですね”
“しかしな~、おかしいのはファイアースの選手なんや。なんか、どのバッターも力が入ってないような感じがしたわ。……そう、なんか、新田選手の真似をしてバットをボールに当ててるだけみたいに見えたんや。なんか、作戦でもあるのかのう~”
試合終了後、北海道ミルクファイアースのベンチでは、なんとなくみんなが静まりかえっていた。
「森元ちゃん、後は頼むね。……あ、タマちゃんは、明日DHでスタメンに入れるから、準備させてね」
「はい、分かりました、新城監督」
新城監督は、笑顔こそ崩さなかったが、選手たちには声も掛けずに、すぐにベンチから引き揚げていった。
後を引き継いだヘッドコーチの森元は、少しだけ自分を落ち着かせるように、静かな声で話し始めた。
「なあ、みんな。今日は、どうした? いつものお前らのバッティングじゃなかったような気がするんだが……」
「す、すみません。俺、監督の言葉を聞いちゃったんです!」
「ん? 監督が何か言ったのか?」
「あ、いや~俺たちにじゃなくて、試合前にタマ子ちゃんに話してたのを俺が聞いてみんなに伝えたんです。……だから、俺が、みんなの調子を崩したみたいなものなんです」
ライトを守っている千波は、頭を下げながら森元ヘッドコーチに謝った。千波は、ホームランの数もチーム一番で、大事なところでもよくヒットを打つ、ファイアースの中心バッターである。
「オーノーノー! 彼が悪いわけじゃありませ~ん! ミーたちが、ヘタクソだっただけね~」
「僕らは、自分で考えて、新しいバッティングの方法に挑戦しただけです! 失敗したのは、全部自分のせいです! 千波が悪いわけじゃないんです」
ホームランバッターのエイエスも、クリーンナップを任されている喜代宮も、同じように千波を庇った。
「……ん、まあ……自分で考えて工夫しようとしたのは分かった。……それで、お前たちは、監督のどんな言葉を聞いたんだ?」
辺りを見渡している森元と目が合った千波は、申し訳なさそうに話し出した。
「……新城監督が、タマ子ちゃんに真似をしてみろって言ってたんです。その……新田の打ち方を……。だから、俺、タマ子ちゃんが真似できるんなら、俺たちならすぐに真似して打てるんじゃないかと思って……。みんなに話したら、軽くバットに当てさえすれば、好きなところに飛ばせるような気がして……」
「なるほどな~……。それで、思い通りのところに飛ばせたか?」
「いいえ…………。森元コーチも見てたじゃないですか。バットをボールに当てるのは、あんなに簡単なのに、思ったところには全然飛ばないんですよ! それどころか、全部守備の正面に飛んで、簡単にアウトになっちゃいました」
「あはははははは……そうだったな。あははははは……」
森元ヘッドコーチは、千波の話を聞いて、思わず笑い出してしまった。しかも、その笑いは、他のコーチたちにも伝染してベンチの中は、笑顔のコーチだらけになってしまった。
―― ポカーン ――
しかし、逆に選手たちは、何がそんなにおかしいのか分からず、口を開けて黙ってコーチたちの笑い顔を見ているだけだった。
(つづく)




