59 第3章第19話 こんな打ち方も……
東京もんじゃシャイアンツとの2連戦が終わった次の日から、今度は同じセリーグのチームである埼玉くれよんスワリーズとの2連戦が始まる。
スワリーズは、昨年、惜しくもセリーグ2位になったチームであるが、今年も優勝候補になることは間違いない。それだけ、若手とベテランが上手くかみ合い機能しているチームなのである。
“ここ、旭山ドーム球場で行われるオープン戦3試合目は、北海道ミルクファイアース 対 埼玉くれよんスワリーズの試合になります。今日も実況の私、田中と……”
“はいな! 解説の岩木がお送りしまっせ!”
“どうぞ今日もよろしくお願いいたします。さて、スワリーズですが、今年も優勝を狙えそうですかね”
“そうやな……大きな戦力ダウンはないはずや。有力選手の放出もなかったし、FA宣言で他球団に行ったもんもいない。ただし、新戦力の補強もないんや。確かにドラフトでいい選手をとっておったけど、育成には少し時間がかかると思うわ”
“そうですね……今年のドラフトは、すべて高校生でしたから、体力的にも成長が待たれますね”
“それだけやない。どの選手も、上手いんやけど粗削りな感じがしたな。ワテな、自主トレの頃からあちこちの球団を見て回ったんや。実際にこの目で見たから間違いないと思うわ”
“さあ、プレイボールがかかりました。1回表、攻撃はスワリーズからですが、やっぱり1番は、新田敦也ですね。”
“今日は、キャッチャーでスタメンになってるけど、去年、出場試合の三分の二は、DHだったものな”
“それは、どういうことなんでしょうか? 岩木さん”
“新田は、もういい年齢や。まあ、ベテランと言っておこうかのう。どうしてもキャッチャーというポジションはキツイねん。それに、これからのことを考えると若手のキャッチャーも育てないとあかんのや。せやから、新田には、若いキャッチャーを育てる方にまわるということも期待されているんやと思うわ”
“ゆくゆくは、スワリーズのコーチってことでしょうか?”
“たぶんそうやと思うわ。ただ、バッティングへの期待は、未だ大きいんやと思うわ。だから、DHでも出場機会が多いんやろうな”
“さあ、その新田が、大きな素振りを2、3度してから右バッターボックスに入りました”
「タマ子、よく見てね。彼が、新田よ」
「へ~……あんな、大きな素振りをしてる! ホームランでも打つつもりなのかな?」
「あははは……タマ子ちゃんには、そう見えるか。……でもな、やつは決してそんなことを考えてはいないんだよ。まあ、見てれば分かる……」
ファイアースのピッチャーは、若手の辰である。球速は150キロ前後と速い。
―― バシッ! ―― 『ストラーイク!』
「結構速いボールを投げるのね。辰君。……でも、タマ子と一緒で、なんだかボールが素直な気がするわ」
「さすがテツ子だな。一発で見抜いちまったぜ!……確かに、やつのボールは速いんだ。でもな、素直なんだよ。カーブもスライダーも投げるけど、分かり易い変化をするんだ。……だからよ、見てろよ……」
―― コン! ――
“打ったー……いや、当てた? 新田が、ちょこんとボールに当てた。ボールは、力なく飛んでいったが、見事ショートの頭の上を飛び超えてセンターの遥か前に落ちた!”
「な、見たか? やつは、バットを振っちゃいないんだ。ボールが来るコースを見極めて、うまい具合に内野の頭を超えるぐらいの力で叩いただけなんだ」
ヒットと言うには、余りにも力ない打球を見て、多澤は解説した。まるで、予見していたかのように、多澤は落ち着いていた。
珠子は、新城監督の言葉を思い出した。
「(え? あたしに、あの打ち方をやれっていうこと? 打つんじゃなくて、当てるだけなら、あたしにもできるということなのかな……?)」
珠子は、ベンチでグラウンドを見ながら、なぜかドキドキ感が増してきたように感じたのだった。
(つづく)




