06 第1章第5話 タマ子の決意
「……は! あ、あの……こちらこそよろしくお願いいたします」
珠子は、2人の話を聞いていたけど、慌てて自分の紹介と挨拶を始めた。
「あ、あたしは、北白山珠子です。みんなからは、タマって呼ばれてます。……あたし、プロ野球のこと……いえ、野球のことはまったく知らないんですけど、どうぞよろしくお願いいたします。……あっ! あの、北海道ミルクファイアースは、とっても大好きなんです。特に、あの踊りを踊ってるお姉さんたち、あたしの憧れなんです」
「あれ? タマちゃん、ひょっとして、あの時は、ファイアースガールの公募に来てたのかい?」
「あ、ええ、まああ……友だちが試験を受けるっていうものですから、付き添いで……。できれば、あたしも試験受けてみようかなあって思ったりもして……」
「そっか……ごめんね。僕が、トライアウトに誘ったものだから、ファイアーガールの方には行けなかったんだね。後で、こっそりサインでももらってあげるから、カンベンしてね」
「いや、そういうことじゃないでしょ! 新城監督。この子は、まったく野球をやりたいと思ってないんですよ。こんな子に、プロ野球に入れなんて……どうかしてます!」
徹子は、ここへ来る前にその辺の事情は、簡単には聞いていた。でも、まったくの素人を事情も説明せずプロへの入団を決めてしまった新城監督に対して、改めて呆れてしまった。
「ねえ、タマ子さん……あ、私も『タマ子さん』って呼ばせてもらうわね。私のことは『テツ子』でいいから。……あのね、プロ野球選手になりたくないのなら、止めてもいいのよ。今からでも、すぐ止めて、家に帰りなさい。ね!」
「おいおい、テッちゃん。せっかく見つけた宝石なんだよ。なんとか、お願いしてプロの選手になってもらおうよ。ねえ、タマちゃん、帰らないでね、グスッ……」
新城監督は、半分涙目になって、珠子にも頭を下げていた。
「あの……べ、別に、あたし、プロ野球選手になれるなら、頑張ろうかなって」
「え? タマ子さん、いいの?」
「はい、テツ子さん。あたしは、高校を卒業したら家の仕事を継ぐつもりだったんです」
「え? テツ子さんの家って、何をされてるの?」
「うちは、農家です。旭川の近郊の町で小っちゃな兼業農家です。たった500町歩の農作地と500頭の牛を飼ってるだけなんです」
「そ、それって、大規模じゃ……」
「球団から、お誘いの話が来た時、父ちゃんと母ちゃんは大喜びしてました。2人とも、ファイアースの大ファンなんです。うちで、働いている人たちからも、大喜びされました」
「そんなに、従業員もいるなら、会社じゃないの……」
「さっき新城監督さんがおっしゃってましたよね。プロ野球は、ファンのための試合をするんだって。うちのみんなが喜ぶ、この北海道ミルクファイアースっていう野球チームは、凄いチームなんだと思います。今まで、プロ野球にはまったく関心がなかったんですけど、今回のことをキッカケに、あたしもファンになります! ファイアースの、いえ、プロ野球のファンになりたいと思います」
「そ、そう……あなたが、そう言うのならいいんだけど……」
「やったー、タマちゃん、ありがとう! 僕、とっても嬉しいよ!」
なぜか、監督である新城剛志が、満面の笑みで嬉し涙も流していた。
(つづく)




