54 第3章第14話 秘策に繋がるアイディア
「タマ子、どうしてそんなに三振を取りたいの?」
「えっとですね……昨日、電話でお父ちゃんが言ってたんです。『ピッチャーは、サンキューサンシンを夢見るものだ!』ってね。あたし、思ったんです。きっとお父ちゃんは、ピッチャーも感謝の気持ちが大事だって言いたかったんだと思います!」
真面目な顔で、珠子はベンチの中でそんな話をした。もちろん、徹子や多澤以外にもその話に聞き耳を立てていた選手は大勢いた。
特に、昨日の試合中に、自分の守備を褒められた山片選手が、身を乗り出して口を挟んできた。
「ねえ、タマ子ちゃん? そんなに三振が欲しかったら、ストライクゾーンからボールゾーンになっちゃうボールを投げればいいんだよ。僕なんか、絶対ストライクだと思ってバットを振るんだけど、ホームベースのところに来ると、急にボールゾーンへ入ってしまって、空振りしちゃうんだよね」
「あはははは、確かにお前は、空振りが多いよな!」
多澤は、山片の頭を叩きながら大声で笑った。
「やめてくださいよ、多澤親分! 僕だって、一生懸命にボールの来る軌道を予想してるんですよ!」
「ああ、悪い悪い。そっか、軌道な……そういう意味では、タマ子ちゃんの投げるボールは、軌道を読みやすいから、バッターも罠にかかりやすいかもしれないな……ふふふ、こりゃ、面白いことを思い付いたぞ」
「え? 多澤さん、あたしも、サンシンとれますか?」
「ああ、まあ、上手くいくかどうかは分からんが、やってみる価値はありそうだな」
「やったー! これで、サンキューサンシンができそうなんですね! ありがとうございます、多澤さん!」
「ええ~? 大丈夫なんですか? 山片さんが言ってたのは、ストライクゾーンからボールゾーンに曲がる変化球にてこずるっていう話ですよね。タマ子は、変化球は投げられないんですよ」
徹子は、メガネを外して拭き直しながら、目を細めて珠子と多澤を見た。
「いや、まあ、試してみたいことがあるんだ。テツ子も付き合え! これから、ちょっとブルペンに行くぞ! ……あ、山片、サンキュウな。お前のアドバイスのおかげで、タマ子ちゃんの可能性が、また一つ見えてきたぞ!」
「あ、え? ええ? ……本当ですか、親分! 僕、嬉しいなあ~」
すると、新城監督は、そんな山片に向かって、嬉しそうに声をかけていた。
「ヤマちゃん、いいねえ~! そうやって、どんどん自分のアイディアを言ってね。そうしたら、きっともっとウチのチームは強くなるんだからね! 他のみんなも頼むよ!」
「「「 おおおお! 」」」
なぜか、ベンチの中では、全然試合とは関係のないところで、選手たちが歓声を上げて盛り上がっていたのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“いやあ~今日は、乱打戦になってますね。両チームともよく打って点が入っています。現在、8回表、シャイアンツの攻撃ですが、どうですか、岩木さん?”
“いかんね~……ファイアースのピッチャー生田部やけど、いきなりフォアボール出しよった。8対7で現在はファイアースが勝ってるけど、1点差やしな”
“おおっと、ここで、次のバッターにも打たれました。ノーアウト、1・2塁になりました。次が、ホームランバッターの央羽です”
“こんなところで、ホームランなんか打たれたら、ファイアースはくじけてしまうがな”
“ピッチャー生田部、第1球、投げました…………おっと空振りです。今の球は、なんだったのでしょうか? 岩木さん”
“あれは、ストライクコースやと見せかけて、途中で外に大きく曲がるスライダーやね。央羽の判断が早かったんや!”
“あ、またもや空振りです。これも同じようなボールでしょうか?”
“今度は、低めに外したんやな”
“あ! 今度は、バットはふらないが、ストライクで、バッターアウトです!”
“今度は、逆や! ボールからストライクゾーンをかすめたんやな。上手い投球するな……”
“これで、バッター央羽は、三球三振に倒れました。……ただ、次は5番仲畑です。どうでしょう、岩木さん?”
“仲畑は、選球眼がええからな~。さっきみたいには、うまくいかんとちゃうかな?”
解説の岩木が言うように、5番バッター仲畑は、ファイアースの3番手ピッチャー生田部の投げるボールをじっくりと見ながら、ストライクになりそうなボールはすべてファールにし、ボールだけを選んで、出塁したのだった。
“とうとう、満塁になってしまいました。8回表、シャイアンツの攻撃ですが、1アウト満塁です。…………あああ! ここで、新城監督がベンチを出た!”
“ふふふ、ここで今日は出番やな……北白山。楽しみやな~……”
(つづく)




