53 第3章第13話 タマ子の悩み?
“みなさん、こんにちは。昨日に引き続き、北海道ミルクファイアース 対 東京もんじゃシャイアンツのオープン戦第2戦目をお送りします。ここは、ファイアースの本拠地、北海道旭川市の旭山ドーム球場です。解説は、昨日と同じ岩木さん、実況は田中でお送りいたします。”
“毎度どーも! 今日もよろしゅうお願いします!”
“さて、岩木さん、昨日は投手陣が頑張った試合でしたね。得点は、わずか1対0でファイアースが勝ちましたけど、両チームとも投手陣は頑張ったんじゃないでしょうかね”
“そうやね~みんな全力でよう頑張ったと思うわ。せやけど、気になったんは、最後に投げた北白山ピッチャーやね”
“そうですね、最後の打者3人をすべてフライに打ち取りましたからね”
“確かに打ったボールはフライやったけど、気をつけてみなきゃならんのは、3人ともバットが折れたちゅうことや!”
“バットに不具合でもあったんでしょうか?”
“いや、あれは、北白山が剛速球を投げたからや!”
“え? でも、球速は135キロ以下でしたよ。一番速くて135キロ。平均すると132キロぐらいでしたね”
“あのな、剛速球っていうのは、ただボールのスピードが速ければいいってもんじゃないんや。きっと、北白山の投げるボールは、重かったんや。昨日な、試合後に、知り合いのシャイアンツの仲畑に聞いたんや”
“中畑さんて、最後のバッターになった人ですよね”
“そうや、彼な、言ってたわ。『手がしびれた』ってな。彼の話によると、前の2人も手がしびれたそうや。しばらく、両手がジンジンして物を持つのも大変やったそうや”
“それは……どういうことなんでしょう?”
“つまりな、北白山ピッチャーは、バットが折れることを事前に知ってた上で、投げたんやと思うわ。せやなかったら、あんなに簡単にバットは避けられんし、何よりすべてのバッターのバットが折れるなんてあり得へん!”
“なるほど……それだけ、彼女の投げるボールは、威力があるということですね。……さて、それでは、今日も投げるかどうか、楽しみですね。…………いよいよ、プレイがかかりました”
「どうする? タマ子ちゃん。ブルペンで肩慣らしでもしておくかい? 昨日の監督の話だと、きっと、今日は早い回で登板になるんじゃないかな?」
「……えっと、多澤さん……? あの……」
珠子は、試合が始まってすぐに、ベンチの中でモジモジし始めた。その様子に気がついた徹子は、そっと耳元で言葉をかけた。
「心配なら今のうちに行ってきなさい。ベンチを出たら、着替え室の方に行けば、あるから……」
「え? あたし……」
「いいから! きっと出番は中盤過ぎよ、まだ出番は来ないから……ちびったらどうするの!」
「え? え? 違いますよ、テツ子さん、あたし、トイレに行きたいわけじゃないですよ~」
「あらっ、そう……じゃ、何をそんなにソワソワしてるのよ」
「えっとですね……あたし、まだ、『サンシン』って取ってないんですよね。昨日、家に報告の電話をしたら、お父ちゃんが、『サンシン取れたか?』って聞くんですよ」
「う~ん、確かにタマ子ちゃんは、まだ三振は取ってないなあ~」
「仕方ないですよ、多澤さん。タマ子の投げるボールは、軌道が分かりやすいので、バッターなら絶対打ちたくなりますから!」
「え? 『サンシン』って、打っちゃーダメなんですか? じゃあ、アウトに出来ないじゃないですか!」
「何言ってんの? タマ子。教えたじゃない、バッターをアウトにするには、フライをキャッチするか、次の塁へ行く前にタッチする。塁が埋まっている場合は、先のベースを踏むだけでいい。それから、ストライクを3つ取ればいいって」
「あ、ああ~……確かに。……でも、ストライクになるボールを投げたら、バッターは絶対打ってきますよ?」
「えっとね、他のピッチャーは、変化球も投げられるから、相手の意表を突くような投球をするの。そうすると、ストライクコースでもバットを振らなかったり、ボールのコースでもバットを空振りしたりするの。もちろん、ストライクコースじゃなくても、空振りしたら、ストライクになるのよ」
「え? ボールのコースでも、ストライクになるんですか? うっわ~また、不思議なルールが出てきた……」
珠子は、自分の中でせっかくストライクとボールの違いをコースで理解したと思っていたのに、より複雑な条件が組み合わさっていることを知り、頭を抱えてしまった。
(つづく)




