49 第3章第9話 最終回の出番
“岩木さん、8回まで終わりましたね。試合は1対0で、ファイアースがリードしていますが、どう見ます?”
“そうやな……この1点は、エイエスのホームランやんか。まあ、今年も調子はええみたいやね。他の選手もそこそこ打ってはいたんやけど、どうも繋がらないんやな~。ヒットは、8本も出てるけど、ダブルプレーでアウトになったり、走塁ミスがあったりと、とってももったいないんや!”
“確かに、昨年もそうでしたが、ここぞって時に打てないんですよね。どうしてなんでしょうか?”
“そんなの決まっとるやないか。選手がへなちょこなんや!”
“へなちょこ? と、言いますと?”
“まあ、気持ちが足らんということやな。ここぞって時に緊張して、気持ちが空回りしてしまうんや。今のファイアースにはベテランの選手はおらんのや! ……あ、でも今年は、多澤さんがベンチに入ってるから、その辺はちょっと期待できるかもしれへんけど……とにかく、ベンチ先発メンバーは、もう少し気持ちをしっかり持たなあかんということでしょうな”
「……よし、あと9回の表を0点に抑えれば、うちの勝ちだね……みんな、頼んだよ」
新城監督は、言葉は柔らかいが、鋭い目をしていることに選手たちは気がついていた。ただ、一人を除いては……。
「監督? 表を0点に抑えたら、裏の攻撃はやらないんですか?」
「え? タマちゃん? そうだけど……裏の攻撃もやりたいの?」
「だって、裏の攻撃のトップバッターは、エイエス選手ですから。また、ホームラン打てるかもしれないじゃないですか」
「タマ子、今は、1対0で、うちが勝ってるの! このまま、相手のシャイアンツに点が入らなければ、うちの勝が決まるから、9回裏の攻撃は必要ないじゃない」
「でもね、テツ子さん、せっかくエイエス選手の出番なんですよ。もったいないじゃないですか?」
珠子は、心底エイエスのホームランを期待していたみたいだ。悪びれもせず、心底9回の裏の自分たちのチームの攻撃を期待していたのだ。
「あははははは、タマ子ちゃん。サンキューです! ミーのホームラン、そんなに嬉しいですか! あははは……。大丈夫、今日はオープン戦、オープン戦のホームランは、シーズンのカウントには入らないね。だから、シーズンが始まったら、全打席、ホームランを打つからね。タマ子ちゃんのためね! 期待してね!」
笑いながら、エイエス選手は、シーズンでホームランを打つことを珠子に約束していたのだった。
「という訳だよ、タマちゃん! 9回表は、君に任せるから、頼んだよ。……いいかい、変な気を起こして、相手に点数をあげちゃダメだからね、ふふふ」
新城監督も、半分笑いながら珠子に、9回リリーフを告げたのだった。
「大丈夫ですよ、監督。いつでも、準備はできてます。できれば、3球で終わらせてきますよ」
「3球か……う~ん、できれば5球ぐらいは投げて欲しいなあ」
「おや? 監督? 5球も投げさせていいんですかい?」
「だって、多澤親分、それこそせっかくタマちゃんがマウンドに上がるんだよ。少しでも、長く見ていたいじゃないかい?」
「あはははは、そりゃそうですな! あはははは……」
1点しか差がない9回表の守備につこうかというファイアースベンチは、緊迫した雰囲気は微塵も感じられなかった。それどころか、笑いが溢れ、全員がリラックスした気分で満たされていた。
(つづく)




