↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/54

48 第3章第8話 タマ子ちゃん効果

 “みなさんお久しぶりです。GYORA(ぎょーら)は、今年もファイアースの全試合を生中継でお送りしていきます。私、実況の田中です。今日は、今年最初の試合中継です。オープン戦ですが、ファイアースの今年の状態を占う大切な試合です。そして、解説は、今年もお世話になります、元ファイアースの岩木(いわき)さんです。どうぞよろしくお願いいたします”

 “まいど! どうも! 元気いっぱいの岩木です。こちらこそ、よろしゅうお願いいたします”


 “ところで、岩木さん、ベンチメンバー表を見ましたか? なんと女子選手が入っています!”

 “そうやね~、『北白山(きたしらやま) 珠子(たまこ)』と載っとるな。ピッチャー登録やて! ……ん? 田中はん? コーチにも女の人の名前があるやんけ! 『皆厳(かいげん)……』? あ! これ、テツ子ちゃんとちゃうか?”


 “えっと、岩木さん? テツ子ちゃんとは?”

 “なんや、田中はん、忘れたんかい? 皆厳徹子(かいげん てつこ)は、以前日本で最初に発足した女子プロ野球リーグの最初の最優秀ピッチャーだよ! まあ、このリーグはすぐに解散になってしまったけど、テツ子ちゃんは、このファイアースに移籍し、頑張っとったんやで! 僕はファームで一緒に練習したこともあるんや! その後、僕は1軍に上がってしまったけど、テツ子ちゃんは1軍には昇格できずに、引退して球団職員になったって聞いてたんや……それが、ユニフォームを着て1軍ベンチにおるちゅうことは、なんだかとっても嬉しいなあ~。きっと今年のファイアースは、面白くなりまっせ~!”


 “どうも情報によりますと、皆厳さんは、北白山ピッチャーの特別コーチらしいです。それに、もう1人懐かしい多澤(おおさわ)さんがキャッチャー登録されています。彼は、数年前に引退したはずなんですが、どういうことなんでしょうかね”

 “う~ん……親ぶ……あ、多澤さんには、随分僕もお世話になりましたよ。なんせ、面倒見のいい人やったからね~。それに、体力こそ少しずつ弱ってはいましたけど、肩なんてまだバリバリいましたからね。ひょっとして、あの北白山ピッチャーの専属キャッチャーとちゃうか?”


 “なるほど、そういうことも考えられますね! あ、今、プレイボールがかかりました。今日は観客も入り、ここ北海道ミルクファイアースの本拠地旭山ドーム球場からお送りしています。対戦相手は、昨年のセ・リーグ優勝チーム、東京もんじゃシャイアンツです”




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 “試合も中盤、6回の裏のファイアースの攻撃が終わって、0対0の同点です。両チーム、現在、2人目のピッチャーが投げ終えたところです。今日は、短い継投でいくのでしょうかね”

 “ま、オープン戦やからね。今日は、腕試しとちゃいますか? オープン戦は、あくまでも戦力を確かめるための試合や。勝っても負けても、この試合から得られるものはぎょうさんあるで!”







「どうだい、みんな? ベンチからのサインなしっていうのは?」


 ニコニコしながら、新城監督は6回が終わった状況の中、ベンチで選手全員に声をかけた。


「緊張感が半端ないですよ。キャッチャーの僕なんか、いつでも試合全体を見ていないと、野手のみんなに指示が出せないんですから」

「そうだよね、ベンチからの指示がない分、相手の攻撃を察知したら君が野手に司令を出さなきゃならないんだからね、ふふふ」


 キャッチャーの田木矢(たきや)が、汗を拭きながら真剣に悩んでいるようだった。彼は、若手の方になるが、そのキャッチの技術だけでなく、バットコントロールにも優れて、去年は打率も2割8分を超えていた。


「ば~か、田木矢。あのな、キャッチャーってのは、いつでも試合全体に……いや、グラウンド全体に気を配っていなきゃならないんだよ。時には、ベンチの思いつかないような作戦だって指示してもいいんだぜ!」

「そりゃあ~多澤さんなら、そのくらいは朝飯前でしょうけど、僕はまだ多澤さんの半分なんですよ!」


「ん? 半分? ……じゃあ、お前は、まだ10歳なのか?」

「そんな訳ないでしょ!」

「だってよ、俺なんかいつまでたっても二十歳なんだぜ、あははははは」


 ベンチは、緊張した中にも、多澤がいるだけで、砕けた雰囲気が漂っていたのだ。そして、それに輪をかけたように、珠子も、みんなの気持ちにゆとりをもたらしていたのだ。


「もう、多澤さんったら! でもね、間違いなく僕より若いタマ子ちゃんが、ベンチにいるだけで、なんか僕がしっかりしなきゃって思えるんですよ!」

「お! お前、タマ子ちゃんにいいとこ見せたいと思ってるんだろ?」


「あ、伊東(いとう)さんだって、三振を取る度にベンチを見てるじゃないですか。きっとタマ子ちゃんを見てたんでしょ!」


「だってよ、三振を取るとタマ子ちゃんが、手を振ってくれるんだぜ! 嬉しいじゃないか! こんなもっさい男たちの中で、可愛いタマ子ちゃんに手を振ってもらってみろ、嫌っていうほど指先に力がみなぎるんだよ」

「そういえば、伊東さん、去年より球速上がってましたね」


「まあ、な! へへへ」


 今日の先発を務めた、ファイアースのエースともいえる伊東ピッチャーは、3回までの登板で、なんと全員を三振にとっていたのである。


 新城監督は、そんな話をベンチの中で聞きながら、思いのほかタマ子ちゃん効果が出ていることに目尻が下がっていたのだった。




(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。