47 第3章第7話 デビュー前日
「よっ! タマちゃん! いよいよ明日からオープン戦だけど、調子はどうだい?」
珠子たちが、室内練習場で秘密の特訓を始めてから、早いもので、もう2週間が過ぎようとしていた。いよいよ明日は最初のオープン戦が、ここ旭山球場で行われることになっていた。
新城監督が、久しぶりに様子を見に来たのだ。
「あ! 監督! 調子はとってもいいですよ。ご覧の通り、元気いっぱいですぅ~!」
「ん~でもさ~……タマちゃん? すっごいボロボロのような気がするんだけどねえ~」
確かに珠子のユニフォームは、あちこちが擦り切れていて、破れているところも多かった。それに、頭に被っている帽子から全身にグラウンドの焦げ茶の土の色が染み込んでいたのだ。
「ねえ、ちゃんと毎日洗濯してもらってるの?」
心配そうに尋ねる新城監督に向かって、徹子は慌ててユニフォームの説明を始めた。
「ええっと、監督……ここでの練習はちょっと特別なものでしたので、ユニフォームの損傷も多かったんです。そのまま洗濯担当さんに渡すと、補修から染み抜きまでやってくれるんですが、たかが練習でそこまで毎日お願いするのは気が引けたので、タマ子と相談して自分たちで洗濯することにしたんです」
「でもさ~……それじゃ、汚れは残るし、破損箇所は増える一方じゃないのかな?」
新城監督は、ファッションにうるさく、選手にはいつも服装に気を使うように話していたし、グラウンド上ではユニフォームを着た姿もまたファンサービスだと言っていた。
だから、ボロボロの珠子の姿は、あまり好ましくないと思っていたのだ。
ところが、珠子自身は、とっても嬉しそうな顔をして、新城監督のそばに来た。
「見てくださいよ! この姿! ね! すっごくカッコいいじゃないですか?」
「え? このボロボロの姿がかい?」
「ええ! なんせ、あたしたちは、ここで秘密の猛特訓をしているんですよ! ユニフォームが破けて、土まみれなんて、熱血スポ根漫画みたいじゃないですか!」
「熱血スポ根漫画? 今どきに?」
「うちのお父ちゃん、そういう漫画が好きみたいで、たくさん持ってるんですよ。あたしは、全然興味はなかったんですけど、なんかいつもお父ちゃんは、夜になると外へ出て、あたしに『あの星を見ろ!』とか言って、北極星を指さしていたんですよ」
「えっと……それって、もしかして……」
訳の分からないことを口走る珠子の話に、ポカンとしている新城監督を見た徹子が慌てて口を挟んだ。
「まあ、そんなことはどうでもいいんですけど……どうせ、今は外部をシャットアウトして練習してるから、報道やファンの目には触れませんので大丈夫です。外に出る時は、ちゃんと着替えていますので。……もちろん、外での練習や試合の時は、新しいユニフォームに着替えますので、心配はいりません!」
「そうかい? まあ、テッちゃんがそう言うなら大丈夫だと思うけど……。頼みましたよ、多澤親分」
「あははは、心配いらないって、監督!」
まだ少し心配そうな顔をしている新城監督を、多澤は思いっきり笑い飛ばしていたのだった。
「まあ、明日はデイゲームだよ。午後1時に開始する。相手は、東京もんじゃシャイアンツだ。タマちゃんは、勝ってても負けてても9回に投げてもらうから、準備しておいてね」
それだけを言うと、新城監督は室内練習場から出て行った。
「いよいよ明日ですね……うう~っ! なんかとっても楽しみです!」
ボロボロのユニフォームを着た珠子は、嬉しそうに武者震いをしていた。そして、その様子を、これまた嬉しそうに見守る徹子と多澤だった。
(つづく)




