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45 第3章第5話 練習は秘密に

「ところで、多澤(おおさわ)さん。タマ子が付けられるようなキャッチャーのプロテクターはあるかしら?」

「ん? そんなもの何に使うんだ?」


「きっと最初は、ぶつかると思うのよね。タマ子は、力もスタミナもあるんだけど、身のこなしは普通なのよね。バットがぶつかって怪我でもされたら大変だし、こっちもそんなふうに手加減してバットを投げても、ちっとも練習にはならないと思うの」

「おお! テツ子ちゃん、本気だね!」


「アッタリ前よ! 練習に手を抜いちゃ、なんにもならないの! やるなら、本気でやらなきゃね!」


 美味しそうにアンパンを頬張っている珠子(たまこ)の横で、徹子(てつこ)は真剣な顔でバットを投げるフォームを確認していた。


「おや、テツ子ちゃんがバットを投げるのかい? そんな力仕事は、俺がやるよ」

「いいえ、多澤さんには、別のものを投げてもらうわ。タマ子がバットに慣れたらお願いするから、今はキャッチャーに専念してください」


「あ、ああ……分かったよ。俺、キャッチャーのプロテクター探してくるな」


 徹子は辺りを見渡してから、練習全体を眺めていた森元ヘッドコーチに声をかけた。


森元(もりもと)ヘッドコーチ! あの~お願いがあるんですが……」

「なんだい? テツ子ちゃん。……あ、それからよ、俺のことは、『森元』だけでいいよ。ヘッドコーチなんてガラじゃないんだよ。俺は、嫌だって言ったのに、新城の奴がどうしてもって言うからよ。それに、俺はテツ子ちゃんを一人前にして1軍に送れなかったダメコーチなんだよ、はははは……」


 森元ヘッドコーチは、徹子がファイターズの支配下選手になった時に、2軍のピッチングコーチをしていた。しかし、徹子の投げるボールは、多彩な変化球だったが、どうしても軽いために、すぐにバットに当てられて、遠くへ運ばれてしまうという弱点を克服することができなかった。


「別にいいんですよ。あれは、私の弱点だったんです。……でも、タマ子は、私のあの弱点を消してくれるんです! 分かりました、森元さん。力を貸してください」

「俺は、いつでもテツ子ちゃんの味方だよ」


「室内練習場を貸してください。私とタマ子、それに多澤さんの3人だけの貸し切りにしたいんです。もちろん、取材や見学もシャットアウトして……」

「分かった。もちろんいいよ。好きに使ってくれ。どうせ、他の奴らは、室内練習場は夜ぐらいしか使わないんだ。これからも、昼はテツ子ちゃんたちが自由に使えるようにしておくから」


 笑顔の森元ヘッドコーチは、皺が深く刻まれた顔をひと撫でして、優しい笑顔を見せていた。





「お~い、あったぞ~……これなら、タマ子ちゃんにピッタリだ。それから、腕や手の甲に付けるプロテクターも持ってきたぞ。これだけ付ければ、例えバットがぶつかっても大丈夫だ」


 キャッチャーの用具一式と、バッターボックスに入る時に身に付けるプロテクターを両手に抱えて多澤が戻って来た。


「え? キャッチャーマスクもつけるんですか? なんか、あたし、ロボットにでも変身するみたいですね、えへへへへ」


 防具一式を楽しそうに見つめる珠子であったが、真剣な眼差しの徹子は、旭山ドーム球場の外にある室内練習場を指さして言った。


「さあ、私たちの練習する場所は、今日からあっちになるわよ! 行きますよ!」



 徹子を先頭に、防具一式を抱えた多澤と、アンパンの最後の一切れを口に放り込んだ珠子が、いそいそとみんなが練習しているグラウンドを抜け出して外へ向かったのだった。




(つづく)


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