44 第3章第4話 飛んできて欲しいもの
「エイエス、さっきあなたが折ったバットをすべてもらえないかしら?」
徹子は、対決が終わったエイエス選手に声をかけた。
「OKよ。……でも、What? 何に使うのですか? あ! まさか、プレミア付きでどこかに売って儲けるですか? テツ子ちゃん? ふぁふぁふぁ」
ちょっと笑いながら、エイエスは徹子を揶揄った。しかも、珠子に続き、徹子まで、ちゃん付けで呼びながら、エイエスは嬉しそうだった。
「バカ言わないでよ。あなたが負けてへし折られたバットなんかに、プレミアが付くわけないじゃない。……まあ、ホームランでも打ったバットなら、私がもらってあげてもいいけどね。ふふっ」
負けずに徹子も、エイエスに言い返し、メガネをちょっと持ち上げながら笑顔を返していたのだった。
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「タマ子、多澤さん、ちょっと手伝って……」
「ん? テツ子、なんだい? そりゃ。」
徹子は、折れたバットの先端部分を山ほど抱えて、珠子と多澤のところに来た。
「エイエスからもらったの。さっき折ったバットよ」
「そりゃ、見れば分かるんだけど……いったい、何をする気なんだい?」
「タマ子、これからあなたは、これを避ける練習をするのよ!」
「え? 折れたバットを避ける練習ですか?」
「そう。試合の本番では、このピッチャーを守るネットはないの! 上手く避けないと、あなたは折れたバットに当たって大怪我をするわ」
「ええ~! いやだなあ~。あたし、痛いのは嫌なんです~!」
「だったら、真面目に練習するのよ! それに、飛んでくるのは、バットだけじゃないでしょ!」
「…………えっと、あんパンやクリームパンなんかも飛んできたら、嬉しいなあ~……。シュークリームでもいいんだけど……」
「タマ子? 何言ってるの?」
「あはははは……タマ子ちゃん、お腹空いたんだろ? 今朝はマラソンでここまで来たし、エイエスとの勝負もやったからな」
「えへへへへ ―― グウウウ ―― はははは……」
珠子のお腹からは、地響きにも聞こえる激しい緊急ブザーが鳴り響いた。
「ま、試合中でも、ピッチャーは栄養を補給することがあるからな」
「多澤さん……そんなこと言って、タマ子を甘やかさないでくださいよ!」
「いいじゃないか。別に、俺たちには決まった練習なんてないんだ。要は、このチームを優勝させるために、俺たちは頑張ればいいだけなんだ。何をしたって、自己責任だよ」
「仕方ありませんね。……じゃあ、休憩にします。 ―― ゴソゴソゴソ ――」
徹子は、腰につけている小さなポシェットから3人分のスポーツドリンクと丸い物を取り出した。
「じゃあ、ベンチに行きますよ!」
すべての選手はグラウンドに出て練習を始めたので、ベンチには誰もいなかった。コーチたちはあちこちの選手の様子を見に行っていたし、監督はもうどこにも姿は見えなかった。
「はい、……これを飲んでください」
「お! テツ子ちゃん、気が利くね~……」
「今日だけですよ! ……それに、タマ子には……はい、これもあげるわ」
「え? あ! やった~! アンパンだ! わあ~ありがとうございます、テツ子さあん!」
珠子は、大きなアンパンを頬張り、また嬉しそうに笑っていたのだった。
(つづく)




