04 第1章第3話 自主トレの前に
自主トレ初日、珠子は見慣れた球団事務所を訪れた。というのも、北海道ミルクファイアースの球団事務所は、珠子が通っていた北西高校のすぐ横にあったのだ。しかも事務所だけでなく、2軍球場やいろいろなトレーニング施設なども併設していた。
北海道なので2軍球場といえどドーム型の球場で、冬場でもしっかりと練習や試合ができるのだ。
旭川の1月の平均気温はマイナス8度、平均積雪量は80センチメートルと言われている。ただ、冬の寒い日は、マイナス20度近くに下がることもあるのだ。
それでもドームの中や練習施設の中は、快適な気温に保たれていて、冬場も選手たちはそこで体を鍛えている。
―― ピンポーン ――
「やあ、いらっしゃい。さあ、中に入って……」
球団の事務所で出迎えたのは、1軍監督の新城剛志だった。球団の事務所といっても、なんだか狭い部屋に応接セットがぽつんと置かれているだけの部屋だった。珠子は、あらかじめ球団社長の名前で、ここに来るように言われていた。
「えっと……北白山珠子です。今日からどうぞよろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそ……まあ、ここに座って」
珠子と新城監督は、テーブルを挟んで向かい合って長椅子に腰かけた。2人だけだった。
「あの……、他の選手は……?」
「ああ、もうね、自主トレを始めている人も多くてね。大抵は、九州や沖縄なんか行って、暖かいところで練習しているよ」
「今年の新人選手は……?」
「そうだね、ドラフトでとった選手は、今は1軍の旭山球場で、君と一緒で今日からトレーニング開始なんだ」
「あたしは……行かなくても?」
「まあ、落ち着き給え。君は特別なんだよ」
「特別なんですか?」
とにかく、珠子にとっては、初めてのことばかりで、要領を得なかった。まして、プロ野球のことなどまったく知らない珠子にとっては、言われても理解できないことばかりだった。
でも、新城監督は、ニコニコしながら珠子を見つめ、嬉しそうに言った。
「もう少し待ってくれないかな。君、専属のトレーナーを紹介するからね……」
新城監督はそう言うと、自らお茶を入れ始めた。ポットからお湯を急須に入れて、少し蒸らしてから湯呑に入れ、そっと珠子の前に置いた。
それから、自分用にも入れた後、もう一つ湯呑にお茶を入れ、自分の横に置いた。
―― トン、トン、トン ――「失礼します。お待たせしました……」
そう言って入ってきたのは、背がスラッと高いメガネをかけたお姉さんだった。
「すまないね……」
新城監督はそう言うと、湯呑を置いた自分の隣の席を手で示した。ちょうど珠子の目の前だった。
(つづく)




