03 第1章第2話 いつの間にか
今や北海道ミルクファイアースと言えば、道民憧れのプロ野球球団である。北海道に球団が移転してきて22年になる。ファイアースは、移転当初からファンサービスを第一に掲げ、なによりもファイアースファンを大切にしてきた。
北海道民にとっては、今まであまり馴染みがなかったパ・リーグの球団であったが、その親しみやすさのおかげで一気に虜になっていった。
また、北海道に移転後、パ・リーグ優勝5回、日本一2回と、その強さも道民の心を引きつけていた。
「それにしても、タマ、……あなたがプロ野球選手になるとは思わなかったよ~」
「何言ってんの。全部、エリのせいでしょ!」
「え? 私のせい? どうしてよ。ただ、私のファイアースガールの採用試験について来てって、お願いしただけじゃない……」
「そ、それよ! もとはと言えば、あなたが、ファイアースガールになりたいなんて言うから……あたしも……ちょっとだけ……」
珠子は、そっぽを向いたままモジモジとしている。
「え? ひょっとしてタマもファイアースガールになりたかったの? あ、でも、あの時、タマ、途中で帰っちゃったじゃない。私、とっても心細かったのよ」
「あれは……。あの時は……。」
「もう、タマったら! 何度も聞くけど、いっつも、ゴニョゴニョ言ってごまかすじゃない! 今日こそ、はっきり言ってよね! 私たち、親友でしょ!」
「…………。あたし……迷子になって……困ってたの。そしたら、監督が……こっちだよって……」
「え? 監督? ……ひょっとして、1軍監督の新城さん?」
「そう…………」
「ええ? それで、帰ったんじゃなくて、入団テストを受けてたの?」
「だって! あたし、入団テストだなんて知らなくて! ただ、走ってみなさいとか、ボールを投げてみなさいとか言われて、やっただけなのよ」
「うふふふふふふぁふぁふぁふぁふぁ……タマらしいよ。そりゃ、タマの体力……ううん、筋力って言うべきかな。確かに、飛び抜けていたんでしょうね」
「いいじゃない、別に……ちょっとだけ他の人より力持ちなだけよ」
「まあね、タマとは中学からの同級生だし……。私にはよく分かるけど……あの力はね~……でも、大丈夫なの? 野球とかやったことないでしょ?」
「あたしもね、そう言ったの! あたしは、野球なんかできないって! ……でもね、新城監督さんが、大丈夫だって。遊びのつもりでやりなさいって言うのよ」
「まあ、新城監督も困ってるんじゃない? 去年は、パ・リーグ第3位だったしね。みんなそこそこ活躍はするんだけど、なかなか上位には行けないのよね。かといって、CSでは、下剋上もできなかったし。……きっと、タマの体力を見て、また何か閃いたのよ」
「は~……困ってるのはあたしの方よ。……ねえ、今から『止めます』って言おうかな?」
「ダメよ! もう、1月の中旬よ。プロ野球選手なんかは、みんな自主トレ始めてるわよ。……ふふふ、いいじゃない。気楽にやれば。新城監督もそう言ってくれてるんでしょ。……あははは、試しよ、試し! タマの怪力を見せてやりなよ!」
「もう、エリってば。怪力だなんて、格好悪い!」
「ズバッとやって、ドドンとがんばってみなよ! 私がファン1号になってあげるからさ!」
「ファンって……。あたしは、アイドルじゃないんだからね!」
「何言ってるの! 今やプロ野球選手は、アイドルみたいなものよ。優秀な選手には、球団のファンクラブとは別に、対象選手のファンクラブまであるらしいわよ! とにかく頑張りなさい!」
―― バシッ! ――
エリに背中を思いっきり叩かれた珠子は、なんとなく親友にこれからの頑張る力を貰ったような気がして、笑顔になるのであった。
(つづく)




