39 第2章第26話 腕試しの紅白戦④
午後1時、プレイボール! 紅白戦が開始された。北海道ミルクファイアースの選手が、2組に分かれて試合をするのである。
狙いは、新城監督が今年の1軍と2軍を選別することであるが、実は、もう一つ考えがあった。それは、選手それぞれの基礎力をつけることにあった。
そして、その基礎力とは……。
試合開始直前、新城監督はこんなことを告げた。
「今日の試合も含めて、オープン戦は一切ベンチからの指示は出さない! 各自、最善と思うプレーをして欲しい!」
一瞬選手たちは、ポカンとしてしまったが、わざと多澤はみんなに聞こえるような声でつぶやいた。
「へ~……それじゃ、自分の好きなプレーができるってことだな。バッティングも走塁も、自分の得意なことを頑張ればアピールできるってもんだ!」
すると、それを聞いた選手たちは、「得意なことか……」と、ちょっと考えているようだったが、次第に笑顔を見せる選手が増えてきた。
「へへへ……俺は、バントよりヒットを打つのが得意なんだ。決して、ホームランは打てないけど、内野を超えるくらいのヒットならいつでも打てるんだ!」
「俺だって、ヒットは打てないけど走ることには自信があるんだ。だから、粘って粘って、フォアボールで出塁して、ホームにだって生還してやるんだ!」
他にも声には出さないけど、何かを考えて目がギラギラ光っている選手が大勢いた。
「テツ子さん~、あたし困っちゃうわ。ベンチはサインを出さないって。……せっかくあたし新城監督からサインを貰おうと思ってたのに。それに、あの森元ヘッドコーチって、うちのおじいちゃんに似てるから、サインをねだろうと思ってたのよ!」
「……う~ん、タマ子。あんた、まだそんなこと言ってんの? 監督が言ってたのは、有名人が書く『サイン』じゃなくて、選手がどんなプレーをするか決めて出す『指示』のことよ!」
「あ! そういえば、前もそれで間違ってたんだったわ! ここは、プロ野球よね。そうそう、試合中に監督からいろんな指示が出るんだったわ。あたしね、あの、テレビで時々見る『ホームランを打て』のサインが大好きよ! 見ていて、スカッとするもんね!」
珠子が嬉しそうにバットを振る真似をしていたが、あえて徹子は間違いを指摘しなかった。珠子を見ていると、なんとなく『三振を取れ』とか、『バットをへし折ってアウトにしろ』なんていうサインが出るかもしれないと思ってしまったのだ。
すべての選手交代は、新城監督が一人で行った。ベンチからのサインは出ないので、ベンチに監督は必要ない。新城監督は、他のコーチたちと一緒にバックネット裏の記者席からグラウンドの選手を見守っていた。
「ねえ、テツ子さん、あたしの出番はいつなんだろ?」
「そうね~……きっと、最後の抑えの場面じゃないかしら。絶対、あの新城監督は、あなたを最後に登場させて目立たせようと考えていると思うな」
「ああ、それは間違いないな。それも、俺たちのチームがピンチで、一打逆転とかいうシビレル場面でよ、タマ子ちゃんの登場さ。な、いい場面だろ?」
「ええ~? 多澤さん、それがどうしていい場面なんですか? あたしが、打たれちゃったら、いい場面じゃなくなるじゃないですか? いやだな~」
「でもよ、そんな場面で、相手からアウトを取ってみろよ。すっごく、気持ちいいと思うぜ。俺は、キャッチャーだったけど、そういう場面によく出くわしたんだよ。ピッチャーは、泣いて喜んでいたけど、俺だってものすごく嬉しかったぜ!」
お客さんが入り、半分ほどの席も埋まった。ネット中継らしい放送も流れているようだ。紅組も白組も、選手たちは熱のこもったプレーを披露していた。
1回、2回、3回と試合は進んだ。ただ、それぞれの頑張りもあったのか、未だ得点板には、『0』しか並んでいない。
こんなに緊迫した試合は、シーズンが始まってもめったにあるものではない。見守る監督たちの目も、いつもより輝きが増していたのだった。
(つづく)




