36 第2章第23話 腕試しの紅白戦①
ほとんどのプロ野球チームは、今日からキャンプインになる。今日は2月1日だ。北海道は、まだまだ雪が残り凍れの厳しい日が続く。
それでも、近代的な建築で建てられたドーム球場は、保温と断熱性に優れ厳冬の季節でさえなんの問題もなく野球ができる。
北海道ミルクファイアースは、もう数年前からキャンプを地元旭川市の旭山ドーム球場で行っている。旭山ドーム球場は、動物園の近くにあり、周りを水田に囲まれた風光明媚な場所にある。
旭山ドーム球場は、全天候型の屋内球場である。野球ができるグラウンドのほかに、遊園地やショッピングモール、サッカーやバレーボールなどができる体育館も併設されている。言うなれば、野球を中心にしたレジャー施設といってもいいだろう。最近は、どこの球団も地元との連携を深めボールパークと呼ばれる施設をつくっている。
そういう意味では、この旭山ドーム球場は、近くに動物園もあるので、理想的なレジャー施設と言っていいだろう。また、飛行場も近くにあるので、対外遠征のしやすさもある。
「みんな、今年もよろしく頼む! 今年も、このキャンプインからすべてが始まる。最終目標は、言わずとも知れた『日本一』だ。全力で頑張って欲しい!」
旭山ドーム球場の内野に集められた全選手。その周りには、グラウンド整備や窓口職員も入れた球団職員全員がいた。その人たちに向かって、ホームベース斜め後ろの客席から、1軍監督の新城剛志は、マイクを使ってみんなに呼びかけた。
「なあ、おい。今年の監督は、気合入ってるよな」
「ああ、今年で6年目だけど、今までは1軍候補ばかり集めてのキャンプだったものな」
「そうそう。だけどよ、せっかくキャンプに呼ばれても、俺なんか開幕と同時に2軍出発っていうのが、ほとんどだよ」
「それでもいいじゃないかよ~。シーズンが始まって、夏場でみんが疲れてくる頃に、1軍に呼ばれていただろう?」
「ああ、確かに毎年呼ばれたよ。……でもな、夏場は、俺だって疲れるんだよ。2軍だって試合やってるんだぜ!」
「確かにそうだよな……。そういえば、呼ばれても成績が振るわず、お前、すぐに2軍に落ちてたよな、あはははは」
「うるさいよ! 笑い事じゃないって! 今年こそ、頑張らないと、クビになっちまうぜ!」
新城監督の挨拶を聞きながら、ベテラン選手たちは、そんな話をしていた。そういうのも、今年はすべての球団関係者が、ここにいたのだ。もちろん、去年の成績が良くて契約金を上げて更新した者や、逆にあまり成績が振るわず引退して球団職員になった者なんかもいた。
「…………それから、今日は、みんなに紹介したい選手がいる。ドラフトではなく、僕が特別に見つけてきた『北白山珠子』君だ。彼女は、今年の……我がファイヤースの、……秘密兵器だ!」
監督がそう紹介すると球場にいた人たちの「おおおおー」という、なんとも言えない低い響きの声が幾重にも重なった。
「おいおい、女の子だぜ! 確か、昔は女子リーグがあったけど、数年前にすべてのチームは解散したんだったな。その時の選手か?」
「違うな……よく、見ろよ。若いぜ! あれは、どう見ても高校を卒業したばかりじゃないのか?」
「じゃあ、昨年の卒業生が、今頃入団なのか? まあ、プロに入るには、1年ぐらいの練習期間は必要だよな。いくら、高校時代に野球をやってても、すぐにプロでは通用しないもんな」
すると、新城監督は、珠子の紹介も簡単に話した。
「……まあ、彼女の卒業式は、来月に予定しているんだ。そうしたら、正式に入団発表はするけどね、あはははは」
「え? つまり、今は……まだ……高校3年生?」
「おいおい、大丈夫なのか? ここは、プロ野球だぜ!」
あちこちから、驚きの声が上がったが、監督は一向に気にするそぶりも見せず、専属コーチの紹介を始めた。
「一応、彼女……えっと、僕はね、タマちゃんって呼んでるんだけど……彼女の専属のコーチを務めてもらっている皆厳徹子君と多澤啓司君だよ。今年は、ずっとタマちゃんと行動を共にするからよろしくね!」
監督の横に立っていた3人は、マイクを渡されて一人ずつ挨拶を始めた。
「えっと、北白山珠子です! どうぞ、みなさんも好きなようにお呼びください! 野球のことは、全然分かりませんが、頑張りますので、よろしくお願いします」
珠子の笑顔での挨拶に、ほとんどの者は目を細めて笑顔になっていたが、何人かはとんでもない挨拶に気付き目を丸くしていた。
「私は、皆厳徹子です。数年前は、2軍でも少しお世話になってましたが、今年はタマ子の付き添いでいろいろお邪魔します。できるだけ早く、タマ子に野球のルールを教えますけど、もし抜けていることがあったら遠慮なく言ってください」
今度は、ほとんどの者が、口を開けていた。気になったのは、『ルールを教える』という、言葉だった。
「あははは……お前たち、何をポカンとしてる? え? ……本人も、それにこのテツ子も言ったよな。……そうだ、こいつは、野球の素人なんだよ。……だけどな、舐めてかかれば、お前たちなんか相手にならないからな。今年は、俺もタマ子ちゃんのボールを受けるから世話になるぞ!」
すると、2軍の選手から声が飛んで来た。
「親分! 世話になってるのは、俺たちですよ! ……でも、嬉しいよ! また、親分の活躍を見られるんですね!」
「俺も、親分のためなら、何でも協力するよ!」
「俺も! 俺も!」
さすが、多澤親分。彼を慕う現役の選手は、まだまだたくさんいるようだった。多澤親分も、久しぶりの表舞台に出て、嬉しくなったようで、下のグラウンドに向かって手を振っていた。
(つづく)




