34 第2章第21話 スクイズは失敗したが……
「いいか! タマ子ちゃん! 1点も相手に与えるなよ! 分かったな!」
「!? (え? 何言ってんの、多澤さん? さっき、バントは点を取るためだって言ってたじゃない! 今は、バント処理の練習だから、間違いなく横先さんはバントしてくるはず!……もう、審判の『プレイ』がかかったから、引き返せないし……ああ~どうしよう?)」
珠子は、多澤の指示が聞こえたと同時にセットポジションに入ってしまった。今更、どうすればいいかを聞くわけにはいかない。
目には、サードを守っている徹子が映る。徹子は、ほぼサードベースのすぐ横にいた。
「(テツ子さん、ランナーのリードを許さないように守っているのね。……じゃあ……)」
珠子は、セットポジションから、プレートを踏んだまま、3塁へ牽制……するフリをした。サードランナーの杉田は、急いでベースに戻った。
「(よ~し、サードは偽投がOKだったわよね! 1点もやらないってことは、このサードランナーをホームに返さないってことよね……)」
珠子は、もう一度セットポジションをつくった。
3塁ランナー杉田は、ややリードはするものの、いつでも帰塁できる場所にいた。キャッチャー多澤は、ミットを真ん中に構えて微動だにしない。横先は、最初からバットを寝かせてバントの構えをしている。1塁にはランナーがいないので、ファーストはいつでも突っ込んでこられる体制をとっていた。
「(……バントされたボールは、ファーストの人がとればいいのかな~。こういう場合、ファーストには、セカンドの人が入るから十分アウトにはできるけど……サードランナーは……。それに、ボールはどこに転がるか分からないのよね……)」
珠子は、セットポジションのまま一度、目を閉じた。そして、目を開けると同時に左足を前に滑らせ踏ん張った。右肩を回してボールを投げると同時に、右足も前に出した。そして、全力でマウンドを駆け下りた。
―― カン! ――
珠子は、3塁線に沿って転がるボールを目がけて走った。視界の右では、ちょうど同じように3塁からホームに走って来たランナーを追うことができた。
「(よし! あたしの方が早い!)」
珠子は、左手のグローブで、転がるボールを掴むと、体を右に回転させながらランナーにタッチした。
「アウト!」
審判の声を聞くと同時に、珠子はそのグローブの中のボールを右手でつかみ、思いっきり1塁へ向けて投げた。
―― パーン! ―― 「アウト!」
1塁審判の手が上がった。それを見た珠子は、嬉しそうにその場でジャンプしていた。
ところが……
「セーフ!」 主審の声が聞こえた。そして、「1点!」と、ご丁寧に追加得点も叫んでくれた。
「え? ええ?」
びっくりしてホームベースの方を振り向いた珠子は、ホームベースにうつぶせで滑り込んでいた斉藤の姿を見た。彼は、セカンドランナーだったのだ。
(つづく)




