33 第2章第20話 準備はできた!
多澤は、もう一度グラウンドを確認した。
アウトカウントは、ノーアウト。ランナーは、2塁と3塁。バッター横先は、バントをする。
「杉田、斉藤……ちょっと来い!」
多澤は、バッターの横先とランナーの杉田と斉藤を呼んで、何か耳打ちをしている。
「(多澤さん、何を話してるんだろ?……それにしても、ちょっと困ったなあ~。バントされたら、ボールを1塁に送って、バッターをアウトにしなきゃならないんだけど、今は誰も1塁を守っていないんだもんね……。これじゃ、1点を取られるだけで、1つもアウトにできないんじゃないかな?………………ん?)」
そんなことを考えながらグラウンドを眺めていた珠子だったが、グラウンドを均すレーキや何重にも巻かれたホースを抱えた人たちが集まって来たのだ。
「班長~……何やってんですか?」
「副班長も、走るんですか?」
「おう! お前ら……お、もうそんな時間か? ちょっと待て、もうすぐ終わるからな」
「別に構いませんよ! なんか、こっちの方が面白そうだから、ゆっくりやってくださいよ!」
集まってきたのは、このグラウンドの整備に集まった整備班の人たちだった。
「あれ? バッティングコーチの横先さんが、バッターなんですか?」
「おお! それに、キャッチャーは、多澤親分じゃないですか!」
「おう、お前ら、すまんな。もう少しグラウンドを貸してくれ!」
多澤は、整備班とも顔なじみなので、右手を挙げて挨拶を交わしていた。
「別に、いいんですけど、そのピッチャー、誰ですか? 見たことない……お! 可愛い女の子じゃないですか!」
「ああ、今年のうちの秘密兵器だ! タマ子ちゃんっていうんだ、よろしくな!」
「あ、あの~……タマ子です。どうぞよろしくお願いします!」
珠子は、帽子をとってニッコリ笑いながら、頭を下げた。すると、集まった整備班の人たちは、「おお~」と言いながら拍手が巻き起こった。
「タマ子ちゃん、なんか観客が集まったけど、真剣勝負といくぞ!」
多澤の掛け声を聞いた整備班の中からもひと際大きな声が上がった。
「親分! 真剣勝負なら、守備が足りないんじゃないかい? 足りないところは、俺たちが守ろうか?」
それを聞いた多澤は、嬉しそうに「ああ、頼むわ!」と、声を返した。
さすが、野球場を整備する達人たち。グローブやボールをいつも持ち歩いていた。ファーストやセカンドにも人がついた。そして、ショートや外野を守る人もできた。各塁審や主審を引き受ける人もいた。
まさしく、これで、正式に真剣勝負ができる環境ができた。
「(やったわ! 1点は取られるけど、これなら1塁で1アウトがとれるわね)」
珠子は、嬉しそうにセットポジションにつこうとした。ところが、その時、多澤から鋭い声で珠子に指示が飛んできた。
「いいか! タマ子! 相手に1点も与えるなよ! 分かったな!」
(つづく)




