30 第2章第17話 楽しい仲間
次の日の朝、珠子と徹子は、花﨑須田瑠濱ドーム球場で軽いキャッチボールをして肩慣らしをしていた。
そこに、多澤が、2人の男を連れて現れた。
「お、タマ子ちゃん、ウォーミングアップは済んだか?」
多澤は、珠子たちの姿を見るなり笑顔で大きな声をかけてきた。
「あ、多澤さん! おはようございます。今日もお願いできるんですね!」
「ん……まあな。昨日な、俺のロッカーにこんなものが入っていたんだ」
そう言うと、クルッと半回転してユニフォームの背中を見せてきた。そこには、『000』と、『ゼロ』が3つくっついた背番号があった。
「え? 親分、その背番号! ひょっとして……ふふふ」
「笑うな! 徹子! 俺だってびっくりしてるんだよ。一緒に新城監督からのメモが置いてあってな……」
「ええ? なんて書いてあったんです?」
「ああ……一言……『頼みます』だってよ……」
「ふふふ……じゃあ、私と同じじゃないですか。これで、親分もタマ子と一蓮托生になったんですね」
「俺はすぐに電話したんだ。監督によ、『どういうことだ?』って、怒鳴りつけてやったんだよ」
「そしたら?」
「そしたらよ、『頼みます』って言って笑うんだよ。……最後にな、『試合にも出しますよ』なんて言うんだよ」
「いいじゃないですか。試合でタマ子の球を受けられるのは、きっと多澤親分だけですよ」
「だってよ、俺は2軍のブルペンキャッチャーなんだよ。今は、試合に出られる選手じゃないんだよ!」
「えっと……でもですね……多澤さん……背番号を貰ったということは、もう登録されたから、プロ野球選手なんじゃないですか? あたしも、この『0』という背番号を貰った時、テツ子さんにそう言われましたよ」
「そうね……私は、ちゃんと新城監督から『コーチ』として頼むって言われたけど、多澤親分は、もう絶対『選手として一緒に試合に出て、タマ子を頼む』ということよね。ふふふ」
珠子と徹子は、嬉しそうに多澤を見ていた。当の多澤も、どこか嬉しそうにしていることは、彼が連れて来た男たちの言葉からも分かった。
「そうですよ、多澤さん。良かったじゃないですか。その……タマ子ちゃん?……のボールを受けるためとはいえ、またグラウンドに立てるんですよ」
「そうそう、思いっきり楽しんでくればいいじゃないですか! 俺たちだって、応援しますからね!」
2人は、嬉しそうに多澤に話していた。
「あの~……この方たちは?」
「そうそう……今日の練習相手を連れてきたぜ!」
多澤にそう言われ、2人は帽子をとって珠子と徹子に、丁寧に挨拶をした。
「彼らは、ここのグラウンド整備の班長と副班長なんだ。そして、俺の後輩だ」
「僕たちは、多澤先輩にはとってもお世話になったんです。あの頃の恩は、今でも忘れません!」
「多澤先輩のためなら、なんだってお手伝いしますから!」
2人は、元プロ野球選手だった。1軍で活躍することはなく引退した。しかし、このプロ野球の現場から離れたくないという思いから、球団職員としての道に進んだ。どんなことでも、嫌がらず全力を尽くす姿は、職員になってからも変わることなく、今ではグラウンド整備の責任者にまで上り詰めていた。
「テツ子、あれはタマ子ちゃんに教えたか?」
「ええ、基本的なポジションは大丈夫……だと思うわ」
「ん? なんだ? お前もタマ子ちゃんも、ちょっと目が赤くないか?」
「聞いて下さいよ、多澤さん! テツ子さんったら、夕べ遅くまで球団のデータVTRを見ながら試合の解説をしたんですよ」
「いいじゃない、試合形式の中で説明した方が分かりやすいでしょ! それに、解説したのは、ランナーが出た時のピッチャーの動きだけよ」
「でもですね……多澤さん、テツ子さんはお風呂の中でも解説するんですよ」
「いいじゃない、時間の節約よ。背中も洗ってあげたじゃない!」
「あははははは……そりゃあ災難だったなぁ、タマちゃん。テツ子は、夢中になったら止まらないんだよ。今度、困ったら、俺に連絡をくれよ。すぐに助けに来てやるからよ、あははははは……」
多澤の笑い声が、ドーム球場の中に響いていたのだった。
(つづく)




