28 第2章第15話 興味を引くルール
「まずね、ドッジボールのルールは忘れなさい! いいわね!!」
「はい……」
心なしか、珠子はがっかりした顔をした。それでも、構わず徹子は続けた。
「野球っていうのは、ランナーにボールをぶつけるんじゃなくて、ボールを持ったグローブでランナーにタッチしないとダメなの。ただし、ベース上にいない時にね!」
「え? やっぱりボールをぶつければアウトなんですね。あ、ただし、グローブにさえ入っていればいいのか!」
徹子の説明を聞いて、笑顔に戻った珠子は、また元気を見せていた。
「えっと、タマ子? だからといって、ボールの入ったグローブをランナーに投げつけたらダメなんだからね!」
「ええ? グローブに入っていてもダメなんですか~?」
珠子は、また、しょげてしまった。
「もう、タマ子ったら、いい加減にしなさいよ。野球はね、格闘技じゃないんだからね!」
「は~い」
「それからね、ランナーにタッチしなくてもアウトにできる方法もあるのよ」
「……そっか! バットなら投げてもいいんですね!」
「もう、『ぶつけてアウトにする』から離れなさい!」
「…………」
呆れた徹子は、ちょっと低い声で、真面目に珠子に迫った。
「いちいちそんなことばかり言ってると、話しが前に進まないじゃない! 夕方までにルールの説明が終わらなかったら、部屋に帰ってからも夜通しやるわよ! いい?」
「ひゃあ~……よ、夜中までやるのは、カンベンしてください~」
「じゃあ、黙って聞きなさい! ランナーをアウトにする方法は、ボールを受けた人がタッチする方法と、ランナーの行く手に先回りしてボールを送る方法があるの。例えば、バッターは、ボールを打ったら1塁に進むわよね」
「はい、進む順番は、ちゃんと覚えましたよ! まず、1塁、次が2塁、そして3塁。最後はホームベースに戻ってきたら、1点が入るんです!」
「そうね。(ふ~ん、一度覚えたことは、忘れないみたいね)……だから、バッターが打ったボールを、バッターが1塁に着く前に1塁へ送るとバッターはアウトになるの。これは、タッチとかはいらないのよ」
「ということは、1塁ランナーは2塁に行く前に先にボールを2塁に送ればアウトってことなんですね」
「そうよ。タマ子、ちゃんと応用もできるじゃない!」
「えへへへ……ありがとうございます、テツ子さん」
嬉しそうにしている珠子を見るたびに、徹子は指導の方法を再確認していた。どうやら彼女は、褒めて伸びるタイプだと判断し、できるだけ厳しく叱るのは避けるべきだと考えていた。
ただ、徹子は、そんなに気の長い方ではなく、現役ピッチャーの時も変化球よりも直球勝負の方が多く、打たれた時にも、むきになってストレートを投げ続けて撃沈されたことがよくあった。
徹子は深呼吸をしてから、意識して笑顔を作り、続きを説明した。
「だからね、ランナーが出ると、ピッチャーはそのランナーがいる塁へ時々ボールを投げてみるの。これを牽制球っていうのよ。もし、ランナーがベースから少しでも離れている時に牽制球が間に合えば、ランナーはアウトになるの」
「そっか、だから1塁ランナーが盗塁したら、キャッチャーはランナーより早くボールを2塁に投げるんですね」
「そうね。ただし、この盗塁の場合は、順番に進むんじゃなく、自分だけが進むのでタッチが必要なの」
「そっか、あたしが知っているのは、このキャッチャーから渡されたボールをタッチしていた場面だったんですね」
「だけどね、ランナーがいる時だけ適用される特別なルールがあるの。『ボーク』っていうんだけど、今からタマ子には、ボークにならないための技術を覚えてもらう必要があるの」
「『ボーク』になったらどうなるんですか?」
「ランナーは、1つずつ塁を進めるのよ」
「ええ! 満塁なら1点入るんですか?」
「そうよ、よく分かったわね」
「うっそ~! ボークなんかになったら、バッターと勝負する前に負けちゃうじゃないですか!! ねえ、ねえ、じゃあ、どんなことをしたらボークになるんですか? 早く教えてくださいよ!」
珠子は、新しく知った『ボーク』というルールに興味を示して、楽しそうに徹子に説明をせがんでいたのだった。
(つづく)




